死柄木 弔は最高に気分が良かった。襲撃開始直後はイレイザーヘッドや砂を操る個性のガキにこっちの駒が蹴散らされるのはいい気分ではなかったし、切り札の脳無が役に立たなかった時なんてもう最悪だった。
だが途中で横槍を入れてきたガキたちを狙うように脳無に命令して、その策が決まった今ではもうそんな過ぎたことはどうでもいい。
むしろ、その苛立ちの分だけ今の爽快感があるなら中々悪くないゲームのチュートリアルだったな。などと考えていた。黒霧がガキを一人逃がしたせいで本来の
それにまだ少し時間はある。今回のゲームは自由度が高いんだ。重傷になってるあのムカつく赤髪のガキをあの女たちの前で塵にしてやるのも面白い。その逆でもいいかもしれない。脳無に死なない程度に痛めつけさせて、何もできなくさせてから目の前で一人ずつ、手足から塵にするのも楽しそうだ。女は二人いるんだし、どっちから塵にするか決めさせてやるのがいいかもしれない。
死柄木はこれまでの鬱憤を晴らさんばかりに、子どもの様に無邪気で 残酷で 恐ろしいと人が感じる手段を次から次へと考えていた。わざわざ脳無に止まるように命令し、涙を流し我愛羅に縋りつく八百万と耳郎の光景を心底愉快そうに眺めながら。
まるで、もう勝ちが決まったかの様に。勝利が確定したかのように。
死柄木 弔はまだ知らなかった。
「―――ああ?なんだよ・・今さら命乞いでもするのか?面白かったら考えてやってもいいぜ」
死柄木は考えるだけであって、止める気など欠片もなかった。少しでも希望を持たせた方がいい顔をするだろうと考えていた。
そんな言葉をまったく意に介さず我愛羅は続ける。
一つ 投降して無傷で捕縛されること
もう一つは、抵抗し俺に倒されること
こちらとしては一つ目の選択肢を勧めよう。」
「くくくく、なあ黒霧、俺の耳がおかしくなったのか?この状況から投降しろって聞こえたぜ」
「ええ死柄木 弔。私もそのように聞こえましたが」
死柄木は心底可笑しいと言わんばかりに腹を抱え、そばの黒霧は困惑していた。その発言の裏に何があるのか考え、全く理解できなかったが故に。
「この状況で誰が投降するんだよ?馬鹿なのか?頭がおかしくなったか?クリア目前で誰が諦めるかっ―――――!?」
死柄木はそれ以上しゃべれなくなっていた。黒霧もまた同様に。
服のすそを掴む八百万と耳郎の手を宝物を扱うように丁寧に、優しくほどいていく背中越しの我愛羅の声が、気配がどうしようもなく恐ろしいものに感じられたのだ。
それは生物の本能で感じる恐怖。あり得ないと思考は否定するが本能と身体がそれに従わない。
文字通り貴様らの体で償ってもらおう
」
「アイツを殺せっ!!!!!脳無!!!!」
「ッ!!死柄木 弔!!??」
この瞬間、我愛羅と対峙していた二人の初動に差が生まれる。体感した恐怖を否定せんと直情的に命令を出した死柄木と、撤退か継戦かの選択を躊躇してしまった黒霧。
この思考の差が敵連合の戦闘続行を決定づけた。
命令を受け目標を抹殺せんと脳無が攻撃を仕掛ける。だがその拳は我愛羅の掌に触れることなく衝突音を響かせ、停止した。
「!!!どういうことだっ!?」
衝突による暴風にさらされる中、我愛羅の体に目を凝らす。
我愛羅の身体全体を輪郭に沿って膜のようなものが覆っていた。
直撃した腕がえぐられた先と同様の一撃を真正面から受けきる。先程までと明確な身体能力の変化から死柄木は増強系の個性と推察したが、すぐに余裕の笑みを浮かべる。
「二つも個性があるなんていいなあ!だけど脳無がその程度の個性で勝てるなんて思うなよ!」
脳無の攻撃を受け止めた我愛羅の右腕は、その衝撃か、はたまた個性の反動か、腕全体にひび割れのように亀裂が走り出血していた。溢れた鮮血が膜の内で水中の絵の具の様に滲んで腕を赤黒く染め上げている。
「さっさとそのガキを叩き潰せ!!!」
たたみかける様に脳無が連撃を繰り出す。防御など知らんとばかりに振るわれる脳無の剛腕は、受けた存在が原型をとどめるのすら困難にする。
――――――だがその連撃が、一向に止まらない。
――――――むしろ打撃音の数が増えていた。
「あのガキ!!脳無と真っ向勝負をっ!!??」
「信じられない!!それにこの暴風では脳無の援護などとてもっ!!」
「く、狂ってやがるっ!!!」
迫りくる拳を逸らすことも防ぐこともしない。連撃の速度を上げて手数で押し切ることもしない。己の苦痛も、損害も完全に思考の外に追いやったノーガードスタイル。
当然、彼の肉はその超負荷に裂け骨は粉々に砕かれる。至る所から出血し全身を赤く染めた我愛羅はそれでも止まらない。
現在の我愛羅は
だが、超高密度のエネルギーにさらされる彼の肌は耐え切れず焼き切れるのと同時に底上げされた回復力により再生されその端からまた焼き切られることを繰り返すという、余人が知れば正気を疑うような状態でもあった。
戦闘による負傷と己の形態による自己破壊。もはや血を纏っているようにしか見えないような恐ろしい姿の彼は何を胸に戦っているのか。死柄木たちと同様に介入できず固唾を飲んで見ていることしかできない、転移させられたUSJ各所から戻って来た雄英生はそんなことを考えていた。
規格外の戦闘に呆然としたのではなく、己が目指す目標として少しでもそのあり方を学ぼうとするが故に。
『
『さっさと決めろ!!貴様の身体がもたんぞ!!!』
────────拮抗が崩れ始める。
ショック吸収の個性の許容限界に達した脳無の体が、体格の差から僅かにだが下から繰り出される我愛羅の一撃を受けるたびに、徐々に持ち上がっていく。
「────あ、あり得ない・・・」
地に足がつかず土台の無くなった脳無の攻撃など意に介さず、我愛羅は渾身の力で脳無をかち上げた。
空中での移動手段を持たずそれでもなお命令を執行しようと手足を使ってあがく脳無に向け、我愛羅はその赤黒い巨体の咢を開く。
光が収束するかのようにして形成されていく球体が放つ熱は遠巻きに見ていた者たちの肌にまで伝わりその脅威を知らしめる。その脅威ゆえにさらに距離を取ろうとする雄英生たちの前で、我愛羅は顔の半分ほどまでになった球体を体内に収めた。放射状に拡散するエネルギーを
空中にてあがく脳無には、
『サテライトキャノンッ!!』
光の柱にのまれた脳無は彼方に消え、静寂が生まれた。
その後、USJより脱出した学級委員長が雄英教員であるプロヒーローを引き連れて帰還。主犯格である死柄木に手傷を与えるも捕縛には失敗。結果、襲撃敵の大半を逮捕・同伴教員二名の重軽症・
♦♦♦♦
日本 とあるバー
「話が違うぞ先生ぇ!!!何が対平和の象徴だ!?雄英のガキ一人に真正面から叩き潰されてるじゃねえか!!!」
『──────ふむ、僕も脳無を通して
『これらも、これからぶつかるもの全て君が成長するためのものだ。全ては君のためにあるんだ、死柄木 弔。』
世間が敵連合の敗北を、雄英の強さを風潮する最中に、逃れた悪意はより強大なものへと変貌していく。
血界戦線、いいよね。(唐突
今回の我愛羅はエグゾクリムゾンと人柱力の第二形態を足して1.5で割った感じです。ぶっちゃけご想像にお任せします。
久々すぎてかなり難産でした。
とりあえずやっとこさ体育祭、頑張ります。
文化祭の耳郎ちゃん、ヤバくね?(語彙力