思いつき置き場   作:エルナ

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なろうで更新中の連載小説の第1話です。
これまたずっと更新止まってますが……。


感情の機微を読むのに長けた少年がツンデレ美少女の幼馴染との恋を手伝おうとするがうっかりぶち壊してしまう

「天は二物を与えず」という言葉をご存知だろうか。

 

平たく言えば、完璧な人間などいないという意味だ。

 

氷見(ひみ)完二(かんじ)はまさしくそれを体現している人間だろう。

 

完二はほとんど完璧な人間だ。

顔はかなり整っており、父親は大企業の社長。

幼い頃からなんでも出来た。

勉強はいつもトップで運動でも誰かに負けたことは無い。

やらされた習い事は全て賞を受賞し続けた。

ただ1つ異常者だということを除けば。

 

完二は生まれつき何故か人の感情を読み取ることに凄まじく長けていた。

表情や声の調子、仕草等から喜怒哀楽好意悪意言葉の真偽。

全てを読むことが出来た。

だからだろうか。

自分が周囲と違うことに幼くして気づいたのは。

 

自分が異常者だと理解したのは果たしていつだっただろうか。

 

如何なる賞を受賞しても喜びが湧かなかった時か。

同世代の子供と関わり、周囲との差異を理解し、それでも何も感じなかった時か。

親父にすり寄ろうと俺に媚びへつらう醜い大人を見ても何も思わなかった時か。

それとも——両親が自分を愛していないことに気づいた時にさえ如何なる感慨も浮かばなかった時か。

 

何があろうと何に気付こうと完二の心は微動だにしなかった。

ハイスペックな身体を与えた故か天は完二に欠陥品の心を与えたらしい。

 

一応一切合切何も感じない訳ではない。

面倒だと感じる時はあるし、周囲に呆れることもある。

何かに苛立つこともあれば、何かを食べて美味しいと感じることもある。

 

だが、それらは一般人に比べてあまりにも小さすぎた。

 

何もかもどうでもよかった。

何かに関心を向けることはほぼ皆無。

他人だけでなく自分にさえ無関心でしかない。

 

そんな欠陥を抱えていれば友人などできる訳もなく、両親との仲も最悪だった。

 

その事に寂しさを感じることも無く。

そんな欠陥にさえどうも思わない。

 

それが氷見完二という男だった。

 

◆◆◆

 

ガヤガヤと騒がしい声が教室に響く。

HRが終わり、放課後となり多少テンションの上がっているのだろう。

それぞれ友人と話しながら、委員会や部活、あるいは下校の準備する。

 

学年が1つ上がった高校2年生の4月の下旬。

それぞれ新しい人間関係を作り、迫るゴールデンウィークの予定に花を咲かせる。

 

そんな中遠巻きに見られている1人の男子生徒がいた。

彼の名前は氷見完二。

国内でも上位に位置する大企業の社長の息子である。

 

1年のはじめのうちは家柄や顔、頭の良さ等から色々話しかけられていた完二だったが人付き合いの悪さから「金持ちだから自分達を見下している」という噂が立ち話しかけるものはいなくなった。

実際にはただ興味がなかっただけだがそれを理解しろというのは難しい話である。

 

完二は荷物をパパっと纏めると時々チラチラと視線を感じながらも教室を後にした。

その足で生徒玄関ではなく職員室に向かう。

 

「失礼します」

 

ガラガラと職員室の扉を開けて入る完二に1人の教師が呆れ顔で声をかける。

 

「あのなぁ、氷見。職員室はノックして中から返事を聞いてから入るんだぞ?」

 

「用事ってなんですか、茂木先生」

 

茂木先生と呼ばれたフルネーム茂木(もぎ)由香里(ゆかり)は注意を無視した完二に肩を落とす。

 

「はぁ、まあいい。今日の本題はそこではない」

 

そして、真剣な表情で何も映さない完二の黒い瞳を真っ直ぐ見つめて言う。

 

「氷見、友達は出来たのか?」

 

その言葉に悪い人じゃないんだよなぁと内心でため息を吐く。

 

完二から見ても本当に茂木は完二を気遣っている。

他の先生は完二の親が大企業の社長である為殆ど関わろうとしない。

しかし、彼女は完二に積極的に関わり、少しでも良い学校生活を送らせてやろうと動いている。

それに、如何なる感情も映さない完二の目を真っ直ぐ見れる者は家族にすら居ない。

一般生徒にも慕われている教師の鏡と言える人だ。

 

しかし、悲しいかな完二の心には響かない。

そもそも価値観が違うのだ。

彼女の価値観では学校生活では友達は必須なのだろうが完二は違う。

そこを理解しない限り完二の心を動かすことなど出来ない。

——理解出来たとしても動かせるかは謎だが……。

 

「出来てませんし、作る気もないです。話がそれだけなら失礼します」

 

「待て!……お前だって1人は寂しいだろ?」

 

「生まれてこの方寂しさを感じたことは無いですね」

 

「それは今まで1人だったからだろう?せっかく高校に通っているんだ、友達がいた方が楽しいぞ?」

 

「それは先生の価値観であって俺の価値観ではないですね」

 

完全に平行線の会話。

周囲の教師達は完二を怒らせるのでは無いかとビクビクしている。

それを敏感に感じ取っている完二は呆れとも嘲笑とも言える視線をチラリと向ける。

たとえ完二がチクろうと完二の親は何をすることもしないだろうからだ。

 

「先生と俺では分かり合えないので放っておいて結構ですよ。失礼します」

 

もはや話すことは無いと完二は背を向ける。

 

「待て!氷見!おい!」

 

後ろから茂木が声を上げるが完二は何も答えず職員室を後にした。

 

 

既にほとんどの生徒が下校するか放課後の活動に移っているので廊下は遠くで部活動の声が聞こえてくる。

緩慢に生徒玄関に歩を進めながら先程の茂木の言葉を考える。

 

『それは今まで1人だったからだろう?』

 

この言葉はなかなか的を得ているのだろうと。

 

自分には全く心がないわけではないのだろうと完二は自覚していた。

ただ人より感情が薄く、あらゆることに無関心なだけで。

だから、人と関われば感情が豊かになる可能性も無きにしも非ずだろう。

 

しかし、それには自分に一切関心を向けない奴と関わり続けられる変人が必須である。

そんな者そうそういるはずもなく。

そもそも完二はそれをすることに必要性を感じないし、はっきりいって面倒だ。

 

故に多少の申し訳なさはあれど彼女の言うように友達を作る気はなかった。

というか作れるとも思っていない。

誰かに友情を感じることなどないのだから。

 

そんな考え事をしていたからだろうか。

完二は曲がり角でこちらへ走ってくるような足音に気づくことが出来なかった。

そして、曲がり角に出た瞬間、誰かと激突した。

 

「っ!」

 

「きゃ!」

 

お互いに突然の事で尻もちをつく。

 

完二は僅かに顔を顰めながら、衝突した相手を見やる。

そこには綺麗な黒髪を腰ほどまで伸ばした少女がいた。

その顔は芸術品のように整っており、普通の男子ならば見惚れていただろう。

 

しかし、完二の心は一切動かず、当たった時にぶつけた頭と尻を擦りながら完二が立ち上がると、その少女は完二をキッと睨んだ。

 

「ちょっと前くらい見なさいよ!」

 

それが完二と彼女——金刺(かなさし)小夏(こなつ)との出会いだった。

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