「ぐぁっ! つ、つえぇ……」
「ほら行くよ、早めに終わらせたい」
「「は、はいっ」」
「(コソッ)……なぁ、コウキ」
「ん、どったの?」
「俺らの出番無くね……?」
「このまま終わり、ってのもなんか申し訳無いしね……」
確かに、『手助けをしてほしい』とは言ったし、それに従うという条件でジム戦をして勝ったのも事実だ。事実だよ。……でも、強過ぎないかな?
「ロズレイド、《つるのムチ》!」
「《エアカッター》!」
「《どくばり》で撃ち落として!」
「おい待てなんだよそりゃあ!? おい! 無視すんなコラーー! ……こちら2階、侵入者だ! 女1人とガキ2人! 滅茶苦茶強い、応援を頼む!」
***
「……なんか可哀想になってきた」
「あら、お友達のピクちゃんは取り返さなくて良いの?」
「と、取り返します! 絶対! ……そうですよね、こんなでも悪い奴ですし。それとジュン、いきなり黙ったけどどうした?」
「いや、なんも。ただ、どうぶっ飛ばすか考えてただけだ」
「やる気はあるのね? なら良し。っと、下がって!」
「っお、わぁ!?」
「んがっ! ってぇ……」
角を出た途端、目の前に《エアカッター》や《どくばり》、《サイコキネシス》が飛んできた。ナタネさんが止めてくれなければ、あれの全てに当たっていたかも……と考えると、冷や汗が出てくる。
どれくらい居るんだ……と少しだけ見てみたが──
「いぃ!?」
「お、おいどうした?」
「少なく見積もっても20人は居る、即座に突破……ってのは無理そう」
「……そう。今何階?」
「えっと……3階ですけど」
「じゃああと少しで最上階ね。いい、私がアレを食い止める。2人はその間に行って」
「で、でも……」
「いいから! ……早く行って、後ろからも来る」
そう言われて振り向くと、大声で喚きながら大勢のギンガ団が来ているのが見え……えっ嘘挟み撃ち!?
「行こう!」
「〜〜〜……わ、分かった! ナタネさん、ご無事で!」
「誰にもの言ってんの、一緒に倒しちゃうよ!」
「うぇ、それだけは勘弁」
「それと、この子持ってって!」
その言葉と同時に、1つのモンスターボールが投げられた。目いっぱい手を伸ばしても、掴むには少し足りなかったので、ボタンを押して中身を出す。光と共に落ちてきたのは──ナエトル!
「どわっ、たったっ!?」
「馬鹿お前、落ちてくる10キロを普通に持てる訳無いだろ!?」
事実だけど酷い言い草である。って、このナエトル……ジムで戦ったのとは別個体?
とにかく、今は急いで突破しないと!
「ナエトル、《はっぱカッター》!」
「エウッ!」
「うわぁあ!?」
「待て! 逃がずぐぇっ」
「どーこ行くのかなぁ、アンタ達の相手は私なんだけどなぁ……?」
「ひっ、ひいいい!?」
ぎゃあああああ………という断末魔が、さっき階段を塞いでいた内の1人のものであると分かり、心の中で合掌。僕らは僕らで、あの扉の先に……!
「開けやがれこのやろ、っと、と……おお?」
「……妙に親切に開けてくれるね?」
男女問わず水色のおかっぱ頭のギンガ団で、紫の縦長団子ヘアーとはまた何とも言えないヘンテコ具合。隣に居るのは、これまた特徴的な頭をしているスカタンク。──いや、あれは尻尾か。
それはともかく、この女性が幹部に……さっきピクちゃんを奪わせた犯人と見て間違い無いだろう。
「ようこそ、ギンガハクタイビルへ。私はギンガ団幹部のジュピター。まずは歓迎するわ」
「そりゃまたどーも……。俺達がここに来た理由、アンタなら知ってんだろ?」
「ええ。そこのピッピでしょう? ピッピは宇宙から来たポケモン、そう言われているわ。だから、調査の為に譲ってもらいたいと
ピクちゃんの方を見てみると、機械の中でぐったりしている。……なんの調査をすれば、そうなるんだ! それに……
「……『お願い』」
「ん?」
「今、そう言いましたよね。『お願いしただけ』だ、って」
「ええ。それが何か?」
「──ふざけるな」
「……はあ?」
「ふざけるな、と言った! お前達は、親に『嫌がっている子供から無理矢理にでも奪え』とでも教えられたのか!?」
「おい、コウキ」
「だとしたら?」
「取り返すだけだ! 行くぞカグツチ!」
「ドーミラー、《ねんりき》」
「がっ……ぐう!」
「コウキ! 落ち着けよ! おい! ……カグツチだって、そんな風にやりたくないだろ!」
「……悔しくないの? あんだけの事されて、ピクちゃんも取られて、挙句の果てに助けを呼ばなきゃここまで来る事すらままならない! そんなんで──」
「悔しいよ! ああ悔しい! でもよ、それは俺達
「っ……」
「目を覚ませよ! いつもの、ノンビリしてニコニコしてるお前が! 一番
「……ごめん。ちょっと、カッとなってた」
「喧嘩は済んだかしら? 《かえんほうしゃ》」
「「どわーっ!?」」
***
「うるっさい! 何し……ちょっ、暑! 何これ、確かに今夏だけど……」
「その《暑い》じゃなくて!」
「……チッ、騒がしいのが増えたわね」
「実はこれこれこういう理由で………」
「ふーん、じゃあ倒せば良いじゃん」
「いやまあそれで間違っちゃ居ないんですけども」
こういう時冷静なのは流石ジムリーダーと言わざるを得ないが、今回ばかりは僕も冷静にならないといけない。深呼吸して、笑顔を作って、カグツチとグータッチ。
「やっと落ち着いたか」と言わんばかりの笑みを浮かべ、くるっと敵に向き直った
目を閉じる。もう一度深呼吸。目を開く。状況を見る。カグツチなら、装置まで辿り着けるかもしれない。でも、そうするとドーミラーの相手は? スカタンクの対応は?
元がどくタイプで、尚かつ《かえんほうしゃ》まで使えるスカタンクを、ナタネさんにぶつけさせる訳にはいかない。敗北はしなくとも、苦戦を強いられるだろう。
ドーミラーには、ホムラで対応しよう。それなら、《ねんりき》による大ダメージはある程度和らぐ。
そうなると、スカタンクは必然的にジュンが抑える事になる。フォローはナタネさんに頼もう。装置を壊すのは、さっきの通りカグツチだけで大丈夫。ダメならナエトルも投入。
──大丈夫、出来る!
「ジュン。ナタネさん。いくつか、お願いしたいんですが……」
「いいよ、聞く」
「お前からのお願いは、大体無茶振りだからなあ。んで、何が望みだよ?」
さっき思いついて、頭の中だけで組み立てた事を、小さな声で伝える。2人とも真剣に聞いてくれる事に感謝しつつ、聞こえる程度の早口で──
「《どくガス》」
「はい避けた避けた! 吸ったら死ぬよ!」
「ヒェッ……えと、じゃあ伝えた通りに!」
「「任せろ(て)!」」
「カグツチ、あの装置を壊して! ホムラ、ドーミラーに《かえんぐるま》!」
「スカタンク、《かえんほうしゃ》。ドーミラー、《ラスターカノン》」
「ペンタローは《バブルこうせん》、ムクタローは《でんこうせっか》だ!」
「ロズレイド、
……ん? ズバット? そんなのどこに……あっ居た! お前角っこに居たのかよ!
「チ、流石はジムリーダー様ね。一瞬で見抜かれるとは思わなかったわ」
「そう思うなら降伏してもらえないかしら。私もね、後処理なんてしたくないの」
「あら残念、後処理するのはただのトレーナーになってからでもよろしいのではなくて?」
「嫌。私はただやりたくてジムリーダーやってんの。悪い?」
「ふふ、私だってやりたくて研究しているわ。悪いかしら?」
「おいコウキ、この人たち会話がこえーんだけど!」
ごめん、爆発音とか衝撃で音がほとんど聞こえないんだ。ジュンの声がせいぜい聞こえるぐらい。
ホムラは苦戦している様子は無い。むしろアレ弄んでない? 余裕かよ。
ナタネさんは、ロズレイドでスカタンクを翻弄している。……普通にぶつけても良かったのでは?
ジュンはもうやる事無いようなので、救出の手伝いをしてもらう事にしよう。
ズバット? さっきの一撃で倒れましたよ、ええ……ついでに天井に大穴開けて……。
「ジュン、こっち手伝って!」
「お、おう! ペンタロー、《はたく》攻撃!」
「カグツチは《マッハパンチ》、ナエトルは《かみつく》! ホムラは《おんがえし》!」
「ロズレイド、《マジカルリーフ》!」
「くっ……でも、さっきの《リーフストーム》が効いてるか。──まだ、こちらを倒すには至らない」
「随分と、しぶといのね」
「お生憎さま、しぶとさだけで生き残ってきたの。時間稼ぎも出来た事だし、私は退散させてもらうわ」
「何を……、待て!」
さっき《リーフストーム》がぶっ壊した壁から、ヘリコプターの音と共にハシゴが降りてきた。ジュピターはそれに掴まると、ポケモンを全て戻し、余裕の表情で飛び去っていった。
「くそっ、逃げられた……」
「いや、ピクちゃんを持ってかれなかった分マシだよ。さ、急いで助けよう」
「……だな。あいつらについては、また今度だ」
「いや、出来ればまたも何もあってほしくないんだけど……」
がちゃん、という音と共にロックが外れ、晴れて自由の身となったピクちゃんは、お腹周りをさすった後、僕らに飛びついてきた。
「ピッピー!」
「おわっと、ごめんごめん。よし、帰ろう!」
「あー疲れた、早く帰ってシャワー浴びよ……汗だくになっちゃった」
「うぇ、そう言えば俺達も……」
「もうすぐ夕方だし、今日はハクタイに泊まろっかぁ」
「まあ、夜に出歩くのもアレだしね。……と、あれ? そこに居るのは……」
奥の方で音を立てて転がった人物に、思わず「ひっ」と声を漏らす。しかし目を凝らしてみると、人……に見える。
捕まっていたのであろうその人は、口をテープで塞がれ、体を縄で縛られていた。ナタネさんがテープを剥がし、その顔を見ると──
「じんりきさんじゃない! どうしてここに?」
「た、助かった……いやなに、ワシの孫がミミロルを奪われたってんでな」
「単身取り返しに来た、と。どっかの誰かさん達といい、無謀ったらありゃしないじゃない。どうして私に連絡くれなかったのよ」
「い、いやぁワシもカッとなっとったもんでな。それについては、本当にすまんかった」
「……なら良いです。腰に気をつけてね」
「ああ、勿論じゃよ。そこのおふたりさんも、ありがとうよ」
「いえ、僕らはほとんど何も……」
僕らの話は一切聞かず、ほっほっほっと笑って階段を降り始めたじんりきさん。うーん逞しい。……よく見たら足すっっっっっごい筋肉ついてるじゃん! 何したらあんなにつくんだろ……。
「おお、そうそう。キミ達、後でわしの店に来なさい。良いモノをあげよう」
「い……」
「良いモノ? なんだろ」
「さあね。ただ、私からはその
「へ? ああ、ありがとうございます…………ん、え゙ぇっ!?」
「そんなに驚かなくても……。大丈夫、人懐っこいから」
「いや、そういう問題ではなく……。え、良いんですか? 僕が貰っちゃって」
「良いの良いの、キミの事気に入ったみたいだし。それじゃ、バッジ集め頑張ってね」
ヒラヒラと手を振り、階段を軽やかな足取りで降りていくその背中を、2人してぽけーっと見つめるだけしか出来なかった。