船は楽園の塔から近隣の島を目標に進んでいた。
元奴隷たちはボロボロの服を着ていたため、レクトがインナーを出し着替えさせていた。鎧の下に着るものなのでかなり薄手のものだが、きれいなものを着れるだけでも喜んでいた。
ある程度落ち着いてきたところで、今後の事について話し合うことにした。
「この船は運のいいことに、教団の者たちのお金がのっていた。これを分配していこうと思う。そして島に着いたら各々の行きたいところへ行き、やりたいことをしよう」
そう言ってレクトは皆にお金を配った。
「幼い子や今後の事がまだ考えられない者はしばらく助け合っていくと良い。この者たちが今後の指揮をしてくれる」
そうして2人の男を示した。2人はレクトが最初に助けた奴隷である。レクトの雄姿に感動し、レクトのように皆を救いたいと考え自ら申し出たのだ。こうしてほとんどの者が今後の事を決めていく中、2人の子供がレクトのもとにやってきた。
エルザとジェラールである。そしてその後ろからやってきたロブが言った。
「レクトさん、どうかこの2人をFAIRY TAILという魔導士ギルドまで連れて行ってくださいませんか」
「FAIRY TAIL?」
「はい。私が奴隷になるまでいたギルドです。この子達は魔導師になりたいと言っておりまして、レクトさんが引き受けてくださると安心ですから」
レクトはロブに言った魔導士という言葉に疑問を持っていた。これまでのことを思い出してみると、起きてすぐ黒竜との戦闘になったり、気づけば奴隷たちと牢に入れられていたりと落ち着いて今の状況を考える暇がなかったことに気づく。冷静になってみれば教団の者たちは杖から火や風をとばしており、レクトも装備やアイテムを自在に出していたが、それはまるで魔法である。
(ここは魔法が存在する世界、そして俺自身魔法のような力でも与えられたのか・・・)
元G級ハンターなだけあって順応力が高く、普通なら発狂するほどの事にもかかわらず、落ち着いて現状と向き合っていた。
それどころか・・・
(この世界では黒竜のように、今までにない強者とも出会えそうだ)
とすでに楽しみにしているのであった。
「いいだろう。俺も世界を見て回りたいし、魔導士ギルドにも興味がわいた。だが2人は俺とでいいのか?」
そう聞くと2人は声をそろえて、
「レクトさんと行きたい!!」
エルザはなぜか顔を赤らめながら、ジェラールは羨望のまなざしを向けて言った。
「そうか、では一緒に行こうか。FAIRY TAILへ」
こうして、レクトと2人の子供は共に行くこととなった。
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しばらくすると、船は陸についた。
そこからは別れて、それぞれの行きたい場所へ行くことになった。
レクト達もここからは陸を進んでいくため、船を降り、元奴隷の者たちとは離れることになる。これから、まだ船に乗って海を行く者達たち、陸の違った進路を行く者たちがいるが、2人を除きレクトとは別れるため、最後にもう一度感謝の気持ちを伝えた。
ロブは「2人のことよろしくお願いします」と言い頭を下げた。ロブは先が長くないことを悟り、海を行くことになった残りの子供たちの面倒を見るそうだ。
エルザとジェラールも他の子供たちに別れをつげて、落ち着いたらまた連絡を取り合おうと約束した。
そして、3人はFAILY TAILへ出発した。
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3人旅の道中、様々なことを話した。ジェラールがレクトの強さの秘訣を聞いたり、エルザがなぜかレクトの好きな女性のタイプを聞いたりと、そんなやりとりをしながら仲を深めていった。
また時間があるときはレクトが簡単な体捌きを指導したり、時折遭遇する盗賊やモンスターと戦ったりと、エルザとジェラールはこの短期間でもぐんぐん成長していた。強い敵が現れた時はレクトが喜々として向かっていき、1人で倒していたが・・・
そんな中、2人は魔法が発現した。エルザはレクトのことを考えてると、レクトと似た、ザ・ナイトと呼ばれる魔法が使えるようになった。剣や鎧を換装する魔法で、レクトと同じだと内心で大喜びしていた。
ジェラールは天体魔法を使うようになった。途中、立ち寄った小さな村で読ませてもらった文献に載っていたものだ。レクトの圧倒的な剣のスピードや破壊力にあこがれたジェラールは、この魔法でいつかレクトのような強者になると誓った。
そうして3人は進んでいき、FAIRY TAILのある街、マグノリアに到着した。
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マグノリアの街をFAIRY TAIL目指して歩いていると、凄く賑やかで明るい街であることが伝わってきた。そして、時折FAIRY TAILのことを楽しげに話す人も見かけ、2人はこの良い街とその中心であるギルドに入ることが益々楽しみになっていた。
「大きい!」
そう言って驚くエルザとジェラール。2人の反応は正しいだろう。それほどにFAIRY TAILは大きく堂々としていた。レクトはギルドの集会所のような雰囲気に懐かしさを感じつつ、
「早速中に入ろうか」
そう言って緊張している2人を促し、ギルドに足を進めた。
中に入って最初に思ったことは『騒がしい』だった。まだ昼間であるにも関わらず酒を飲んでいる者、取っ組み合いの喧嘩をしている者、女性を口説いている者等、多くの人が集い盛り上がっていた。
とりあえず、マスターに挨拶しようと周りを見渡す。すると1人の爺さんが目に入る。その爺さんのオーラから何かを感じ取ったレクトは、2人を連れて向かう。
「あなたがここのマスターか?」
そう爺さんに尋ねると、
「そうじゃ、わしがFAIRY TAILマスターのマカロフという。わしに何か用かな?」
そう言ってくる爺さん改めマスターマカロフ。
それに対してエルザとジェラールは
「FAIRY TAILに入れてください!!」
そう言い、頭を下げて頼み込む。
マカロフはその姿を見て、心の底からFAIRY TAILに入りたいという意思を感じ取り言った。
「良かろう。2人をFAIRY TAILに迎えよう。同世代の子たちもおるから話してくるといい」
その言葉を聞いて2人は喜び、近くにいた子供たちのもとへ行った。
2人が離れたところでレクトはマカロフに2人の境遇とこれまでの経緯を説明する。それを聞いたマカロフは、このギルドは皆家族となり2人にとっても楽しい場所になると言った。
そんな中マカロフはレクトに問う。
「2人のことは分かったが、おぬしはどうするんじゃ?」
レクトはその言葉を聞き、答える。
「俺は強敵と戦い自分の力を極めたい。そのために、しばらくは旅をしようと考えている。あの子らのことも心配だが、強い子たちだからきっと大丈夫だろう」
レクトは魔導師ギルドに興味があったが、ここに来るまでにも様々な経験をしてまだまだ旅をしながらモンスターと戦いたいと思っていた。
そう言ったところで2人がちょうど戻ってくる。
レクトの話が聞こえていたのか、急に暗い顔になり、
「レクトさんはFAIRY TAILに入らないの…」
「もう会えなくなってしまうのですか…」
そう言って落ち込む2人。
「俺もお前達とは離れたくないが…」
目の前で泣きそうな顔をする2人に珍しく狼狽えるレクト。
それを見たマスターが言う。
「FAIRY TAILに所属して旅に出てはどうじゃ?お主の力を見て問題が無ければ認めよう。FAIRY TAILに所属してここを拠点とすれば何度でも会えるじゃろう」
そう提案する。それを聞いてレクトは決めた。
「では俺もFAIRY TAILに入るとしよう」
それを聞いて2人はすぐに笑顔になり喜んだ。
「だが、先程も言ったように旅に出ようと考えている。戻ってくるのもいつになるかは分からないが大丈夫か?」
「きちんとここに帰ってくるのなら良かろう。だがお主の力を見たい。1週間後にギルダーツというFAIRY TAIL最強と言われている男が帰ってくる。その男と戦ってもらいたい」
マカロフはレクトのオーラから、普通の魔導師では相手にならないと感じた。そのため、ちょうど10年クエストから帰ってくるギルダーツのことを思い出し、戦ってもらうことで力を見極めようと考えた。
それを聞いたレクトは、『この世界では人との戦いにも慣れないといけないな』と考え、これは良い機会だと思い、了承した。
「分かった。その戦いの話、受けよう」
「よし、ではきちんと皆に紹介しよう。3人とも前に出てくれ」
そう言うと、マカロフは大声で、
「全員こちらに注目せい!この3人は今日から新しく仲間となったものたちじゃ」
と言う。すると、先ほどまで騒がしかったギルドが静まり、皆の視線が集まる。
そしてマカロフに1人ずつ紹介される。
「この女の子がエルザ・スカーレット、この男の子がジェラール・フェルナンデス、この男がレクト・ロールスじゃ」
すると、
「よろしく!」「どんな魔法使うの?」「歓迎会するぞ!!」
と歓迎されているようであった。それと同時に
「かっこいー!」「一緒に遊びに行こー!」
等、レクトに向けて女性からの黄色い声援が上がる。
レクトは整った顔立ちをしており、加えて数々のモンスターと戦う中で増していった男らしさがさらに女性からの支持を集めているようであった。
レクト本人は、
「ハンターは皆同じような顔だったが・・・」
等と思いながらも、きちんと受け入れてもらえているようで安心する。
こうして、3人はFAIRY TAILに所属することとなった。
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皆から歓迎されてから1週間の間に様々なことがあった。まずは皆と一緒に食事をして盛り上がり、仲を深めた。エルザは女子寮に入ることになり、レクトとジェラールは、決まるまではとりあえずギルドで寝泊まりし、新しい環境に慣れていった。また時間があるとき、レクトは書庫で本を読み漁り、この世界の知識を深めていった。近場の簡単な依頼も受注して3人で向かい仕事もこなしていった。
そして1週間たった・・・
FAILY TAILから離れた広場にて2人の男が向かい合っていた。1人は先日入ったばかりの新入りであるレクト。今回防具は身に着けておらず、町で買った身軽な服装でいる。もう1人は今日帰ってきたFAILY TAIL最強と言われる、橙色の髪をオールバッグにしマントをした男、ギルダーツ。
マスターの言った通り、帰ってきたギルダーツとすぐに戦うこととなった。
ギルダーツの強さを知っているため、その戦いを間近でみようと集まった者や、レクトの実力を知るためにきた者、応援しに来た者など、ギルドの大半が集まっていた。
「俺がギルダーツだ。怪我しても恨みっこなしにしようぜ」
「レクトだ。見せてもらうぞ、ギルド最強の力」
お互い簡単に自己紹介をし、そして戦いが始まった。
この1週間でレクトの実力を見たものはいない。故に、エルザとジェラール以外の予想ではギルダーツの圧勝だと思われていた。それほどギルダーツは力があり、大陸でもトップクラスである。しかし
ヒュンッ
そんな音が聞こえたかと思うと、ギルダーツのマントの一部が切れた。そこには、赤い太刀を振りぬいているレクトの姿があった。周りの者は剣をふるう姿が見えなかったことに驚き、ギルダーツもレクトの実力を測り間違えていたことに気づく。そして、周りの者たちに言う
「もっと離れろ、俺も本気でやりてえ」
それを聞いた周りの者はすぐに離れていく。ギルダーツの本気の魔法に巻き込まれると、魔導士であってもただでは済まない。
ギルダーツはレクトに対して圧倒的強者のオーラを感じ、久しく忘れていた挑戦者としての気持ちを持って挑むことにした。
「オラッ!」
ギルダーツは魔力を持って拳をふるい、クラッシュという触れたものを粉々にする超上級魔法をレクトに放つ。
しかし、レクトは太刀の一振りで魔法を切る。あらゆるものを砕く自分の魔法を切られたことに驚愕するも、ひるまず拳を放ち攻め続ける。それらすべてを受け流し、切り裂き、レクトもギルダーツに向けて剣撃を放つ。
2人の周りの地面は、魔法の余波と斬撃でボロボロになっていく。しかし、2人の姿には大きな違いがあった。ギルダーツの体には傷が増え続けていくが、レクトの体には傷一つない。加えてギルダーツは自分の体に違和感があった。体の動きが悪くなっていき、次第にしびれていく。原因はレクトの使っている武器は、龍木の太刀と呼ばれる麻痺属性を持った剣である。ギルダーツは攻撃を受けるたびに、体の自由を奪われていき、ついに
「クソッ、完敗だ」
限界を迎え体はしびれて動かなくなり、地面に倒れる。それを見て、レクトは手に持った太刀を鞘に納める。
離れて2人の戦いを見ていた者たちは、あのギルダーツが手も足も出なかったことに驚いていた。
「全く、なんて強さだ。ここまで力に差があると悔しいを通り越して清々しいくらいだぜ」
そう言って仰向けになったまま言うギルダーツだが、レクトもギルダーツには驚かされていた。
大型モンスターを麻痺させる武器にあれだけ耐えて反撃し続けたこと、そしてその一撃の威力は周りを見れば一目瞭然だった。かたい地面がひび割れ粉々になっており、ギルダーツの力の凄まじさを物語っていた。
「俺も楽しませてもっらたよ。また戦おう」
そう言って秘薬を渡す。ギルダーツは一瞬驚くも、それを受け取り口に入れる。すると、見る見るうちに傷がふさがり、体のしびれも消えていく。驚愕するがこの男なら不思議じゃないかと思い立ち上がる。そして2人は握手を交わす。
そこにギルドの者たちもやってきて、2人の戦いを称え、その日は宴会となった。