楽園の塔にて・・・
監視から血まみれの男が居るという情報が入り、数人の警備兵は男のもとへ出向いた。
「本当に血まみれじゃねえか」
「どうする?まだ息があるようだが」
「最近騒いでいるガキ共の牢屋にぶち込んでやろう。人が死ぬところを目にすれば少しは静かになるだろう」
そう言って、警備兵達は男を建物の中に引きずっていった。
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楽園の塔内の牢屋・・・
そこにはまだ幼い少年少女からお年寄りまで、多くの人が入れられていた。そこでは青い髪をした少年<ジェラール>を中心に数人の子供達が、これから脱走しようと話し合っていた。
そこに1人の男が連れてこられた。
「今日から新しい仲間だぞ、仲良くするんだな!ハッハッハッハッハッ!」
そう言って警備兵は牢屋に男を投げ入れた。
「なっ!?」
その場にいた全ての者達は声を失った。その男・レクトは生きているのが不思議な程の状態であった。体の至る所から血を流し、特に腹部は大きくえぐれ、もうすぐ死んでしまうと皆が思った。
「どうする・・・」
「もう手遅れだろ・・・」
そんな声がちらほらと聞こえて来る。そんな中、ある少年と少女が声を上げた。
「すぐに手当てしよう」
「まだ助かるよ!ロブおじいちゃん、どうすればいいの?」
1人は先ほど、子供達の中心となっていた青髪の少年ジェラール、もう1人は赤い髪をした少女エルザだ。2人はレクトを助けようと考え、経験値のある牢屋内で一番高齢のロブに相談した。
「この牢屋で出来ることは限られてくるね。そこらにある布を傷口に巻くぐらいしか・・・」
そう言ってロブは残念そうにした。此処には回復系の魔法を使える者はおらず、治療をするための道具もない。多くのことを経験してきたからこそ、レクトが助からないという結論に至ったのだろう。しかし、それを聞いた2人はすぐに取り掛かった。そんな2人に触発され、周りに居た者も動き出していた。ボロボロになった装備ではあるが、火竜の素材を生かして作られた防具は重く、大人でも一苦労するほどであった。防具を脱がし、布を体に巻きながら、大人はこの重さの装備を纏っていたレクトに驚きつつも、皆で手当てをした。
そして、一通り体を布で覆った後、男を寝かせた。小さくではあるが、確かに呼吸をしており、まだ生きていることが分かり、レクトの生命力に驚きつつも皆一息ついていた。
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子供達は決心が揺らいでいた。血まみれで牢屋に入れられたレクトを見て、失敗すればどうなるか想像してしまったのだろう。実際のところ、レクトの傷は黒竜との傷によるものであり、楽園の塔に居る教団とは一切関係ないのだが、知るよしもない。
そんな時、牢屋の外から声が掛かって来た。
「この牢屋のガキ共が脱走を企てているっていう話を聞いた。そんなふざけた奴らは全員懲罰房行きだが、これ以上の建立の遅れはまずい。そこで、今回に限り懲罰房行きは計画の立案者のみとする」
「優しいだろう?俺達は、ヒヒヒヒ・・・」
そう言って教団の男達は醜い笑みを浮かべながら詰め寄って来る。
立案したのはショウだった。しかし、恐怖で名乗り出ることができずにいた。そんな中・・・
「俺だ、俺が計画を立案し指揮した」
そう言って名乗り出たのはジェラールだった。しかし
「ほう、だがこの女だな」
そう言って男はエルザを連れて行く。
「違う!!」 「エルザッ!」
ジェラール達は叫ぶが、教団の男達はそのままエルザを引きずって行く。
「大丈夫だよ...私は平気だから...」
そう言ったエルザはガクガクと震えながらも、皆に必死に笑みを浮かべ連れて行かれた。
そんな中、壁際で寝かされていたレクトの体はすさまじい勢いで回復していた・・・
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「エルザッ!」
帰って来たエルザを見て子供達が駆け寄る。
エルザはフラフラで片目は潰されたのか、血を流しており、その目からは光が失われていた。そんな姿を見て皆悲痛な表情を浮かべ、ショウは泣きだしてしまった。
「俺達が何をしたっていうんだ!」
ここにいる全員が怒り、しかし何もできない無力さに嘆いた。
「なに騒いでいる!!」
泣き声を聞きつけた警備兵が怒鳴りながらやって来る必死。周りの者は必死にショウをなだめるも、一向に泣き止む気配がない。子供の精神ではもはや限界だったのだろう。
「うるせえガキが!1人くらいならいいだろう」
そう言って男が持っていた剣を振り下ろした・・・
ボンッ
そんな音が聞こえたのち、男が持っていた剣は吹き飛んでいき天井に刺さった。
「モンスターでもない、こんな幼い子供に切りかかるってのはどういうつもりだ」
そこにいたのは一切の傷がなく、真っ赤な2本の剣〈サラマンダー〉を手にしたレクトだった。
「なぜお前が生きてっ!?」
いるっ!と言おうとした瞬間、男は吹っ飛ばされ壁に激突、同時に周りにいた男達も一切反応が出来ないまま、吹っ飛ばされ気絶した。
「剣の峰を使うのは初めてだな・・・」
そう言ってレクトは剣を見る。レクトは剣の峰を男達にぶつけた。普段のレクトからは考えられない程手加減したものだが、その双剣のもつ属性は火であり、男達を気絶させるには十分すぎる程の力を持っていた。
牢屋内に居た者達は全員驚愕していた。生きているのが不思議なほどの怪我を負っていた男が、いきなり警備兵を倒し、その体には傷が一切なくなっていたのだから。
全員が言葉を失っていると、不意にレクトが話し始めた。
「俺の名はレクト・ロールス。手当てをしてくれたこと心より感謝する。ところで、この状況について誰か説明してもらいたいのだが、それよりも・・・」
レクトはあまり掴めていない現状を聞こうとするも、1人の少女に目が行きそちらに近づいていく。片目から血を流しながら、こちらを見ていた赤い髪の少女、エルザのもとへ。
「見ず知らずの男の言葉など信用できないかもしれないが、騙されたと思ってこれを飲んでみてくれないか?」
そう言ってレクトは意識を集中することによって出した〈古の秘薬〉を渡す。エルザは戸惑いながらもそれを受け取る。初めて話す相手であるが、どこか安心する男の雰囲気を感じ、それを受け取り、口に入れた。
すると、今まで流れていた血も止まり、驚くことに目が治っていた。その様子を見ていた周りの者も驚き、それを渡したレクトに驚愕していた。
「目が・・・治った・・・」
だが誰よりも驚いていたのはエルザである。もう一生治ることはないと思っていた傷が、一瞬にして治ったことで、驚きそしてなによりも嬉しかった。
「ありがとうございます!」
そう言って頭を下げるエルザの頭に手を置き
「それは良かった、君の名前は?」
と聞いた。
「エルザ・・・ただのエルザ」
「そうか、それは少し寂しいな。綺麗な髪の色をしている。その髪の色、スカーレットを名前にする、というのはどうだろうか?」
レクトはエルザの頭をなでながらそう言った。
「エルザ・・・スカーレット・・・うん! 今日から私はエルザ・スカーレット!」
そう言って満面の笑みを浮かべた。それを見て
「これからもその可愛い笑顔を大事にすると良い」
そう言ってもう一度頭をなで、エルザに優しく微笑んだ。
エルザは顔を真っ赤にしながら、小さくうなずいた。そしてレクトは立ち上がり周りを見渡し尋ねた。
「俺は何故、此処に居るのか、此処がどこか全く分からない。誰か説明してはもらえないか?」
すると1人の男が前に出て、此処が闇の教団が作ろうとしている塔で、自分達は奴隷として連れてこられたということを説明した。
「そうか・・・皆辛かっただろう、しかしそれも今日までだ」
そう言って、牢の檻を切った。奴隷達は鉄を容易く切ったレクトに驚き、そして思った。この男なら自分達を救ってくれると・・・
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楽園の塔ではかつてない暴動が起きていた。
解放された奴隷達が集団で反乱を起こし、教団の者は対処しきれないでいる。いつもは自分達を恐れて一切抵抗しないが、まるで救世主を味方につけたように、希望に満ちた目をして突き進んで来る。そして時折聞こえて来る轟音に、教団の者は恐怖を感じるが、奴隷達はさらに勢いづいていく。奴隷に体力はさほどないはずだが、誰かが回復させていると思うほど、動きが鈍る気配すらない。誰が見ても奴隷達が有利であった。
白い装備を身に纏ったレクトは、赤い双剣で警備兵を次々と無力化させていき、奴隷を解放していく。圧倒的なスピードについていけるはずもなく、敵は見る見るうちに数を減らし、レクトが柱なども切り倒すことによって、教団の連携は一切機能していなかった。また、レクトは〈フルフル〉と呼ばれるモンスターの素材によって作られる防具のスキル、広域化によって奴隷達を肉体的にもサポートしていた。
エルザやジェラール達は無事に外までたどり着き、脱出に使おうと決めていた船に乗り込んだ。奴隷達は皆乗り込み一息ついている中、レクトのことを特に気にしていた2人は、塔のほうを見ていた。
「レクトさん・・・大丈夫かな・・・」
「当然でしょ! 絶対に負けないから!」
少し不安げに言うジェラールに対して、エルザは言い切った。
ドオオオォォォオオオオン
そんな時、大きな爆発音が聞こえたかと思うと塔が崩れだした。出口もふさがり思わず2人とも顔が険しくなる。しかし、ドカアアアァァァンという音とともに、塔に穴が開き白い服の男が飛び出して来た。そしてそのまま船に飛び乗った。
その男、レクトにエルザは勢いよく抱き着いた。その目からは涙が流れており、やはり心配だったのだと思われた。
「心配かけてすまなかったな」
「うんっ」
エルザの頭を撫でながらそう言いいつつも、内心で『大タル爆弾Gやっぱすごいな・・・』などと考えていた。ふと我に返ったエルザはいきなり抱き着いたことに恥ずかしくなり、顔を赤めて元の場所に戻って行った。
そしてレクトは周りを見渡して言った
「もう皆を縛るものはない。出航しよう」
それを聞いた元奴隷たちは、雄たけびを上げた。自由になれたことの喜びと、自分達を救ってくれたレクトをたたえて。
船は自由に向かって進み出した。