時は来た、それだけだ。
ゴンと渋川がまるで世界戦に臨むボクサーとそのセコンドのような状態で佇んでいた。渋川の両の手はゴンの肩へと添えられており、緊張により強張ったその筋肉を揉みほぐすようにその手を動かしていた。目の前には圧倒的な威圧感を見せながら笑顔で佇む奇術師ヒソカ、その構図が出来上がっていた。
キルア「やっぱ、ヤバイかもな……」
ゴンと渋川の後方でその様子を固唾を飲んで見守る一行は事の重大さに今更ながら気が付いたようである。あの日ヒソカがこの場へ訪れ、ビスケ以外の3人、つまり刃牙、キルア、独歩は1週間ぶりにゴンと渋川の姿を眼にした。久しぶりに見た二人がどのような策を施し、どのような鍛錬をしていたのかをその様子から探っている。
刃牙「ゴン……何か変わったところあるか?」
独歩「見たところ何も変化はないようだがなァ……だが見てみろよ、あのジイさんの自信に漲った面をよ」
ビスケ「まぁそれはね……博打には変わりないけど、今のゴンがアイツに勝つにはあれしかないんじゃないかって思ったわさ。ただ……うーーん。やっぱりあのヒソカって男ちょっと危険すぎるわさ 」
キルア「おい!まだ秘密なのかよ!いい加減その秘策っていうの教えてくれてもいいじゃんかよ!」
ビスケ「まぁ見てれば解るわさ、それに……いや、何でもない。ほら、そろそろ始まるわよ!」
渋川剛気はその手をゴンから離し、そしてゴンに何事か一言掛け、そのまま皆のいる場へ歩を進めた。
都心部からは大分離れており、辺りには対峙する二人とそれを見守る4人以外に人の気配はない。時刻はもう少しで日が沈むくらいの時刻であった。戦いの時間は決めていなかったが、ゴンがこの場へ姿を表すよりもずっと前からヒソカはその場でゴンの到着を待っていた。
座り込み、ニコニコしながらキルアや刃牙、独歩のいつもの修行風景を見守っていたが、その視線にいい加減嫌気がさしたキルアがゴンと渋川を呼びに行き、今に至る。
皆の元へ不敵な笑みを浮かべ帰ってきた渋川へキルアが投げかける。
キルア「おい!ゴウキ!本当に大丈夫なんだろうな?」
渋川 「ほっほっほ、まぁ見てみんしゃいよ、魔法は既にかけてある」
笑顔でその場を交わす。
ゴンの真っ直ぐな瞳はヒソカを見つめていた。額には冷や汗が一雫。
その視線に応えるかのようにヒソカがその禍々し過ぎるオーラを纏いゴンを見つめた、陽が丁度地平線に半分ほど顔を隠している。日没まで後僅かといったところだろうか。茜色に染まる空の空白を埋めるようにまばらなうろこ状の雲が不気味な色彩を放っていた。
ヒソカ「クックック♥そんな目で見つめるなよ♠興奮しちゃうじゃないか…♥」
額から垂れた冷や汗が地面に滴り、その汗が土に吸い込まれた。そしてゴンの身体を纏うオーラが力強さを増す。
ヒソカ「ハンター試験で会ったときとは見違えるようだよ♥念について…どこまで習った?」
ゴン 「?基礎は全部、あとは教えないっ!!」
ゴンのオーラを目にしたヒソカの股間がはち切れんばかりに膨張していた。
ヒソカ「さぁ………やろう♥」
二人の距離は6mほど。ヒソカのオーラとそのプレッシャーにゴンは寒気を感じていた。
背筋に温度のない虫が這いずりまわるような感覚と共に、手足の血液が一斉に引いていくような恐怖。
ーーーー見ろ、ちゃんと見るんだ!
ーーーー見据えて!
ーーーー目を逸らすな!
ゴンは後ずさりしそうになりそうな、その恐怖を振り払うように息を呑み、ふーとそれを大げさに吐き出した。
ーーーー凄いオーラとプレッシャー……けど、やってみないと解らないっ!
ゴンが身体に留めていたオーラを練により漲らせる。
ゴン「よし!来い!」
ヒソカ「 勘違いするなよ♠ゴン、キミが挑戦者さ♥」
その言葉を受け、ゴンの額からもう一粒の汗が落ちる。
ヒソカの言葉はこちらから掛かって来いということである。あくまで挑戦者はゴンであり、自分がその場を動くかどうか、それはその動きを見て決めるということであろうか。
ゴンは腰を屈め、片手を握り締め、その手を覆うようにしたモーションに入る。
ゴン「ジャンーーーケーーーーン…………」
ゴンの握り締めた拳にオーラが集まる。その凝縮されたオーラの総量は既に中堅ハンター並みと言っても過言ではないだろう。
キルア「初っ端からか……けど……距離があるぜ?」
渋川 「うむ………」
渋川も渋い顔でその様子を伺っていた。渋川だけに。
ゴン 「パー!!!!」
ーーーーーーーーーーーーー
◆ゴン=フリークス◆
説明不要なこの物語の主人公の一人。(強化系能力者)
ジャジャン拳
「最初はグー」の掛け声で構えを作りオーラを高めた後、じゃんけんに見立てた強化系(グー)、変化系(チョキ)、放出系(パー)の技を、状況に応じて右手から放つ。構えが明らさまで隙が大きく技のタイミングを計られやすいという欠点もあるが、それを逆手に取ってフェイントを入れることなどもでき、また「あいこで」の掛け声で連続して技を繰り出すことも可能。
ーーーーーーーーーーーーー
「パー!!」の掛け声と共にゴンの右手の掌から繰り出されたバスケットボール大の何の仕掛けもない念弾がヒソカへ向かって飛んでいく、そのサイズや威力はじゃんけんの掛け声により込められた念とは比べるべくもないほどの小さなものであった。生粋の強化系であるゴンの必殺のジャジャン拳、そのグーの威力はビスケを持ってしても驚くほどの破壊力を持っているが、念の流れや細かな操作を苦手とする為に未だ、自系統のグー以外は思ったほどの威力と精度を持っていない。
放たれた念弾を虫でも払うかのごとく右手で払いのけたヒソカ。
その表情が読めない、逆光のせいなのかとも思ったがそれは違うのだろう、真っ暗になった顔には怒りの感情が垣間見える、纏うオーラも荒々しくなった。
ヒソカ「ゴン、キミには失望したよ………♣︎」
ヒソカ「キミ、強化系だろ?♦付け焼刃の放出系の攻撃がボクに通用するとでも?♣︎」
ゴン 「何でそれを……!!!??」
ヒソカ「やっぱりか、でももうダメだよ、今殺す事にした♥」
ヒソカの顔は真っ黒になり、憎悪、憤怒、歓喜、慈愛、そのどれとも形容のし難い表情となりゴンの息の根を止めるべくその大地を両の足で踏み上げた。
ゴン「ジャーーーンケーーーン……」
それを迎え撃つべくゴンが再びジャジャンケンの構えを取った。
ヒソカ「ガッカリだよ……さよなら、ゴン♣」
渋川「勝った・・・・」
渋川がそう呟いた瞬間に側で見ていた皆が渋川の方を振り向く、皆がその回答を得る前にゴンのジャジャン拳が放たれた。
ゴン「グーーー!!!!」
大地が____抉れた____
文字どおり抉れたのだ。ゴンのその拳から放たれたオーラを込めたパンチは今まで見たゴンの必殺のジャジャン拳のパンチとは比肩するべくもなく破壊力は数十倍ほども増していた。
そのパンチの威力は小型のミサイルほどの威力があり、土埃が舞っている中でその大地がゴンを支点として弧を描くように抉れているのが視界が定まらない現状の今でさえはっきりと見て取れた。
その土煙の奥に人影、
右腕、否、右の肩口からその先を失ったヒソカが最高の笑みを浮かべその場に佇んでいた。
キルア「・・・・・・・・・・・」
刃牙 「・・・・・・・・・」
独歩 「・・・・・・・・」
3人は言葉を失っている中で渋川剛気が口を開いた。
渋川 「ほっほ、やりおった、やりおった」
ビスケ「こんなに上手くいくとわね」
キルア「ちょっと待てよ!!なんだよこの威力!!ゴンのやつ一体何をしたんだ!?」
その疑問を刃牙が答えた。
刃牙 「こんな話を聞いたことがある……握力✖︎体重✖︎スピード=破壊力ッッッ!!!」
キルア「んだよッッ!その方程式!!!?」