深い森の中・・・
そこである男は目覚めた。
その男を見てまず目につくのはその身にまとう防具だろう。赤を基調とした、どこか刺々しい印象を受けるその防具は、リオレウスと呼ばれるモンスターの素材によって作られるものである。兜については装備しておらず、若いものの、数多くの修羅場を乗り越えてきたことを感じさせる精悍な顔つきをしていた。
「ここは...どこなんだ...」
男は自分の現在の状況に困惑していた。
男の名は〈レクト・ロールス〉
あらゆるモンスターを討伐し、若くしてG級へと上り詰めた<モンスターハンター>である。
昨日も火竜との激闘に勝利し、自宅にて疲れを癒すべく早々にを睡眠をとったはずである。
「なぜ森の中に...」
そう呟きながら、レクトは体を起こし、辺りを見渡してみるも、その場所に覚えはない。どうしたものかと考えていると、レクトに突如緊張が走った。
これは大型のモンスターに遭遇した際に感じるプレッシャーのようなものである。
——ガアアアアアアアアァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
直後凄まじい威圧とともに、爆音とも呼べるほどの咆哮が響き渡った。
その声に木々が震え、地震でも起きたのかと錯覚するほどの衝撃が走る。一般人であれば間違いなく気絶するほどの圧力、しかしレクトは臆することなくその咆哮のもとに向かう。
「黒い竜...こいつはなんだ...」
多くのモンスターを相手にしてきたレクトにも、その竜に見覚えはなかった。初めて見る黒い竜の姿に多少の驚きはあったが、すぐに一つの思いが生まれた。それは・・・
———狩りたい
それはハンターであるレクトにって当然なのかもしれない。
すると黒竜は自分に向かってくる圧を感じ、レクトに視線を向けた。竜にとって人間など恐れるに足りないものである。それは〈竜の王〉であり、他者を寄せ付けない圧倒的な力をもつ黒竜にとって当然のことである。
しかし・・・
目の前の男は竜の目から見ても弱者とは思えなかった。それどころか、王である自分に届きうる力を持つと、そう感じていた。
故に、黒竜は決めた。この男を、今、全力で排除しようと——
レクトは狩りたいと思うと同時に、今自分は武器を所持していない事に気づいた。いくらレクトが強者であろうと、竜相手に武器は必要だろう。
その時レクトに不思議な感覚が走った。
——出せる
そう感じたレクトは右手に意識を集中した。あらゆる武器を巧みに使いこなし、相手に合わせて自在に戦闘方法を変えるレクトがその時使いたいと思った得物は、太刀と呼ばれるものだった。
するとレクトの右手に一振りの刀が現れた。
———黒刀【終の型】
それは属性こそないものの、切れ味に特化した太刀であり、あらゆるものを切り裂く鋭さを持った刀である。その刀を見てレクトはニヤリと笑みを浮かべて、刀を背に背負い竜に向かって駆け出した。
向かってくるレクトに対し、黒竜も臨戦態勢となり、自分と比べればはるかに小さいその体を潰そうと腕を振り下ろした。
———ドカアアアアアアアアアァァァァァァァァァアアアアアアアア
竜の一撃は地面をえぐり、木々を吹き飛ばし、向かってくるハンターを押しつぶしたようにも見えた。
しかし、レクトは様々なモンスターとの戦闘経験から相手の攻撃場所を予測し、事前に回避、そして背に背負う太刀を引き抜き、黒竜に向かって勢いよく振り下ろした。
――ブシャアアアア
そのひと振りはあらゆる竜の攻撃でも傷つけることが難しい黒竜の体を切り裂いた。
「ゴアアアアアアアァァァァァァァァァァァァアアアアアアアア」
その一撃では竜に与えるダメージなど微々たるものだろう。しかし竜にとって人間に傷つけられるということは初めての体験であり、プライドを傷つけられる傷つけられるものであった。
「どうした?たった一撃食らっただけだろう?
今までどんな敵を相手にしてきたのか知らないが俺を一緒にしないほうがいいぞ。
おれは〈ハンター〉だからな。」
攻撃の後距離をとったレクトは、そう言って口元に笑みを浮かべた。
言葉のわかる黒竜にとってそれは、存外に油断をしていれば死ぬぞと、そう言われたように感じた。
「——ガアアアアアアアアァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
それに怒りを覚え、黒竜は全身から怒気を発しながら、大きく咆哮をし、ふたたび向かっていった。
「そうこなくては、油断などない、本当の強者との戦闘だからこそ燃えるのだから——」
そう言ってレクトもまた、黒竜に向かって駆け出した。
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そこからの戦いを言葉で表すならまさに災害であった。
竜の一撃で地面は抉れ、ブレスによってあらゆるものが吹き飛ばされていく。
それらの直撃を避けレクトもまた太刀をふるう。人間とは思えないほどの力を持ったそのひと振りは、風を巻き起こし、小さいながらもまるで竜巻のようであった。
互いに死力を尽くし傷を重ねていく。竜の体には多くの切り傷があり、そこから赤い血が流れている。ところどころ鱗もはがれており、黒竜の力を知っているものが見たら、驚愕することは間違いないほどに、傷を負っていた。
レクトもまたかつてない程の強大な相手と戦える嬉しさを感じつつも、その身の疲労度は無視できないほどのものであった。戦いの最中に、太刀と同じ要領で回復薬等の道具を出せることに気づく。しかし、出せる数は無限ではなく、取り出すたびに力が抜けていくように感じたため、最低限の回復のみにとどめていた。そのため、体の至る所が痛み、身にまとっていた強固なレウス装備も所々破損していた。
そして長く続いた激闘は終わりを迎える。
何度目になるか分からない1人と1匹の激突。竜はその巨体と翼を用いた推進力でレクトを押しつぶさんとする。
それをレクトは人間離れした動きでさけて、刀を振り抜き、突き、切り上げる。そこで大きく黒竜は怯んだ。
レクトはそこを好機とみて、残り僅かな力を振り絞り刀を大きく振るう。それは気刃大回転斬りとよばれる技である。これで仕留めるという強い意志で刀を振るい、レクトは確かな手応えとともに黒竜を切る。これで終わり、そう思った。
しかし黒竜は意地とプライドで耐えきり、僅かな体力を使い切りブレスを放った。
それを見抜いたレクトは避けようとした。しかし、体は限界を迎えていた。
直前の気刃大回転斬りで力を使い切っており、避けるだけの体力も残っていなかった。
迫ってくるブレスを見てレクトは
「クソッ!!」
と悔し気に叫びながらブレスを受けた。この戦いにおいて初めてまともに食らった攻撃であり、レクトの強靭な体を持っても一撃でダウンさせる程の威力を持った攻撃であった。ブレスを受けたレクトはその頑丈さで、粉々になるということはなかったものの体を削られながら、遥か彼方まで吹き飛ばされていった。
それを見届けた黒竜もまた、力を使い果たしその場に倒れこむのであった。
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吹っ飛ばされていく中で、レクトは自分がいた場所が無人島であったことを知る。
ブレスの勢いはすさまじく島の外まで飛ばされやがて海に落ちた。
楽園の塔
それは闇の魔導士ゼレフを生き返らせることを目的とした、海にたたずむ建造物である。
そこでは、誘拐されてきた者たちが奴隷のように、毎日厳しい労働を強いられている。
そんな建物に大量の血を流しながら、漂着した男がいた・・・