「試合をしたいとな?」
「…はい」
「しかし、独歩よ、おぬしの相手となる闘士となるとそれ相応の実力者を用意せにゃならんしのう…」
「バキでも花山でも、烈でも、あの渋川のじいさんでも…誰でもいい、お願いします。」
「しかしまたどうして」
「欠伸です…」
「欠伸??」
「欠伸が止まらんのです…」
手入れの行き届いた広さも十分な美しい日本庭園が広がる庭先を一望出来る、大きなお屋敷の応接間であろうか。和服を召したこのご老人はご存知、徳川家13代当主の徳川光成氏である。向き合う眼帯をした漢は武神とも呼び声高い神心会空手の総帥、愚地独歩。
刃牙同様にこの漢も何かの欠けた日々に辟易していたのであった。
光成「おぬしで何人目かのう…」
独歩「はて…?」
光成「先日は烈が、そして今朝は渋川が家に来てのぉ、試合を組んで欲しいとワシに言いに来たんじゃよ」
独歩「あの烈と渋川のじいさんが」
光成「理由は独歩、おぬしと同じじゃった…それにそれだけではないぞ?鎬昂昇も、兄の紅葉もジャックも、克己もガイアも…烈に至っては今日も来ると…」
トントンッ
「失礼致します!旦那様、花山様がいらっしゃいました!」
光成「な?一体何が起こっているのやら…連日大忙しじゃわい」
独歩「克己の野郎、俺に黙って…ですが皆が皆、一様に何かを感じているということですな。」
「旦那様、先ほどあちらからもご連絡がありまして、例のその…機体が帰ってきたとのことです!」
光成「なにぃ!?地上最強の生物の凱旋か、出迎えねばな!」
独歩「オーガですか?」
光成「まぁ説明は後じゃ、独歩と花山もついてきてくれ」
「それが少し様子がおかしいようで…」
使用人が言葉を発しようとするも、だまらっしゃいッッ!!とその口を強引に閉ざさせる。
小さな身体を弾ませながら、この場にいる2人を驚かせたいとでも思っているのだろう。笑顔でくしゃくしゃになりそうな顔を必死で抑えている様は滑稽である。
光成(予定より随分早いが勇次郎が帰ってきたんじゃ!!ふふっふ…奴の武勇伝を何よりも楽しみにしておったのはワシじゃからな!)
訝しげな顔をしながらも光成に尻を叩かれ、言われるがままに車に乗車するしかない2人。光成を乗せたハイヤーの後ろを走る車の後部座席に2人が乗る。
独歩「なぁ…アンタも感じているんだろう…?」
花山「……………(コクリ)」
独歩「鬼が出るか蛇が出るか…まぁもう少ししたら答えが出ると思うが…」
花山「……はい」
そこからの会話は一切なかった。
光成が面白いものを見せるなど言う際に面白かった試しがない事は同乗する2人が良く知っている。それにこの気配が尋常ならざる者であることは身体が感じており、武者震いなのか震えなのかガタガタと揺れる身体を必死に抑えていた…。
奇しくもこの瞬間、ここ、東京にいる猛者達を日々悩ませていた欠伸は皆一様にピッタリと止まったのであった…
内側から番号を入力してロックを解除する。
クロロ「4、5、4、5 (シコシコ)」
ウボー「4!5!4!5!(シコシコ)」
マチ 「4、5、4、5 (…………)」
コル 「4545 (シコシコ)」
ついに勇次郎がやってきた世界に降り立つ幻影旅団の5名。
シズク「あ~~!番号忘れちゃった、、マチなんだっけ?」
ウボー「おい、マチ教えてやれよ!デカイ声じゃないと聞こえないぜ」
マチが何故かウボォーギンを小突くがシズクの護衛を任されている身としては仕方がない。
マチ 「4、5、4、5…」
シズク「え??なに??」
マチ 「あぁーもう!4!5!4!5!シコシコよ!!!」
ガハハと大笑いするウボォーギン、無事にロックを解除したシズクはマチにお礼を言う。
戯れは終わったか?と確認をしながら「盗賊の極意(スキルハンター)」を発動した。
「不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)」
具現化した風呂敷に物体を小さくして包み込む事が出来る能力。
能力を使用し機体を包み込み、親指大となったサイズの風呂敷を懐にしまい込む。
戯れ合っているように見えるがさすがは幻影旅団、一様に辺りへの警戒は怠らない。
クロロ「身体に異常があるものはいるか?」
ウボー「全く問題ねぇ!空気もうめぇし良い所だな」
シズク「あのー身体が凄く重いんですけど…」
マチとコルトピもシズクに同意する。
クロロ「同感だ。おそらく重力が違うのだろうな…だが目的に変更はない。なるべく早くに事を済ませる。」
クロロ「コルトピ、お前の念能力でアジトから持って来た石のコピーの場所は感じられるか?」
コル 「…………(首を横に振る)」
クロロが思考する…コルトピの能力でコピーしたものは円の役割も果たす。こちらの世界に来る前にアジトの石をコピーさせ、オリジナルの石を持って来させていたのだった。自身の世界でも未だに未開拓な部分を大きく占めることを知っていたクロロは、この世界が時空間での移動ではなく互いに干渉されていない場合の事を考えていたのであった。つまりは世界地図には載っていない部分、暗黒大陸のどこかであると。
その方がクロロの持つ常識には近く、むしろそちらを願ったようであったが、コルトピの能力でも感知出来ないということは恐らく本当に時空を飛び越えて来たのであろう…おや?武装をした軍人が2名走ってくる。
何やら穏やかではないな。銃口を突きつけてくる。話をする必要もないだろう。
マチに合図を出すと、その場に居た2名の首が締まり、そして、倒れた。
念糸(ネンシ)
マチはオーラを糸状に変化させる能力を使用する。糸の強度は長さと反比例し1メートル以内ならば1トン位の重量を吊れる程の強度となり、逆に木綿糸程度まで強度を弱めれば、地球を一周するほどの長さを紡ぐことも可能。ただし念糸が手元から離れると強度は極端に落ちる。
追跡や拘束、縫合治療、絞殺など、様々な用途に利用でき、応用の幅は広い。
糸により首を絞めたのだが、普段とは違う重力のせいか思うようには動けず、絞め落とすのにいつも以上に時間が掛かってしまった。そうこうしていると車が2台やってきた。こちらの世界の車ともそう大差はないのだな…。面白いものだ。おや?
光成「おぬしら、このワシの私有地で何をしておるんじゃあッッ!!!」
なにやら小柄の男が啖呵を切ってくる。身なりは和風であるが自身の世界でのマフィアのような迫力がある。同じ穴の狢であろう…後ろに続く車から出て来た2名を見てそれが確信に変わった。見るからに堅気ではなさそうな佇まい
そして、この2名は先ほどの者とは違う。いや…気のせいかもしれない…ただ少し気になる存在ではあるな…右目に眼帯をした男がその小柄な男を制し、後ろに下がるよう促す、交渉相手はこの男か?
独歩 「あんたらは一体何者だ…?ここはあそこにいるジッちゃんの土地なんだが…」
クロロ「失礼、散歩をしていたら迷い込んでしまったようだ」
独歩 「そうか、散歩なら仕方ねーーなッッッッ!!!!!」
とても親しげな笑顔を浮かべながら近づき、言葉を言い終える前に左手の手刀をクロロに放つ独歩、それがクロロに届くより早く間に入り、両腕をクロスにして受け止める。ウボォーギン。
ウボォーギンに手刀を落としたまま嗤う独歩が言い放つ
独歩 「おいおい、そんな闘気を帯びてて呑気にお散歩にしゃれこもうなんて事はないだろう。後ろの2人がやられるところも見てたぜ…?」
クロロ「悪いな、この世界の作法にはまだ慣れていないんだ」
独歩 「この世界の作法だぁ…??兄ちゃんよぉ冗談が通じる相手に見えるか…?解るぜ…5人が5人とも…。並じゃねぇ…」
ウボー「カッカッカ!!この世界にも好戦的な野郎が居たもんだなぁ!団長、殺っちまっていいんだろ?」
クロロ「構わん」
クロロはそういいながら、その場を離れ、空を見上げていた
花山 (………グググッッッ!!!)
ウボォーギンとクロロが言葉を交わしている間に花山は独歩の後ろで全身全霊を込めた右の拳を放つべく身体を屈め、グググッッと腰を捻っていた。独歩は屈んで、手刀を受け止めるウボォーギンの膝を踏み台にし、後方宙返りをして花山の後ろに着地する。この状況を想定していた訳でも打ち合わせをした訳でもない2人であったが、独歩が着地をする前に花山の拳はウボォーギンの顔面を捉えていた。
独歩「即席のチームプレイだぜッッ…!!!」
伝説の喧嘩師、花山薫の放つ全力の右ストレートなど絶対に受けたくはない。それ以前に受けが通用しないということは最大トーナメントで証明されている。覚醒前とは言え、空手会のリーサルウェポンともてはやされていた養子の克己が防御に徹していたのに大ダメージを受けたのであった。気の毒に…っと相手の心配さえもした独歩であったが土煙の中でその男は嗤っていた。
受けた拳の衝撃で垂れだした鼻血を舌で舐めながら、そこに確かに立っていた…。
衝撃で2メートルは後方へ動いてはいたが、上体を屈めるでもなくただただそこに立っている。
独歩(バカなッッ!!!ノーダメージだと!??)
撃ち込んだ花山でさえ、この異常とも言える状態を理解することが出来ずにいる
ウボー「さすがにイテェぜッ……念なしならヤバかったかもなぁッッッッッ!!!」
ウボォーギンの反撃により今度は花山が後方10メートルまで吹き飛び…そして倒れた…。今度は独歩に狙いを澄まし、蹴りを放つウボォーギン。
独歩「廻し受けッッッッ!!!!」
そのダイナミックな蹴りを絶対防御の廻し受けで受け流し、同時に正中線に対して四連突きを敢行する…
独歩「馬鹿な……」
またもやウボォーギンにダメージは伺えない…
独歩が意識を失う前、その耳で最後に聞いたのは、マチがウボォーギンに対して言った「アンタ時間掛け過ぎ」という言葉であった。マチの手刀を延髄に食らった独歩はその場で意識を失う。その後にお返しだとばかりにウボォーギンに踏みつけられたが、そこに既に意識は無かった。目の前で繰り広げられた惨劇を理解出来ずにいる光成はその場で膝をつき、声にならない声をあげている。
クロロ「集まってくると面倒だ、行くぞ」
行く宛がある訳でもないが、クロロはその場を離れることにした。時間が限られていることもあるがそれ以上に知りたい事が多すぎる。
先ほどの2名に関しても疑問がある。先の男のあの気迫とパンチ力は常軌を逸していた。
ウボォーギンであっても生身の状態であれば深いダメージを負ったことであろう。そして本気ではないにしてもウボォーギンの攻撃を受け流せる者などもそういない…クロロを持ってしても受け流した男の研ぎすまされた体術は賞賛に値する。だが、あれほどのポテンシャルを持った2人が念を纏ってさえいない垂れ流しの状態であった…生身で対応してさえいたらもっと時間が掛かったであろうから咎めることではないが、マチとウボォーが攻撃に転じた際に幾ばくかのオーラを纏っていたことがただの杞憂である事を祈る。
今はそれよりも知的な好奇心の方が勝っていたのだ。
数時間街を徘徊したクロロ達。最初は目に映るものが全て新鮮に思えたが、映る町並みや人などはさしたる変化はなさそうであった。時折携帯電話のようなものでパシャパシャ写真を撮られたりしたが、おそらく服装などが少し異なって見えたのだろう。
その程度はどうにでもなる。それにしてもこの世界は醜女ばかりが徘徊している…美に関しての異なった認識を調べてみる価値もあるだろう…
街中では念能力者とすれ違うことがなかった。先ほどの2名は恐らくこの世界では名うての実力者だったのであろうかと推測する。念能力を持っているのであれば十分に警戒に値するが、オーラも纏わずに攻撃してくる者に関してはいかに重力が強く、思うように動けなくなっていたとしてもさしたる危険はなさそうであった。
大型の書店を見つけたクロロは面倒を起こさないようにと特にウボォーギンに対して忠告をし、各自自由に散って欲しい物と情報を集めるように指令を出した。