GS美神の世界でサバイバル   作:京太郎

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32.横島兄弟の極楽大作戦 プレゼントを送ろう

32.横島兄弟の極楽大作戦 プレゼントを送ろう

 

 

 

~横島家 リビング~

 

 

12月となりめっきりと気温も下がり、すっかり寒くなってきた。

そんなある日、今日は仕事もなく、学校が終わったら家に帰って暖房のきいたリビングで

清姫と一緒にお茶を飲みながら、他愛の無い話をしていた。

 

すっかり、お茶がぬるくなってしまったと清姫が新しく淹れ直してくれたときに、タイミング良く忠夫君が帰ってきた。

 

「お帰り兄さん、ちょうど清姫がお茶を淹れてくれたから一緒にどうかな?」

 

そう言って忠夫君をお茶に誘う

 

暫くして、カップを3つ持って、清姫が戻って忠夫君にも配膳してくれる。

 

「はい、緑茶でよろしいでしょうか?」

 

「清姫ちゃんが淹れてくれるものならなんだって飲むよ」

 

忠夫君も清姫からカップを受け取る。

 

清姫が僕の隣に座り、三人でお茶を飲む。ちょっとホッとした空気になる。

そう言えば、清姫が家に来た始めの頃は、清姫が僕の隣に座るだけで忠夫君が怒り心頭で

呪いのわら人形に五寸釘を打ちつけ、呪ってきたものだ。

 

壁に穴が開くのと、ガチの霊能者が呪えば呪いも本当になるから止めろと言っても、言うことを聞かず、何かあれば繰り返していた。

もう面倒になって事あるごとに呪い返しを行い。忠夫君が呪われ痛い目をみてようやく学習したのか、いい加減見慣れてきたのか僕を呪ってくることは少なく無くなってきた。

 

おかげで僕は実戦でスキルがメキメキ上がり、今では片手間でも十分呪い返しが出来るようになり、彼は彼で自身の呪いを受けることで、ドンドン呪い耐性が着くようになった。

怪我の功名とでも言えばいいのか、彼の呪いスキルも向上して、威力も上がり、呪い耐性もあがりとセルフ訓練という名の苦行のような状態になっている。

忠夫君には教えていないが、彼の呪いのスキルも耐性も僕の見立てでは、小笠原GSのエキスパートクラスには敵わないが、結構いい線いっていると思っている。

そろそろ、一般人には使っちゃ駄目だよって教えておかないといけないかも・・・

 

お茶を飲んで一息ついたのか、忠夫君がおもむろに話を切り出してきた。

 

「なぁ、清姫ちゃんと仲が良いお前に聞きたいんだけど、女の子に喜ばれるクリスマスプレゼントを送りたいんだけど、何がいいかな?」

 

清姫は口に手をやり「まぁお相手は誰かしら」とうふふと笑い

 

僕は僕で、あぁおキヌちゃんに服を送る織姫の話だったかと思い出した。

 

「なに?突然女の子にクリスマスプレゼントを渡したいって、どういう風の吹き回しなの?」

 

「いや、美神さんのところでクリスマスパーティーに誘われてな、その時に美神さんにおキヌちゃんにプレゼントを渡すように言われたんだけど、何を送ったら喜ばれるか悩んじゃって、いつも清姫ちゃんと仲のいいお前に一度相談してみようかと思ってさ」

 

「そうなんだ、おキヌちゃんは幽霊だから余計に悩むよね。

ちなみに清姫は何を送ればいいと思うかな?」

 

「そうですわね。わたくしはご主人様に頂ける物なら、なんでも嬉しく思いますが、おキヌさんも女性ですもの、お洋服とか喜ばれるのではないでしょうか」

 

清姫さんナイスな話題振り、僕もこの流れに乗ることにした。

 

「そういえば、幽霊でも着れる服があるらしくて、織姫さんという、魔力を持った機を織る一族で、噂によると一族でも一番きれいな人が険しい山の中で一人機を織っているらしいよ。それなりに値段がすると思うけど、厄珍堂なら扱っているんじゃないかな?

取りに行くから代金を持ってくれと言えば、安く手に入るかもよ。」

 

織姫、一族で一番の美女と言う単語に反応し、清姫ちゃんもあんなに可愛いし、同じ姫が着くなら間違いないと、ぐふぐふふだらしない笑みを浮かべ、明日厄珍堂にいってくるとスキップしながら自分の部屋に戻っていった。

一応その背中に、織姫さんがいるのは険しい山らしいから足が必要だったら手伝うよ、と声を掛けておいた。

 

 

~横島家 リビング~

 

クリスマスの日まで、あと数日となったある日のことだ。

何時ものようにリビングで清姫とゆったりお茶をしていた。清姫が式神になってくれて初めてのクリスマスをどうしようかと二人で相談していた。

冥子さんから六道家のパーティーに誘われていたのだが、どうにも自分の霊感が何か違うと囁いているのだ。

だから冥子さんには申し訳ないが、素直になにか霊感が囁いていると言ってお断りさせていただいた。

六道家のパーティーに出ないなら、せっかくのクリスマスだけど、清姫と家でゆっくり二人でケーキでも食べよう、ケーキはどこで買ってこようかと相談していた。

そんな時に、忠夫君がバタバタと慌ててリビングに飛び込んできたのだった。

 

12月初旬に織姫の話をしていたので、忠夫君はもう自力で織姫のところに行ったと思い込んでいたが、やはり年内に仕事を片付けておきたいと何処も思うことは同じなのだろう。

美神除霊事務所も相当忙しく、忠夫君も織姫の所に行っている暇がなかったようだ。

 

ただ、同志厄珍のところには話を付けに行ったようで、品物を取りに行ってくれれば、その内の一着は無料で進呈してくれるようだ。

そして、同志厄珍から僕が話した事と、同じような内容で絶世の美女が織っているとか、そのような話を聞き、重ねて同じ内容を聞いたので織姫は絶世の美女で、険しい山で一人寂しく機を織っている、織姫=美女とすっかり洗脳されてしまったようだ。

受け取りの手段は、山を登り、小屋にある小さな窓口から品物を受け取れば終了という簡単なものだった。

 

しかし、クリスマスまでもう日数もなく、途方にくれていたところで、僕がASEのマルチドライバーということを思い出し、助けを求めて駆け込んできた。

 

僕も足が必要なら手伝うよと言ってしまった手前引くに引けず、一応ASEに山岳ヘリが借りれるかどうか電話で聞いてみるねと応えてしまった。

今思えば、この時に断っておけば、あんな恐怖を感じることは無かったはずだ。

 

ASEに電話したところ、まさに天候の悪い急峻な山岳における救助訓練の実施を織姫のいる山で行おうとしていた。しかし予定していたヘリの操縦者が怪我をしてしまい、中止にしようかと話しているところに、僕から電話がかかってきたのだ。

もうここまでくると世界意志の干渉を感じ戦慄すると共に、忠夫君はこの世界の主人公だと強く思う。

 

 

~織姫の住まう山、その麓~

 

電話をしてからASEに連れられ、あれよあれよという間に僕と忠夫君は山の麓までやってきた。

現地には既に山岳ヘリのエンジンに火が入っており、ホットスタンバイで待機していた。

もっと遠くかと思っていたが、意外と近いところにあるのか、時空でも歪んでいるのだろうか?

 

さっさとヘリに乗り込もうと近づくと、横合いから声がかかった。

 

「おいおい、まずはブリーフィング受けようや、斑鳩もやけどマルチドライバーは慌てん坊が多いなぁ」

 

そう声を掛けてきたのは、ASEのエージェントでジェームス・波戸さんだった。

 

すみませんと誤って、波戸さんと握手を交わし、自己紹介をする。

 

今回の訓練受講者は目の前のジェームス・波戸さんだったようだ。

僕と忠夫君が加わったことで、訓練の内容が変更され、天候が変わり山小屋に取り残された忠夫君を救助するという想定訓練になった。

様は、三人一緒にヘリで山小屋に乗り付け、忠夫君は品物を取りに向かい、波戸さんはヘリからロープ降下して忠夫君を回収、そのまま麓まで戻ってくるだけだ。

山小屋付近は突風が吹き荒れ、ヘリの操縦難度はかなり高いが、やること自体は何も難しいことは無い。

 

男三人が山岳ヘリに乗り込み、エンジンの出力をあげるとフッと浮き上がる、風にも強そうな安定感ある良い機体だ。

 

 

~山小屋付近~

 

「いや~しかしほんま助かったわ。ここまで来て訓練中止とは目も当てられん状況やしな。忠夫君も訓練の参加してくれてありがとな」

 

僕と忠夫君は織姫の所で品物を受け取りに行くことが目的で、どちらかと言えば訓練はついでなのだが波戸さんが、お礼を言ってくれる。

 

和気あいあいとした、ヘリの中だったが山小屋が見えてくると波戸さんの意識が引き締まりピリっとした空気が漂ってくる。

まずは一般人の忠夫君でもヘリから降りやすいよう、山小屋に限りなく接近しホバリングをする。

 

「この風の中でほぼピタリと止めるとは、SWATにもなかなかおらん、ええ腕やで」

 

波戸さんからお褒めの言葉をいただきながら、忠夫君を見るとすでに扉を開け

 

「織姫さま~ん、いま、貴女の王子が参りますからね~!」

 

と、ヘリを飛び出していった。完全に人の話を聞いていない・・・

 

僕がヘリに乗る前に山の麓で、織姫様は絶世の美女だったかもしれないが、今回はASEの訓練もあるから、品物を受け取ったらさっさと帰るよ。と言っておいたのにあの馬鹿兄は、あの様子だとどう考えても、扉をぶち破って織姫と対面するだろう。

 

もう山小屋に置き捨てて帰るかなって頭をよぎるが、波戸さんの訓練のために、山小屋から離れロープで降下できる位置に付け直した。

 

織姫の実態を知らない、波戸さんは呑気にも「君の兄さん、えらい気合はいっとるな」と

ヘリから飛び出していった馬鹿兄の後ろ姿を見つめ、自身の降下するロープの最終点検と降下用の装具を素早く取り付け、直ぐに降下出来るようヘリから身体を乗り出していた。

 

 

今回は僕が相当甘かったと言わざるを得ない。後悔ばかりしかないが、まずは今をどうにかするしかない。

織姫の山小屋にダッシュで品物を取りに行った向かった馬鹿兄は、その数分後には行ったときの倍くらいの勢いで戻ってきた。

この時はまだ絶世の美女かと思っていたら、十二単を纏った老婆がいたのだから、それはビビって戻ってくるだろうと、むしろ人の言うことを聞かず、ざまぁ見ろくらいに思っていた。

 

波戸さんがロープ降下で馬鹿兄を救助する想定なので、勿論ジャンプしたくらいでは届かない高さにヘリがいる。

それでも、ぴょんぴょん跳ねて、必死の形相で救助を懇願している馬鹿兄を見て、溜飲が下がる思いだったが、それ以上に違和感も感じ始めていた。

 

「それでは、波戸さん兄も戻ってきたようなので、救助お願いします」

 

そう声をかけ「よっしゃ、いっちょ行ってくるわ」と声を掛け合ったところで二人で固まった。

 

僕らが忠夫君の後ろに見たものは、十二単を着た老婆ではなく、もっと冒涜的な何かだった。

具体的には昔は豊満でさぞ似合っていたのだろうと思わせるが、今となってはシワシワとなった乳房を隠す気があるのか?というショッキングピンクの三角ビキニを纏った老婆だった。

 

「あぁ~ん、マイダリーン、めくるめく熱い一夜をいかが~?」

 

と、徐々に迫ってくる老婆の姿だ。

 

この老婆の姿も恐ろしいが、この吹雪の中、ヘリのエンジン音やメインロータの轟音が鳴り響く中ではっきりと、織姫の声がしっかりと明瞭に聞こえることに戦慄した。

 

「波戸さん、早く救助!」

 

オカルトには慣れていないのか固まっていた波戸さんに声を掛け、救助を促す。

 

一度動き出せばそこはプロだ、あっとゆう間にロープ降下を完了させ、忠夫君にも救助用のハーネスを取り付けていく。

 

「まぁ素敵な殿方が二人になってしまったわ、妾の下の穴が両方とも塞がってしまいまする」

 

波戸さんが泣きそうな顔してウィンチを遠隔で操作し徐々にヘリへと巻き上げられていく。

その姿を見て織姫は三人目、つまり僕の事も認識したようだ。

 

「殿方が三人も妾を求めていらっしゃるなんて、妾の穴と言う穴が塞がれてしまいまする」

 

一体、どこのことを言っているのか、僕にはさっぱり分かりたくない。

 

大の男が三人そろって泣きそうな顔になりながら、それぞれが必死におのれの役割を果たす。

 

ウィンチの巻き上げ速度が遅く、波戸さんと忠夫君がヘリにぶら下がっている状態を好機と見たか、ヘリを落とそうと織姫が身にまとっていた布を、トップレスになりメインロータに向かって投げつけた。

この吹雪の中そんな物がヘリに届くわけないのだが、織姫の妖力なのか執念なのか、風に乗り真っすぐこちらに近づいてくる。

 

「おい、妖怪が攻撃してきたで!」

 

波戸さんが銃を持っていたら、撃っていそうな声をだして僕に警告を発する。

 

”おまえに魂が有るなら応えろ!!”

 

山岳ヘリをホバリングからさらに上昇させるためにエンジンの回転数を上げる。

途端に下向きの強力な風が発生し、投げつけられたブラは何処かに飛んで行った。

しかし、まだ空中で宙吊り状態の波戸さんたちが抵抗となり、ヘリの挙動が不安定になるが

構わず、進路を麓に向けて一目散に逃げだした。

 

 

精神的な疲労は大きかったが、三人無事に山の麓に到着しヘリのエンジンを落とした。

もう疲れた家に帰って、清姫のお茶が飲みたいと考えていたところで、波戸さんから声がかかる。

 

「おい、優あれを見て見ろや・・・」

 

波戸さんの指をさすとこを見ると、ショッキングピンクのブラが後尾のテールローター付近に引っ掛かり、風をうけてゆらゆらとはためいていた。

もう少しで墜落の危機もあったと今更ながらにゾッとした瞬間だった。

 

 

~後日談~

 

あの後、ブラを取り除き、同志厄珍に売り払おうとも考えたが、その場で燃やしておいた。

織姫自体は妖怪でも怪異ではないが、一応ヘリの無事故を祈願してお祓いしておいた。

 

這う這うの体で帰宅し、玄関で影から出てきた清姫に「お帰りなさいまし」と出迎えられ、清姫が淹れてくれた暖かいお茶を飲んでようやく人心地つき帰ってきた気がした。

 

そして、清姫にこんなことがあって怖かったよと笑いながら話したら、清姫は突然真顔になりこう呟いた。

 

「わたくしも、ご主人様に見捨てられたらどうなってしまうか分かりませんわ」

 

あぁそういえば、清姫様もこんな感じの英霊でしたね・・・

 




三連休を利用して、もう一話アップさせていただきました。
楽しんでいただければ幸いです。

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