もしもベルがエラバレシモノだったら   作:冬空星屑

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 今までの三倍の長さの長文です。
 どうぞ。


神様、僕、強くなりたいです

 

 朝早く、ベルはメインストリートを進んでいた。

 昨日ロキの部屋から出る前に、「そうや、明日は早うダンジョンにでも行ってこいな。紹介までなるべく団員に会うなや。ドッキリやで」と言われたからだ。全くドッキリではないと思ったことをベルは秘密にしている。

 少し肌寒くも感じる朝の空気にため息溶かしながら、ベルは進んでいった。

 

「……!?」

 

 ぱっ、と振り向き、立ち止まって、自分の背後を見る。

 ベルは嫌な感じをした。殺気とか僅かな気配とかが感じ取れる一端の冒険者ではないベルでも気が付けるほどの無遠慮過ぎる視線。

 勘違い? そんなことを考えているベルはちっとも納得できない顔を浮かべていた。

 

「あの……」

「!」

 

 後ろからの声に、すぐさま反転し身構えた。

 周りから見れば大袈裟過ぎる動作をした後、ベルは声をかけてきたヒューマンの女の子を見た。

 服装は白いブラウスと膝下まで丈のある若葉色のジャンパースカートに、その上から長目のサロンエプロン。

 光沢に乏しい薄鈍色の髪を後頭部でお団子にまとめ、そこからぴょんと一本の尻尾が垂れている。ポニーテールの亜種のような髪型だ。

 髪と同色の瞳は純真そうで可愛らしい。ミルクのように白く滑らかな柔肌の顔は、ベルの警戒じみた挙動に驚きを示した。

 

「ご、ごめんなさいっ! ちょっとびっくりしちゃって……!」

「い、いえ、こちらが驚かせてしまったんです。すいませんでした」

 

 そんなやり取りをした後、ベルは夕食をここで食べる約束までしてしまった。

 理由は朝ごはんを貰ってしまったことと、夕食の打ち上げがこの店でやることに気づいたからだ。

 そんなこんなでベルはこの"魔性の女"と自己紹介をして別れるのだった。

 

「僕……ベル・クラネルって言います。貴女の名前は?」

「シル・フローヴァです。ベルさん」

 

 

 

 所変わってダンジョンでは、最近主に二つの疑問をベルは持ち初めて居た。

 

『ヒッ、ギャウッ!?』

「はッ!」

 

 なぜなら……。

 

『ギャゥ!? ギャァ~!?』

「シッ!」

 

 ……ベルを見かけたモンスターがこぞって動きを止め(・・・・・)、ベルから逃げることもできずに一撃で(・・・)死んでいくからだ。

 この異常事態こそが【英雄覇道(エラバレシモノ)】の権能だ。

 ただし、致命の一撃(クリティカルヒット)を与えること以外は基本的に格下にしか効果を発揮しないため、ベートやアイズは勿論、ミノタウロスなどのモンスターにもほとんど通用しなかった。

 だが、ベルのステータスは急上昇している。

 少なくともゴブリンやコボルトよりは強い。

 

 この世界のスキルは、一つのスキルに三つも四つもの権能が付くことは無い。

 ベルの【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】も本質は"早熟する"ということのみだ。

 故に、本来の【英雄覇道(エラバレシモノ)】の権能、『英雄覇気』『英雄補正』『英雄魅了』『英雄行動』は、十全な力を発揮していない。

 それでも強いからこそのユニークスキル(・・・・・・・)の中でも最上位の能力なのだ。

 

 さて、ベルが困っている二つ目の疑問も教えよう。

 それは、ドロップアイテムが多すぎることだ。

 これも『英雄補正』による超幸運の効果だが、一概に幸運とも言えない。

 ドロップアイテム、つまりそれは生前のモンスターの異常発達した強力な武器だからだ。

 つまりベルはドロップアイテムを落とすような強力なモンスターと戦い捲っているということだ。

 そして、ドロップアイテムが多すぎて探索時間があまり取れないでいることにベルは困っていた。荷物が嵩張るのだ。

 今日も早めにダンジョンから上がったベルだった。

 ちなみに今日のベルの収入は八八〇〇ヴァリス。いつも荷物が一杯で帰ってしまうので平均的に八〇〇〇から九〇〇〇ヴァリス稼いでいる。ドロップアイテムがバカみたいに多いからだ。

 

 そのあと、ファミリアのホームに戻り、ロキに帰還報告をしたベルは何故か、【ステータス】を更新させられた。

 

「ええから、ええから。新入りなんやから遠慮すんなや。最初が一番伸びるんや、伸ばせる内に伸ばしとき~」

 

 "伸びる"を異常に強調するロキになにか思いつつも、ベルはおとなしく【ステータス】を更新した。

 すると、ロキは、

 

(あ、あり得ない!? なんや、この異常な伸び方は? これは、もう『成長』じゃなくて『飛躍』やないか!? ご、誤魔化せるやろか?)

 

 と考えていた。

 

 そして、ベルは自分の目を疑った。

 

 

ベル・クラネル

Lv.1

力:H108→H152 耐久:I8→I30 器用:H129→H196 敏捷:G203→G277 魔力:I0

≪魔法≫

【 】

≪スキル≫

【 】

 

 

 熟練度上昇トータル200オーバー。

 【ステータス】を更新した本人(ロキ)ですら目を疑う程の馬鹿げた数値だった。

 

「神様、これ、書き写すの間違ったりしていませんか?」

「なんや、ベル? うちが簡単な読み書きもできへん言うんか~? これでもずっと【ステータス】たす書き写して来たから、読み書きには自信あんで?」

「い、いえっ! そうじゃなくて、ほらっ! ここ! 『耐久』の項目、今日の僕はモンスターの攻撃が一度かすっただけ(・・・・・・)ですよ!?」

「…………っ」

 

 さすがのロキも絶句である。

 ロキは知らないのだ。

 ベルが、風呂場でアイズの裸体を見たことで、なおいっそう意識してしまっているということを。

 

 

 その後、ロキは『成長期』だと言い張って必死に誤魔化した。止めはこうだ。

 

「アイズたんに追い付きたいんやろ!? 何も言わずにただただ突っ走れや!」

 

 逆ギレである。

 仕方がない気もしなくもないが……。

 

 

 そしてベルはシルとの約束のために、且つロキの言うドッキリをするために一足先に『豊饒の女主人』へと向かった。

 

 

「ベルさんっ」

「……」

 

 いつの間にか現れたシルは、ベルの隣に立つ。痙攣しそうな口を封じ込め、ベルは無理やり笑った。難易度が高過ぎるこの店に入る決心ができたのだろう。入らなければ、後でロキに絞られるだろうが……。

 

「……やってきました」

「はい、いらっしゃいませ」

 

 シルは朝と同じ服装でベルを出迎えた。

 

「お客様一名はいりまーす!」

 

 案内されたカウンターに座り、何故か大食漢であることにされ、完全にため口でシルに文句をいい始めるベル。

 いつの間にか緊張はほぐれ、酒は飲まないながらもベルは食事を楽しんだ。やはり、圧倒されてはいたが……。

 ベルが店内を大きく見渡していると一人の男が近づいてきた。

 細身のしかし無駄の無い筋肉をつけた黒豹人(パンサー)だ。

 短い黒髪に頭の上から生える黒い猫耳。尾てい骨からは細くしなやかな黒い尾。腰には極東にあるとされている"刀"を二本さしている。

 背中にはサポーターが持っているような大きなバックパックを背負っていた。雰囲気と精悍な顔つきは冒険者に見えるため、そこそこ不釣り合いだ。

 

「よぉ! ベルじゃないか! 二週間ぶりくらいか!?」

「はい、お久しぶりです、イアさん」

 

 この男、イア・マヤは二週間程前に、ベルに命を助けて貰ったことがある冒険者兼サポーターだ。

 

「いやー、マジであのときは助かったは! 1ヶ月の間、何も食ってなくてよ!」

「いえ、むしろ良く生きてましたね……」

「これでもレベルスリーだぜ? 体は丈夫なんだよ!」

 

 …………ランクアップした冒険者でも、餓死はする。この男が特殊なのだ。

 

「そ、そうですか……。それと僕、イアさんのレベルを初めて知りました」

「そうだったか? まあ、いい。それよりベル。食い物の恨みは~~、ってのは知ってるよな?」

「え、ええ。それがどうかしましたか?」

「俺は、食い物の恩も同様だと思う。だから、今日は俺に奢らせろ!! 拒否権は無い!! ハハハハハハ!」

 

 ちなみにこの男飲む度に酔い方が変わる珍しい男で、今日は絡み酒である。

 ベルはこのあと、この男に付き合ってタプンタプンになるまでジュース(・・・・)を飲むことになるだろう。

 この男、十四のガキに酒を飲ますぐらいなら自分が飲むような男である。

 

 イアはシルも交ぜながらベルと話し続けたら、急に外を見て言った。

 

「おっ? おいベル、ロキ・ファミリアのお出ましだぜ?」

 

 ちなみにベルとイアは互いのファミリアを知らない。

 その頃のベルは、いやベルの心臓は跳び跳ねていた。アイズに見とれていただけだが、

 砂金のごとき輝きを帯びた金の髪。

 触れれば壊れてしまいそうな細い輪郭は精緻かつ美しく、よくできた人形というよりも、御伽噺の精霊や妖精のようだ。

 大きく際立つ金色の瞳は、無意味に喉を鳴らしてしまうくらいに透明で澄んでいる。

 酒場が喧騒に包まれ、エンブレムを確認し終えるころには、美人に見蕩れていた客達が異なったざわめきを広げる。

 巨人殺しの【ファミリア】。

 それがロキ・ファミリアの異称だ。

 

 しばらくするとロキが音頭をとった。

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」

 

 そして、ロキ・ファミリアは盛大に騒ぎだした。

 思い人に酒を継ぎ、潰そうとするアマゾネス。

 ドワーフと飲み比べする酒好きな神。

 エルフの王族の胸を景品にする神。

 新入団員の紹介を忘れかけている神。

 新入団員を紹介しようとしたら駄犬に先に喋られて、タイミングを失った神、などがいた。

 駄犬は語る。

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

 よった駄犬は面倒だ。好きな女の子をいじめたい症候群の亜種を発動するからだ。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス! 最後の一匹、お前が五階層で始末しただろ!? そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

 ベルはこれまでと違う意味で、心臓が平静さを失った。

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて…………」

「それそれ! 奇跡みてぇにどんどん上層に…………」

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえ冒険者(ガキ)が!」

 

 それは、言葉が遠くなっていくように感じていたベルの耳にもしっかりと届いた。届いてしまった。

 運命の悪戯か。はたまた、因果が巡るのか。

 ロキの神の勘をもってしても、それがベルだと気が付けなかった。

 

「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ! …………」

「ふむぅ? …………」

「アイズが間一髪ってところで…………」

「それでそいつ、あのくっせー牛の血を…………」

 

 そのころまだ酔っているロキには、その話しの流れを断てなかった。

 

「うわぁ……」

「アイズ、あれ狙ったんだよな? …………」

「……そんなこと、ないです」

「それにだぜ? そのトマト野郎、…………」

「……くっ」

「アハハハハハッ! そりゃ傑作やぁー! 冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!!」

 

 それが決定的だった。

 ベルの手は完全に止まり、目の焦点が合わなくなる。

 さすがの酔っぱらい(イア・マヤ)もこの温度差を感じとる。

 

 恩人兼友達(ベル)をバカにされていると悟ったイアが、駄犬を殴りに行こうと腰を上げると、それを止めるようなタイミングで声がする。

 

「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

 だが、駄犬は酔っていた。

 

「…………じゃあ、あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

「…………ベート、君、酔っているの?」

「うるせえ。ほら、アイズ、選べよ。雌のお前は…………どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

 

 このころ、ガリガリと音が響いていた。

 

「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

 

 誰にも気づかれずに、ガリガリガリガリと。

 

「無様だな」

 

 それは少年の軌跡(こころ)経験値(ふかいきず)を刻んだ。

 

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

 

 今の自分では、釣り合わないのだ、と。

 この前聞いたエイナの言葉がよぎる。女性はやっぱり強くて頼りがいのある男の人に魅力を感じるから、と。

 弱くて情けなくて、臆病な僕には無理なんだ、と少年は思う。

 

 

「ベル。追いつきたいなら、走り続けろ。レベルファイブは遠いぞ?」

 

 

 ほぼ全てを察したイアの言葉がベルを後押しし、ベルは椅子を蹴飛ばして、走り出す。

 

 

「ベルさん!?」

 

 シルの静止も聞かずにベルは全力で走り出した。

 

 残ったのは、困ったような申し訳なさそうな顔のヒューマンの剣士、満足そうな顔して二人ぶんの食費を払う黒豹人(パンサー)の男、走り出した少年を見て酔いが覚め青ざめた神、心配そうにする店員、などなど。

 一番目立ったのはぐるぐるに縛り上げられた駄犬だろう。同情の余地はない。これは絶対である。

 

 惰弱で貧弱で虚弱で軟弱で怯弱で小弱で暗弱で柔弱で劣弱で脆弱な少年は、何もしていないくせに無償で何かを期待していた自分に殺意を向けながら、ひた走る。

 目指すはダンジョン。目指すは遥かな高み。

 吊り上げた瞳に涙を溜め、ベルは闇に屹立する塔に向かってなおひた走った。

 

 少年は初めて、己を賭した冒険に向かったのだった。

 

 

 

 

 

「今日も元気ないなぁ、アイズたん……」

 

 東の空より朝日が上り、高い市壁に囲まれるオラリオにも朝の日差しは届き始めていた。

 

「ロキ様! 来ました!」

「なんやて? ほんとかいな!?」

 

 ロキは喜んで飛び出した、門番からのベルの帰還を聞いて。門の前でずっとベルを待っていたロキは倒れかけたベルをギリギリで受け止め、説教……。

 

「こら! 今まで何しとったねん! こんな私服でダンジョンになんて行った言うたら、…………っ!?」

「神様、僕、強くなりたいです」

 

 ……をすることはできなかった。

 神に抱かれたからか、安心したベルはすぐさま気を失った。

 寝言にしては、意思の籠った言葉にロキは言葉をなくすが、すぐさま立ち直り、ベルを部屋まで運ばせた。

 ベルが起きてから、入団報告とリヴェリア(ママ)によるコワーイ説教が始まるが、自業自得だろう。

 

 そして、【ステータス】を更新したロキはもう諦めの境地にたったのだった。

 全熟練度上昇値七〇〇オーバー。新たな"激レア"スキル獲得。

 心の傷(エクセリア)はスキルを得る程に深かったようだ。

 

 

ベル・クラネル

Lv.1

力:H152→F331 耐久:I30→H188 器用:H196→F387 敏捷:G277→E459 魔力:I0

≪魔法≫

【 】

≪スキル≫

英雄覇道(エラバレシモノ)

・英雄のみが放つ、格下は浴びただけで威圧され動けなくなり、命令に従うようになる覇気の放射。

・超幸運による全攻撃の致命の一撃(クリティカルヒット)。これは共に歩む仲間達にも適用される。

・超幸運による所有者(エラバレシモノ)の発言や行動に対する周囲の評価の最高化。

・所有者の活躍を見た者に対する恐怖心の高抵抗(レジスト)と勇気の湧出。

所有者(エラバレシモノ)に敗北した意思ある生きている者に対する懐柔効果。

所有者(エラバレシモノ)の行動は、英雄への第一歩。仲間達の手本となり、やがて称賛されるようになる。そして……。

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

・早熟する

懸想(おもい)の続く限り効果持続

懸想(おもい)の丈により効果向上

 

到達願望(ヘルベガ・ナランガ)

常に前進する(はやくつよくなる)

目標(たかみ)が有る限り効果持続

目標(たかみ)の高さにより効果向上

 

 

 

 

 

 

 





 オリジナルキャラクター登場!!
 ベルが一歩目を踏み出した!!

 物語は加速する。我が筆はマイナス方向に加速する。

 次話をまて、いや待っていて下さい! お願いします ⤵️
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