天空闘技場から80kmほど離れた荒野とはまさにこのような場所を言うのではないかと思うほどの見事な荒野。都心部から出て山を2つ3つ越えた先にある其処には視界に目に入る建物や道路さえない。広大な大地と星空がただただ広がっていた。人など居るはずもないようなその場で焚き火を囲むように談笑する6名。
刃牙「そん時なんて言ったと思う??’’撫でてやる、きなさい’’って喧嘩の最中だぜ?」
表情を変えながらオーバーリアクションで声を荒げて話す刃牙に対して、ゴンとキルアはお腹を抱えながら爆笑している。
キルア「ちょっバキ、お前その顔なんだよ!おっさんも撫でてやるってッ!ハハハハッッ腹いてぇー」
ゴン「アハハハッ!!バキのおじさんの真似似過ぎだよッ!!」
独歩「俺も見ていたがあれはヒデェって思ったぜ」
ビスケ「ちょっとドッポ!あんた見てたんなら止めてあげなさいよ!」
独歩「止められるかよッッ!!」
渋川「ありゃ誰にも止められん、ヒッヒッヒ」
火を囲みながら談笑する6名はこの場を拠点に日夜激しい鍛錬を行っている。ビスケを除く5名は天空闘技場の200階クラスの闘士なので立派な部屋をあてがわれているのだが、週のほとんどをこの場で過ごしていた。幸い10kmほど行ったところには泉や森もあり、今ではそこにお手製のベットを作るほどこの修行生活を満喫しているほどであった。ビスケも最初は80kmの距離を行き来することで5名の基礎体力の強化などを狙っていたのであるが、もうその心配などはしていないようだ。
もっともビスケだけは時折シャワーを浴びに天空闘技場へ帰ったり街で必要なものを買いに行ったりと行き来をしているようであった、独歩が森から持ってきていた薪を火に焚べる。今日は各自が系統別の修行が終わった後にビスケが買ってきたスコップをオーラで纏い、そのスコップで穴を掘り、その穴が制限時間内に一番小さく、浅かったものが皆が掘った穴を埋め、残りの4人はまた制限時間内に穴を掘り、それが最後の一人になるまで続けられるとまた5人で誰が大きく、深い穴を掘れるかを子供のように延々と競い合っていた。物体を体の延長としてオーラを纏う術は周と呼ばれ、今日はそれを行っていたのであった。
渋川が刃牙へ花山薫もこの世界に来ていて、この後も続々と続く者がいるだろうという事を伝えるととても嬉しそうに笑っていた。同時に末堂厚と加藤清澄の死亡も伝えられるとウボォーギンの事を思い出したのかより一層気を引き締めて明日からも頑張ろうと皆に喝を入れた。
談笑をしながら各々のことを知り、絆が深まっていくのを皆が皆感じていた。
が、その刹那、空気が一瞬張り詰める____
聞こえる音はパチパチと音を立てて燃える薪の音のみ、談笑をしていたはずの6名は臨戦態勢に入った。いつでも動くことができるように体にオーラを纏い、有事に備える。
ちょうど刃牙の背に位置する方向の暗闇の先からこの燃え盛る炎にまっすぐに近づいてくる気配を感じた。
徐々に大地を踏みしめる音さえ聞こえてくる。足音や気配を隠すことさえもしないその人物へ独歩が先端に火の点いた蒔を投げる、それを苦もなく片手でキャッチしたその人物の姿が照らされる。
独特な衣装に身を包み笑みを浮かべた佇まいは言うなれば絵画のように幻想的でさえあった。現実感のないピエロのような衣装にメイクアップされたその真っ白な白い肌には頬の部分に涙と星をあしらっていた。星空をバックに燃え上がる炎がその死神の顔を揺れる度に照らす。
ゴン「ヒソカ!!??」
5人が後方へ下り、焚き火を挟むように一斉にヒソカに対して体を向ける。動かなかったのはビスケだけであった。
渋川「なんじゃ・・・こやつは・・・」
禍々しいオーラを纏いつつ、狂気的な笑みこちらへ視線を向けるその死神の姿は最早、人と呼んでいいのかさえ躊躇われた。
キルア「こいつがヒソカだよ、ゴンがプレートを返したいって言ってたやつ・・」
独歩「コイツが………??」
ヒソカ「くくくくく、こんなところにいたんだ♥臨戦態勢になるとよくわかる…♣キミたち皆、ずいぶん成長したんじゃないかい?良い師に巡り会えたようだね♥」
瞬間、ヒソカがゴンに対して距離を詰め、子供をあやす際に視線を合わせるためにしゃがみ込むのと同じように、ゴンの前にしゃがみ込み、まるで繊細な陶器を扱うかのように優しくその頬をそっと撫でた。
ヒソカを初めて見た時のゾクゾクとした感覚が蘇る。そのまっすぐな瞳はヒソカの眼を一心に見据えていた。その大きな瞳の奥に何かを観たのかヒソカは語りかける
ヒソカ「暫く天空闘技場にいないからフラれちゃったのかと思ったよ・・♥約束は覚えているかい?♥」
ゴン 「うん!オレはいつでもいいよ!!」
ヒソカ「いい子だ♥今のキミとならあそこ(天空闘技場)で戦うのは勿体無いね、1週間後の同じ時間にこの場でどうだい?♦」
ゴン 「いいよ!わかった!連絡しないでごめんね。来てくれてありがとう!!」
そのやりとりにキルアと刃牙が冷や汗を垂れ流す。立ち上がり、笑顔になったヒソカは暗闇の中へ消えていこうとしたが一人だけ炎の前でお行儀よく座っていたビスケがヒソカに声を掛ける。
ビスケ「わかってると思うけど、殺し合いならさせないわよ?あくまで試合形式ってことなら認めるけど」
ヒソカ「キミが彼らの師だね♥そんなに勿体無いことしないよ、くっくく、キミならよくわかっているだろう・・♥」
そして、死神の後ろ姿は闇と同化していった。
気配を感じられなくなってからしばらくして、キルア、刃牙、渋川がその場にへたり込む、突然の来訪者は光の届かない水面さえ見えない湖の底でずっと息を止めていたかのような錯覚さえ覚えさせた。歪みに歪んだ禍々しいオーラ。その一端に触れてしまったのだから無理はない。念を覚えてからビスケ以外では初めて目にした強者が纏うオーラだ。そしてその質は極めて特殊なもの。
キルア「ゴン!あんな約束して大丈夫なのかよ!?」
ゴン 「こっちから言ったことだし、まぁなんとかなるでしょ!」
キルアの心配にあっけらかんと話すゴンだがその顔にはやはり少しの強張りが伺えた。
ビスケに鍛えられ念というものの奥深さを知った、そして成長したゴンが改めて見たヒソカとの実力差は以前より実力をつけたゴンであるからこそ、その差はさらに広がっていたことを感じた。
刃牙 「1週間か・・・・」
ビスケ「話には聞いてたけどアイツ相当強いわさね、今のアンタじゃ勝てないことはわかってるわね?胸を借りるつもりで思いっ切りやってきなさい!明日からはアンタだけ別メニューにしてあげる」
ゴン 「うん!!ありがとう!」
キルア「ヒソカとやる前に死ぬなよゴン………」
ゴン 「へへへ……頑張るよ、あれ・・?ドッポがいないんだけど・・・?」
渋川 「あやつもしやッッッ!!?」
ヒソカ「ここまで離れればいいだろう?♥そろそろ姿を現したらどうだい?♥」
暗闇を進む死神の後ろ姿を2度、その目に捉えたこの漢は今度はその背を逃すまいと後をつけていた、天空闘技場で戦ったカストロ戦では最後の最後で茶々を入れられた。その相手が今目の前にいる。
独歩「気を使わせちまったみたいだな・・ゴンにはワリィとは思ったんだがこちとら借りがある」
強張った顔に少しの緊張が窺えるが、その体には以前とは比べものいならないような洗練されたオーラを纏い、構えた。それを迎え入れるかのようにヒソカも独歩には未だ背中を向けたままではあるがオーラを纏う、そのオーラが独歩の纏うオーラと触れた瞬間に独歩が見るからに年下であろうこの男に明らかな格上に対して行うように自ら名乗る。
独歩「愚地独歩です・・・・・」
対峙し、そのオーラに触れた瞬間に分かったのであろうその実力の差。だがこの漢の空手は後退のネジを外してある。ヒソカが独歩の方へ振り返る、静かな暗闇の中で対峙する二人、死神は笑いながら視線を合わせた。
ヒソカ「借りってこの前の試合の事を言っているのかい?あれは別に君の方が面白い玩具になりそうだったからそうしたまでだよ♥」
独歩 「あんな大舞台で大恥をかかされちまった・・・」
ヒソカ「くっくくく、律儀なことだ♥ただ可笑しいな、ボクの記憶が確かなら、キミは勝算のないケンカはしないはず。違ったかい?♦」
独歩 「……………」
ユラユラと揺れながら畝り出すヒソカのオーラとは対照的に独歩のオーラは堅実にその体を揺らぎなく覆っていた。その様子を見てカストロより独歩を選んだ自分の考えは間違ってなかったんだと確信が持てたヒソカは少し考えるように腕を組み、その片手を顎に添えるような仕草をした。
ヒソカ「‥‥‥‥そういえば、キミは殺さないって約束してないな♥」
口角が上がり、そのオーラを解放。まるで合図でもあったのかと思うようにその瞬間、独歩がヒソカに対して後ろ回し5段蹴りを放った。
元々はテコンドーの技で本来相当の熟練者でも空中で蹴りを放てるのはの3段、540度程であろう。5段、つまり一度の跳躍で900度もの回転をしながら強烈に放たれるその蹴りは下段を狙う右足の後ろ回し蹴りから始まり中段、中段、上段、上段とヒソカを襲う、本来の世界では独歩の体重でそれほどの動きを行うのは難しいことだったが重力が軽いこの世界では可能となる。
威力を求めなければその数倍ほど回転する回数は増やせるのであろうが、まずは小手調べ、最初の後ろ回し蹴りがヒソカの腿を掠め、そこから勢いを増していく、美しい回転は速度を速め、2段目の360度の回転を加えられた蹴りは確実にヒソカの脇腹に刺さった、次の蹴りはガードされたが、720度目の蹴りは下から、華麗にすくい上げるかのようにヒソカの顎を打ち抜いた。しかしその顎にはオーラを纏っており硬でしっかりとガードされていたようであったが、気にすることはない、最後の5段目。900度。つまり空中で2.5回転が行われ、遠心力により最も破壊力が込められた最後の蹴りがまだ放たれていないからだ。その蹴りはヒソカのこめかみに吸い込まれ、そしてその意識を確実に奪う筈である。
百戦錬磨であるはずの愚地独歩でさえ、この格上に対する先制攻撃の5段蹴りで勝利を確信していた。
4段目の回し蹴りを終え、最後の後ろ回し蹴りを放つために空中で体を捻る、足先にオーラを集中させたその瞬間、下から見下すかのようなヒソカの視線が独歩を捉えた。上から見下された経験はあれど下から見下された経験は過去にない。圧倒的有利であるはずの独歩の背筋が凍るような不気味な表情をその死神が覗かせた。
最後の蹴りを一刻も早く放たなくてはと焦る独歩に異変‥‥‥‥回転ができない____
ヒソカ「やっぱりボクの目は間違ってなかった。アバラ何本かイッちゃったよ♥」
最後の蹴りを放つ前にその身体は地面に着地してしまった………大げさに折られた脇腹を摩るような仕草をしながら目の前にいる死神は笑いながら言葉を発する。
ヒソカ「動けないだろ?そんなに回転が好きならボクが手伝ってあげようかと思ってさ♥」
体を捻り、すでにモーションに入っていた筈の独歩は目を見開き、冷や汗を垂らす、そして動けない体の状態を再確認し、異変の原因を探ると、自身の体をグルグルと螺旋状にオーラが纏われていた。
ヒソカ「最初の蹴りが脛に当たった時につけておいたんだ♥さぁメリーゴーランドだ♥素敵な景色をプレゼントするよ♥」
ヒソカ「伸縮自在の愛(バンジーガム)」
その言葉を発した瞬間に独歩の最初の蹴りで掠めた方の脛からオーラを手に渡し、オーラを掴んだその手を手動のクランクエンジンを掛けるような動作で力任せに後ろに引いた。
独歩の体は先ほどとは逆回転に夜空に瞬く星屑が線を描き出す、物凄い速度で先ほどの4倍、実に3600度ほども回転し三半規管を奪われた独歩はまるでテディベアのように地面に尻餅をついた。その視界はグルグルと回り、姿勢を保つことさえ危ぶまれるような混沌の渦に巻き込まれる。
天と地がどこにあるのかさえ分からないその意識の中で必死に体勢を保とうとしている独歩を見てヒソカは笑い、 冗談さ、キミもまだまだ殺さないよ、これなら1週間後も楽しみだ♥と上機嫌で言い残し、三度闇へ消えていった。
独歩の視界がやっとはっきりとしていたところで、後ろからビスケが駆け付けてきた。
ビスケ「このスカポンタン!!あんた無事なの!?」
独歩 「あぁ・・・・」
そのままビスケに担がれるようにして、焚き火の場所へ戻ったが、途中ビスケ同様に心配で追って来てくれたのであろう皆にも合流しこれでもかというくらい罵倒された独歩は珍しく少しは懲りた様子を見せていたのであった。