勇次郎「なにぃッッ!??」
勇次郎は困惑していた。この世界には不可解な事が多すぎる。以前居た世界では自分の思い通りにならないことなどまずなかった。全て腕力で片付けることが出来たからだ。
だがこの世界は違う…夜叉猿が姿を変えたかの様にも見える状況であるが勇次郎は見逃さなかった。この黒い念獣が現れる前に夜叉猿の姿は一瞬消えていたのだ。姿を変えたならば消えることはない。姿を消した一瞬。いや、入れ替わったと言った方が正確なのかもしれない。
オーラを纏うこの念獣の姿は確実にこの力やあの力。勇次郎に生涯で初めての敗北を味わせたネテロが使っていたもの。つまり念能力というものに違いない。
面白くない…そう思う反面、範馬勇次郎は自分よりも遥かに力が劣る者でも能力を使い強者と擬態するその心意気に奇しくも面白さを感じ初めていた。必要以上にこの夜叉猿を痛めつけていたのも、この念という能力を使って出来る事と出来ない事を確認する為ではあったが追いつめられる程に新たな力で抵抗してくるこの野生の獣との戦いに楽しさを感じ始めていたからであった。
最初は勇次郎の居た世界同様に運動神経と筋力にものを謂わせての攻防に徹していた夜叉猿であったが、追いつめられると音の塊を口から飛ばして来たり、念弾というのだろうか?オーラの塊を飛ばしてきた。そして最終的には振動までをも伝えてくるまでに念弾の精度は短時間で飛躍的に向上していったのだった。
最も音の塊を飛ばす事になったのは途中で邪魔をして来た男の影響が強いのであろう。
包帯でぐるぐる巻きの男は、その包帯とグローブを取ると身体に空いた穴から音を発して、踊りながら奏でた音を戦闘力に替えて立ち向かってきた。
纏う衣服も音によって変化したりと多種多様なオーラの動きは念能力に目覚めたばかりの勇次郎には全てが新しく、参考にもなった。今までは身体に纏うだけであったオーラを増幅したり(練)攻撃に転じる際にオーラの攻防力を移動する術(流)などはすぐにでも応用が効きそうで心が踊った。
全てを見せて欲しかったがその包帯を巻いていた男が放った技。「木星(ジュピター)」を受けた際に膨大なオーラの総量を持つ勇次郎であっても練で増量していなかった状態ではさすがにダメージを受けてしまった。音速で放たれた膨大なオーラの塊に怒りを覚えた勇次郎は本気で反撃をしてしまい、その男が再び起き上がることはなかった。
少し残念だと思いながらもまた夜叉猿と戯れることにした。その後で出会った2名。一人は身体に纏うオーラの範囲を必要域まで広げ(円)そして刀にオーラを強く纏っていた。物質にオーラを纏う事は(周)という。そんな事も可能なのかと思っていたら、今度はもう一人の手にした銃から弾丸が飛んで来た。銃自体もあれは恐らく念の塊。イメージでつくりあげたものだろう。その弾丸の一発一発にも十分な殺傷力を秘めていた。
そして今の状況だ。恐らく何者かの念能力であるこのゴリラ。瞬間的に夜叉猿と入れ替わり挑発的な顔をこちらに向けている。夜叉猿は身体からオーラを放っていたが、このゴリラは存在そのものがオーラの塊のようである。念で出来ているような印象を受けた。だが立ち向かってくるようなそぶりは見せず少し距離を取りこちらの様子を伺っているだけだ、勇次郎が距離を詰めるとその距離分離れた。戦うという気はないのかもしれない。
勇次郎「ハハハハハハハハハ」
歯茎をむき出しにしながら勇次郎は嗤う。その笑顔は本心からのものであろう。
異なる世界にきて、目覚めた力、そして強さの質の違い。全てを受け入れたこの地上最強の男が目指す強さとは…嬉々とした貌の奥に一瞬の怒気を覗かせると。オーラを込めた拳で大地を殴った…
けたたましい音が森の中で響き渡る…
ゴレイヌ「地震かッッッ!??」
夜叉猿を背に抱え、既に大分離れた位置に居た筈のゴレイヌが歩みを止める程の揺れを感じた。
勇次郎「下らんッッッ!!!」
誰に対しての言葉なのか。それは愚問であろう。目の前に居るのはゴリラ型の念獣であったが決してそれに対してではない。既に視線は他を見ている。この世界に生きるもの、全てに対してのアンチテーゼ。地面に空いた巨大な穴の中でその念獣に背を向け、その場を去る。勇次郎は謂う…
勇次郎「闘争とは力の解放だ、力みなくして解放のカタルシスはありえねェ」
その漢の身体を包み込むように激情の赤い色をした鬼の貌が浮かんでいた…その鬼が睨み付けるのはこの世界の全てなのかもしれない…
サトツ「おや、目覚めましたか」
ゴンが目を醒すと目の前には1次試験の試験官をつとめたサトツの顔があった。
記憶が混同している。ここは?と聞くと最終試験会場横の控え室ですと丁寧に答えてくれた。それを聞き、ゴンはハンター試験の最中に気を失ったことを認識した。
スッと差し出された手と共に
サトツ「合格おめでとうございます」
ゴン 「あーぁ結局負けちゃったのか、ありがとう!」
ガッチリと握手を交わした。
ゴン 「あ、他の人はどうなったの?まだ試験の最中でしょ?」
サトツ「いえ、もう試験は終了しました」
ゴン 「本当に!?」
サトツ「ええ、君はほぼ丸一日寝てたんですよ」
ゴン 「誰が…落ちたの?」
それは…と遠くを見ながらサトツが語りだした。
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4次試験終了から3日後、ここまでの試験を勝ち残った受験生は委員会が経営するホテルに集められていた。配慮により最終試験が終了するまで貸し切りとなっている事をネテロが伝えた。
ネテロ「最終試験は1対1のトーナメント形式で行う、その組み合わせはこうじゃ」
ボードに目隠しとして被せられた布を捲られると。そこにはトーナメント表が書かれていた。それもずいぶんと偏ったものだ。クリア条件は至って明白、たった1勝で合格である。つまりこのトーナメントで勝ち残ったものが一人ずつ抜けていき、最後まで残った者が不合格となる。このトーナメント表によると不合格者はたった一人。そして誰しもが2回以上戦うチャンスを与えられている。
ただ場所によっては5回も戦えるチャンスがある所もあったりと、偏りがあった。
それに誰が誰と戦うかも未だ明かされていない。チャンスの多可は今までの試験の成績とネテロの独断による所が大きいということも受験生の不満を買ったがそれも協会の会長である権力で押し通した。
ネテロ「武術性を重要視するためッッ!公平を期すためッッ!敢えて一回戦ずつの発表とさせて頂くッ!」
対戦カードが既に公平ではないのにここで配慮されても仕方ないと思う一同であったが、きっとそうしたかったのであろう。ネテロが一回戦のカードを捲ると294番と405番と書かれていた。つまり初戦からハンゾーとゴンの戦いとなった。勝敗は相手に参ったと言わせる。ただし相手を死に至らしめてしまったらその時点で失格。ルールを聞いてバツの悪そうな顔をするハンゾーであった。
審判「それでは相手を死に至らしめる以外一切を認めますッッ!第一試合ハンゾーvsゴン、開始ッッッ!!!」
開戦を告げるドラが鳴り響いた。
ゴンがスピードでかく乱するもその上を行くハンゾー。すぐに追いつかれて捕まってしまった。その状態でハンゾーがゴンに投げ掛ける。
半蔵「待て、待て、お前と戦う気はないっつーの!」
ゴン「え?なんで?これが最終試験だよ?」
ハンゾーはネテロの方を向き質問を投げ掛けた。
半蔵 「別に勝負の方法は双方が合意したら何だっていいんだよな?」
ネテロ「あぁ、構わんぞ」
ハンゾーは胸を撫で下ろし、ゴンに言う。
半蔵「オレは正直今のお前と戦っても負ける気は全くない、だが、お前に参ったと言わせる術も思いつかねぇ、だからケガもさせたくねーし、ここは一つじゃんけんで勝負するっていうのはどうだ?」
ゴン「ジャンケン!?」
半蔵「あぁ、シンプルで一番勝敗が解り易いだろ、どっちかが勝てば合格、負けたらそのまま2回戦だ」
ゴン「うーん、ジャンケン好きだけど。戦って負ける気がないっていうのがちょっと気になる」
半蔵「今までの試験や、さっきの動きで実力の差はわかっただろ?」
ゴン「ハンゾーが強いのは知ってるよ、オレにケガさせないように気にしてるっていうのもわかる。だからムカつくんだ」
半蔵「おいおい、これ以上の譲歩はな…」
ゴン「違うよ!ムカつくのはハンゾーに気を使わせてる自分の弱さ!だから…本気でジャンケンをしよう」
ハンゾーの言葉を遮るように、ゴンが言ったが、本気のジャンケン?少し心当たりがあるが……
半蔵「ようやく納得してくれたか」
半蔵がゆっくりと手を前に出し、ゴンに向かって最初はグーと言葉を投げ掛けると。ゴンは腰を屈めオーラを身体に纏っていた。今でこそまだ稚拙なオーラではあるが念能力に目覚めたばかりのハンゾーにとっても、その状態で攻撃されることの恐ろしさは先の実験を通して良く解っている。しかも心なしかそのオーラが少し拳辺りに向かって集まっていくような気がしないでもない。
ヒソカ「へぇ…♥」
見守るヒソカの目が少し虚ろになっている。
半蔵「おい、ゴン!お前どんだけ負けず嫌いなんだよッ!!」
その言葉を遮るようにゴンが続ける
ゴン「最初はグー!ジャンケン・・グー!!!」
ゴンがオーラを込めた拳をハンゾーに向かって見舞うが半蔵は既にゴンの後ろに回っていた。
半蔵「悪いな、ゴン。オレはパーだ。」
そう言ってゴンの首元に手刀を見舞いゴンの意識を失わせた。「参った。俺の負けだ。」とその後にハンゾーは審判に告げ2回戦に進む。ゴンは意識を失いながらもこの時点でハンター試験に合格した。