ネギま!ー副担任は世界最強ー   作:nothing

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戦闘描写が難しすぎてこんなに時間がかかっちゃいました。文字数も多いし読みにくいと思いますが、それでもいいよという方はお読みいただけると嬉しいです。




PS.なんかUAやお気に入りがついてるんですけど!?


第3話

ミコトの一日は特別な予定がなければ、日課のランニングから始まる。日の出前に家を出て一時間ほど走る。大抵その途中である生徒と顔を合わせる。

 

「おはようございまーす!」

「ああ、おはよう神楽坂。朝から元気だな」

 

 彼女は、神楽坂明日菜(かぐらざかあすな)。橙の髪を鈴のついたリボンでツインテールにまとめている活発そうな少女だ。新聞配達のバイトをしており、その配達コースとミコトのランニングコースが一部重なっているため、ミコトとは顔を合わせることも多い。

 勤務を始める以前からこうして顔を合わせていたので、勤務初日に「お兄さん、先生なの!?」と詰め寄られたりもした。

 

「じゃあ、先生。あたしこっちだから」

「ああ、気を付けてな」

 

 他愛ない雑談をしてから、互いに別方向へ走り出す。毎度の光景である。

 ランニングを終えると、次は武術の鍛練に移る。世界樹広場で、ストレッチをしてから鍛練を始める。

 

「せんせー!」

 

広場へ上る大階段の下から大きな声。周囲に他の教職員は見当たらないため、ミコトを呼んでいるのだろう。

声の方に目をやると、古菲がいた。

 

「古じゃないか。どうした?」

「ワタシも混ぜてほしいアル」

 

どうやら一緒に鍛練をしたいらしい。

 

「それは構わんが、いつもは別のところでやっているんだろ? 今日はどうしたんだ?」

「さっきまではいつも通り鍛練してたアルよ。でも今日はしつこい挑戦者がいて、逃げてきたアル。で、気分転換に散歩してたら先生見つけたネ」

「挑戦者? そんなのがいるのか」

「たくさんいるアルよ。我が中武研の看板を狙う者共が日々ワタシに勝負を挑んでくるアル!」

 

 ちなみに古菲の好みのタイプは『強い男』である。挑戦者の内の何割かは彼女に惚れ込んだ者達なのだが、彼女はそれを知らない。純粋に道場破りだと思っている。

 ミコトは古とも雑談をしながら、朝の時間を過ごしていく。そうする内に日は上り、時刻も7時30分を回っている。そろそろ仕事の準備をしなければならない。

 

「おっと、もうこんな時間か。古、そろそろ帰って学校の準備をしてこい。遅刻は許さんぞ?」

「おお、話し込んでしまったネ。じゃあ、先生再見(ツアイツェン)(さよなら)!」

「ああ、またあとでな」

 

 古菲は慌てて寮に帰っていく。ミコトも家へ帰ってシャワーを浴び、勤務の準備して学校へ向かう。

 

□□□□□□

日中の授業は滞りなく行われ、今は放課後。通常、生徒が教室にいる必要はない時間帯だが、ここにはその義務を課せられた5人がいた。

 

「さて、今日も楽しい補習の時間がやってきたな」

「うう~……。部活にいきたいよう」

「めんどくさいです」

「たはは、また補習になってしまたアル」

「参ったでござるなあ」

「…………」

 

 その5名とは、桃髪の佐々木まき絵(バカピンク)・黒髪無表情な綾瀬夕映(あやせゆえ)(バカブラック)・拳法中華ガール古菲(バカイエロー)・忍者長瀬楓(ながせかえで)(バカブルー)・バカ筆頭神楽坂明日菜(バカレッド)のクラスの低成績トップ5、通称バカレンジャーである。彼女たちはタカミチが定期的に行う小テスト(英語)において著しく低い点数をマークしたため、放課後に補習を受けている。

 ちなみに学力は夕映>>>古菲>まき絵=楓>明日菜の順だ。

 

「内容は高畑先生がやっていたものと同じだ。まず、小テストを返すから名前を呼んだら取りに来てくれ」

 

 補習の内容は、①小テストの返却②要点の復習③課題のプリント(20点満点)を解く、の三行程だ。基本的に復習が目的なので合格・不合格といったものはない。

 

「全員小テストは返ってきたな。じゃあ、復習からやるぞ」

 

 要点の説明が始まり、ミコトの声だけが教室に響く。

 

 □□□□□□□

「また明日アルー!」

「先生バイバーイ!」

 

 30分ほどで補習は終了し、部活のある古菲とまき絵はあわただしく教室を出ていった。残っているのは明日菜や夕映と、いままで彼女たちを待っていた付き添いの生徒達だ。楓はいつの間にかいなくなっていた。

 

「それじゃあ、気を付けて帰れよ」

「先生また明日ね~」

「さ、さようならです……」

「ほな、うちらも帰ろうか?」

「あ~疲れた~」

 

 明日菜はルームメイトの近衛木乃香(このえこのか)と、夕映は仲のよい宮崎のどかと早乙女ハルナと共に帰っていった。

 

(あの内容では学力の向上は見込めないな、現に補習の常連が出ているし。まあ、担当はタカミチだ。教育実習生の俺が口を出すことではない)

 

 補習の内容に文句をつけながらも、それを変えようとはしないミコトだった。

 

□□□□□□

ミコトが仕事を終え、学校を出るとすっかり夜になっていた。クリスマス前らしく、街のいたるところにイルミネーションが輝いている。

 

「もうクリスマスムード一色だな。俺には縁のない話だが」

 

そう一人言ちながら大通りを行く。店の定休日なので急ぐ必要はなく、ミコトには別の目的地がある。

 

「一月ぶりの超包子だ。急がないと席がなくなるな」

 

今日は麻帆良学園の超人気店、超包子の営業日だ。その味を求めて、多くの人が店に集まる。ミコトは足早に超包子へ向かった。

 

「古、まだ空いてるか?」

「おっ、カグラ先生! ちょうど今空いたヨ!」

 

古菲に連れられ皿が片付けられた小さな丸テーブル席につくと、ミコトはカウンター兼キッチンの車両に注文を伝えに向かう。

 

ーこんばんは、神楽先生ー

 

独特な声をした少女、四葉五月(よつばさつき)が車両から顔を出す。彼女を含めて、超包子の従業員はみなミコトのクラス(麻帆良学園本校女子中等部2ーA)の生徒だ。

 

「こんばんは、四葉。注文いいか?」

ーはい、ありがとうございますー

 

注文を伝えて席へ戻り料理を待っていると、向かいのイスに誰かが座る。相席かと顔を上げると、そこには見知った顔があった。

 

「やあ、ミコト」

「タカミチか。今回は遅かったな」

「ああ、少し仕事が多くてね」

「そうか、ご苦労さん」

 

席についたのはタカミチだ。彼はたびたび出張と称して、魔法団体「AAA(悠久の風)」──表向きはNPO団体としている──の仕事に駆り出されている。

今回の出張もその類いで、ミコトに仕事を押し付けて魔法世界へ行っていた。

そんな他愛も中身もない会話をしていると、茶々丸が料理を持ってくる。

 

「どうぞ、神楽先生」

「ああ、ありがとう絡繰」

「茶々丸君、僕にも同じものを頼むよ」

「かしこまりました」

 

茶々丸は頭を下げて戻っていく。その挙動は完全に人間のそれで、着任当初は目を丸くしていたものだ。

ミコトは茶々丸から目を離して料理を口に運ぶ。

 

「うん、美味い。……なんだその目は」

「いや、美味しそうだなと思ってね」

「お前も同じものを注文しただろう。少しくらい待てないのか」

《pipipipipi》

 

ミコトがタカミチに呆れていると、ポケットのケータイから着信音が鳴る。

 

「学園長から? ……はい神楽です」

《神楽君かの? 急ですまんが学園長室に来てくれんか》

「今からですか?」

《うむ、それと高畑君を見かけたら連れて来てほしい。帰国はしとるはずじゃが、連絡が取れなくての》

「タカミチならいま一緒にいるので、連れていきます」

《おお、そうか。それじゃあよろしく頼むわい》

 

通話を終えてタカミチを見る。

 

「タカミチ、ケータイの電源切ってるだろ。学園長が連絡が取れないって言ってるぞ」

「え? ……あ、本当だ」

「はあ……、とりあえず学園長室にいくぞ」

 

ミコトは、まだほとんど手をつけていない料理を名残惜しそうな目で見てから立ち上がる。タカミチもそれに続いて学園長室へと歩き出した。

 

□□□□□□

「学園長、神楽と高畑です」

「おお、二人とも入ってくれ」

「失礼します……、何事ですか?」

 

学園長室の扉をノックをして到着を知らせる。ミコトは、学園長のいらえがあってから入室し、タカミチと並んで立つ。

室内には学園長以外にもいくつか人の姿があった。老若男女、教師も生徒も混じっている。

 

「そんなに身構えんでもよい。ここにおるのが麻帆良学園の魔法関係者じゃ。本当はもう少しおるんじゃがの」

「そうですか。しかし、ただの顔合わせで呼んだわけではないようですね」

「うむ、実は少々厄介なことが起きておっての……」

 

学園長によると、学園を覆う結界付近に不審な術者が現れたらしく、使い魔なども確認されているとのことだ。

ここまでなら当番の魔法先生が対処する案件なのだが、今回は同様の反応が学園の四方でそれぞれ確認された。さすがに手が足りないうえに大規模な襲撃の可能性もあるため、ここにいるメンバーに加えてミコトとタカミチで警備を行い、もし学内に侵入してきた場合は使い魔の撃退及び侵入者の捕縛に当たる。

4組に分かれて行動することに決まり、チーム分けの結果ミコトは、女子生徒二人とチームを組むことになった。

 

「神楽 尊だ。よろしく頼む」

高音(たかね)・D・グッドマンですわ。よろしくお願いします」

「さ、佐倉愛衣(さくらめい)です。よ、よろしくお願いします!」

 

はじめにミコトが名乗り、金髪の少女、赤茶髪の少女と続く。赤茶髪の少女、愛衣は緊張しているようで声が上ずっている。

自己紹介を済ませ、持ち場へ向かう。道中で学園長の指示を待つ間に連携の確認や得意魔法などの情報を共有する。

 

「俺は闇と火属性の魔法が得意だ。それと、『来たれ(アデアット)』」

 

ミコトがジャケットの内ポケットから、一枚のカードを取り出し呪文を唱える。すると、ミコトの装いが一般的なスーツから、夜の闇のような漆黒のスーツと革手袋に変化した。右手には抜き身の刀が握られている。

 

「これが俺の戦闘用の装備とアーティファクトだ。銘は“タマキリノタチ(エンシフェル・インテルフィチェーレ)”。使い魔や召喚獣に対して強力な攻撃ができる」

 

着ているスーツや手袋も、魔法の威力や効果を増強させる優れものだ、とミコトは語る。

 

(わたくし)は影魔法を得意としています。使い魔を使役しつつ近接戦闘もできますわ。この『影の鎧(ローリーカ・ウンブラエ)』を装着することで防御の面も強化しています」

「わ、わたしは、火と風の魔法を使います。魔法の射手(サギタ・マギカ)なら無詠唱でも使えます。えっと、アーティファクトは“オソウジダイスキ(フアウオル・プールガンデイ)”といって、広範囲を武装解除できます」

 

二人の戦力をどう使うべきか検討していく。最終的に、高音をメインアタッカーに据え、愛衣の“オソウジダイスキ(フアウオル・プールガンデイ)”と魔法で補助する形に決まった。ミコトは、戦況を俯瞰しつつ遊撃に回る。

各自で声を出し合い、連携を途切れさせないようにミコトが厳命した。

 

《pipipipipi》

 

とりあえずの作戦が決まったところで、ミコトのケータイが鳴る。

 

「はい。此方、D班です。何かありましたか、学園長?」

《森林地帯の東方面にある結界が抜かれ、襲撃が始まったのじゃ。数は確認できるだけで約20。至急、鎮圧に向かってほしい》

「了解です、では……。結界が抜かれた。方角は東、数は最低で20だ。急ぐぞ」

 

二人の方を振り返り、状況を伝えて走り出す。

向かうは東、森林地帯。

 

□□□□□□

数分ほど走ると目的地の森が見えてくる。

先頭にミコト、その後ろに高音と愛衣が並んで走っている。

 

「そろそろ目的地だ、このまま突入するぞ」

「は、はい!」

「わかりましたわ」

「不意討ちも有り得るから注意していろよ」

 

二人が頷いたのを確認してから、それまでと同様に走りながら森へ入る。森のなかは障害物も多く、視界が不明瞭になる。周囲の警戒は必要不可欠だ。

 

「…………っ! 止まれ」

 

ミコトが左手を横に伸ばして二人を制止する。視線の先には、森の奥から出てくる鬼、鬼、鬼。

 

「鬼……か、ということは術者は陰陽師だな」

「かなり多いですわね……」

「20体は確実にいます……」

 

ざっと見ただけでも多くの鬼が召喚されている。それも、まだ森の奥に潜んでいる鬼もいるかもしれない。

 

「予定通りにいくぞ。俺は遊撃、グッドマンが攻撃、佐倉が援護だ」

「了解です。いきますわよ愛衣!」

「は、はいお姉様! 『来たれ(アデアット)』」

 

散開して、ミコトは単独で鬼たちへ駆け出し、高音と愛衣は二人一組で攻撃していく。

 

「ぐわっ!?」

「ぎゃあぁっ!?」

 

ミコトが音もなく接近して、素早い斬撃で鬼を葬る。斬られた鬼は一瞬で煙となって消える。

 

「なんや!? 敵襲か!?」

 

鬼たちがミコトの強襲に気づいて、武器を構える。

戦闘開始だ。

 

 

□□□□□□

鬼たちとの戦闘が始まって20分ほど、ミコトたちは行く手を阻む鬼を殲滅しながら森の奥へと進んでいた。

 

「ここは……!」

 

木々に囲まれた道を抜けると、開けた広場のような場所に出た。

 

「先生、お姉様! あれは……」

「召喚陣だろうな。あそこから鬼が湧いているんだろう」

 

広場の地面には鬼の召喚の為の陣が設置されている。大きな円の中に複数の小さな円が描かれ、それぞれの小円に梵字が書かれている。

 

「ここまで来たか……、西洋魔術師どもめ」

 

ザッ──という足音。そちらに目を向ければ斎服を着た陰陽師が立っている。

 

「お前が術者だな、大人しく投降しろ。抵抗しなければ危害は加えない」

 

ミコトは投降を勧告し、陰陽師に近づく。高音たちもついていくが、ミコトが留める。

 

「お前たちは来るな。陰陽師が丸腰とは考えにくい、罠の可能性もある」

 

そういって、二人を残して陰陽師の元へと足を進める。万が一罠でもミコト一人なら対処できるだろう。

 

「ふん、西洋魔術師ごときが偉そうに……! 来い、硬羅・鋭羅!」

「む? 久々に呼ばれたな」

「おぼこい嬢ちゃんたちもおるやないか、拍子抜けやなぁ。手前の兄ちゃんは手応えありそうやけど」

 

陰陽師が護符を取り出し、鬼を呼び出す。現れたのは、鈍色の肌をした巨大な鬼と青みがかった肌で銀色の長角を持つ細身の鬼。どちらも今まで倒してきた鬼たちとは雰囲気が違う。

 

「まあ、呼ばれたからには仕事はするがな」

「いくで、兄ちゃん!」

 

二体の鬼は武器を構えて向かってくる。ミコトは刀で迎え撃とうとするが、細身の鬼が脇をすり抜けて高音たちの方へと駆ける。

 

「行かせるわけ……、っ!」

「兄ちゃんの相手はワシや、嬢ちゃんたちは鋭羅にやるわい」

 

細身の鬼を追おうとするが巨大な鬼に阻まれる。高音たちに加勢するにはこの鬼を倒すしかない。

 

「仕方ない。さっさと終わらせてやる」

 

ミコトは刀を構えて駆け出す。

 

「うおりゃあ!」

「……フッ!」

 

鬼が棍棒を振り下ろし、ミコトが刀を振るう。ガキィン! と甲高い音が響く。だが、金属同士の衝突音ではない。ミコトは棍棒を紙一重で避け、棍棒を振り下ろした鬼の腕を狙ったのだ。

 

「ガハハハ! 効かんのう!」

(硬いな……、皮膚には刃が立たないみたいだな)

 

異形殺しの力を秘めた“タマキリノタチ(エンシフェル・インテルフィチェーレ)”で斬ってもケロリとしているこの鬼は、そういった力に高い耐性を有しているのだろう。

 

(早くケリをつけたいが、硬すぎる……。実力を隠したままじゃあ時間がかかりそうだし、仕方ないか……)

「……いくぞ」

 

高音たちの負担を考えると、長引かせるわけにはいかない。ミコトは()()()を纏い、鬼に認識不可能な速度で移動する。黒い光芒を引いて縦横無尽に軌跡を描く。

 

「っ!? ど、どこや!?」

 

突然目の前から消えた相手を探して、忙しなく辺りを見回す鬼。だが、ミコトはそこにはいない。見えるのは黒い光の残滓のみ。

 

「こっちだ」

「上か! ガッ……!?」

 

頭上からの声に勢いよく顔を上げる。鬼が見たのは、気を纏わせた刀を突き立てようとするミコトの姿。

ザンッ! と音をたてて刃は鬼の口中から喉へ突き刺さる。ミコトは全体重を鋒にかけて刃の根元まで刺し込み、その巨躯から飛び降りた。

 

「思った通り、口のなかは柔らかいみたいだな」

「グ……ガ……!」

 

体表面が硬くても、粘膜である口中は刃が通ると予想したのだ。

鬼はうまく発声できないようで、呻くように声を出す。

このまま放っておいても刀の効果で倒すことはできるが、時間をかければその分高音たちの負担が増す。ミコトは一気に決着をつけにいく。

 

白き雷(フルグラティオー・アルビカンス)

「ガアアアアアア!?」

 

放射状に発生した白い稲妻が鬼に刺さった刀へと吸い込まれていき、体内から鬼を焼き尽くす。高威力の魔法を体内に撃ち込まれた鬼は、断末魔の叫びをあげながら異界へと還っていった。

カランと地面に落ちた刀を拾い、高音たちの元へと駆け出す。

 

□□□□□□

──高音side──

 

森のなかに鬼たちの悲鳴が響く。

 

「ぐあっ!?」

「ぎゃあぁっ!?」

「凄い…………」

 

思わず口からこぼれる言葉。

今、私と愛衣は今回チームを組むことになった神楽先生とともに鬼を殲滅しながら森の奥へと向かっている。殲滅といっても、ほとんどの鬼を倒しているのは神楽先生だ。

彼の実力は予想以上、というか規格外だ。

敵の攻撃を見切り紙一重で避ける技量、反撃を許さない一撃必殺の攻撃力。物理的な実力だけではない。

後方から攻撃してくる鬼に私と愛衣が気づかなかったときに、先生は周りの鬼を斬り捨てながら目も向けずに無詠唱魔法で助けてくれた。

視界外の敵を照準し魔法を命中させる制御力。一撃で鬼を倒す魔法を無詠唱で発動する技術。

どれか一つでも達人といえる要素を、武術・魔法ともにいくつも兼ね備えている。正直にいって、その実力に羨望を禁じ得ない。

 

魔法の射手(サギタ・マギカ)火の三矢(セリエス・イグニス)!」

百の影槍(ケントゥム・ランケアエ・ウンプラエ)!」

 

私の影槍と愛衣の火炎の矢が鬼に襲いかかる。

 

「がっ!?」

「ぐへっ!?」

 

数体を倒すことが出来たが、私たちが鬼を一体倒す間に先生は三体を倒している。数分も戦えば、周囲に鬼の姿はなくなる。

 

「先へ急ぐぞ」

 

先生はそういって駆け出す。私たちも後について森の中を走る。

 

「ここは……!」

 

開けた広場のような場所に、魔方陣のようなものが描かれていた。愛衣が陣を指して声を上げる。

 

「先生、お姉様! あれは……!」

「召喚陣だろうな。あそこから鬼が湧いているんだろう」

「ここまで来たか……、西洋魔術師どもめ」

 

物陰から術者らしき陰陽師が現れる。先生が投降を促すも、陰陽師はそれに応じずに二体の鬼を呼び出す。

降伏する気はないようですわね。

 

「いくで、兄ちゃん!」

 

呼び出された二体の鬼のうち、巨大な鬼が神楽先生と対峙して、その脇を抜けて細身の鬼がこちらへ向かってくる。先生は巨大な鬼に阻まれていて、加勢は望めない。私たちで戦うしかない。

 

「どうも、嬢ちゃんたち。悪いがしばらく寝ててもらうわ」

 

棍棒を振り上げる鬼。人外の膂力で振るわれるそれは、小娘二人など簡単に蹴散らすだろう。

 

「愛衣!」

「は、はい! 全体武装解除(アド・スンマム・エクサルマティオー)!」

「うおっ……!?」

 

だが、その暴虐は二人に届かない。

愛衣が“オソウジダイスキ(フアウオル・プールガンデイ)”の能力で棍棒を吹き飛ばす。

 

「食らいなさい、百の影槍(ケントゥム・ランケアエ・ウンプラエ)!」

 

影槍が鬼を襲う。土煙があがり、鬼の姿が見えなくなる。

 

「ハア……、ハア……」

(消耗していますわね……、無理をさせすぎましたわ)

 

慣れない戦闘の緊張もあるのか、愛衣はかなり消耗している。

愛衣はもう激しい動きや戦況を変えるような魔法は使えない。私が守りながら戦うしかない。

 

(このままじゃまずいですわね……)

 

愛衣を庇いながらでは実力を十全に発揮できない。万全の状態ですら勝てるかどうかわからないのに、このままでは勝機はない。

 

「ここは一か八か賭けにでるしか……!」

「お、お姉様危ないっ!」

「え……?」

「油断してもうたな嬢ちゃん」

 

最大威力の魔法を発動しようとしたとき、愛衣の声が耳に届く。思考に集中していて、注意を怠っていた。

現実に引き戻された私の目の前には、今まさに棍棒を振らんとする細身の鬼の姿。百の影槍(ケントゥム・ランケアエ・ウンプラエ)が直撃したはずだが、一切ダメージはなさそうだ。

 

「しまっ……きゃぁっ!?」

「お姉様っ!?」

 

自動で発動する「黒衣の盾」が展開されるが、疲弊している身では衝撃を殺しきれずに弾き飛ばされる。

 

「がっ……! かはっ……」

 

背中から木に打ち付けられ、堪らず呻く。強制的に肺から空気が押し出されて、思わず咳き込む。

 

(は、早く愛衣の元に戻……っ!? 身体が痺れて!?)

 

急いで立ち上がろうとするが、動きが鈍い。

『影の鎧』のおかげで気絶は免れたが、少なくないダメージを受けている。これではまともな戦闘はできない。

 

「きゃぁぁっ!?」

「め、愛衣……!?」

 

愛衣の悲鳴が届く。震える足に鞭打ってフラフラと立ち上がり、愛衣の方に視線を向ける。そこには鬼に見下ろされる愛衣の姿。どうにか逃げようとしているが、疲労のうえに腰が抜けてしまったようで、震えることしかできない。

 

「……悪いな、嬢ちゃん。ワシらも呼び出されたからには、きっちり仕事せなアカンねん」

 

私を吹き飛ばした鬼がそう言って棍棒を振り上げた。

 

(愛衣……! 動きなさい、私の身体!)

「待ちなさい……!」

 

気力をふりしぼって愛衣と鬼との間で、両手を広げて身体の陰に愛衣を隠す。

 

「お、お姉様……!」

「早く逃げなさい愛衣……」

「でも、お姉様が……」

「私は大丈夫ですわ……、影よ(ウンプラエ)

 

なけなしの魔力をふりしぼって、影を身体に纏う。少しはダメージを減らせるだろうが、気絶は免れないはずだ。

それでも気丈に振る舞う。私は『お姉様』なの。情けない姿は見せられないわ。

 

「さあ、行きなさい愛衣」

「い、嫌です……!」

 

愛衣も引かない。もう限界を超えていることに気づかれている。

それでも、敵がいつまでも待ってくれるわけがない。

 

「嬢ちゃんたち、もう時間や」

「っ……!」

 

いまだ言い争う私たちに、鬼はそういって棍棒を振り下ろす。思わず目を瞑ってしまい、迫る衝撃に身を強張らせる。

 

ジャキィィン──

「…………?」

 

いつまでもやってこない衝撃とその金属音を不思議に思い、ゆっくりと目を開ける。

 

「すまん、待たせたな」

 

そこには―――黒く輝く刀で棍棒を断ち切った神楽先生がいた。

 

──高音side out──

 

□□□□□□

「あれは……!」

 

ミコトが見たのは、愛衣を背に庇う高音とその前で棍棒を振り上げた鬼。黒光で強化した速度で高音と鬼の間に割り込み、刀を振るう。

 

ジャキィィン──

金属音が暗い森の中に響く。一瞬遅れてゴトリ──という重い音とともに、半ばから断ち切られた棍棒が地に落ちる。

 

「すまん、待たせたな」

 

高音と愛衣に謝る。表情には出さなかったがミコトは憤っていた。己の慢心で生徒を命の危険に晒してしまったことに怒りを抑えきれない。二人から離れずに術者を拘束する方法などいくらでもあったというのに。

 

「せ、先生……、愛衣をお願い……」

「お姉様っ!」

 

ミコトの存在に安心したのか、高音は気を失う。魔法が解けて身に纏っていた『影の鎧(ローリーカ・ウンプラエ)』が消え、透明感のある澄んだ肌が露になっている。

 

「佐倉、グッドマンを頼む。もうお前たちには指一本触れさせないから」

「あ、傷が……」

 

回復魔法で高音と愛衣の傷を癒して、上着を高音に被せて肌を隠す。ミコトは高音よりもかなり身長が高いので、股下くらいまで隠せている。

それから、細身の鬼に向き直る。律儀にこちらの準備が整うまで待っていたようだ。

 

「わしの金棒を一刀両断とは魂消る真似するのぉ」

「…………」

「硬羅を倒したんや。あんたは楽しめそうやなぁ」

 

細身の鬼は徒手空拳で構えをとり、ミコトは無言で刀を握る手に力をを入れる。

 

「っ!」

 

鬼が先に動き出す。渾身の力を込めた拳をミコトへぶつけんとする。鬼には一撃で沈める自信があった。

 

(とった! ……っ!?)

 

直撃を確信した鬼だったが、突如視界が反転して空が映る。交錯の瞬間にミコトが超スピードで振り抜いた刀が、鬼に知覚させる間もなく首を断ち切ったのだ。

ドサリと鬼の肉体が倒れ、そのまま煙となって異界へと還る。残るは術者の捕縛だけ。

 

「まさか……、硬羅と鋭羅が……」

 

護衛の敗北に顔を青ざめさせ、狼狽える術者。今にも腰を抜かしそうなくらいだ。ミコトが刀を握ったまま術者に近づき、首筋でチャキッと刃を鳴らす。

 

「選べ。投降か、死か」

「あ……、は…………ひゅっ」

 

ミコトから溢れる怒気と殺気に、術者は限界を迎えたらしく泡を吹いて気絶する。ミコトが無詠唱で影を操作して術者を拘束した後、召喚陣を破壊して任務は完了。

あとは学園長に連絡するだけだ。

 

《prrrrr,prrrrr》

《神楽くんか、どうなったかの?》

「任務は完了しました。しかし、私の油断で佐倉とグッドマンを危険に晒してしまいました」

《ふむ……、二人の状態は?》

「グッドマンが気絶、佐倉もかなり消耗しています」

《そうか……、それならばまず神楽くんには二人を連れて学園へ戻ってもらおうかの》

「わかりました、それでは」

 

そういって通話を終え、影で術者を持ち上げて高音と愛衣の元へ戻る。

 

「佐倉、ひとまず任務完了だ。学園へ戻ろう」

「はい。あの、お姉様は大丈夫でしょうか……?」

「呼吸はしっかりしてるし、外傷は治しておいた。あとは学園に戻って検査するしかないな」

 

ミコトは気絶している高音を抱き抱える。女性らしい柔らかな感触が伝わるが、邪な感情が抱けるほどその面の皮は厚くない。高音を抱えたまま自身の影に目をやる。

 

影よ(ウンプラエ)翼を成せ(フォルマ・アラス)

 

その言葉に従って影がミコトの背中に黒い翼を形成していき、十秒も経たずに漆黒の大翼がその威容を顕す。

 

「佐倉、飛行魔法は使えるか?」

「えっと今の魔力だと……、すみません」

 

愛衣の体力はミコトの魔法で回復していたが、魔力は枯渇寸前のままだ。とてもではないが学園まで飛んでいくことは不可能だろう。

 

「仕方ないか。嫌かもしれないがしばらく我慢してくれ」

「え? か、神楽先生!?」

 

ミコトは横抱きにしていた高音を右腕一本で支えられるように抱え直し、空いた左腕で愛衣を抱え上げた。二人を落とさないよう影で固定してミコトは空へと羽ばたく。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

後に、麻帆良学園東部で『空にこだまする女性の声』が聞こえたと話題になったが、それはまた別の話───。

 

□□□□□□

「ふむう……、上級の鬼を二体も使役しとったとな」

「はい。大きな方は他の鬼よりも段違いの防御力でした。細い方も、典型的な魔法使いなら強敵だったでしょうね」

 

学園へ戻ったミコトは学園長室へ報告に来ていた。高音と愛衣は医務室で休んでいる。

 

「高畑君や神多羅木(かたらぎ)君のところにも同じように上級の鬼が出たらしい。そちらには一体ずつだったんじゃがの」

「関西の過激勢力が力をつけてきているのでしょうか?」

「うむ、その可能性も大いにあるのう……。当分は警戒を強化せねばいかんようじゃな」

 

上級の鬼を召喚できる術者は多くない。鬼に限定されることではないが、上位種の召喚・使役は高難易度の術であるゆえに高い実力が求められる。それほどの実力者が襲撃してきたという事実は学園長も看過できることではない。

 

「術者はほとぼりが冷めた頃に関西呪術協会(むこう)へ送還することになっとる。むこうの長にとっても過激派は目の上のたんこぶじゃし、適切に裁いてくれるじゃろ」

「では、私はこれで。失礼します」

「ああ、ご苦労じゃった」

 

ミコトは学園長に一礼して学園長室を出る。不安は残るが、ひとまず今回の騒動は終息した。

ミコトは一度だけため息を吐いて、家路についた。

 




二度と出ないだろうキャラ紹介

硬羅

皮膚が異常に硬質化している上位鬼。パワーとタフネスに特化した戦車タイプで、生半な武器では傷ひとつつけることができない。ミコトの“タマキリノタチ”や明日菜の“ハマノツルギ”の持つ異形殺しの力に高い耐性を有するため、倒すためには高火力の魔法をぶつけるか防御を抜くほどの攻撃力で押しきるしかない。ミコトの戦法はどちらといえば前者。
力こそパワー。

鋭羅

見せ場があまりなかった。速度特化のヒットアンドアウェイスタイルで戦うのだが、高音たちのことをたかが小娘二人と侮り、手を抜いて戦っていた。
見せることはなかったが、体表面のどこからでも角(と同質のもの)を生やすことができ、形状・質感も自由に操れる。ミコトを殴ると同時に角で貫く気だったが、成功しなかった。
速さこそパワー。

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