シャル「それ本気で言ってるのかい?」
末堂を前にシャルナークが驚愕した表情を見せていた。
「制約と誓約」つまりルールを決めてそれを心に誓う、「遵守する」と。そのルールが厳しい程使う技は爆発的な威力を発揮する。
先ほどまで真剣な話をしていた為、場の空気は少し重たい。その制約次第であるが末堂が行いたいと言ったことは操作系である自身を操作し、その系統を変えるというものだ。
シャル「自身を操作して自系統を変える??そんなのどれほどの制約が必要なのかも想像さえできないよ」
末堂「だが、俺がこの世界で生きていくのはもうそれしか方法がない。」
シャル「そんなことないと思うけど………だいたいもし系統を変えれたとしても、その系統で使える容量が100%なのかどうかも分からないし…それ、かなりのギャンブルだと思うよ」
末堂 「あぁ……だが俺の潜在能力でお前たちと対等になるにはそれくらいの危険な橋を渡るしかねぇんだよ……」
シャル「まぁ確かに操作系でしかできない裏技かもしれないけど…オレは操作系ってそんなに悪くないと思うけどなぁ、でも興味はあるよそれ、面白そう!ちなみにどの系統になりたいの?」
末堂「特質系に決まってらァ!!全ての系統を100%発揮できる能力、オーラを食らうほど強くなる能力、透明になれる能力、対象の能力を盗み自在に使える能力、挙げたらきりがねぇ!完全に勝ち組じゃねぇか!!」
立ち上がり、多くの人員を先導するまさに革命家のような素振りでシャルナーク一人に演説をする末堂は覚えている限りの特質系能力を口にした。きっと頭の中にはリスクのことなど既になく今は夢見る特質系になり、どんな能力を作り上げるかとしか考えていないのであろう、ポリポリと頬を人差し指で掻きながらシャルナークが疑問を投げかけた。
シャル「ストップ!ストップ!!特質系への憧れはもうわかったからさ、自系統を変更するほどの強力な制約だよ?一体どうするつもり?」
思い出したように、末堂が表情を変える。再び座り込み、そして頭を抱え込んだ。時間にしてどれくらいであろうか、集中しているのかブツブツと時折つぶやくのを対面に座るシャルナークはニコニコしながら飽きもせずに、眺めていた。すでに小一時間ほどは経過している。そして時は来た。
末堂は大げさなほどに音を立て、己の顔を両手でパンパンと叩いて立ち上がり、覚悟を決めた凛々しい顔を覗かせた。シャルナークはゴクリと息を飲み、末堂の次の言葉を今か今かと待っていた。
そして末堂厚が発したルール。それは・・・・・
末堂「一生童貞でいいッッッ!!」
意を決した覚悟、それを言ったことによってむしろ清々しい程の顔を見せていた。
シャル「アハハハッ!!スエドウ、ちょっと待って!ハハハッッ!!」
緊張と緩和。緊縛した状況からその状況からあまりにもかけ離れた現象や言動があると人は笑ってしまう。置かれていた状況と結果とのギャップが高いほど効果を発揮する。一頻り笑い終えたシャルナークが深呼吸を終え、忠告をした。
シャル「あぁ笑ったー。あのさ、制約って厳しい程効果を発揮するっていうのはわかってるかな?多分その制約はちょっと軽すぎるかと思う」
末堂 「軽いッッ!!??生物として定められた種の保存を裏切るくらいの制約だぞ??」
シャル「悪い、言葉が足りなかったかな。多分普通の人にとっては結構重い制約に入ると思う、ただ末堂にとっては重くないっていう話だよ。お分かり?」
怒りに顔を歪めた末堂であるが、今この怒りに任せてシャルナークに襲い掛かったとしても返り討ちにあうのは分かりきっている、必死に怒りを堪えるために深呼吸を行い怒りを鎮めた。
末堂 「命を掛ける・・・制約を破ったら命を掛けるッッッ!!」
言葉を絞り出すようにして発した。だが即刻の却下が言い渡された。
シャル「無理、だって条件変わってないじゃん。だいたい命掛ける掛けない以前にまず、その制約自体が軽すぎるっていう話をしてるんだって、大切なことなんだからもっと考えて話そうよ」
ガシャンッッ!!!!!
シャル「お、危なっっ!!おいおい落ち着けって!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか末堂はシャルナークに向かって全力で蹴りを放った。その蹴りは空を切りシャルナークが座っていた廃棄物を吹き飛ばしたがまだ怒りが収まっていないのか周囲にある廃棄物に対して破壊活動を行っている。それを呆れた顔で見守るシャルナークはちょっとはっきり言い過ぎたかとバツの悪そうな顔をして見守っている。
本日何度目になろうか、末堂が怒りを鎮める為の深呼吸という名の息吹を終え、再びシャルナークの対面に立った。
末堂「一生童貞を守るというのは前提条件でしかないッッ!! 俺は一生禁欲をするッッ!!もしそれを破ったら命を掛けるッッ!!これでどうだッッ!!?」
シャル「禁欲っていうのは自慰行為のことかな?」
末堂 「その通りだ!!」
シャル「ちなみに月にどれくらいするの?」
末堂 「「毎日4回、週28回、月に換算すると約112回だッッ!!」
シャル「オッケー、それなら十分な制約だ、ちなみに自覚なしのものはカウントする?」
末堂 「ん?夢精のことか?それはノーカンだ!!」
自らを追い込むようなルールを己に、このままの勢いで末堂はシャルナークにやり方を聞いた。
己を操作し、自系統を特質系へ変更する。そしてその制約はすでに話していた通りの内容だ。それを心に誓い「遵守する」と。
「遵守する」そう心で誓った瞬間に末堂厚の体を大量のオーラが包み込み、そして末堂厚は意識を失った。
シャルナークは心配で駆け寄ったが、心臓がまだ動いていることを確認し終えるとゆっくりと末堂を抱えた。本当はすぐにでも今日の出来事を仲間に話したかったが今はまだ自分の中で消化しきれていなかったし、同じ操作系だった者の好で黙っておこうと思った。ましてや命を掛けたほどの制約と誓約になるとそれは即、死へ繋がる問題だ。ふざけているようにしか見えなかったが恐らく本人は大真面目で強くなろうと純粋に思っていたのであろう。
シャル「コイツまだまだ強くなるな、きっと。」
そう呟きながら今日あった出来事を思い出し、和かな顔で本拠地へ戻っていった。
ヒソカが刃牙達の談笑中に訪れたその日、一人獲物を追うようにヒソカへ闇討ちを仕掛けた愚地独歩は皆と合流し、落ち着きを取り戻した後に対峙した際の様子をこう語っている。
独歩「勝ったと思った………これは驕りでも怠慢でもねェ……最後の蹴り、後ろ回し五段蹴りが奴の顎を打ち抜くイメージを既に持っていた……けどよ…動かなかっくなっちまったんだ……身体がよォ……こう……ぐぐぐ………っと締め付けられちまってよォ………後で気がついたぜェ……あ、これはオーラだってな………でもそん時にはもう遅くてよ……ヤツがそのオーラを引っ張って、手から離したと思ったら景色がグルグル回って……気がついたら地面に尻餅をついてやがった………ん?いつオーラをつけられたかって?気がつきもしなかったがヤツがご丁寧に言ってやがったなァ……最初の蹴りを受けた時だってよ……」
一頻りの罵倒を皆が独歩に浴びせた後に少し落ち着いた独歩がその時の状況を皆に語っていた。
ビスケ「想像以上に厄介な能力だわさ………」
ゴン 「え??なんで?ビスケはカストロとドッポが戦った時のビデオでもうヒソカのオーラは伸縮自在なゴムやガムみたいなオーラって見破ってたじゃん!」
キルア「意識してたら攻撃をする際にも受ける際にもそのオーラをつけられるってことだろ?」
ゴン 「あ!!」
ビスケ「その通り!ゴンが強化系である以上、肉弾戦は必至。どんな状況であってもアイツのオーラには捕まっちゃうって事になるわさね……」
ゴン 「んーーーどうしよう。」
ヒソカの伸縮自在の愛(バージンガム)の全貌を理解した一同は1週間後に控えるゴンとヒソカの戦いになんとかして打開策を練っていた。ヒソカにとっては大切な宝箱の中の一つの玩具。ゆっくりと熟すのを待つ果実、どのような解釈なのかは本人以外には解らないがその玩具の成長具合、またはその果実の成熟度を図るというところであろうか、だたビスケは同じ変化系能力者としてなのか少しだけヒソカに近しいモノを感じており、ヒソカという人間は例え命のやり取りはしないという前提であったとしても、気分次第で前言を覆し、それを自分なりの意見で正当化さえする人物だと感じていた。
刃牙の世界でも度々使用される、強さとは、我儘(ワガママ)を押し通す力。要する処の自分の意志を貫き通すということ。
それを単純な肉体の強さや腕力で表現している。それを答えとするならばヒソカが例え試合形式といえどゴンを殺したいと思い、それを実現させたとしても、戦い、強者であった者がルールを破ろうが対等の条件である以上咎められることではない。
特にこの世界は刃牙いた世界と比べ、命に対する価値観がかなり異なっているように感じる。
渋川「ちょっといいかのぅ………?」
渋川剛気が口を開いた。
渋川「ずっと試したいと思ってたことがあるんじゃが中々機会がなくてな…ビスケの嬢ちゃんはゴンが殺されないかどうか心配しているようだが…ゴン、勝算はあるぞ?お主さえよければだがな。」
ゴン「え!?本当!?なになに?」
皆の心配を他所にゴンだけは能天気に渋川の秘策をワクワクしながら待っている
渋川「あの男と戦うにあたってこちら側の有利な部分はなんだと思う?」
ゴン「んーーこっちの方が応援が沢山いるってこと?」
ゴンが頭の後ろに手を当てながら答えるとキルアが入ってきた
キルア「まず、ヒソカの能力を既に知っていること。ヒソカはゴンの能力を知らないこと、ゴンは本気でやってもいいけど、ヒソカはゴンを殺せない。んーーあとは予めこの場所に罠とかを仕掛けられる。こんなところかな?」
渋川 「ほっほっほ、若いのに末恐ろしい子だ。全部正解だがもっと根本的なところよ。刃牙さんならわかるかいな?」
刃牙 「………驕り、油断、自分が強者であるが故にヒソカはゴンを自分よりも圧倒的に弱い存在として戦いの場に立つ。」
圧倒的に強者であり、地上最強の生物と呼ばれる範馬勇次郎を父に持ち、格上と呼ばれた猛者達と幾多も立合った経験を持つ刃牙はそう言い切った。
渋川「その通り!」
ゴン「わかってることだけど、なんかむかつくーー!」
頬を膨らませて怒りを表現するゴンであったが渋川の自信とその答えが未だにリンクせずに少し不安そうにしている。同様にビスケもその答えがわからないようで渋川の秘策を早く話すように促した。
無理もない。将来的にはどうなるかは解らないが、たった1週間で今のゴンがヒソカを超える実力を手に入れるのはまず不可能に近かったからだ。
渋川「まぁ何も言わずにゴンを1週間預かっても良いかの?二人で秘密特訓でもしてみましょうや、少なくとも彼奴を驚かせることくらいは出来ると思うぞ」
ビスケ「まぁここで頭を捻っても何か解決策が出る訳でもなさそうだし、自信もあるようだからアンタに任せるわさ。ただワタシはちょいちょい覗きに行くからね!」
渋川「構わんよ、ただ独歩、刃牙、キルアには秘密な、1週間後のお楽しみということで」
ブーイングをするキルアを余所に渋川がゴンの肩を組み、それではちと借りてくぞい、と言い残し森の中へと入っていった。その自信に溢れた表情が何を意味するのかは1週間後に解ることになる。
何だか腑に落ちない顔をしながらブツブツとキルアが文句を云う、秘密にされたことが悔しかったようだ。
キルア「ゴウキのあの自信なんだよ、今のゴンがヒソカに勝てるなんてありえないぜ」
刃牙 「どんな秘策があるのかは分からないが・・・あの人は……ハッタリを言わない!!」