機動戦士ガンダム外伝「細雪舞う記憶の彼方」 U.C.0083-0086   作:そらむし

6 / 6
ついに完結する物語。

終わる物語はそして―。







※忙しいため完結を優先させましたが
きちんと入れたかった戦闘描写をいれて全体的にバランスを整えました。

大筋は変わりませんが、これが本当の完結編です。


05話 細氷舞う記憶の彼方<後編>

地平線の向こうで今まさに昇る太陽が、暗い山際にぽつりと浮かび上がった。

白の大地と薄墨色の空に境界線を引くように、黄金色に彩られたその直線は徐々に広がっていく。

朝焼けの空がやがて二つの巨躯を浮かび上がらせた。

 

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[ジムスナイパーⅡコックピット内]

 

対峙したグフまでは数十メートル。先程の異常なまでの加速性能を以てすれば、一息に詰められる距離。逆に言えば、こちらのライフルが確実に命中する距離でもある。

いかに初撃を当てるか。

 

狙撃モードを起動したコンソール、レティクル内にグフを捉えながらハークレイは思考する。

膝関節を撃ちぬくか、メインカメラを破壊するか。

コックピットのある胸部に風穴を空ければそれまでだが、半身に構えたその構えからは一切の隙も伺えない。

一撃を凌がれれば、次弾装填は間に合わない。おそらくはそれこそが相手の狙いだろう。

 

雪に音を吸われ耳が痛くなるほどの静寂の中、こめかみに汗が伝う。

時間をかければ向こうの飛び込みを許すだけだ。

 

 

―それならば。

照準を素早く胸部装甲、その奥のコックピットへ合わせた。

甲高い照準確定の音。

 

この均衡をこちらから崩す…‼

 

―限界まで引き絞られた弓のように両者の間にある緊張が、そこで弾けた。

照準を合わせた瞬間、グフが動く。

 

一歩引いた左半身のバーニアに熱が入ったのをハークレイは見逃さなかった。

 

「―そこだ‼」

素早く照準をグフの右側、何もない空間へ合わせ直す。最初の照準はフェイク。

 

トリガーを押し込むと同時に機体に大きな反動(リコイル)がかかる。跳ね上がる銃身から七十五ミリが撃ち出された。

敵の初動に合わせたタイミング。加速を始めた灰の機体と交差する弾道。

 

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[グフ コックピット内]

 

マズルフラッシュの火炎、遅れて轟く砲音。

しかしそれらを知覚するより先にオールドマンはすでに操縦桿を繰っていた。

「やるようだがっ―」

左脚部スラスターによって自身の右へ飛び出したグフが、瞬時に右脚部のスラスターからも大量の熱を吐き出した。

爆発的な加速は、爆発的な加速によって相殺され、急激な制動がかかる。

 

膝関節を確実に撃ちぬく弾道が逸れ、弾丸がグフの右脚部から突き出た動力パイプを弾き飛ばした。冷却液が血潮のように雪面へぶちまけられる。

右脚からバランスを崩しかけるが、コックピット内のトグルレバーを素早く切り替え流路を切り替える。

沈み込む動きが止まった。

 

―凌いだ。もはや次弾は撃てまい。

メインカメラをジムへ向ける。

 

 

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すぐに持ち直したグフがこちらを睨んだ。

 

「必要悪‼」

そのまま背面バーニアを全開にし、倒れ込むようにこちらへ突っ込んでくる。オープンチャンネルから、ノイズの乗ったその叫びが聞こえてくる。

 

「世界には共通の敵が必要だと(のたま)う‼先の戦いで戦争がもたらす甘い蜜の味を覚えたのだ‼必要悪としてジオンを黙認する連邦‼そんなもののために―」

腰横から刀を抜き放つ。

 

「軍人になったのか‼貴殿は‼」

グフの右脚側から浮き上がるような踏み込み斬。メインモニターいっぱいにモノアイが映し出され、その裂帛(れっぱく)がコックピットに響く。

 

「オレは組織のために軍人になったんじゃない‼」

背中に素早くライフルをマウントしたハークレイは正面から相対する。

 

「守るために軍人になった!!貴様とは違う‼」

盾で刀を受け止める。金属が激しくぶつかる重々しい音が、火花とともに空気を震わせる。

二つの巨人の周囲に、衝撃が円状に雪面に刻まれた。

鍔迫(つばぜ)り合いのようにお互いに、額を合わせながら一歩も引かない。

 

「立派な理想だ、しかし‼」

受け止めた刀に、柄から灼熱が走る。

 

「何⁉」

 

「その理想だけで、どれだけの命が救えたというのだっ」

熱で盾が溶断される寸前、咄嗟に腕を跳ね上げる。こちらを水平に真っ二つにする斬撃が機体左腕から頭上に向かって空を斬る。

 

「くっ…」

機体がよろめき数歩後ずさった。その隙に、構え直された刃がまっすぐにこちらの眉間、メインカメラを捉える。

 

仕舞(しまい)だ‼」

構えられた刀の切っ先が恐るべき速度で突き込まれた。

 

ハークレイは静かに目を閉じる。それは諦めなのでは無く、今まさにメインモニタに迫る殺気を読み取るための思考。

こちらへ迫る切っ先はまっすぐこちらを向いていた。本能が腕を差し出しててでも受けろと叫ぶ。

―しかしこの違和感は。

 

そうか、とひとつ思い当たる。

切っ先が真っすぐにこちらを向きすぎて(、、、)いる。狙いはメインカメラ、もしくはそれを受けた後の二太刀目が本命。

こちらの恐怖心を衝いた剣技。

 

「……ッ‼」

 

勢い良く目を開き、機体頭部をわずかに右へ傾けた。迫る刃が頭部の左側を激しい火花とともに擦過する。

バイザーが砕け、その下から現れた一対の眼光が正面からグフを見据えた。映像は乱れ、モニタ左側に深刻なノイズが走るが、そのまま一歩踏み込み、滑るようにグフの懐へ入る。

 

「何⁉」

敵の驚愕など聞こえない。腰横から素早くビームサーベルを引き抜く。そのまま真上に居合を振りぬいた。

 

刀を握ったままのグフの右手が高く宙を舞う。肘から下を斬り飛ばした斬撃はその熱で巻き上がった雪を溶かし、瞬時に細かな氷の粒を大気中に形成させた。

朝日に照らされた黄金色のダイヤモンドダストの中、宙を舞った刀が遥か後方の地面へ突き刺さる。

 

「片腕程度ッ‼」

グフの左脚のバーニアが熱量を吐き出し、その推進力に任せて横蹴りを放つ。

コックピットに激震が走り、軽々と機体が弾き飛ばされた。

 

「ぐっ…」

機体が地面を引きずり、管制塔の根元の壁へ叩きつけられる。

衝撃でヘルメットのバイザーにヒビが入った。脳髄を揺さぶられ視界が定まらない中、機体を立ち上がらせるために操縦桿を引く。

 

 

今の衝撃で駆動系にエラーが出たらしい。漏れ出す冷却液の流路をカットしつつ、ヘルメットを脱ぎ捨てた。

残った左手に一振りの刀を抜き放つ悪鬼がひび割れたモニタに映し出された。一部はもはや映らなくなっている。

 

「まだやるか。今の貴殿では、私には勝てん」

通信機能もやられたのか、ひどいノイズ交じりの無線がコックピットに響く。

 

「貴様をここで逃がせば、多くの血が流れる。それを許すわけにはいかない。

…お前を世界に解き放つわけにはいかない‼」

がはっ、と口からこぼれた血反吐をぬぐう。機体の各所にある寸断された配線が火花を散らしながら漏電している。

 

「多勢の命のために、私を殺すと?…貴殿も私と同類だ。今ならばその刃、私に届くやも知れんぞ」

 

「貴様が憎い。殺したいほど憎い。だが…」

その目に活力が戻る。目の前の悪鬼を見据える。

 

「だが?」

 

「オレと貴様は違う」

 

「…いいだろう。その理想を、彼岸で部下に語って聞かせるがいい」

 

片方にビームサーベルを、もう一方にスナイパーライフルをそれぞれ抜き放ち。

あるいは残された左手に灼熱の一刀を構え。

―動き出しは同時だった。

 

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増設バーニアを全開にして踏み込む。あの満身創痍の身では策などいらぬ。

そも、私と同じ戦場には立っていなかっただけのこと。

次の一合で終わらせる。

 

コンソール横で警告音が鳴り響く。見ると機体負荷が許容量を超えようとしていた。

「この加速力では先にフレームが歪むか。しかしあと少しだ。働いてもらうぞ」

 

正面に目を戻した瞬間だった。

頭上から巨大な影が落ちてきていた。

 

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動いたのは同時。

満身創痍の機体。しかしハークレイはまだ諦めていなかった。

 

迫る灰の巨躯に背を向け、左手にビームサーベルを展開させると刃を壁に突き立てる。

火の粉を散らしながら壁面を融解させ、壁に長々と真一文字を刻み込んだ。

先ほどの激突で脆くなった基部が軋み始める。

 

砕ける音をを伴いながら、直径二十メートルほどの管制塔が一気に倒れこんだ。

ほぼ一直線に突っ込んできていたグフの直上、その軌跡に重なるように倒れこむ構造物を認めた灰色は

弾かれるように真横へ跳躍する。

 

二つの巨躯を隔てるように

高さ数十メートルの管制塔が衝撃とともに地面へ激突した。巻き上がる雪で周囲が覆われる。

 

舞う雪を切り裂きながら疾走する二つの巨躯。モノアイの赤い発光が、デュアルアイの緑が尾を引く。

倒れた管制塔を隔て、壁面に沿うようにお互いに加速する。

 

モビルスーツの背丈がちょうど隠れるほどの障害物。その壁ごしにお互いの位置を予測する。

駆動音、加速性能、経験、勘。全てを動員してこの一瞬にかける。

 

「…ここだっ―‼」

管制塔の中間付近、機体に急制動をかけ左脚を壁面へかける。スパイクが足裏から伸び、機体を地面と壁へと固定する。

壁に向けて撃った弾丸は確実にその姿を捉えていた。

 

しかし、壁に穿った穴から恐るべきものを見る。

 

敵はこちらの放った弾丸を避けるようにすでに跳躍をしていた。

モノアイの赤が、こちらが放った弾丸を中心にきれいな弧を描く。

 

―完全にタイミングを読まれた。

スパイクを引き戻して向き直るが、間に合わない。

 

すぐ横の壁面に十字の斬撃が浮かび上がると同時、爆発のような勢いとともに

土煙から悪鬼が飛び出す。

 

「こちらだッ―‼」

言葉とともに差し出された刃がジムの胸部装甲を捉えた。

 

「くっ―」

必死に身を引きながら全バーニアを逆噴射する。

 

グフの踏み込みに対して、なんとか反応したハークレイは目の前のモニターが融解するのを目の当たりにした。

切っ先がコックピットを掠め、寸でのところで刺し込まれるのを躱したのだ。

 

目の前の装甲が溶け落ち、冷たい外気が入ってくる。初めて対峙している悪鬼をその目で見る。

しかしこれで距離が空いた。間合いは十メートルもないが、

 

「―当てるには十分だ」

 

ライフルを構えなおして、一射。

もはや躱すことなどできない。ヤツがニュータイプでもない限り。

 

腰だめに構えられたライフルから放たれた弾丸は正確な弾道で、迫る灰の巨躯の眼前へ。

 

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突きを放った後の踏み込み脚に全ての体重が乗っている。

引くことも、跳躍もできない。

 

―で、あるならば。

私の道行はひとつ。

 

「押通るッ」

水平に構えた刃の切っ先をまっすぐに、飛来する弾丸へ差し向けた。

素早くコンソールを繰り、リミッタ―を解除する。

ヒートソードの出力を臨界まで上がり、自らの熱で刀身が融解を始めた。

舞った雪が刀身を中心に蒸気となってかき消える。

 

 

その灼熱の刃によって形成されたフィールドへ弾頭が触れる瞬間、高温によって弾頭の一部が溶解する。

 

 

―刹那、

快音とともに弾丸が弾かれ、グフの後方へ流れていく。

 

完全に間合いが詰まった。

 

―一歩。積雪を巻き上げる踏み込み。オールドマンが狙う先は胸部中央。

装甲の隙間から、パイロットがこちらを見据えている。―なんと年若い。

 

その目からは微塵も諦めなど感じられ無かった。

 

面白かったぞ。若い将校。

速度を落とさず、灰の巨躯の一閃がジムの胸部装甲を貫く―。

 

「な―⁉」

驚愕の声を上げたのはオールドマンだった。こちらへ向けたライフルの銃身を使ってこちらの刃を受けたらしい。

溶断されながらも、真横から叩くその力は刃の切っ先をずらすには十分だった。

 

刃がジムの左胸部へ突き刺さっていく。

 

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生まれた一瞬の隙。差し込まれた刃の熱をすぐ横に感じる。コックピット側へ振り抜かれれば蒸発して跡形もないだろう。

しかし、上半身を捻りながら差し込まれた刃を返すには、一動作が必要なはず。

 

―捕まえた。これで―。

 

「これで最後だ」

絞り出すような呼吸とともに動き出す。ビームサーベルを展開しグフの胸部を刺し貫く瞬間。

 

その瞬間だった。戦場に無いはずの異質なものが視界に入る。

灰色の巨躯の背後、すぐそばの地面にいるその姿を見逃すことはできなかった。

 

「子供―⁉」

迷っている時間は時間はなかった。思考より先に体が動く。

 

まるで初めからそうするつもりだったかのように。

グフの背へ、まるで抱擁するかのようにグリップを握りこんだ左腕を回す。

 

 

機体を後ろに倒れさせるわけには―ッ。

 

 

勢い良く形成された光の刃は、自分もろともグフを串刺しにした。

ビームサーベルを引き下ろし、お互いのジェネレータを誘爆させようとした刹那。

 

ジムの左胸を貫いた刃はそのまま外側へ振りぬかれ、左腕を溶断されながら地面へ倒れ込む。

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地面へ倒れ込む蒼の巨躯を、その少年はしっかりと見据えていた。その胸には同じ齢の少女を抱きかかえている。

倒れ込む蒼の巨躯が起こす地響きに思わず少女をかばう。舞い上がる雪の中、続けて爆発が起こった。

 

視界が奪われ、前も後ろも分からない。爆風が、積雪とともに全てをさらう。体が浮き上がり、二人もろとも弾き飛ばされる。

 

「しっかり掴まって‼」

 

少女の手を掴んでいない方の手で必死に地面をまさぐる。手の皮が破け、血が滲みながらも太いケーブルのようなしっかりしたものを探し当てるとそれを夢中で掴んだ。

しっかりと繋いだはずの手が、その右手がほどけ始める。

 

「――ッ」

最後はなんと叫んだのだったか。無情にも離れた小さな手は、ただ真っ白な世界に吸い込まれ消えていった。

 

 

 

 

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[U.C.0086地球]

激しい後悔とともに差し出した右手は空しく空を切る。全身から噴き出した汗の不快感で少年は目を覚ました。

いつも通りの天井。いつも通りの悪夢。突き出した右手を下ろすと、一息。

 

ベッドから身を起こす。全力疾走した後のような心臓の鼓動が治まるのを待ちながら、ふと横の丸窓を見る。

 

夜の海が眼下に広がっていた。

 

月明かりが照らす中、偽装輸送艦は大西洋上高度三万三千フィートを航行していく。

 

綺麗な満月を見上げるために、少年―アイン・ハークレイは顔を上げた。

 

 

 

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[U.C.0086???]

地球衛星軌道上、艦の通路を行くパイロットスーツの人影がある。その小柄な影はふとガラス越しに映る月を見やる。

首元のロックを外しフルフェイスを脱ぐと、その雪のような淡い長髪がはらりと舞った。ヘルメットを脇に浮かべると、そのまま慣性に身を任せる。

 

まるで宗教画のようなその光景だけは、今でもよく覚えていた。最後の一合に何があったか、私は当事者ではないから確実な事は言えないけれど。

最後に灰色の機体が放った斬撃は、とても鮮やかで。

 

それでもこう思う。あの時蒼の機体は一瞬、ほんの一瞬だったけれど、雪の上でうずくまる私たちを、迫る灰の肩越しに見つけてしまったんじゃないかって。

 

最後に私達が見たのは、二つの巨人に突き刺さっていくキレイな赤。

 

 

あれ…?私たち(、、)…?あの場所で私のそばには誰がいたんだっけ。暖かいあの感覚は…なんだったのだろう。この先は思い出せない。

 

 

―なぜか右手のひらに残っているこの感覚は一体なんだろう。

 

 

 

 

 

あれから三年。世界は未だに戦い続けている。

[END]




第一部はこれで完結となります。

第二部は
新しいナンバリングで0086の少年と少女を書いていこうとおもいます。

ここまで読んで頂いて
本当にありがとうございました
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