ずっと、あなたと   作:征嵐

4 / 6
 みじかい


盗賊団首領の記憶1

 カモがネギを背負って遊びに来た。俺は奴を見たとき、そう思った。

 

 荷馬車には重い魔石が満載され、御者もそれなりの顔つき、それなりの体格。どちらも高値がつくだろう。もし納得のいかない値段だったとしても、前者は()()()()の強化に使えそうだし、折角だから、後者は試し斬りにでも使えばいい。

 

 使えるモノはなんだって使う。それが、俺の率いる野盗団「ギルド·オブ·ヘルメス」のやり方だ。たとえば。

 

 「おい、五番(フュンフ)、標的の足を潰せ。」

 「了解(ヤヴォール)、ボス!」

 

 影に潜んだまま、背後へ指示を出す。脈々と受け継がれるコードネーム。その「五番」が継承する、Bランク相当の長剣型魔剣。歴代の「五番」が好き勝手に呼ぶせいで決まった名前は無いが、その能力は不変。

 

 『感情操作』。Bランク相当の魔力では、人間のような知的生命体には効果を発揮しないが、野性と本能に身を任せる野生動物や()()であれば、その効果は問題なく発揮できる。

 

 「ほらよっと!!」

 

 視界の端に、長剣の切っ先を標的へ突きつける「五番」の姿が映った。能力が発動し、不意に涌き出た恐怖の感情に怯えた荷馬が足を止める。

 

 続けて、その長剣が高々と掲げられ──能力が発動する。

 

 標的に対する憎悪を植え付けられた魔物が、殺意という衝動を晴らすべく動き出す気配がした。

 

 「よし、次の段階に移るぞ。」

 「了解(アイ)、ボス。」

 

 男が魔物に追い立てられて逃げ出すのを見て、少しだけ落胆した。戦う気概と技術のある奴は、剣闘士として高値で売れるからだ。

 

 首を振って暗くなった気分を変えると、さっき指示した男──幻影に特化した能力をもつ魔剣を継承する「七番(ズィープト)」が動くところだった。

 

 奴に与えられたのは、森に薄く幕のように幻影のヴェールを張り、打ち上げられた信号弾を誤魔化す役割だ。

 

 「よし、いまのうちに戦利品奪うぞ!!」

 「了解!!」

 

 森の中から、十では利かない声が返ってくる。馬車にアリのように群がっていくのは、番外──「ギルドオブヘルメス」の下っ端どもだ。運搬に適した能力をもつ魔剣使いがいたら、是非とも仲間にしたいものだ。

 

 そう思いながら、この日は満足して森の中ほどにあるアジトへ戻った。

 

 

       ◆

 

 

 

 不思議な知らせが届いたのは、ほんの数日後のことだ。知覚能力を強化する魔剣を継承する「三番(ドリット)」からの連絡によれば、つい先日魔物に襲わせた男が生きて、死林に戻ってきたのだという。

 

 「バカを言うな。死人が生き返るなどありえん。」

 「しかし、ボス。あれは幻覚の類いではありませんでした。」

 

 確認に向かった「七番」からの報告も、「三番」からの報告が虚偽や誤りでないことを示している。だが、それでも信じるのは難しい。なんせ、魔剣使いに回収されてしまったとはいえ、金目の物を漁るために死体を確認したのだから。

 

 「どうなってる···。クソ、「三番」はどうしてる。」

 「はい、ボス。今は対象の監視を。」

 「そうか。何か動きがあったら直ぐに知らせろ。いいな?」

 「了解(アイ)、ボス。」

 

 ──このほんの数分後、血相を変えた「三番」がアジトへ駆け込んできた。

 

 「ボス、あれはヤバいッス。」

 

 何を見たのか、何がどうなっていたのか。偵察任務に慣れたはずの、つまり、現状の報告に慣れたはずの「三番」から、そんな言葉が飛び出た。何がどうヤバいのか、全く伝わらない報告に苛立つ。

 

 「詳しく話せ。何を見た、何を聞いた?」

 「はい、それが···。」

 

 以前より、どこか覇気を纏っていた標的の男に、「五番」と協力した「三番」は威力偵察を行った。もしそれで死んだとしたら、それは脅威の消滅を意味し、もし何らかの方法で死から復活したのだとしたら、その瞬間を、そのトリックを、きっちりと見極める。

 

 そう考えて魔物をけしかけ──結果、魔剣を顕現させた標的の放つ覇気と、その強力無比な魔力によって、魔物は植え付けられた憎悪ではなく、生存本能に従って逃げてしまった。

 

 そして。

 

 「ボス、奴の魔剣は『ティナ=エンプレス』って銘で、境界を操る力があるらしいッス。さっきは、それで魔物を追っ払ってたッス。」

 「ちゃんとした銘のある魔剣か···なら、少なくともAランク。もし奪えれば、相当な金になるな。それに、もし適性のある奴がいれば。」

 「凄まじい戦力ッスね。」

 

 「ギルドオブヘルメス」は、総勢十三人の魔剣使いを擁する、魔界ギルドから多額の懸賞金が掛けられている盗賊団である。そこに「境界を操る」なんていう特級の魔剣が加われば、もはや敵がいなくなる。

 

 「よし、本腰入れるか。「一番(エーアスト)」と「二番(ツヴァイト)」を呼んでこい。」

 「「虐殺部隊(アイザッツグルッペン)」をッスね。了解(アイ)、ボス。」

 

 略奪や欺瞞、破壊工作ではなく、殺傷力に特化した魔剣を継承する、「一番」と「二番」。そこに二人の率いる部下を合わせた強襲部隊である、「虐殺部隊」。かつては敵対する組織を一夜で滅ぼしたこともある、「ギルドオブヘルメス」最強のチーム。いかに強力な魔剣とはいえ、魔物に襲われた程度で戦き逃げ出す男がマスターなら、苦戦しようと勝利を収められる。

 

 境界を操ろうと、遠距離攻撃武器の扱いに慣れ、魔銃をもつ「二番」であれば仕留められよう。

 

 いかに強力な魔剣とはいえ、気配どころか魔力すら遮断し、闇に潜む「一番」であれば、標的に気付かせることなく終わらせられる。

 

 たとえ一人では敵わずとも、「二番」が掻き乱し、「一番」が闇討つという鉄板の連携をすれば、殺せない敵などいない。

 

 

 

 

 ──そう、思っていた。

 

 

 

 

 「ボス!!」

 「あぁ、仕留め──いや、違うな? 何があった?」

 

 青ざめ、微かに震えている「三番」の様子から、最悪の事態が想起される。

 

 「虐殺部隊(アインザッツグルッペン)が···殺されたッス···!! それも、全員!!」

 「なんだと!! どうやってアイツらの連携を崩した。見ていたのだろう!?」

 「ウッス、それがッスね、その場で鎌を振ったかと思うとそのまま立ち去っちまいまして。そんで、そっちを追けて行こうと思ったんスけど、「虐殺部隊」に動きが無いんで、っかしーなーっつって、振り返ったら、全員、胴体がズルッて落ちたんスよ。回りの木もそんな感じで。」

 「延鉄の技術か···。斬線を飛ばすくらいの技量はあったか。」

 

 「ギルドオブヘルメス」最強のチームが、鏖殺された。その情報が明るみに出れば、恐怖で組織が瓦解しかねない。俺は箝口令を敷くように「三番」に命じると、腰の後ろに吊るした武器へと手を伸ばした。

 

 「ぼ、ボス···!? それはッ···」

 「俺が出る···。全員を第二アジトへ脱出させておけ。」

 

 「ギルドオブヘルメス」の"ボス"が継承する、幅広肉厚で、刃渡りの大きいマチェット。長剣型に分類される闇属性魔剣。ランクにしてB+。「首狩遊戯(ヴォーパルシュピーレン)」。歴代の「ボス」が揃ってそう呼んでいた魔剣だ。

 

 魔剣のもつ極めて凶悪な、一対一に特化した能力に加え、「ギルドオブヘルメス」総員が「ボスに相応しい」と認める技量をもつ者がそれを振るうのだ。負ける道理はない。ないが。

 

 「「三番」。俺が戻って来なかったら、その時は、お前がボスを継げ。」

 「···ウッス。」

 

 素直に頷いた「三番」にはもはや一瞥もせず、俺はアジトを出た。そして──。

 

 

 黄金の鎌を携えた、鎧の騎士に遭遇した。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。