HANMER×HANMER   作:としを

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HANMER×HANMER♯38

「捕まえてみろよ、お前もハンターなんだろ?」

 

箱の中に入っていたテープを再生するとそこにはゴンの父親であるジンの肉声が吹き込まれていた。

10年以上も前からハンターライセンスを入手しないと開けることが出来ない物を、いつの日か息子の手に渡ると想定し、用意していたと思うとその思慮の深さに驚嘆する。

 

ゴンがプロハンターになり、念を習得する。自分の顔さえも覚えていないような赤子が無限にもある可能性の中から記憶にすらない父の背を追うことになるなど誰が思うであろうか。

 

実際には試験を受けるもっと前に森でカイトと出会い、ジンの話を聞いたことが1つのきっかけになっていたのかもしれないが、その出会いでさえ限りなく奇跡に近い。

 

ジンがゴンに残した唯一の物。

もしかするとジンはこれがゴンの手に渡らないかもしれないと考えていたのかもしれない、ただジンという男はそれはそれで良しと考えそうだ。

だが、実際にその箱は10年以上もの時を越えて今、ゴンの手の中にあった。

そう考えるときっと、ジンはこうなるであろうことが読めていたのだろう。そしてその先までもしっかりと。

 

テープの内容は父親らしいことができなかった懺悔のようなものでもありながら、挑戦的なものであった。もし会いたいなら全力で自分を探してみろというものだ。そして自分は会いたくないという意思表示も然り、今思えば大きくなった息子と全力で世界を股に掛けた鬼ごっこを楽しむような、そんな少年染みた心情も鑑みえた。それは気恥ずかしさからくるものなのかは定かではないが、そんなジンの声を聞いているゴンの表情はどことなくワクワクとしているようにも見えた。

 

キルア「ふふん、お前の親父も一筋縄じゃいきそーもねーな」

 

刃牙 「いい親父だな、俺も親父と鬼ごっこ・・・・いや、ないない」

 

一瞬、天井を仰いだ刃牙が幻想を振り払うように首を振った。

 

ゴンがテープを停止するスイッチを押し「ゴハン食べよう!」と扉のノブに手を掛けるとテープがキュルキュルと巻き戻しを始めた。

 

キルア「ゴン!!止めたテープが勝手に動き出したぞ!!」

 

刃牙 「デッキにオーラが!?」

 

キルア「念!!念でテープを巻き戻してる!!」

 

ゴン 「まさか現在!?どこかで!?」

 

キルア「まさか!念を込めたんだよ10年以上前に!停止ボタンを押したら巻き戻すように!」

 

慌てふためく3人を他所に巻き戻りきったテープは今度はカチっと音を立てて録音のボタンが押された。

 

刃牙 「今度は録音し始めたぞ!?」

 

キルア「そーか!!消す気だ!自分の音声を!!」

 

ゴン 「ダメだ止められない!コードも抜いたのに!」

 

キルア「悪いなゴン!壊すぜ!!」

 

そう言いながらキルアがデッキを全力で殴った。ドゴォォっと音を立てながらデッキが地面に叩きつけられたが念でガードされている為、ビクともしない、その後も様々な方法でデッキと格闘するが録音が完了するまで3人はどうすることも出来なかった。

 

一応、再び再生をしてみたがデッキと格闘する3人の声がオーバーダビングされており、ジンの肉声は完全に消滅していた。

 

それだけ自分の手掛かりを残したくなかったのだろう。音声からだけでも相当なデータが得られる。

身長・体重・性別・年齢・顔の造形やら持病の有無、相手の心理状態だって読み取れる、背景の雑音から録音した場所が特定出来ることも多い。だがジンが警戒したのはもっと別のこと。

 

念能力だ。機械よりはるかに優秀な解析が可能な念能力の持ち主がいてもこの世界はおかしくない。

例えば声を聞いただけで相手の全てが解る能力など。

 

キルア「手強いな」

 

ただ声を聞いただけだったが、キルアはここまで周到に用意をしているジンに対して一筋縄ではいかないと再認識をした。

 

ゴン「ん」

 

それを察したかゴンも口を一文字にしっかりと閉じたまま返答とも取れぬ声を出した。

 

箱の中に入っていた残る手掛かりはあと二つ。指輪とROMカード




『ごっ58億!!?』

パソコンの前で目が点になる刃牙とキルアとゴンがいた。

指輪に関しては内側に神字のような模様が見えたので念のため手をつけずにまずは手掛かりの多そうなROMカードが取り掛かった。というのもキルアにはそのROMカードに見覚えがあった。

離島で自然と共に過ごしたゴンにとっては縁のないもので終始すっとんきょんな表情をしていたゴンと、すでに欠伸を噛み殺している刃牙を尻目にキルアが言った。

キルア「え?知らねぇーの?ジョイステ。これゲーム機専用のROMカードだよ、ジョイステーションっての」

キルアはパソコンを使いあっという間にジョイステーション本体とROMカードを注文し、再度、あっという間に手に入れてしまった。どうやらジンから受け取ったそのROMカードの中身はグリードアイランドというゲームのセーブデータだったようだ。

ゲームの名前が判明し、そのゲームを注文しようと調べるが該当件数は0件。

ゴン 「どーなってんのかな」

キルア「うーーん、1つも在庫がない…つまり売り切れか、このゲーム自体市場に出まわってない可能性もある」

刃牙 「ふぁ〜〜。なんだ?ゲーム探してるのか?最強列伝ってクソゲーなら知ってるけど…」

キルア「………とにかく調べてみっか、”ゲーム年鑑”なら今まで出た市販のゲームが全部載ってるから」

器用にキーボードを操作するキルアを刃牙が物珍しそうに眺めていた。

キルア「あった!ちゃんと正規のルートで販売されたゲームソフトだ」

※グリードアイランド※
・ハンター専用ハンティングゲーム
・制作発売元 株式会社マリリン
・発売年度 1987年


『ごっ58億!!?』

キルア「なんちゅーデタラメな値段だ!?」

ゴン 「販売個数100コってのは少ないの?」

キルア「っげー少ねーよ、ゼッテーなめてる!!」

刃牙 「…ッフ、どうやら最強列伝よりは売れてないみたいだな。」

その場の雰囲気と2人に合わせてとりあえず空気を読んで一緒に驚いてみた刃牙がつぶやく。

その後キルアが方々へ問い合わせたが、結果はやはり芳しくなかった。
”ゲーム年鑑”に問い合わせるも、絶版と伝えられ、あまつさえ開発した会社は既になくなっているとのこと。中古市場にも出回っておらず、オークションに告知を出すも、あっという間に金目当てで偽物を売りつけようとする輩から1万件近くのアクセスがあった。

最後の手段として、渋々ながらも実の兄のミルキにグリードアイランドのメモリーデータのコピーを条件に有力な情報を2つ手に入れた。

一つはハンター専用サイト。
もう一つはヨークシンのオークションに今年グリードアイランドが数本、あるいは数十本流れるというウワサだ。

ミルキから送られてきたアドレスにアクセスし、ゲームの項へ飛ぶとグリードアイランドを見つけた。
クリックすると情報提供料として2000万を要求されたが確かな情報を伝えてくれた。


【グリードアイランド】

※念能力者が作ったゲーム
そいつ(等)は100本のゲームソフト全てに念を込めた、ゲームをスタートすると念が発動。プレイヤーをゲームの中にひきずりこむ。プレイヤーがゲームの中で生きている限り、ゲーム機はたとえコンセントを抜いても動き続ける。死ねば止まる。特質系の能力者?制作者の真の目的は不明。どうも複数らしい。匿名を条件に所有者の一人が証言してくれた。このゲームは念能力者以外プレイできない。セーブポイントさえ見つかれば戻れるらしいが・・・私は50名のハンターを雇い(そのうち3名は証を持つプロだった)ゲームのクリアを試みたが還ってきた者はいない。誰一人

ヨークシンシティで開催されるオークションには8月14日までに7本のグリードアイランドが競売申請登録されている模様。最低落札価格 89億ジェニー※


このサイトはハンター専用サイトで「狩人の酒場」というらしい、粋なバーテンダーが情報屋という設定となり、対話形式で必要な情報を引き出せるというもの。

ハンター専用サイトの情報量の多さと信頼度はネットでは最高峰で通常サイトでは考えられない貴重なお宝が行き交ってるらしいとミルキが教えてくれた。

ーーーーーーーーーーーーー

『はちじゅう・・きゅうおく・・』

発売時定価の58億ジェニーから30億ジェニーも上乗せられた89億ジェニーが最低落札価格となっていた。
当初の58億ジェニーでさえ目が飛び出るような価格だったが、もはや言葉が出なかった。
オレらの入り込む余地ねーよ!と頭を抱えるキルアにゴンが言う。

ゴン 「ねぇこれってオレ達も参加できるのかな?」

刃牙 「ただ俺達が天空闘技場で稼いだお金は3人合わせても12億ジェニーくらいしかないぞ?」

キルア「そうだぜ、見ただろ!?最低でも89億!77億も足りないんだよ!」

ゴン「買う方じゃなくて売る方だよ、オレ達も何かお宝を探して競売に出すんだよ!」

ゴンの意外な指摘にキルアが顎に手を当てて一瞬考える

キルア「うまくいけば大もうけできるかもな!!よーし増やせるだけ増やしてみるか」

刃牙 「俺はそういうのに縁がないから任せるわ、金はここに入ってるから使ってくれ」

ゴン 「うん!!ありがとうバキ!」

パソコンの画面を次に進めると、ゴンの目が止まった。


※総合入手難易度ーーーーーG(易しい)

幻のゲームと呼ばれているが あくまで一般レベルでの話。
公の競売にも姿を見せ始めたことから「探す」意味での難度は
最も易しいH、金銭面を考慮に入れ総合はGとした。(何しろ
100本というソフト数は貴重品というには多すぎる。現存するプロ
ハンターの約6人に一人が所持できる計算になるのだから)※

これを見て負けず嫌いの3人が奮起しない訳はなかった。

キルア「ふん・・・面白いじゃん、ゼッタイ手に入れてやろうぜ!!」

ゴン 「おう!」

刃牙 「いっちょ、やってやるか。」

3人は一般のフリーマーケットとオークションサイトで12億ジェニーを元手に資金の調達を初めた。
89億を稼ぐというのは至難の技だが、12億を元手に資金を増やす。

増やすというこの行為自体はそれほどの資金があればそう難しい事とは思えないが、詐欺師に騙されてあっという間に資金さえを失ってしまった。

ゴン 「残り・・・いくら?」

キルア「・・・3人合わせて1626万ジェニー、くそーあのジジイまんまとだまされたぜ!!」

刃牙 「最初の壺は2倍で売れたのになー・・・」

キルア「小金をもうけさせて信用させてから大金をせしめる、詐欺の常套手段だからなー」

その発言にゴンが噛み付く、気がつくといつもの口ゲンカが始まり一人取り残された刃牙はポリポリと頭を掻きながらため息をついた。それを合図のように口論は一旦集結したようだが、話の雲行きがあやしい。

ゴン 「よーーし勝負だ!!」

キルア「おーーやったら」

ゴン 「オークションまでの残り2週間で誰がいっぱいお金を稼げるか」

キルア「おーーお」

刃牙が止めに入るが、啀み合った二人を止めるのは刃牙にも難しい。

ゴン 「それぞれ542万ずつ持って8月31日夜9時の時点で多い人の勝ち 」

キルア「面白え、もし負けたら!?」

ゴン 「勝った人の言うことを一つ何でもやる!!」

キルア「乗ったぜ、カンプナキまでに負かしたら、バキもいいな!?」

刃牙 「え!?ちょっと待て、俺も入ってるのか!?」

『いちについてよーいドン!!』

あたふたする刃牙の足元には、きっちり3等分された542万ジェニーが置かれており、
キルアとゴンの二人は勢いよく反対方向へ駆けていった、あっという間に後ろ姿さえ見えなくなってしまい。戸惑う刃牙は一瞬考え、笑った。


刃牙 「金儲けか、考えてみたら初めての経験だな」

一線を引きながら二人のやり取りを見ていた刃牙であったがその体の中に滾るものを感じていた。
グラップラーは一旦廃業とし、期日の2週間はギャンブラー刃牙としての一歩を踏み出した。

刃牙 「度肝抜いてやるッッッ!!!」


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