ずっと、あなたと   作:征嵐

5 / 6
対人2

 「えっ。」

 「おっと。」

 

 死林の中に立った、大規模なログハウス。コテージ···というよりは、そういう趣旨のホテルみたいな感じで、まさに「聳え立つ」という形容詞が似合う、堂々とした建物だった。いざ突入、と、心を決めた途端に、内側から扉が開けられ、面食らう。

 

 視界に黒いローブと同色の軽鎧を纏った男が映り──男が()()左手を一閃したかと思うと、鎧の胸元から火花が散り、金属音と共に衝撃が伝わってきた。

 

 「しまっ···ッ!!」

 

 私は、殺し合いに慣れた兵士ではない。いや、殺し合うことに慣れた兵士でさえ、不意の遭遇には面食らって動きを鈍らせるのだから、元商人のなんちゃって魔剣使いの私に、ここで反応することは無理だった。

 

 一太刀浴びた、と完全に理解するより早く、エンプレスが魔法で衝撃波を放ち、相手と私の双方を吹き飛ばす。苦し紛れにエンプレスを振るうが、魔力を上乗せしていないただの斬撃は、男の足元に斬線を刻むに留まった。だが男も焦ったのか、先の攻撃は荒く、鎧を破るには至っていない。今もじっとこちらを見据えながら、立ち位置を徐々に変えているだけだ。

 

 「···。」

 「···。」

 

 男も饒舌な方ではないのか、はたまた命の懸かった戦いの最中だからか、双方が声を発しない。音を、ではないのは、私の纏う金属鎧がガチャガチャと煩いからだ。···とはいえ、これが無ければ先の一撃は相当な痛手だった。致命の一撃となっていたかもしれない。警戒を最大に、相手の動きを予想し、後の先を取る。私の集中力は、留まることなく高まっていた。

 

 「──名乗らないのか、鎧騎士。」

 

 だから、そんな言葉と共に武器を下ろした男に、不意を衝かれてしまった。

 

 「なに? ──ッ!!」

 

 ヘルムの下で怪訝な表情になった瞬間、爆発的な加速で踏み込んだ男が、また徒手空拳のまま迫る。

 

 だが、不可視の武器が握られていることは、先の一撃が証明している。両手で持っている風ではないから、小さくて短剣、大きくてもハンドアックス程度。ならば。と、手にした大鎌の柄を翳す。瞬間、伝わってくる衝撃と、鳴り響く金属音。飛び散る火花の眩しさに目を細めながら、金属鎧の爪先を男の股間へと突き刺した。

 

 「っ···と。」

 

 後退して躱した男に向けて、エンプレスの刃を走らせる。脚の間合いより遥かに長い断頭の刃が、一撃で男の首を刈り──その寸前で、男の姿が掻き消えた。

 

 「ッ!?」

 

 姿を探して視線を走らせるより早く、背中に衝撃が伝わる。

 

 「いつの間に──ッ!?」

 

 背後で、男が追撃の一手を打とうと、空の拳を振り上げていた。

 

 

      ◆

 

 

  【盗賊団首領の記憶2】

 

 

 目に入った銀色に向けて、咄嗟に「首狩遊戯」を振るう。この密林で生きていく上で、そして、盗賊という生業で、不意の遭遇に対応できないようでは命など何個あっても足りない。相当に強固な鎧なのか、はたまた魔剣の魔導バリアが優秀なのか、先手の一撃は防がれてしまった。返す刀で首を断ちたかったが、鎧騎士の放った魔法で強制的に距離を取られた。

 

 足元に刻まれた斬線──「境界線」に注意を払いながら、徐々に間合いを詰めていく。

 

 「首狩遊戯」のもつ特殊能力の一つに、"武器の透明化"がある。それを起動している以上、相手にはこちらの間合いが分からない筈だが、向こうは長柄の大鎌。そのレンジに合わされては、こちらは手出しできない。

 

 「···。」

 「···。」

 

 相手の目はヘルムのバイザーで見えないが、きっとあの金属の奥で、俺の動きを逐一観察しているのだろう。ちょっと手伝ってやれば、良い隙になりそうだ。

 

 「首狩遊戯」の二つ目の能力を起動する。その能力は、「視線の固定」。──厳密には、相手のヘイトを自分に集約する力だ。それこそ騎士のような前衛型の戦士が持つべき力だが、相手の集中力を高めるのには丁度いい。この能力を発動させ、「一番」が闇討つ。それが最適な運用方法だが、今はもう叶わない。だがまぁ、相手の集中力が極限まで高まったタイミングで能力を切り──

 

 「名乗らないのか、鎧騎士。」

 

 ──切っ掛けを与えてやれば、大きな隙ができる。

 

 踏み込み、首を狙って「首狩遊戯」を振るう。「首狩遊戯」は、3つのアクティブスキルの他に、2つのパッシブスキルをもつ。その内の一つは──「絶対断頭」。名前通り、首を狙った攻撃の場合、防具に拠る防御であれば、たとえSSランク級のエンチャントが施されていようと貫通する、一点特化した「鎧通し(アーマーピアース)」だ。

 

 獲った。

 

 そう思ったが、存外に良い反応をした騎士は、大鎌の柄でもって、断頭の刃を防いでみせた。

 

 ほう、と、簡単の息を漏らすより早く、股間を狙った蹴りが襲ってくる。飛び退いて躱すと、大鎌が弧を描くように首元へと駆けてきていた。

 

 が、それは悪手だ。内心で笑いながら、「首狩遊戯」のもう一つのパッシブスキルを想起する。

 

 スキルの名前は、武器の銘と同じ、「首狩遊戯」。能力は──「首を狙った攻撃は絶対に回避でき、さらにカウンター可能な位置に転移できる」というもの。対人戦闘において、体の中心である正中線と並んで狙われる、人体において最も危険な急所。そこを狙ったが最後、背後に回り込まれ、攻撃した後の崩れた姿勢のまま、防具貫通の攻撃を受ける羽目になる。──ハメ技だ。

 

 「ふッ!!」

 

 魔導バリアも分厚い金属も無視する首刈の刃が、大気を裂いて鎧騎士の首へと走る。

 

 今度こそ獲った。そう確信した──というのに、また、衝撃波に襲われ、斬撃がズレる。鎧の背中に傷を刻むだけに終わったが、相手の姿勢はまだ崩れているし、あの攻撃魔術が飛んでくるより早く、首を刈れる。再度、手にした「首狩遊戯」を振り上げた。

 

 

 

    ◆

 

 

 

 

 「エンプレスっ!!」

 

 具体的にどうして欲しいのかは、全く浮かばなかった。ただ、迫っているであろう不可視の刃から逃れられるように、なんとかしてくれ。と、そんな曖昧な意味しか持たない叫びに、エンプレスは微笑の雰囲気を漂わせて、言った。

 

 「お任せください、マスター。」

 

 三度、不可視の衝撃波が発生する。相当に詠唱時間と再詠唱可能化時間が短い魔法らしい。···単純な魔力弾という可能性もあるが。

 

 「クソッ!!」

 

 男が悪態をつき、距離をとる。

 

 「···。」

 「···。」

 

 今度は私が建物を背に、先ほどと同程度の距離で対峙する。さっきの転移魔法を使ってこないあたり、再使用までに時間が掛かるのか、何かしら条件があるのか、或いは、()()()()()()ことが狙いなのか。

 

 「──ッ!!」

 

 ここが敵のホームである以上、時間の経過はこちらの不利になる。今のところ増援の気配はないが、数分後──いや、もしかしたら数秒後には違うかもしれないのだから。そう考え、今度はこちらから踏み込んで攻撃することにした。

 

 魔力を多めに流し、斬線を飛ばして攻撃する。そして、加えてもう一つ、確殺の一手を忍ばせておく。

 

 「ッ!!」

 

 男が不可視の武器を正眼に構えて、音もなく走る不可知の斬撃を防ぐ。金属音が鳴り響き──男の両腕と両足から、鮮血が吹き出した。

 

 「伏撃だと!?」

 

 男が叫ぶ。そう、正解だ。伏撃──複撃。一撃の内に複数の斬撃を伏せておく、一撃多斬の技術。対多、対個問わず通用する、絶技。勿論、エンプレスの魔法を使っている。元商人でしかない私に、そんな技巧はない。

 

 「──ッ!!」

 

 男の纏う、ぴったりと体にフィットした、動きを阻害しない軽鎧は、防御力に劣る。かすり傷程度なら問題なく防げるだろうが、たとえ魔力が付与されていても、まともに斬撃を食らってはひとたまりもない。が、男は鎧に「防御」ではなく「食らった後のリカバリー」を期待していたらしく、鎧が微かに震えると、魔力的な光を発した。

 

 「回復魔法ですか。厄介ですね、マスター。」

 

 男の四肢から吹き出していた血は止まり、先に流れ出した分だけが、男の黒い鎧を伝い、地面へと滴っていた。

 

 「マスター、今度は一撃で仕留めましょう。」

 「あぁ、そうだね。」

 

 一撃で首を断てば、いかに魔法とて回復できまい。そう断じて、エンプレスの刃を走らせる。

 

 「──愚か。」

 

 男が呟く。それは遺言か、と問うより早く、また男の姿が掻き消える。

 

 「なにッ!?」

 

 また背後かと、ある程度の予想を付ける。振るった大鎌の慣性に従い、体を一回転させ──いない?

 

 「マスター、上です!!」

 「クソっ!?」

 

 悪態をつき、咄嗟に地面に身を投げ出して回避する。鎧の脇腹のあたりを、脳天を貫くはずだった不可視の武器が掠め、僅かに遅れて、男が着地した。私も即座に立ち上がり、間合いを取る。

 

 また、さっきの転移魔法。さっきの伏撃には対応出来なかったことから、再使用までの時間はおおよそ見当がついた。今度こそ仕留められよう。

 

 「30秒から1分ってところか。」

 

 なら。

 

 「今すぐ仕留めるッ!!」

 

 エンプレスを振るい──またしても、男が消える。

 

 「バカな!?」

 

 叫び──失敗を悟る。叫ぶより早く、体を動かすべきだったと。

 

 振り向くと、「なにか」が大気を裂いて迫っていた。防御は間に合わない。脳震盪になる覚悟を決め、防御を鎧に託し、迫る不可視の武器の反対側からエンプレスを走らせる。

 

 単純な刀身の長さのお陰で、丁度同時に刃が到達し──男の武器が、鎧を透過し──()()()()()()()()()、風を起こした。逆に、エンプレスの切っ先は、深々と男の脇に食い込んでいる。入刀角度的に、貫通こそしていないものの、心臓か肺には確実に届いていよう。

 

 「な、んで···」

 「言い忘れていたが、私は少々特異体質でね。」

 

 私の肉体は、とうに火葬されている。今のこの身体は、物質化しているとはいえ、もとは物質界ではなく、より上位の星幽界に存在する「魂」で構成されている。干渉したければ、純粋な物質ではなく、魔力の付与されたものを介さねばならない。ちなみに、ご都合主義的なアレなのか、あるいは難解な理論が存在するのかは不明だが、こちらから物質界への干渉は自在にできる。

 

 ──で、だ。一定以下の魔力量では、星幽界でも限りなく上位である「魂」には干渉できない。星幽界の存在に対して特攻をもつ魔剣カールスナウトのような例外を除けば、この体を作り出したエンプレスと同等程度──攻撃力ランクがS以上でなければ、私には干渉できない。

 

 疑問に満ちた最期の言葉を遺し、男の身体から力が抜けた。だらりと垂れた腕から、からん、と澄んだ音を立てて、大振りのマチェットが落ちる。男が死んだことで、透明化の術が解けたのだろう。

 

 「ふぅ──。」

 

 火照った身体から、息と一緒に熱を吐き出す。

 

 漆黒のマチェットを拾い上げ、軽く振ってみる。最後、どうしてこの魔剣が金属の鎧を貫通し、魔導バリアも無視したのかは不明だが、攻撃力がSに届かなかったようで良かった。もしこの魔剣の攻撃力ランクか、あるいは魔力がSランクに達していれば、ここにもう一つ死体が増えているところだった。

 

 エンプレスをくるくると回転させ、血を落とす。

 

 「──さて。」

 

 次はいよいよ、敵本拠地へ突入だ。

 

 

 

 

      ◆

 

 

 「誰も居ないな···。」

 「気を抜いてはいけませんよ、マスター。人は居なくとも、罠の類いがあるかもしれませんから。」

 

 せやろか。道中に罠を置くならともかく、普段生活する空間に罠を置くというのは、一般人からすると気苦労が絶えなさそうで困る。

 

 「トイレトイレ···」

 カチッ

 ドカーン!!

 

 とか、御免被るし。

 

 「えっと、魔石はどこだ···? 二手に別れて探そうか?」

 「マスター···。」

 

 呆れたように諭され、そういえばここは敵の本拠地だったと思い直す。

 

 「仕方ない。ローラー作戦と行こう。」

 

 一度入り口まで戻り──いざ。

 

 ドアを蹴破り、突入する。誰かの私室っぽい。違う。次。

 

 ドアを蹴破り、突入する。トイレ。違う。次。

 

 ドアを蹴破り、突入する。キッチン。違う。次。

 

 ドアを蹴破り、突入する。談話室。違う。次。

 

 ドアを蹴破り、突入する。廊下。目に入る、ドア、ドア、ドア。 

 

 ──ゲシュタルト崩壊しそうなほど、木の板を蹴り砕いていく。そして、そろそろ膝が悲鳴を上げそうなときだった。

 

 「お?」

 

 倉庫らしき部屋の扉を蹴破ると、かつて盗賊団が奪ってきたであろう金銀財宝の類いが目に眩く映った。その中でもドアにほど近い場所に乱雑に置かれた麻袋に、私は見覚えがあった。正確には、何処にでもある麻袋に付いた商人ギルドのロゴと、識別札に。だが。

 

 「To:冒険都市リーマ、魔界病院、クランベリー医師。From:魔鍵都市ユグドラシル、ロルリアンレット世界図書館、『司書王』ロルリアンレット。内容物、魔石。っと··これで間違いないな。」

 「マスター、私が。」

 「え? いいよ、重いし。」

 

 よっこらせ、と、麻袋を持ち上げる。やたらと座りがいい辺り、中身の魔石はインゴット状に加工されているらしい。

 

 「さーて、エンプレス。」

 

 ヘルムを取り、汗を拭いつつ、一言。

 

 「帰ろうか。」

 「えぇ、マスター。帰りましょう。」

 

 穏やかに笑ったエンプレスに、毒気を抜かれた。私の言葉の真意は「ここから魔鍵都市までコレ持って歩きだけど、頑張ろう」というモノだったのだが。

 

 「はは····。うん。帰ろう。」

 

 

 

 




 ちなみに「首狩遊戯」の三つ目のスキルは「首級蒐集(スカルザムルング)」。魔剣の魔核を砕いた場合、一定確率で相手のスキルを奪えるスキル。始めから「首狩遊戯」が持っていたスキルは、これと限定転移カウンターの「首狩遊戯」だけ。

 以上、裏設定のコーナーでした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。