前回ナタネの目を点にしたコウキですが、前書きを書いてる時点では多分またしでかします。ええ、しでかしますとも。
ではどうぞ。
「なれないでしょう………? チャンピオンなんかに……!」
「…………………は?」
この子今、なんて言った? チャランポラン? いや違ったわ。現実逃避してる場合じゃない、落ち着け私。
はい深呼吸、……………うん、確認してみよう。
「……チャンピオンに?」
「「(コクッ)」」
「君たちが?」
「「(コクッコクッ)」」
「……えーと、ちょっと待ってね?」
ちょっと情報量が多くて、いや多くはないけど大き過ぎて処理が追い付かない。
チャンピオンになりたい? 今の、ギンガ団の研究者すら倒せない強さで?
「うっ……それは……」
「あ、私声に出てた? いやごめん、でも申し訳無いけど事実なんだよ。……だってさ、チャンピオンっていうのはさ。シンオウの誰よりも強いんだよ。
アッハハハハハハハ……と笑ってから、傍から見たら絶対こいつヤバい奴じゃん、というワードが頭を
「あ、あははー……っ!」
「あっ、逃げた!」
「待てー! 言うだけ言って逃げるのは大人気ないぞー!」
「私はまだ少女なのぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!」
確かに大変大人気ないが、もうあんな事をしてしまった以上許してほしい、てかそれで弄られたら恥ずか死ぬ自信が大いにある。
「ううぅ〜……もう外歩けないぃ〜……」
「……ナタネさん、またそれ言ってるんですかぁ? 今月入ってもう3度目ですよぉ?」
「だぁってぇ〜、恥ずかしいんだもぉん……」
「(ドンドンドンッ)ナタネさーん、予約していたジュンとコウキですけどー」
「はぁっ!?」
え、いや、そんな馬鹿な。予約なんて今日の内はもう来てない筈。
全速力で名簿を掠め取り、目を通していくと、確かに予約が来ていた。3分前に。
「そーゆーのはぁ、予約って、言わないのぉ……」
「あぁ、ごめんなさぁい……他に来てなかったのでぇ、入れちゃいましたぁ……」
「何してんの!? てゆーかそれ聞いてないよ!?」
***
「………えと、入って良いのかな……」
「………まあ、ダメではないだろ、うん」
声めちゃめちゃ届いてるんだけど、気付いてないのかなぁ……と責任から目を逸らして、真っ赤な泣き顔でぐるぐる目にしてる様が浮かんでちょっと笑ってしまった。
「誰今笑ったの!」
「おわあぁ!?」
「じ、地獄耳……」
「ほらほらナタネさん、落ち着いて落ち着いて」
「えっ? ああ、うん……で、挑戦に来たのね?」
「「はい!」」
「うん、うん、うん……まあ、アレがあってから随分と早い立ち直りだこと。さて、準備出来てる?」
「っ……はい。やります。そして勝ちます。……また怒られたくはないので」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
余っ程恥ずかしかったのか、ずんずんと奥へ入っていくのを見て、ナタネさんの印象が「怒らせると怖い」から「表情と感情がくるくる変わって面白い」に変わった。
「……さて、それじゃ行こうか」
「ガウッ!」
「おっ、頑張れよーホムラ! 俺がしっかりと見届けてまるからな!」
「ガウガウ〜」
「『言われずとも分かってる、口出しすんな』ってさ」
「何おぅ!?」
***
さてやって参りました、毎度お馴染みスタジアム。お客さん……というかジムの人は皆女性で、少し緊張するのもあるけど……こんなんで負けてちゃ、ダメだよね。
気合いを入れ直すため、頬をぱちんと叩く。……加減間違えた、痛い……
「う〜〜……よし、行こう!」
「ロズレイド、《つるのムチ》!」
「おわぁっまだ何も出してないのに!?」
「あ、ごめん。今日はちょっと不機嫌だからさぁ」
「……怖っ。気を付けて、ホムラ」
「ガウッ」
「えー……それでは、ジムリーダー・ナタネ対、チャレンジャー・コウキのバトルを始めます! 使用ポケモンは3体、相手のポケモンを全て戦闘不能した方の勝ち! ……始め!」
「ホムラ、《ひのこ》!」
「躱して《つるのムチ》!」
「避け──」
て、の言葉が出る前に、ヒュッ! と空気を切り裂く音がした。あと数センチ前に出ていたら、間違いなく引っぱたかれていたであろう勢いで。それはもう、思いっきり。
もうもうと舞う土煙が晴れた時、そこには1つの大きな窪みがあった。言うまでもなく、《つるのムチ》によるものだ。
「うひぃ、凄い威力……ホムラ、油断しないでね!」
「ガウ!」
「《どくづき》!」
「花に触れないで、毒針が出てくる! ……《ひのこ》!」
「一点構成は愚策よ? 《はなびらのまい》!」
「ガッ……グ、ウゥゥウ!」
「ホムラッ!」
激しく踊るロズレイドと、それによって舞い散る花弁はとても綺麗だった。……でも。綺麗なバラにはトゲがある、とはよく言ったもんだ。
衝撃でジムの壁に叩きつけられたホムラは、床に力無く倒れた。立ち上がろうとして、すぐにまた横たわってしまう。
「ッ……ホムラ、キズぐすりだ。これで……って、そんな悲しそうな顔するなって。お前なら勝てる。約束するよ」
「……ガウ!」
拳と前足でグー(?)タッチして、ホムラは再び立ち上がった。その瞳は爛々と輝いている。もしやと思って図鑑を見ると、《ひのこ》が新しい技に変わっていた。
「こいつ……、《かえんぐるま》!」
「ガァアウウウウウウゥゥゥアア!」
「なっ……くっ……!?」
高速で回るホムラの勢いは、《はなびらのまい》を強制的に中断させた。そのまま無防備な胴体へ、《かえんぐるま》を直撃させ、反対の壁まで吹っ飛ばした。
同じ事をやり返されるとは思っていなかったらしく、目を見開いているナタネさんに、精一杯のドヤ顔で返す。
何故って、こいつは──
「『やる時はやる』、それがうちのホムラですから」
「ガウ!」
「……よし、反撃開始だ!」
「させない! ロズレイド、《リーフストーム》!」
「ホムラ! 《おんがえし》っ!」
「グゥウアアアアアアア!」「ロォォォズァァァァァ!」
純白の牙と、葉っぱの渦……って言うとなんかダサいな、でも他に浮かばないからいいや……コホン、葉っぱの渦がぶつかり合い、周囲の木々から葉を削ぎながらせめぎ合っている。2匹の放つエネルギーがどんどん膨れ上がって、眩しくて………!
ズドォォォオオン!
と大きな爆発を起こし、互いに吹っ飛び、しかし踏み留まった。どちらも息があがっているが、まだ闘えそう──
「ロ、ズ、ァ……」
「……ロズレイド、戦闘不能!ホムラの勝ち!」
「よっ……しゃあああ! やったなホムラーー!」
「ジュン! お前さっきからずっと黙ってるから寝てたのかと思ったー!」
「阿呆! 俺はお前じゃないんだぞー! ほら、2体目来るぞ!」
「……行けっ、チェリム!」
「ホムラ、《かみつく》!」
「《はっぱカッター》で突き返して!」
「ムー……」
「うえぇ!?」
***
(……さて、どう出るか)
私がジムリーダーとしてしてきた事。もっと言えば、唯一最初から出来た事。それは、他者の分析だった。相手のクセ、言動、表情……それらから読み取り、相手がどんな人物かを見極める。私はそれが大の得意だった。
沢山の
「《かえんぐるま》に切り替え!」
「ガア!」
普通、《かみつく》から《かえんぐるま》には繋がらない。前者は口で噛む為に顔を前に出すけど、後者は全身で回転する為に顔は引っ込めないといけないから。
そして、それはどちらも分かっている筈。
そんな人、私は会った事無い!
「……ああ、最っ高! チェリム、《にほんばれ》」
「ムー……」
「気を付けて! アクティブに動いてくるよ!」
「リムッ!」
チェリムのフォルムチェンジを、初見で……いや、最初から知っている。その証拠に、ポケモン図鑑は閉じられているし、チェリムを出してから開いていないのはこの目で見ている。
ゾクゾクしてきた。汗が背中を伝う。口元から自然に笑みが
「ははっ……俄然興味が湧いてきた! 後でみっちり聞かせてよ! ──《はなびらのまい》!」
「ギンガ団追い払った後になら、いくらでも!」
「リムッ!」
「ガ、グ、ウゥ………!」
あんな事言って。強がっている訳では無さそう。それはさて置き、
さぁて、どうするコウキくん?
***
《はなびらのまい》は直撃、キズぐすりがあったとはいえホムラにはまだダメージが残ってる。となると、これ以上はキツいだろう。
「ホムラ、戻って!」
「ひゅー、あっぶねぇなぁ……って、お前今3体目居ねえじゃねえかー!」
「……え、だってホムラだろ、カグツチだろ、ホルス……あ゛ーーそっか!アイリに預けてるんだ!」
「どーすんだバカヤロー!」
ジムの人たちが盛大にコケて、「またかコイツは……」と言いたげな顔でジュンが提案してきたのは、(ジュンからの)ポケモン貸与、1度降参してホルスを連れてまた来る、続行の3つ。その中でなら……
「続行!」
「ま、そりゃそうだよな。聞いてみただけだ」
冷静なジュンとは裏腹にざわめく観衆の中で、1人の大きな笑い声が聞こえた。ナタネさんだ。
「あっはははははは、何それ何それ! 2体で挑んでくる人なんて初めて! これで私が負けたら、なんでも1つ言う事聞いてあげるわ!」
「……だとよ。舐められてんぜ」
「ははは、まあ簡単に勝てるとは思っちゃいないよ。代わりに、本当に勝ったら……言う事、聞いてもらいますからね!」
「ヒコァ!」
「《かえんぐるま》!」
ポジフォルムのチェリムは確かに俊敏に動く。でも、それ以上に速いカグツチなら勝算はある!
「リムッ……!」
「くっ……《マジカルリーフ》で反撃!」
「《ひのこ》で撃ち落とし……いや、そのまま突っ込んで!」
よく考えるんだ。チェリムは既に《はなびらのまい》を終えている。という事は、しばらく《混乱》している。そして今、《マジカルリーフ》は──全てチェリムに向いている。なら、ここから何が予想出来るか? 答えは簡単、
「カァァァア!」
「リムムムム………ムィーッ!」
全方位から《マジカルリーフ》を喰らい、真正面から《かえんぐるま》を喰らったチェリムは、その場にぽてっと倒れた。数秒待って、審判が戦闘不能を告げた時、大きくガッツポーズした。ホムラがある程度削っていたのもあるだろうけど、ほぼ無傷で倒せたのはかなり大きいだろう。
残るはあと1匹、最後に出てくるのは──
「行くわよ、ナエトル!」
「カグツチ、油断しないで」
「ヒコッ」
「《はっぱカッター》!」
「避けっ……うおっ、速い!」
「そりゃあ、ね。鍛え方が違うもの」
「どーだろうねぇ、鍛え方なんて皆違っても違和感無いし。……あの、ちょくちょくこっち飛ばさないでくれます?」
「あ、バレた? 《ギガドレイン》!」
「うわ意図的にって酷いなぁ、《マッハパンチ》!」
「コァッ! フゥゥアア!」
「エウッ!?」
「《ひのこ》!」
「ッ、《タネばくだん》で掻き消して!」
爆発。土煙。それらで視界が遮られる中、カグツチの尻尾の炎がよく見える。……いや、それって……!
「ナエトル、《かみつく》!」
「カグツチ、避けて!」
「ナエッ!」
「アグッ……!」
「カグツチ!」
「ッグ、ウウ……」
爆風も土煙もほとんど来ない僕からでもギリギリカグツチが見える距離なので、あの中に居るカグツチがナエトルを見付けるのは困難。それは分かってるけど……
って、あれ? あのピリピリした感覚、どっかで……
「……あっ、もしや……」
「《もうか》か。でも、私のナエトルも《しんりょく》が出てるから、まだ勝負は分からないよ!」
「……臨む所です! って言っても、まだ言う事聞いてくれないんですけど……」
「その内聞いてくれるわよ! 《はっぱカッター》!」
「か、《かえんぐるま》!」
言葉に反して、繰り出されたのは……えっちょっと待って、これ《かえんほうしゃ》!?
まずい、その先にはナタネさんが……!
「ナタネさん避けて────ッ!」
「え? うわぁぁあ!? あ、熱っ、熱っ……」
「ペンタロー! 《バブルこうせん》!」
「痛たたたっ、これ結構痛いのね!?」
「え、ああ、ごめんなさい……」
「いやあのちょっとカグツチ止めるの手伝ってくれますかー!?」
「え? え、あ……な、ナエトル、戦闘不能! カグツチの勝ち! よって勝者、コウキ!」
「《バブルこうせん》!」
「ヌガァ!? ………ファ」
「や……やっと止まった……ありがと、ジュン」
笑顔で親指を立てるジュンに同じポーズで返し、カグツチをボールに戻して、ナタネさんの方へ駆け寄る。服が一部焦げてしまっているけれど、火傷の方は無いようで一安心───ガスッ!
「うぅいっ……つ……!」
「……あのね、いくら私でもベタベタ触られたら恥ずかしいの。火傷なら無いよ、お陰様で全く当たらなかったから」
「そ、それは良かったです……」
「……ま、皆もケガしなかったし。キミは正々堂々闘って、正々堂々勝った訳だし。このフォレストバッジを与えます! ……あ、ジムの修復は手伝ってね」
「……ハイ。ありがとうございます、ナタネさん」
どういたしまして。と力無く笑っていると、とてもじゃないけどさっきまで豪快に笑ってバトルしていた人には見えなかった。まあ、僕もめちゃくちゃ疲れてるんだけど……あ、そうだ。
「そう言えば、こう言ってましたよね? 『私が負けたら、なんでと1つ言う事聞く』って」
「う……うん、言ってたけど……」
「じゃあ、そのお願い今使います」
「へ? な、何?」
ごにょごにょと耳打ちで『お願い』を聞かされたナタネさんは、目を丸くして「そんなので良いの?」と拍子抜けした様子だった。
かなり駆け足で始まって終わったジム戦でした。どうしてこうなった。
戦闘描写、案外難しいんですよね……絵があると説明不要なものも、字だけだとキツいですし。
さておき、ナタネさんのイメージがぶち壊された方、大変申し訳ございませんでした。