“穢れ”し少年の吸血記 〜聖騎士の息子は、真祖の少女に救われた〜   作:ダート

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間話 出荷

 深い森の中、闇にポツリと灯りが浮かんでいた。

 灯りは黒い海中を泳ぎ、車輪と馬蹄を鳴らしながら細道を進む。

 

 2頭の馬が引く、そのどこか不穏な空気を漂わせている黒塗りの馬車は、その前後を6騎の護衛に護られていた。前方を4騎、後方を2騎が警戒している。

 

 馬車の積荷は罪人。それも、死刑を言い渡されている失格者だ。

 社会から不存在を命じられた、つまりは不要な命である。

 しかし、どんなものにも需要はあった。不要な生きた人体をこそ必要とする者も、確かに存在するのだ。

 

「キョロキョロするな。お前の警戒範囲はどこだった?」

「っ、すみません!」

「デカい声を出すな」

「あっ……すみ——申し訳ありません」

 

 馬車の進行方向を警護する4騎。その中で最も年若い兵士に対して、右に並走する男の低い声が投げかけられる。

 こうした細道、それも闇に満たされた森を進む場合、ひとりひとりの意識の配分も重要となる。

 人数が限られる中で、同じ方向に何人もが警戒を向けるのは、警戒網に重大な穴を生じさせる危険な行為だ。それ故、教範においても禁忌とされているはずのものだった。

 

「今日は緊張がひどいな。何かあるのか」

「い、今更になりますが、自分は本当にこの()()を【血濡れの魔女】に届けるのですか?」

「我々はすでに森に入っている。その呼び名はやめろ。称号で呼ぶならば【紅の魔女】、そうでなければ『ルミィナ卿』と呼べ」

「申し訳ありません!」

「声を、落とせ」

「あ……」

 

 再度の掣肘に、兵士は口をつぐむ。

 

「…………」

「…………」

 

 無言の時間。ただ森のざわめきと、何によるものかも分からない鳴き声、そして一定を保つ蹄の音だけがあった。視界は変わらない。進んでいる実感も湧かない深い闇を、ただ静かに進んで行く。

 

 そんな数分ともそれ以上とも知れない沈黙を、低い男の声が破った。

 

「【紅の魔女】——ルミィナ卿に我々が直接会うことは無い。我々は『魔女の庭』手前の指定場所までこの屑どもを運ぶのみだ。その先はルミィナ卿が行う。

 後日別の部隊が、"中身"の消えた馬車を回収する。定期的に行なっていることだ。そう硬くなる必要はない」

「そう、ですね。ありがとうございます……」

「なんだ、まだ何かあるのか」

「はい。自分の無知をお許しください。『魔女の庭』というのは、どういう庭なのですか?」

「……………………お前に任務について説明したのはアイツだな。帰ったら鍛錬場に呼び出せ」

「は、はいッ、承知しました」

「いいか、我々の向かう『魔女の庭』とは、ルミィナ卿に対して与えられた治外法権地帯だ。

 『魔女の庭』内の全ての資源は、ルミィナ卿が独占することを許されている。

 決して『魔女の庭』には入るな。入っても何も持ち出すな。木の枝の一本、小石の一欠片であってもだ」

「承知しましたッ」

 

 その緊張を窺わせる声と、一層力の入った肩を見て、右の男は内心でため息を漏らす。

 まるで逆効果だ。これでは話すべきではなかったのかもしれないと。

 

 その後特に会話もなく、馬車は目的地付近に到達した。

 月も届かぬ森の中、馬車は緩やかに停止する。

 

「どうした」

「馬が言うことを聞きません。おそらく始まったかと」

 

 言って、馭者は馬車に取り付けられた灯りを外し、輓馬を照らし出す。

 眼前を照らされているにもかかわらず、馬は光に一切の反応を示さない。どこか虚ろげな様子で、まるで立ったまま寝ているかのようだった。

 

 その様子に、馬上の兵士が声を張った。

 

「誘導が始まった。護送はここまで。帰投準備」

 

 その言葉を合図とするように、停止していた馬車は唐突に発進する。もはや馬車には、その()()を除いて人はいない。

 輓馬は、兵士たちや馭者がまるでいないかのように真横を素通りし、そのまま森の奥へと消えていった。

 馬車の輪郭が闇に溶けた頃、馭者を後ろに乗せた兵士が、再び号令を発する。

 

 男たちは馬車とは逆の道を、来た道を辿るように引き返すのだった。

 

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