たき火が揺れる。ぱちんと音が鳴る。
なでしこが、しきりに足を気にしている。折れた足の、添え木した上の方に指を立て、何度も掻いている。
ズボンに隠れて見えないが、足は若干腫れて膨らんでいる。膿んでいるらしかった。
「……これ、ちゃんと治るよね?」
なでしこが不安に眉を下げて、それでも笑顔で聞いてくる。
なんでそんなことを聞いてくるんだ。少し考えてみればいいのに。
私は火を見ていたい。少しも動きたくない。
「……分かんないよ。応急処置だってしっかりとできていないし、消毒もできてない。傷から菌が入っていても、どうにもできない」
分かんないよ。私は医者じゃないんだから。
そう言うと、なでしこは小さく謝って、それきり黙ってしまう。
なでしこが心配そうに足を掻く。
かりかり、かりかり、肌が擦れる音が煩わしい。聞いているとこちらまで痒みを覚える。
思えば、ずっとお風呂に入れていない。膝の上に重ねた手のひらを擦ると、焦げ茶色の垢が爪の間に挟まる。
体中がべたべたする。何日も着替えてなくて蒸れる。気持ち悪い。かゆい、痒い。
こんな状態で風呂に入れたら、さぞや天国に違いない。冗談でもなく、生き返るような心地よさだろう。
……なんて。
考えるだけ、無駄な事だけど。
たき火が揺れる。ぱちんと音が鳴る。
夜が来る。
助けは、まだ来ない。
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朝になる。
味気ないスープは、もうたくさんだ。
最後の晩餐すら、選ぶことはできないらしい。
たき火が揺れる。ぱちんと音が鳴る。
顔が熱い。火に炙られた顔が乾燥し、ささくれ立っている。
痛い。痛い。生皮を剥がされるようだ。
けれど、凍えるよりずっとマシだ。
どれだけ近づいても、手足の凍えは止まらない。
指先からぱきぱきと、凍り付いて固まっていく。
熱くて痛いのに、寒い。
ここから動きたくない。
お腹が空く。身体を起こすと、空腹まで目を覚ます。
味の薄いスープじゃ、もう誤魔化されない。
なでしこがケータイで、私の写真を撮った。
私はなでしこを酷く責めた。それ以来、なでしこはケータイを開かない。
苛々する。へらへら笑って。
早く現実を見るべきなのに。
身じろぎひとつしたくない。何も感じたくない。火を見ていたい。
たき火が揺れる。ぱちんと音が鳴る。
夜が来る。
助けは、まだ来ない。
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朝が来た。
たき火が揺れる。
なでしこが笑う。
私は無視する。
たき火が揺れる。
夜が来る。
ぱちんと音が鳴る。
助けは、もう来ない。
たき火が揺れる。
私は、ここで死ぬに違いない。