劇場版とある魔術の禁書目録 プロジェクトエンデュミオン~その奇跡は誰がために~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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中途半端な感じになってしまいました
今回はこれでご容赦を

誤字脱字等ありましたら報告を


チャプター8

シャットアウラは一人、佇んでいた

 

視線の先には鳴護アリサが眠るように横たわっている

いや、実際少し寝息のような声が聞こえているのだから恐らく寝ているのだろう

だが問題はそこではない

シャットアウラは視線を移す

アリサの近く…首飾りとしてある袋…その傍らに、青いブローチのようなものがあった

それは大きく欠けており、単体だと何だかわからない

 

シャットアウラはそれを手に取り、自分が持っているそれと組み合わせてみた

それは、ぴったりと収まり、一つのブレスレットとなった

どうして、だとかなんで、だとかの感情が巻き起こるのと同時に、シャットアウラは一つの感情に支配されていた

 

(…なんで、こいつが)

 

このブレスレットを持っている?

このブレスレットを持っているのは自分一人だけのはずだ

それを、どうして―――

 

「やはり―――貴女たちは惹き合う運命なのね」

 

不意に扉が開き声がした

振り返ると憮然と歩み寄ってくるレディリー・タングルロードの姿がいた

そして、彼女は唐突に語りだす

 

「あの日、オリオン号に乗っていたのは乗客、乗員共に八十八人…。そして事故直後、八十八人の生存が確認された…」

 

彼女は笑みを浮かべる

引き裂いたような、あざ笑うようなそんな笑み

何も言い返すことなく、シャットアウラは黙って聞いていた

 

「誰もがこれを奇跡と呼んだ。…だけど、本当は一人だけ死者がいた。…それはオリオン号のパイロット―――ディダロス・セクウェンツィア」

 

語る口を止めることなく歩みを止めない

言葉を紡ぎながら彼女はシャットアウラの隣に並ぶ

 

「そう、貴女の父親。…その事実が確認された時にはすべてが手遅れ。世界は奇跡に湧いて、八十九人目の存在は隠されて…残ったのは〝奇跡〟だけ…」

 

やがてレディリーは隣を過ぎて眠っている鳴護アリサの近くへと進み足を止める

 

「八十八人しかいないはずなのに、こつ然と現れて、奇跡を演出したのが…この子よ」

 

シャットアウラは振り向いて

 

「貴方はあくまでも奇跡と言い張るのか」

 

しかしその言葉に返されたのは想像を絶する一言だった

 

「だって、本当は誰も助かるはずはなかったのよ? あの事故は」

 

「―――!?」

 

今、この女はなんと言った

 

「だって空なら上手くいくと思ったのよ? なのに、貴女の父親以外皆助かるなんて。…まぁ、思わぬ副産物が来たのだからある種成功なのかもねぇ」

 

…オリオン号の事件は、誰かが作為的に起こしたものだった

そう…全て。この女が

 

この女が父を奪ったッ!!

 

そこからの彼女の行動は迅速すぎるほどだった

じゃきり、と隠し持っていたナイフを抜くと同時にレディリーに一足で踏み込む

そして彼女の心臓を―――一息に貫いた

 

苦痛に耐えるような声を洩らしたのち、彼女は大きく後ろへ仰け反ってそのまま倒れ伏した

しかしなぜだ、殺す直前に、この女はひどく歪んだ笑みを浮かべた気がする

それだけではない、確かに手ごたえはあったのに、酷く、いやな感じだ

それらの雑念を振ってシャットアウラはアリサへと視線を移す

 

「…こいつは」

 

一体なんなんだ―――そう考えると同時に背後に気配を感じた

 

「あらあら。イケませんわねシャットアウラさん」

 

その声に振り向きつつシャットアウラは身構える

そこにいたのは水城マリアだった

すでに彼女はG4ユニットを装着しており、臨戦態勢だった

流石に生身では分が悪い、ここはブラックイクサへと変身するべくベルトを巻きつけた直後だった

 

「―――ふふふっ」

 

笑い声が聞こえた

しかし問題は聞こえてきたところだ

 

その笑いは―――ついさっき刺殺したレディリーの口から発せられたのだ

そしてゆっくりと―――上半身を起こして笑った

まるで―――人形のように

 

「なっ―――」

 

そんな、確かに心臓を刺したはず―――

そう言った思考に埋没する暇もなくシャットアウラはG4に距離を詰められて腕を組み伏せられる

痛みに負け彼女はナックルを落としてしまう

 

「気はすんだかしら。フフ…ナイフで殺されるのは何回目だったかしら。…確か十六回目だったかしら?」

「ぐ…化け物め…!」

 

拘束された状態でシャットアウラはレディリーを罵倒する

しかし当の本人は実に涼しい顔で

 

「そうかしら。私もそうだけど、貴女たちも大概だと思うけど―――」

 

「やはりそういうことか」

 

不意に聞こえたその声にレディリーは眉をひそめる

扉を開けて入ってきたのは―――名護慶介だった

彼の手にはハンドガンが握られており、その銃口はレディリーを狙っている

 

「…あぁ、そう言えばいたわね。貴方」

「シャットアウラ君を離してもらおう。さもなくば、その女の子を撃つ」

 

そう言って名護は眠っているアリサへと銃口を移す

流石にその狙いの変化は予測していなかったのかわずかばかりレディリーの笑みが少し曇った

 

「―――正気? 仮にも彼女は何の罪もない一般人だというのに」

「確かに。それを手にかけるのは流石の俺も気が引ける。…しかし、貴様の企みを潰すためならば…俺は鬼にもなろう」

 

しかしそれでも―――レディリーは笑みを崩さなかった

 

「それは困るわ―――。彼女は私に必要なものだもの」

 

そして大きく笑みを作る

一瞬その笑みの意図が分からなかった

 

それが明確な隙となる

 

スタ、と背後に響いた二つの足音に名護が反応する頃には目前へと接近を許していた

ドゴム、と腹部に男の拳が決まり、さらに女の肘が背に直撃し名護は大きく身体を九の時に反らせる

 

「ガハッ!?」

 

その男にシャットアウラは見覚えがあったのだ

 

そう、いつぞや地下駐車場で襲撃してきたあの男に

 

「…あの男、あの時の―――!」

 

一瞬抜け出そうとするが、G4がそれを許してくれない

そうこうしている間に名護が残っている女に組み伏せられる

 

「グっ! 離せ! 俺は名護だぞ!?」

 

「―――あなたたちは生かしておいてあげる。…奇跡が起きるその瞬間を、焼き付けなさい」

 

余裕を崩さないその女に、シャットアウラはせめてもの反抗として言葉をぶつけることにした

心からの、怨鎖を込めて

 

「お前が誰であろうと、何を企てていようと! 必ず潰す! 必ずだぁっ!!」

 

しかし、それにもレディリーは笑みを崩さなかった

そんな事あり得ない、とでも言いたげに

 

「えぇ、―――期待しているわ」

 

やがてその二人をマリアと側近である男女に連行させた

とりあえず、適当に独房にでも放り込んでおけばしばらくは大丈夫だろう

レディリーは眠っているアリサへと向き直る

 

「…さて、次は貴女ね」

 

彼女はゆっくりと撫でるようなしぐさで顔の表面を振れないように動かす

するとうっすらと彼女が覚醒し始めて、やがてはっきりと目を開けた

 

そのタイミングを見計らい、レディリーは声をかける

 

「おはよう」

 

己の目標の達成のために

 

「貴女にお願いがあるの―――鳴護アリサさん?」

 

◇◇◇

 

ふと、目が覚めた

最初に視界に入ってきたのは見慣れた…というのもおかしい表現だが、病院の天井だった

 

アラタはゆっくりと上半身を起こし頭を振る

…なんでここにいるのだっけ

 

「あ、アラタ。…よかった」

 

ふと自分の右側を見るとそこには御坂美琴が立っていた

また同様に反対側にひよりも立っており、さらに正面には天道にツルギ、そして大介までも待機していた

 

「起きたか。我が親友、なぜ俺にも一声かけてくれなかったのだ」

「わ、悪いツルギ。色々あって、さ」

 

そう返しながらアラタはキョロキョロと室内を見回す

そう言えばゴウラム―――みのりの姿が見えない

別の部屋だろうか…なんて思っていると察したのか美琴が

 

「みのりちゃんなら、アンタより先に目が覚めて、伽藍の堂に戻って行ったわよ?」

「そっか。ならいいんだ。…よかった」

 

橙子の所にいるのなら安心だろう

なんにせよ無事なようで安心した

 

「それでね、アリサさんの事なんだけど」

 

躊躇いがちに呟いてきた美琴にアラタは耳を傾ける

少し前にインデックスに聞いたところによるとやはりアリサは帰ってきていないらしい

と、なると完全に連れ去られたと考えていいだろう

 

「…なぁ、アラタ」

「うん? どうしたひより」

 

不意に口を開いたひよりにアラタは視線を向ける

彼女は伏し目がちに言葉を紡ぐ

 

「…なんで、アリサは狙われるんだ? 確かに彼女は凄いよ。…だけど、なんで彼女がこんな目に合ってるんだろうって考えると…その…」

 

ひよりの言っていることも分かる

アラタから見ても鳴護アリサという人物は努力家だ

決して驕らず、笑顔を持って、夢を掴もうとしてるどこにでもいるありふれた女の子のはずなのだ

 

「…とはいえ、今のアラタは怪我人だし、そろそろ我々は退散するとしようか」

「そうだな。御坂、君はどうする」

 

大介の言葉に賛同しつつ天道はアラタのベッド付近にいる美琴に問いかけた

 

「わっ、私はもう少しいます…」

「そうか。…ひより、帰るぞ」

「えっ!? 御坂さんが残るならボクも―――」

「お前はこれからバイトだろうが。無断欠勤はいけないぞ」

 

天道にそう言われるとひより「むぅ…」と言いながら大人しく従った

彼らが退室し、室内には美琴とアラタの二人だけとなる

ふと、気になったことをアラタは美琴に聞いてみた

 

「そうだ、当麻は大丈夫なのか?」

「ん? あぁ、アイツ? えぇ、大きな怪我もないし、ぶっちゃけアンタとおんなじ感じ。すぐ隣の病室にいると思うけど…」

 

そう途中まで説明しているとき、またがらりと扉が開けられた

開けて入ってきたのは自分も見知った人だった

 

「よう。また入院したみたいじゃないか」

 

門矢士

またの名を通りすがりの仮面ライダー

よく彼はこのカエル医者の病院に入り浸っているようでたびたび顔を見かける

当然、街中でもたまに見かけるのだが

 

「ていうかまたってなんですか。好きで入院してるわけじゃないですよ」

「そりゃそうだ。…ところで、今日お前と話をしたいって言ってる二人を連れて来てんだ、入れていいか」

「? …話、ですか」

 

特に断る理由もないのでアラタは首を縦に振って承諾

士が招き入れているときに美琴と顔を合わせて誰だろうか、などと無駄に考察してみる

ほどなくして現れたのは青年と女性だった

どことなく髪は茶に近く、女性は黒く長い髪をしている

 

「初めましてだな、俺は夜神一真。こっちは同僚の黒川陸姫だ」

 

名前を紹介された時に黒川陸姫という女性はよろしく、と言った感じで礼をした

そんな彼女に釣られて美琴とそろってアラタは礼を返す

 

「早速だが、話をしたい。…鳴護アリサについてのことだ」

 

一通り挨拶を済ましたタイミングを見計らって夜神は話を切りだした―――

 

 

鳴護アリサについての事で情報を交換し合っている夜神やアラタたちの話を聞きながら部屋の外で門矢士は考えていた

 

それはオービットポータル社の社長についての事だ

当然ではあるが士も何度かテレビを拝見し、レディリーの顔は見たことがあるし、例のアリサのライブにも顔を出してみた

そこで士は彼女の歌には何らかの力が宿っているのを感じ取った

どんな力かは残念ながら分からないが

 

だがしかしいくら何でもあの年齢で社長などおかしいとは思うのだ

…それで本当に天才だったら認めざるを得ないが

 

「それにしても、天才ゴスロリ社長ねぇ」

 

どの辺に需要があるのだか

そんな下らない思考に埋没している最中、夜神たちとアラタたちの会話は進んでいく

 

 

「…君の話を聞く限りだと、やっぱり彼女はただの努力家の女の子にしか見えないな」

「狙われるなんてやっぱり変だよ、私が触れ合った限りでもごく普通の子だったし…」

 

夜神の隣にいる陸姫という女の子も腕を組んで考えている

それにはアラタも同意見だ

確かに先日神裂からは聖人かも知れない、なんて言われたがそれでもまだ彼女は一般人なんだ

 

「へーい、かがみんっ」

 

ふと部屋の入り口が開きそこから土御門が入ってきた

グラサンの奥の瞳がきらりと光ったような気がした

 

「…土御門?」

「ちょっと、隣の…かみやんの部屋に来てくんないかにゃ?」

 

 

「…やはり、何かあるのはあのタワー…宇宙エレベーターか」

 

アラタが金髪のグラサン男に連れられて隣に部屋に移動したのを見送った後で夜神は顎に手を乗せながら呟いた

 

「…どうするんです? 警備員(アンチスキル)の人たちがもう動いてると思いますけど…」

「なら話は早い。ここから直行だ」

「…へ?」

 

そう言うと夜神は陸姫の手を取って部屋を足早に出ていった

しかし半ば強引に連れられてるにもかかわらず陸姫の顔は若干緩んでいたような気がした

 

「…いろんな人がいるのね」

 

そんな二人を美琴は苦笑いで見送った

 

 

「ケリは僕たちでつける」

 

当麻の病室に入り、最初に視界に入ったのは壁に背を預けているステイルだ

その付近に斎堵、弦太郎、そして窓際に土御門…ベッドの当麻、とそろっている

全員がいるのを確認して、ステイルは先の言葉を言った

そんなステイルに当麻とアラタは疑問の視線を送った

その視線を感じ取ったのかステイルはちらり、と当麻とアラタ、二人に視線をやった後

 

「レディリー・タングルロードは元々僕たち魔術側の人間だ。彼女は、鳴護アリサを核にし術式を組もうとしている」

「エンデュミオンを用いたかなり大きなヤツぜよ。んなもん使われたら北半球が全滅するくらいのな」

 

当麻とアラタの背に冷たいものが走る

北半球が壊滅するほどの魔術

そんなものを、あの社長は裏で作っていたというのか

 

「とにかく、問題が魔術である以上これは僕たちの仕事だ。君らは下がっていろ」

「対処できんのか? 場所は宇宙にあんだぜ」

 

弦太郎に言われて一瞬、ステイルは苦い顔をした

しかしすぐ元の顔になると目を閉じて

 

「…核を始末。いよいよとなれば、あの塔ごと破壊する」

 

息を吐くようにそんな事をステイルは口走った

当然、二人はそれを聞き逃さなかった

 

「…核を始末って、つまりそれはアリサを殺すってことかよ」

 

当麻の視線にステイルは表情を変えることなく返す

 

「まぁ、そうなるな」

 

直後、当麻の拳が握られる

当然、その気持ちはアラタだって同じだ

 

「アリサは―――アイツは夢があって、それに向かって必死に努力して、一生懸命な女の子なんだ!」

「そんな普通の女の子が…なんでそんな北半球を破壊する悪者にされなくちゃならないんだ」

 

言葉にして二人は顔を見合す

そして―――お互いに力強く頷き合った

直後、アラタは一度部屋を出た

それに合わせるように当麻もベッドから起き上がり置いてあった普段着に着替え始める

そんなタイミングでちょうど入れ違いになるようにインデックスが入ってきた

 

「とうま! 今あらたがすごい勢いで―――、て、とうま!? まだ寝てないとダメなんだよ!?」

 

そんな当麻を見て、土御門はなんとなく弦太郎を見やった

対する弦太郎も似たような笑みを浮かべている

 

一方のステイルも似たようでいて、それでいて呆れているような表情を浮かべている

そして呟く

 

「…相変わらず馬鹿な奴らだ」

「けど、それがいいとこじゃんか」

 

ステイルの呟きに、斎堵がそう答えた

 

 

そんな会話を病室の外で聞いたいたのが一人

門矢士である

 

「…敵は宇宙、ねぇ」

 

一気にスケールが大きくなった気がする

先ほどの夜神たちとの会話を挟めば何となくだが―――

 

「あぁ、だいたいわかった」

 

手をパンパンと叩きながら士は歩き出す

今やることが、大体見えた気がする―――

 

 

がらり、と扉を開けてアラタは自分が寝ていた病室へ戻ってきた

途中士とすれ違ったが、どういう訳だかアラタを見て小さく笑った気がする

しかしそれを確認する余裕はアラタにはなかった

 

「あ、アラタ―――って!? なにしてんのよ!?」

 

美琴の驚きの声を耳にする

何故ならアラタ本人が上半身半裸だったからだ

そんな美琴の戸惑いをスルーしつつベッド付近の棚にある私服にアラタも手を出して着替え始める

 

「ちょ、アラタ!? いくらなんでもまだ寝てないとだめよ! 傷は浅いかもしれないけど―――」

「そん悠長なこと言ってらんないんだ。急がないと…アリサが死ぬ!」

「え!? あ、ちょっと待ってって!」

 

アラタはいそいそと着替え終えると病室の外に向かって歩き出す

そんな彼の後ろを美琴は戸惑いながらついて行った

外に出るとそこにはすでに着替え終えた当麻と、インデックスが立っていた

同じようにインデックスも表情には戸惑いが見える

 

「よし、行こう! アラタ」

「あぁ、行こうぜ当麻」

 

そう返事し、歩こうとした時だ

 

「かみやんたちなら、そう言うと思って…もう準備はしてあるぜ?」

「むしろ、そう言ってくんなきゃどうすっかなって思ってたところだぜ」

 

土御門と弦太郎から声をかけられる

二人の顔は、小さく笑んでいた

それは友達に向けるような、そんな笑み

 

そんな彼らを―――三人ほど、美琴に似た女の子がそれを見ていた

 

◇◇◇

 

「ふむふむなるほどー」

 

頷くと共に頭のアホ毛が揺れる

やがて彼女はベッドで寝転がってる一人の男性に向かって口を開いた

 

「なんだか大変なことになってるっぽい? ってミサカはミサカはわざわざ大きめな声で口に出してみたり!」

 

そう言ってくるくると女の子―――打ち止め(ラストオーダー)はにこやかに笑いながら回る

 

「…せェな、独り言ってレベルじゃァねェぞ、ったく」

「そんなこと言うもんじゃねぇぞアクセラ。元気な事は、良い事だろう」

 

寝返りをうつ少年―――一方通行(アクセラレータ)と、彼が寝ているベッドの付近の椅子に座り読書に耽っている男―――浅倉涼

そんな二人の男性を見て、打ち止め(ラストオーダー)は大きく笑みを浮かべた―――

 

◇◇◇

 

独房に一人の男と女がいた

一人は名護慶介、もう一人はシャットアウラである

 

「…、」

 

特に会話はない

無駄にしゃべると変に消耗してしまうからだと二人は察していた

シャットアウラの脳裏には、レディリーから言われた言葉が再生される

 

―――貴女の父親以外が助かるなんて―――

―――それを奇跡と呼ばずに―――

 

ギリ、と歯を食いしばる

そんな時、独房の外で何かが殴られる音がした

数秒の後、扉が開かれる

 

「…名護さんがこんなミスするなんて珍しいですね」

 

入ってきた人影は一瞬透明になったと思ったらそれが割れるように弾け飛び、そこに一人の青年が姿を現す

 

「…面倒をかけた、ワタルくん」

 

その青年の名はワタル、という名前らしい

ワタルはシャットアウラを見ると徐に懐から何かを取り出した

それは掴まる際に落としたイクサナックルだった

 

「それは―――」

「君のでしょ? 黒鴉の人たちが予備を持ってきてくれたんだ」

 

シャットアウラの拘束を解きながら、彼女の前にナックルを置く

縄が解かれて、シャットアウラはそのナックルを掴んだ

そして名護を見て

 

「…いつ仲間を呼んだんですか?」

「靴に仕込んであったんだ。こういうことが、万が一にでもあるかもと思ってね」

 

…この人は無駄に用意周到だ

思わず、本当に思わず小さく苦笑いをしてしまった

 

「ここまでは黒鴉の人たちの助力で来れたようなものです。今も外にいるから、シャットアウラさん」

「あぁ。助かる」

 

ワタルにそう短く返答してシャットアウラは外で待機している部下と合流する

後ろにワタルと名護がいるのを確認すると会話を切りだした

 

「状況は」

「レディリー達はすでに宇宙に発ったようです。作戦は第四フェーズへ移行…警備員(アンチスキル)の一部体が向かってます」

「…宇宙(うえ)に行く準備は」

「できてます」

 

 

彼女たちの後をついていき、たどり着いたのはポッドのある部屋だった

中心にある天高くそびえる塔を奔るように、ポッドが準備されている

いつものスーツの上から宇宙服を着込んだシャットアウラはそれに乗り込むと、ちらりと己の部下を見やった

 

「これから私は決着をつけに行く。…誰も上にあげるな。たとえそれが、名護さんでも」

 

言いつつ、彼女は部下の後ろにいる名護へと視線を向ける

そんな事を言われると予想していたのか、名護は頷くと

 

「…無茶はしないように」

「分かってます。…では」

 

そう短く会話をなした後、ポッドはまっすぐ上に向かって射出された

辺りには、しんとした空気が漂う

 

「ではワタルくん、我々も我々の戦いをしよう」

「えぇ、名護さん」

 

頷いて二人は外へと歩く

彼女が彼女の戦いをするのなら、自分たちは自分たちの戦いをするまでだ―――

 

◇◇◇

 

宇宙エレベーター

すでに建設された内部では大勢の観客で賑わっている

その観客の大勢は、鳴護アリサのコンサートを楽しみにしているのが大半だ

 

そんなある一室にて

鳴護アリサは宙に浮きながら、体育座りのポーズをしていた

いまいる場所は宇宙、故に自分の身体はふわりと浮いている

 

「…奇跡」

 

何の気なしにアリサはその単語を口にした

あの時、あの場所で目を覚ました時、レディリーから言われた言葉

 

―――私の為に歌ってくれない? 貴女の奇跡の歌を―――

 

ぎゅ、と拳を握りしめる

そして彼女は、呟いた

どこまでも自分に優しくしてくれた…ツンツン頭が特徴な一人の少年の名前

 

「当麻くん…」

 

…どうしてこうなってしまうのだろう

自分が歌って、それを聞いてくれる人たちが喜んでくれるならそれだけでいいと思っていたのに

 

「まだ悩んでいるの?」

 

その時扉が開かれて。そこからレディリーはこちらに向かって宙を移動してきた

その表情には、僅かなながら歪み(えみ)が見える

 

「道端で歌っていた貴女に、こんなに大きな舞台を提供してあげたというのに。嫌ならそれでも構わないわ。ただそうなった時、この会場に来てる客は全員死ぬことになるけど」

 

アリサの表情は見えない

しかしある決意をした彼女はかつ、とガラスに足をつけレディリーを見る

そして答えた

 

「歌います。けどそれは自分の為でも、ましてや貴女の為でもない」

 

覚悟を持った瞳を、アリサは向ける

 

「私の歌を楽しみにしてくれている皆の為です…!」

 

その言葉を聞いたレディリーはまた小さく微笑む

構わずに、アリサは続けた

 

「あの人たちのために、私は歌います。…貴女が何を企んでようと、…その企みを上回る、奇跡の歌を―――!」

 

◇◇◇

 

「あのエレベーターが?」

 

<あぁ、先日誘拐された子がすでに宇宙にいるらしくてね。…ついでに知人から聞いた情報だと、それを使った大規模魔術を企ててるとかなんとか>

 

携帯を片手に蒼崎橙子からの報告を受けていた本郷猛は不意に建物につけられている大画面へと見やった

そう言えば今日は完成記念式典だかで何人もの一般客が宇宙に上がっているそうな

 

「もしそれが事実なら止めなければいけないな」

<あぁ。けど、宇宙の方は心配しないでくれ、私の連れが友人と共に止めに行く。…だから、貴方は地上の…警備員(アンチスキル)の援護をしてやってくれないか>

「あぁ分かった、引き受けよう」

<助かる。…ではまた後で>

 

しかし、引き受けようと言ってはみたものの

 

「…はたして間に合うか、だな」

 

今、自分は数十人のライオトルーパーに囲まれている

前回襲撃してきた奴らとは違い、今度は生気がない

恐らく人形と一緒だろう

 

「いや…間に合うかではない。間に合わせるっ!」

 

拳を握りしめ、本郷はライオトルーパーの集団へと突き進む

いくつかの拳打を手で捌き、繰り出された拳を掴み投げ飛ばす

そうして何人かを退けて、一度距離を取った本郷は右手を左斜めへと突き出した

それと同時に左手は己の腰へと

 

「―――ライダァァ…!」

 

そう言いながらゆっくりと半月を描くように右手を動かし―――

 

「―――変身!」

 

左手を今度は右斜めへと一気に突き出し、逆に右の拳を腰へと持っていく

 

「トォッ!!」

 

一連の動作の後、本郷は大きく跳躍した

眩い閃光が身体を包み、空中で回転しつつ、〝その男〟は着地した

 

全ての始まりにして、終わる事のない系譜

銀色の両手両足、二本のシルバーライン、深紅のマフラー

 

その男は―――

 

その男の名は―――

 

「―――()くぞ!」

 

―――仮面ライダー

 

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