“穢れ”し少年の吸血記 〜聖騎士の息子は、真祖の少女に救われた〜   作:ダート

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魔女は見定め、聖なる騎士は永訣を拒む

 

 時は少し遡る。

 

 アトラがルミィナよりこの国や自身について説明を受けたのち退室した部屋には、当然ながらルカとルミィナの二人が残っていた。

 ルカとルミィナは対面に座り、声も低く何事か話し込んでいる。

 

「本当にやらないといけないの?」

「ええ」

「なんで? アトラは強いでしょ? じゃあいらないよ」

 

 懇願の声。それを受けてなお、魔女は決して頷くことをしない。

 

「いいえ、これは必須よ。坊やがどれだけ強力かは確認しない訳にいかないわ。

 それにね、ルカちゃん。さっきから強い強いと繰り返しているけれど————」

 

 鋭さを伴った言葉。その違和感に、ルカはようやく悪い流れを予感する。

 先程とは別の光を湛えた瞳と目が合って、少女はやはりと直感した。保護者としてではなく、その瞳は冷徹な魔女のものだったのだ。

 

 後悔の足音が、確かに聞こえた。

 

「ねえ、ルカちゃん。坊やには、一体どれほどの血を分け与えたの?」

「ぇ……う……ん~…………」

 

 視線が露骨に泳ぐ。

 ルカが必死に言葉を探す間にも、ルミィナの視線は揺らぐことなく少女を見据えていた。その瞳は逃すつもりはないと、これ以上なく明確に告げている。

 

 やがてルカは観念したように項垂れ、ついにその秘密を白状するのだった。

 

「うぅ、ごまかせない……。5分の1……くらい」

「なッ⁉︎ 5分の1ですって⁈ ルカちゃん、あなた——!」

 

 ルミィナの目が見開かれる。

 

 ルミィナが予想するアトラに与えられた真祖の血は、せいぜい手元のカップ半杯程度。多くともその倍に届くかどうかだったのだ。それですら人間相手に過剰と言えるほどだった。

 

 しかし、ルカの申告はそれを遥かに超えていた。

 それほどの血を与えられた眷属など過去に存在しなかったであろうし、何よりそんな侵食を受け止められる人間がいるとも思えなかった。

 

「そんな量——普通は肉体を崩壊させているわ」

「うぅ……で、でも! あの時はそれくらいじゃないと助けられないと思ったの!」

 

 真祖の血を与えることによる眷属化とは、一種の究極的な"存在の侵略"である。

 どのような個性を持ち、どのような経験を積んでいようとも、必ず主人に従う人形へと変質させる。それが眷属化だ。

 

 何色に彩られたキャンバスであろうと、真祖の血は紅一色に染め上げる。しかし、その染料はあまりにも劇物であり、過剰な投与はキャンバスそのものを崩壊させてしまう。

 種そのものを捻じ曲げられる暴挙に伴う、それは極めて当然の結末と言えた。

 

「けれど、坊やは成功したのね」

「…………うん」

 

 しかし、それをあの少年は耐え、受け止め切ったという。

 なんて異常。なんて相性。なんてとてつもない適正であろう。

 

 恐らく人類という単位でも数人という、極めて吸血鬼化の才能を持った人間に対して、偶然にもたった1人の真祖が出逢い、偶然にも眷属化の機会を得る。

 

「————まさに運命そのものじゃない」

 

 あまりの奇跡を前に、魔女は自身の嫌う言葉を呟かずにはいられなかった。

 

「必死だったから、その……ごめんなさい」

 

 ルミィナの劇的な反応。その、常の余裕な態度から逸した様子に、少女は小さく縮こまるしかなかった。

 やり過ぎているのは、彼女自身理解していた。

 アトラという友人を救うために、気が動転してやり過ぎた。

 

 しかし、ルカという少女が見た友人の有様からすれば、それも無理からぬことであった。

 心肺は停止し、既に死体へと安定しようとしているアトラは、次の瞬間にはルカの血を以てしてもどうにもならない状態になり得た。そこを冷静に分量を調整するような超越者然とした精神性など、少女は持っていない。

 

 やってしまってから、すぐに過ちに気づいた彼女は、崩壊する彼の姿を見たくないがためにその場から逃げた。

 逃げた先で『聖印』の気配を感じて身を潜め、すぐにその場を離れるつもりだったのだ。

 

 だからこそ、アトラの適合は彼女にとっても奇跡そのものであり、飛び上がらずにはいられない、ようやく手にした宝ものと言えた。

 

「————いいえ、私こそごめんなさいね。少し……驚いてしまったわ」

 

 ルミィナの言葉に、少女はホッと胸を撫で下ろす。

 だからこそ、それは不意打ちだった。

 

「けどね、ルカちゃん——」

「——ふぇっ!?」

 

 ぺちんっと、ルカの額がしなやかな指にはじかれていた。

 

 その優しい躾をした当人は眉をしかめ、怒っていることを態度に示す。ここにアトラがいれば、娘をしかる母親のようだと思っただろう。

 

「それはやり過ぎよ。吸血鬼はその時々の血液量で力が変わる。真祖であるルカちゃん自身の血は、人間という他者の血で補えないんだから、そんな量を一度に使ってはいけないの」

 

 それは、出会ってから幾度となく言い聞かせてきた言葉だった。

 

「その量だと、ルカちゃんは間違いなく弱体化しているわ。回復しきるまで少なくとも数十年はかかるはずよ。

 ……もう少し考えて、自分を大切にしてちょうだい。いざという時、そこに私がいない場合だってあるの」

「うん……ごめんね、ルミィナ」

 

 それは間違いなく、ルカを案じるものだった。

 その慈しみに、今更ながら少女の心を冷たい罪悪感が苛む。

 

「……はあ」

 

 俯いた少女の頭が、優しく撫でられる。

 「これでおしまい」と、その柔らかな手つきが告げていた。

 ルカも顔を上げ、二人は互いに笑顔を向け合う。

 

「私からはそれだけ。

 ——それにしても、坊やにも驚いたわね。それだけの血を与えられて崩壊しないどころか、自我まで保っているなんて。ルカちゃんの話では人格に変化があるみたいだけれど、後遺症としては信じられないくらい軽いものよ?

 余程相性が良かった……としか言いようがないわね」

「うん、アトラね、私の血をすんなり受け入れてくれたの。あれは……うれしかったなぁ」

「2回目は随分ロマンチックな方法だったみたいだし、坊やに言ったら面白い反応が見れるんじゃないかしら……フフフ」

「あ! だ、ダメだよ! 言っちゃダメだからね、ルミィナ!」

「あらぁ、言っちゃダメって、一体何のこと? 具体的に特定してくれないと分からないわ、私。フフフフフ」

「うぅ~~ルミィナのいじわる!」

 

 二人はしばらく笑いを交わし合う楽しい時間を過ごす。二人の時は、ルミィナがルカをからかうのが常だった。

 

「はあ、それにしても厄介ね」

「ん? どうしたの?」

「あの村よ。放っていた使い魔が消滅した。

 全く面倒。何であんな村に()()()()()()()()()()

 

 その言葉に、ルカの動きが止まる。

 その表情は、微かな怯えを浮かべていた。

 

「坊やの記憶がどうなるかは分からない。けれど、例えどうなろうと、今後あの村には近づける訳にはいかないわね。間違いなく警戒されたわ」

「……………………ルミィナ」

「悪いけど我慢してちょうだい。状況は不鮮明なの。万が一ということもあるわ。

 坊やには、戦う手段が必要よ。そのためにも、私は坊やを理解する必要があるし、坊やも自身の限界は知るべきでしょう。

 ————分かってくれるでしょう? ルカちゃん」

 

 その言葉に対して、ルカは10秒以上の沈黙を要した。

 そうしてその苦味をようやく飲み下し————

 

「分かった。アトラがこれから大丈夫か、ルミィナが確認して」

「ありがとう」

「何があっても、————お願い」

「……ええ。約束するわ」

「うん……」

 

 そんな、簡単なやり取りが、2人には極めて重要な意味を持っていた。

 魔女は立ち上がり、向かうべき場所へと向かう。

 

 魔女は試すだろう。少女の力となる者かを。

 

 魔女は試すだろう。少女の盾となる者かを。

 

 魔女は試すだろう。自身の寿命の尽きたその後に————少女の支えとなる者かを。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 空が茜色に染まる中を、セトナ村へと向かう一団があった。

 一団は広い原野に作られた舗装されていない道を、馬を休ませることなく走らせる。

 統一感のある装備は、その一団が同じ組織に属している兵士であることを示す。そんな一団で、先頭を行く男の装備だけは他とは一線を画していた。

 

 夕陽に染まる純白の全身鎧に、青の地に銀の刺繍の入ったマントをはためかせているその男は、『教国』の切り札と言われる聖騎士、ナクラム・ヴィント・アーカーだった。

 アトラ・アーカーの父である。

 

「頼む、無事でいてくれ……!」

 

 街を出てから何度目とも知れない神への祈りを、頭の中でつぶやく。それでも、口から漏れる悲痛な願望は止められなかった。

 

 ナクラムが家族の待つセトナ村の襲撃を知ったのは、彼が息子の成人の日に向けて聖堂の神官と打ち合わせをしている最中のことだった。

 セトナ村の付近にある教会からの報せで、ナクラムの妻と娘を含めた一団が、その教会のある町へと避難して来たことを知ったナクラムは、同時に息子がその一団に含まれないことも報された。

 

 そのまま即座に鎧を纏い、止める声も振り切って飛び出したのだ。

 セトナ村までの一分一秒が惜しい。もどかしい。

 

 短い距離であれば馬より遥かに速く駆けることのできるナクラムには、例え結果的には速くなると知っていても、軍馬の疾走すらも遅々として見え、ただいたずらに馬上で焦燥に嬲られる時間を過ごしていた。

 

「ナクラム様! セトナ村が見えてきました!」

 

 兵士の言葉に、ナクラムは姿勢と共に低くしていた視線を上げる。

 道の先には、今も息子が助けを待っているに違いないセトナ村が小さく見えていた。

 

「————ッ!」

 

 村を視界に入れた途端、ナクラムは今なお走り続ける馬から飛び降りた。

 

 突然の出来事に兵士たちが息をのむ中、ナクラムの足が地面に触れる——

 

「なあッ?!」

 

 ——次の瞬間、砲弾じみた速度でナクラムの体は射出された。

 

 踏み込んだ大地は抉れ、兵士たちにはナクラムの白い残像を捉えるのがやっとだった。

 自分たちも馬を走らせているというのに、聖騎士の背中はみるみる遠く、小さくなってゆく。

 

 その姿は遠目に芒と光を放って見える。

 聖騎士を聖騎士たらしめている、人に刻む聖印とも言うべき『聖痕』。その恩恵による、強力な肉体の強化が働いているが故のことだった。

 

「いけません! どうか単独行動は——」

 

 必死の制止も、ナクラムには届かない。

 兵士たちは即座にナクラムの馬を回収し、大地に刻まれた足跡を避けながら、遥か小さなその背を追った。

 

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

 

「アトラぁあああああああ!!!!」

 

 村を囲う木杭の柵に、純白の砲弾が着弾した。本来であれば正面へと続く道。それを、蛇行を嫌って無視したが故のことである。

 

 周囲に木片の雨が降る中、ナクラムは自身の息子の名を叫ぶ。その声は森に、山に木霊し、村中に響き渡った。

 

 返事はない。

 

「アトラぁあ! 父さんが来たぞ! もう大丈夫だからな! 返事をしてくれ!」

 

 ナクラムは叫ぶ。叫ぶ間もナクラムの感覚は周囲へと向けられ、手に握られた白き聖槍の穂先は油断なく辺りを睥睨している。

 叫ぶことで、敵を誘き寄せたくもあった。

 

 ……返事はない。

 

 その頃になってようやく、ナクラムの耳に馬の蹄の音が聞こえてくる。聖堂の兵士たちが、ナクラムに追いついたものだ。

 疲れ知らずで知られる教国の軍馬が疲弊し切っていることから、馬にかなり無理をさせて急いだことは明らかだった。

 

「ナクラム様! お気持ちはお察しします。ですが、安易な単独行動はおやめください!」

 

 その場でナクラムの次に位の高い聖堂騎士が、その場の兵士たちを代表して苦言を呈した。

 

 未だ襲撃者が残っているかもしれない中、単独での行動は厳禁。いかにナクラムという男が聖騎士であろうとも、危険であることに変わりはないのだから。

 さらに敵が数を備えているなら、生捕にするにも人手が必要である。

 聖騎士の家族の所在を知って襲った可能性を排除できない以上、背後関係を洗うためにも捕らえられる敵はいくらでも捕らえたいのが教会の判断でもあったのだ。

 

 騎士の言葉にナクラムは振り向くと——

 

「村の中心、村長宅と私の家を確認する。村の外周部は任せる。逃すな」

 

 その言葉を残し、やはり単独で村の中心部へと走って向かった。

 

「なっ、ナクラム様!? ……くっ!」

「どうされますか?」

「……聖騎士による命令だ。従う他あるまい……。二人一組で行動し、逃げ遅れた者がいないか捜索する! 不審な者あれば捕らえよ!」

「「「は!」」」

 

 騎士の号令で9組に分かれた兵士たちは、行動に移った。

 

 一方、村の中心へと向かったナクラムは、奇妙な感覚を覚えていた。

 

「……これは、なんだ?」

 

 ナクラムの視界には、いくつもの衣服が地面に置かれていた。そのどれもが、つい今しがたまで誰かが着ていたような配置で置かれている。

 

 散乱している剣や槍もそうだった。

 刃の状態や周囲の状況から、これはここで使われたものだと推測できる。

 にもかかわらず、刃に血液などは付着していない。

 犠牲となった者の死体すら、この村に来てから見つけていない状況だった。

 

 言い知れぬ違和感が、胸にこびりついて取れない。

 

 周囲の状況は、人がいた痕跡をそのままにしている。

 だが、人だけがいない、無人の村。

 

 ナクラムの眼に写るセトナ村は、落陽により山の陰となっているのも合わさって、どこか見知らぬ異界の村に見えた。

 時間が止まってしまった様な錯覚。今、世界に自分しかいないんじゃないかという不安が、ジリジリとこみ上げてくる。そんな不気味さ。

 

 ここは、何かが異様だった。

 

「——っ、あれは!」

 

 村の状況に思考を加速させるナクラムの視界に、白銀色の槍が写った。

 

 すぐに駆け寄り、それを手に取る。

 すると、白銀色の槍は、本来の持ち主に握られたことを喜ぶ様に、穂先の光を強く瞬かせた。

 

「聖印が……発動している⁈」

 

 ナクラムの目が見開かれる。

 聖印を発動できるのは、原則的には聖痕を身体に宿した者だけだ。

 だが、これには大きな例外があった。

 それは、『穢れ』への接触。直ちに浮かぶのは、当然魔物だった。

 

 つまり——

 

「いたのか、ここに……」

 

 聖印が無条件に自律発現するのは、すべての魔物に対してではない。ある程度強力な個体でなければ、こうはならないのだ。そして、そんな個体がこの場にいた場合、見込まれる被害は壊滅的なものだ。

 逃走できた者がいたことが、むしろ奇跡的だったと言え————

 

「ぐぅ……ク! アトラ……、アトラあぁあああああ‼︎‼︎‼︎‼︎」

 

 ————同時にそれは、逃げ遅れた者の生存が絶望的であることを意味していた。

 

 慟哭が、辺りに虚しく木霊する。それはもはや悲鳴とも言えた。

 

「アトラぁ! どこだぁ……アトラっ! もう隠れなくていい、俺が来たんだ! アトラ……‼︎」

 

 ナクラムの頰を涙が伝い、地面にシミを作る。無意識だった。

 震える肩は鎧を虚しく鳴らす。

 

 気配がない。よく知る、愛おしい気配がない。どこにもない。

 

 それでもそんな自身すら信じられず、目に入る家屋を片っ端から調べた。

 見つかるのは略奪の痕跡ばかり。それが一層ナクラムを急き立て、さまざまな想像で苦しめるのだった。

 

 息子を救う。

 そのためなら、そんな存在であろうと打倒してみせる。

 どれだけの数であろうと掻き分け、必ずや救い出してみせる。

 

 そんな決意を胸に宿していたはずだった。

 

 だが、敵がいない。打倒すべき敵も、救い出すべき息子も、何も見つからない。

 ただただ「お前は間に合わなかった」という、そんな現実しかここにはなかった。

 

 アトラは逃げられたのか。だからここにいないのか。

 そう思おうと願うたびに、我が子は逃げなかっただろうという、父としての直感がそれを切り捨てる。

 

 逃げていてほしい。臆病でもいい、ただ、ただ生きていてほしい。

 立派でなくてもいいから、例え逃げて後ろ指をさされようと、必ず護ってみせるから!

 だからどうか、どうか生きていてくれ……‼︎

 

 そう願った。祈った。

 

「————ッ!?」

 

 瞬間、こみ上げてくる感情に震えるナクラムの背中を、冷たい悪寒が這い上がる。

 

(視線——気配——人外!)

 

 判断は一瞬。

 白銀の聖槍を即座に握り直し————

 

「————シィィィッ、ジャアッ!!!!」

 

 ——振り向きざま、槍はその視線をなぞる様に放たれた。

 

 白銀の槍が聖印の光の軌跡を描きながら、唸りを上げて直進する。

 その一条の光は、狙い違わず山の大木の陰に着弾し、けたたましい炸裂音を立てて山肌を抉った。

 

「————————」

 

 土煙りが立ち込める山肌を、ナクラムは油断なく睨む。

 ナクラムには、確かな手応えが聖印を通して伝わった。何もいないことはあり得ない。

 

 しばらくすると、舞い上がった土煙りが晴れると同時に、いくつもの足音が聞こえてくる。

 音を聞きつけた兵士たちのものだ。

 

「援護! 陣形——『聖障』!」

「「「はっ!」」」

 

 聖堂騎士の無駄を省いた指示に、兵士たちの反応は迅速だった。即座に抜剣した兵士がナクラムの前に壁を作り、背後の兵士は魔法を待機させる。

 そして、今にも簡易の聖域を作ろうとした矢先、聖騎士からの待てがかかる。

 

「いや、その必要はない。確かに手応えはあったんだが……逃げられたのか消えたのか」

 

 ナクラムが構えを解く。視線の先では土煙りが完全に晴れ、緑の山肌に出来た土色の傷跡を晒している。

 そこから想像出来る威力に、兵士の何人かは息をのむ。

 強いとは聞いていた。我が国の切り札とも。

 だが、実際に目にしたのはこれが初めてのことだったのだ。

 

「これが……聖騎士の戦闘……」

「何て力だ……」

 

 彼らは心が口から漏れていることにも気付かない。

 そしてそれを責める者もこの場にはいなかった。

 

「ナクラム様、何が居たのですか」

 

 いち早く驚愕から立ち直った聖堂騎士が、ナクラムに状況の説明を求める。

 それに対して、ナクラムは首を振る他ない。

 

「分からない。敵の姿を視認出来なかった。だが手応えはあった。何かはいたはずだ」

「確認しますか?」

「ああ、その前に数人帰投させてくれ。聖堂には調査隊の出動を要請したい。今の装備では調査にも限界がある」

「分かりました」

 

 会話が終わり、聖堂騎士は部下に帰投準備を指示する。

 残った兵士を率いながら、ナクラムは生存の絶望的な息子へと思いを馳せていた。

 

「アトラ……」

 

 アトラを探し求める聖騎士が、ここにいた。

 

 決してアトラを諦めない聖騎士が、ここにいた。

 

 そしてアトラとナクラム。この親子は必ずや再会する。

 

 そのとき、"穢れ"と聖騎士として対面した親子は、どの様な道を選択するのか。

 

 それはまだ先の話である。

 

「……………………」

 

 すっかり夜の暗闇に沈んだ村を、ナクラムは一瞬眺めた。その瞳に、決意を宿して…………。

 

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