「え、ちょ、アイリ?」
「ジムバトルってお前、マジか?」
「マジもマジ、大マジ! 私も2人と旅したいの!」
「僕としては、挑戦なら受けるけど……」
「ほらーヒョウタさんもこう言ってるよー?」
「……どーする?」
「うーん……と、とりあえず手持ち見ようか」
岩陰に隠れ、アイリのモンスターボールを確認する。持っていたポケモンは2体。ピクちゃんと、ホルスだけだった。
「……技は?」
「ちょっと待ってな……えーと、ピクちゃんが『うたう』『めざましビンタ』『つきのひかり』『ムーンフォース』。ホルスが『たいあたり』『つばさでうつ』『でんこうせっか』『そらをとぶ』……だな」
「うーん、となると……」
「ううん、大丈夫。私だって、トレーナースクール卒業生だよ? 2人の助言が無くたって出来るもんっ」
見てて、と言って笑いかけた彼女の顔は、薄暗い洞窟の中でも分かるくらい自信に満ち溢れていた。
***
「お待たせしました〜」
「お、話は終わったみたいだね。それじゃあ始めようか! ……って言いたかったんだけど……『洞窟が崩れちまう!』って猛反対を喰らっちゃって」
「えっ……」
「ま、まあまあそんな顔しないで……。だから、キミたちがクロガネに戻る時に挑戦を受けるよ。サイクリングロードを通れば早いしね」
そんなに残念そうな顔してたかな、私……。でも、確かに2人とまた離れるのは嫌だ。ずっと、一緒に居たい。
でも、何もしなかったら2人ともどんどん離れてっちゃう。物理的にも、精神的にも。
「だから私から行かないと……」
「……おーい、聞いてるかい?」
「わひゃっ!? へっ、あっ、はい!」
「うん、ならよかった。僕は一足先にジムに向かってるよ」
ぽん、と頭を撫でて、そのまま洞窟の出口へ歩いていくヒョウタさんを呆然と見送り、このままじゃいけないと頬を叩いた。
「……よしっ!」
「何が「よしっ!」なのかは置いとくとして、だ。流石に今の状態から勝つのは難しいんじゃないか?」
「むぅ……。それはそうだけど……でもあんまり待たせるのも……」
「そのために僕らが居るんだよ。ジム突破の手伝いくらいは出来るだろうし」
「うん、ありがと。お手柔らかにね?」
「それはどうかなー、場合によっては……って感じだけど」
昔のコウキはザ・全肯定みたいな人だったのに、変わっちゃったなぁ……と思いつつ。
「まぁそれは置いといて……。そろそろ自転車が用意出来てるんじゃないかな」
「おっ、もうそんな時間か。じゃあサイクリングロードで練習がてら、色んな人と勝負してみようぜ」
「ジュン、僕らよりアイリ優先だよ? ジム挑戦前に少しでも勘を取り戻させないと」
「わーってるよ、ほら行くぞ!」
***
じんりきさんの所には、ピッカピカに磨かれた真新しい自転車が3台、大事そうに置かれていた。
「これが……」
「すっげー、ピッカピカだぁ! おっちゃん、ほんとに俺達が乗ってって良いのか?」
「良いとも、全国に乗っていく事が宣伝になるんだからね! そっちのお嬢ちゃんのは色が違うんだぞ」
「わぁ……ありがとうございます!」
何度も振り返ってお礼を言いながら、サイクリングロードまで自転車を押して行った。……え、乗れるのかって? 大丈夫、全員乗れるよ。
***
「ピクちゃん、ムーンフォース!」
「ぴぃー!」
「うおっ……と。いやぁ強いな! 俺の完敗だ」
「いえ、こちらこそ対戦ありがとうございました」
「──ねえアイリ、次はホルスだけで戦ってみたら?」
「……? なんでぇ?」
「え、いやそれは……」
正直、ピクちゃんの戦いは見事なものだった。長い時間を掛け、互いに信頼しているからこその強さだろう。
だが、ホルスは加入したばかりだ。しかも、僕が使っていた時期も短い為、戦闘慣れもしていない。ということで──
「あー、よーするに扱い慣れておいてってこと?」
「ああうん、そゆこと。もちろん僕らも特訓には付き合うけど……」
「戦い方はポケモンにもそれぞれだからなー。同じムクホークでも、地上戦が得意な奴も居るし」
「あー、そう言えば居たね……父さんのムクホーク……」
右翼を折られて飛べないから、と地を走り、無事な左翼で相手を叩き落とし、鍛えられた脚で蹴り飛ばす様子を2人で浮かべ、ぶるりと身震いする。
「……お父さん、今カロスに居るんだっけ」
「うん。『メガシンカを研究してくる!』って、プラターヌ博士の所に行っちゃった」
「凄いねぇ……また珍しいポケモンとか送ってくるのかなぁ」
「前回はホムラだったね。……ガーディって、そんなに珍しいかな?」
「いや、どうだったか……。まぁ、次行こうぜ次」
サイクリングロードを下る途中のトレーナーに片っ端から声を掛けて勝負すること、早1時間。元々トレーナーズスクールでも上位の実力だっただけに、ホルスの扱いに慣れるのにはそう時間も掛からなかった。それどころか、爪を立てずにアイリの腕に留まるぐらいである。
「お、おぉ……完全に懐いてる」
「元々人懐っこい奴だったんだろーぜ、な!」
「ムックゥ!」
「いっで!? こ、こいつ〜……」
……何故かジュンには懐かなかったけど。
***
結局、最終的にサイクリングロードのトレーナー全員を倒してしまったアイリと共に、クロガネジムまで帰ってきた。ポケモンセンターで回復もバッチリしたので、準備万端といった顔である。
と、僕らが戦った時に審判をつとめてくれたおじさんが出迎えてくれた。普段は受付や、炭鉱で作業をしているらしい。
「おっ、暫くぶりだなチャレンジャー! フォレストバッジも手に入ったようで何よりだぜ! と、その子は?」
「ああ、今日のチャレンジャーの……」
「カツラギ・アイリです! ヒョウタさんご本人にお話してると思うんですけど……ヒョウタさーん! 来ましたよー!」
「そんなに叫ばなくても聞こえるってーの」
ちょっと待ってな、と目配せして無線機を手に取り、ヒョウタさんに通達している。ポケモンリーグの規定により、挑戦者の力量に合わせて使うポケモンの強さや数が違うので、そこを合わせているのだろう。
「……よし!待たせたな嬢ちゃん、ジムリーダーはこの奥だぜ! あ、そうそう。2階から見るのは良いが、手助けは禁止だぞ」
「はいっ。……それじゃ、行ってくるね」
「おう、俺らは2階で見てるわ」
「頑張ってね!」
弾けるような笑顔と共に、彼女はスタジアムに入っていった。
***
「ピクちゃん、『うたう』!」
「イワーク、地面に潜るんだ!」
バトルを初めてから十数分。何となく分かってはいたが、対岩タイプに主力となる技が『目覚ましビンタ』であり、ピクちゃんも別段素早い訳ではない為、苦戦を強いられていた。遠距離から放てる『ムーンフォース』も、地面に潜られては当たらない。……ハッキリ言って分が悪い。
「うーん……コウキ、どう思う?」
「勝てなくはない……だろうけど難しいかなぁ。この後控えてるのがズガイドスだとしたら、尚更消耗は避けた方が良さそうだけど……」
「現状ピクちゃんで有効な手は無いんだよなぁ……コウキも喰らったろ?あの威力」
「喰らった喰らった。今もっかい戦うのは嫌だなぁアレ」
カグツチが新技──あの後『マッハパンチ』だと判明したアレを放たなければ、恐らく負けていただろう。そう考えると未熟さを思い知るが、今の問題は僕じゃない。
「くっ……『ムーンフォース』!」
「『いわおとし』!」
「ああっ、塞がれた! そんな使い方アリかよ!?」
「全然思い付かなかった……凄いね」
「感心してる場合じゃねえよ! そろそろ『ムーンフォース』のPPが……」
「『目覚ましビンタ』!」
「「……へ?」」
今何をした? 『ムーンフォース』を出して……その陰に隠れて近付いて……
「囮にした……? あんまり当たらない『ムーンフォース』を連発してたのはこれを狙って……?」
「ぷっ……はははっ、なぁんだそりゃ! おいコウキ、あの戦い方お前に似たんじゃないか?」
「え、僕に?」
まさか、とは思ったが……思い当たる節があるので否定出来ない。あの状況で、咄嗟に同じ事をするかと言われたらするかもしれない。
「とにかくっ! 怯んだぞ、やっちまえーっ!」
「『うたう』! そして……『目覚ましビンタ』!」
うとうとした所を思いっきり打ちのめされ、盛大な土煙と共に壁に激突するイワークに対し、「むん!」という効果音の付きそうな顔で仁王立ちするピクちゃんが見えた。
「イワーク、戦闘不能!」
「いよっし、まずは1体!」
「でも次は……」
「待てコウキ、ヒョウタさんが今まで使ったポケモンって覚えてるか?」
「……え?そりゃあ、イワークだろ? イシツブテだろ? あとズガイドスじゃ……」
「ノンノンノン、もっと前に見てるだろ俺たちは!」
「あ……? ……あっ!」
居た。ポケモンリーグでの戦いで、確かに
「行けっ、タテトプス!」
タテトプス。アイアンヘッドでピクちゃんに、いわタイプでホルスに対して有利で、かつ防御の高いポケモン。
「……ヤバいな」
「うん……満身創痍のピクちゃんに、防御が低くて抜群が取れないホルスじゃあ……」
「さぁ、どうする?」
「くぅ……っ」
アイリ自身もそれはよく分かっているのだろう、顔に焦りが見えている。果たして、どう勝つ……?
初めて小説書いてからだいぶ経つんですが、未だにこの短さで1話区切って良いのか分からないんですよね。空いた時間に見るにはちょうど良いのかもしれない……?