薄暗い森の中に人影が3つ、内一つの影は巨人のように伸びている。
最もその隣に伸びる影も常人とは比べるまでもない身体の厚みを誇る巨躯だ。
その二人と対峙するかのように向かい合うもう一つの影は頭部から天に向かって真っ直ぐ伸びる棒状のものを蓄え、そしてこれまた棒状の何かを腰辺りに携えているようであった。
ノブナガ「アンタらで間違いないか?」
紅葉 「人間が一基、破壊(こわ)れてしまってるそうですね。」
紅葉の挑発が気に入らなかったのか警戒心を持って睨みを利かせたノブナガと紅葉との間に巨人が割って入る。
ジャック「オイオイ、オレ達ワビジネスノハナシヲウケテキタンダ、オワッテカラニシナ」
紅葉がジャックへ微笑み、そして今度は外用の笑顔をノブナガに向けた。それがノブナガの怒りに拍車を掛けたことは言うまでもないが、ノブナガも理由があって此処にいる。フーッと息を吐き怒りを鎮めた。
ノブナガ「成功すれば金は言値で払う、情報屋から買った情報だから間違いはないと思うが、お前ら腕は確かなんだろうな?」
紅葉 「 ええ、勿論ですとも、ご安心ください。」
紅葉が自信満々の不敵な笑みを浮かべ、今度はノブナガの目をしっかりと見て言った。
明らかな皮肉であろう。
ノブナガ(なんかコイツ気に入らねぇーな・・・依頼じゃなければ首刎ねてるところだぜ、ただコイツもそうだが、それよりも…隣のデケェーやつ・・・雰囲気が普通じゃねぇ、どっちにしろロクなもんじゃねぇな…ってオレが言えた事じゃねぇーか、まぁさっさとパクノダを治して貰えたらオレもホームに帰れるからな、オレがいねぇーと他の奴らはバカばっかりで締まりがねぇから、さすがにそろそろ心配だぜ)
ノブナガ「見たとこ隣の兄ちゃんは用心棒かなんかか?ん?」
紅葉 「用心棒?ハッハッハハ!まぁそんな処だ。ただ連れてきて正解だったよ。アンタ相当デキるだろ?一人で来てあんなに風に睨まれたら足が震えてしまう所だったよ」
ジャック「クックック」
ノブナガ「……よく言うぜ、まぁ黙ってついてきな」
そこから暗い森の中を一言も話さずにただただ歩いた。20分ほど経っただろうか舗装されている道に出るとその先にプレハブの小汚ない建物が見えてきた。
外からは見えにくい位置にあり、上空からも森の木が生い茂り、見えないような形となっている。元々はこの地域に住む民族とこの大陸の政府が開拓の為、長期に渡り戦争を行っていたようであるが、結果は政府側が結託した原住民達の抵抗に開拓までに掛かる時間と費用と人員を天秤に掛けた際、割に合わないと感じ撤退した。
この建物は政府側が医療所として使っていた場所をそのまま使っている、営業の許可を持たない闇医者の運営する病院のようだ。
ノブナガ「ここだ、一階が診療所、二階が病室となっている。診て貰いたい連れは二階の9号室にいる」
中に入ると、病院の清潔なイメージとはかけ離れており、紅葉が溜息を吐いた。
紅葉 「ジャック、なぜ病院は白を基調としているか分かるかい?」
ジャック「考エタコトモナイナ、清潔感ガアルカラカ?」
紅葉 「まぁ半分正解だ。衛生上の問題で敢えて汚れが目立つ色にしているっていうのもあるよ」
ジャック「確カニ、アンタノ病院ハ白衣モシーツモ全部白ダッタナ。手術室ダケガ違ッタ」
紅葉 「あぁ、それは視覚効果に関係しているんだよ。手術中に我々医師は赤い血液や内臓を長時間見続けるからね、集中して濃い色を一箇所を長時間見つづけた後に白い背景に視線を外すと赤の補色である緑色の残像が残り易いんだ(補色残像効果)といってね。
残像が生じると目が慣れるまで手元がはっきり見えないことがあるから手術室の壁や床はグリーンやブルーが多いんだ、手術着も白衣じゃないだろ?」
ジャック「ナルホドナ」
紅葉 「そして衛生面の観点から言わせて貰うとこの病院は病院とは呼べないな保健室程度の設備しかないんじゃないか?」
ノブナガ「(・・・やっぱりコイツ気に入らねぇな)ここはワケありのゴロツキしかいないからな、あくまで応急処置レベルだろ、ただ金を積めば積んだだけ手厚く看護して貰える、許可がある訳ではないが医師や対応のレベルも金次第って訳だ。二階は違うぜ?」
そう言いながら階段を登り扉を開けると先程とは比べ物にならない清潔感のあるフロアが視界に入った。
紅葉 「ほぅ、これはこれは。」
ノブナガ「俺の連れは9号室にいる、一番奥の部屋だ」
そう言って歩き出し、9号室の前の扉のノブにノブナガが手をかけた。
扉を開けると外からは1階とは同じ建物とは思えないほどの室内が広がっていた。
30畳ほどの室内ではあるが、置かれているソファーやデスクは決してきらびやかな訳ではないシックなものだがその質の良さをただそこに存在することだけで解らせる。
入って直ぐ左手側に向かい合うソファーとその間にデスクがあり、奥にはキッチンや冷蔵庫もあった。右手側には白いカーテンに囲まれている空間。おそらくここに患者がいるのだろう。囲われているサイズからしてベットはキングサイズ。デスクの上には花瓶が置かれ、まだ数日であろうか水々しい白いガーベラが一輪挿してあり、その花がシックな室内の中で一際目に入った。
ジャック「悪クナイナ」
ジャックがソファーにドカッと座り長い足を絡ませるように4の字を作り、腕を組む。2〜3人掛けのソファーなのだがジャックがその領域を占領した。座った振動で白いガーベラが揺れ、花瓶の中で向きを変える。
ノブナガ「あっちだ」
ノブナガがソファーに座ったジャックに上から見下すように冷めた視線を送り、紅葉を右手側のカーテンの方へ顎でしゃくった。
カーテンがシャーッッっと心地よいスライド音を立てて開かれると、長い睫毛が印象的な女性が眠っていた。 口には酸素マスクをつけて、心拍数や脳波なども横にあるモニターで確認ができるようになっていた。
紅葉 「カルテを診せて貰えるかい?」
おそらくこれも医師から買い取ったのだろう。ノブナガが懐から取り出したカルテを紅葉に投げる。
パラパラとカルテを眺め、一言だけ失礼、そう意識のないパクノダへ断り眼球運動を見たり、布団を捲り、患部である腹部をはだけさせ、なぞるように傷口に触れた。
紅葉 「適切な処置ではないでしょうか?この病院に運ばれて彼女は幸運でした。」
ノブナガ「だが、意識が戻らねぇ……医者に言わせれば目覚めるのは明日、何年、何十年後か…それも解らないそうだ。動かすのはよくねぇってことで毎日バカみたいに高い入院費を払い続けてる始末だぜ。」
ポンッ!!
部屋の奥で乾いた音がした。
ジャックが冷蔵庫からシャンパンを開けたようだ、戯れにコルクを親指と人差し指でまるでコインのように平たく潰し、デコピンの要領でシンクに弾き、そのままラッパ飲みをする。カランカランと甲高い音を立てて踊るコルクの音に被せるよう、額に青筋を浮かべながら舌打ちをし、ノブナガが紅葉に問いた
ノブナガ「おい、治せるか?」
その質問を鼻で笑い、紅葉が腹部に触れる。
□「試合中にオペ開始(オペレーションスターティング)」□
□念により細胞を活性化させる能力
細胞や神経などを念によって活性化させることができる。医師である紅葉の知識と経験により初めて可能になる。活性化可能なものは血液や皮膚、臓器、毛髪や爪に至るまで。直接自身の念を送り込むことによって発動するので患部に触れる必要がある。発動にはかなりの集中力を有する。また、条件次第ではその逆、死滅させることも可能。□
触れた箇所にオーラが集まり、患部を覆おってゆき、ノブナガがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえたような気がした。
ジャック「オイ、アンタ、コッチデイッパイヤロウゼ?」
ノブナガはそれを無視して紅葉を凝視する。
フッと息を吐きジャックが再びソファーに体を預け、2本目のボトルが空く音が部屋に響き、2度目の振動で花瓶に挿された白いガーベラが元の位置に収まった。