「あいつ ワシより強くねー?」
親指と人差し指で輪を作り、そこから覗くように勇次郎を捉えたのはハンター協会会長であり心源流拳法師範のアイザック=ネテロだった。
老齢ながら、半世紀前は確実に世界最強の武闘家であり全盛期を超えた現在でも最強の名にもっとも近い人物であろう。飛行船で二次試験会場の上空から受験生の様子を見ていたネテロが言い放った言葉にご冗談をと返す秘書のビーンズであった。
今年のルーキーが豊作であるという情報は一次試験を担当していたサトツから聞き及んではいたのだが、二次試験の合格者が1名だけと聞き少し気になってやって来たであった。飛行船から飛び降りメンチを説き伏せようとした所に事件が起こる。
ビーンズの言葉を聞き終わり、飛行船から飛び降りたその後…時間にしてほんの一瞬…
ネテロの視線に気がついた勇次郎がネテロが飛び降りると同時に両の足でその大地を蹴った…この場でその動きを確認出来た者は両者を除くと4名、44番のヒソカ、301番のギタラクル。294番のハンゾーは勇次郎の動きを線でのみ捉え、キルアは殺気のみ感じていた。
ネテロが勇次郎の隠そうともしない殺気を感知したのは飛行船から飛び降りたその後、空中ではいかにネテロといえどもその自由は効かない…
勇次郎「ッチェリアァッッ!!!」
下から物凄いスピードで鬼が迫ってくる、この漢から視線を外さず、飛び降りたと同時に感じた抑えようともしないむき出しの殺気…辺りの大気すらも歪ませるような獣のごときその姿に、受け、攻め考えたがその紛う事なき圧倒的なオーラを、この距離で初めて垂れ流しのそれと瞬時に悟ると百戦錬磨のこの老兵は勇次郎に向かって呟いた。
「ほっほ、そりゃ悪手だろ 鬼の人」
勇次郎の背中に浮かぶ、ファイティングマッスルは既に嬉々とした鬼の面を出している。
凶悪な拳がネテロの顔面を捉えるまではもう0.1秒も掛からない。勝利を確信した勇次郎であったが、一つの矛盾が頭を過る。
強者同士の戦闘では極稀に起こる時間的矛盾、その老兵が勇次郎に言葉を投げかけ、そして拝み、祈る、この一連の動作はこの上なく流麗且つ緩やかに行われた様に勇次郎は感じたが、否、勇次郎が拳を突き上げた刹那に全てが為された事に疑いの余地はなく、それは勇次郎が己の体感時間を限りなく圧縮し、自らの時を止めるに等しい状態に置くことでしかネテロの動きを目で捉えることが出来なかった事に起因する。
つまり真相は
不可避の 速攻である
「百式観音」ハンター協会会長であり心源流拳法師範のアイザック=ネテロの念能力である。
地面にけたたましい音と大きなクレーターを作り勇次郎が叩き付けられ、その場で気を失った。はっきりと勇次郎の動きを視界に捉えていた実力者の2名も同様に、拳を揮う勇次郎とそれを迎え撃つネテロが対峙した後に確認できたのは、その結果のみであった…
鬼が敗れた……
その後の試験はネテロの仲裁もあり、スムーズに進んでいく。2次試験の後半はメンチの実演という形で行われた。
マフタツ山に生息するクモワシ、その卵をとってくるというものであった、クモワシの巣へ飛び降りる度胸を要求される課題であったが料理などよりもずっといいとゴン一行は無事に2次試験をパスしたのだった。
そして2次試験での奮闘と先ほどのネテロとのやり取りを見て、勇次郎の体調が回復に向かっていると知るや否や恐怖を感じたトンパはここで離脱を申し出た。気を失ったままの勇次郎はネテロの手により手厚く、飛行船のベッドへと運ばれたのであった。
範馬勇次郎、敗北ッッッ!!!!!
勇次郎「グッッ…」
目を開けると同時に起き上がる。身体に走る痛み。
直ぐさま体勢を立て直し、上空にいるはずの老兵へ……だが、そこにあるは見知らぬ天井…気持ちだけがそこへ向かっていただけで実際は起き上がることすら出来ていない。置かれている状況が整理出来ずに身体全身に感じる鈍い痛みに包まれていた。突如目の前に現れた紛う事なき圧倒的な実力を持った男に、勇次郎の野生を抑えられることなどできる筈も無かった。
ネテロ「ほっほ もう目が醒めよったか」
勇次郎「貴様ッッッッ!!」
身体は言う事を効かない…。
勇次郎(動けんッッ…)
目を凝らしてみると四肢を白い煙が押さえ込んでいるのが解った。だがこの煙…煙…??
それもその筈、ネテロの横にはサングラスをした大柄の男が大きなキセルを持ちたたずんでいた。男の名はモラウ=マッカーナーシ。ネテロと親交も深いプロハンターであった。勇次郎の身体を押さえ込む煙はこの男の能力。
「紫煙機兵隊(ディープパープル)」
巨大なキセルを操る操作系能力者だ。核となるオーラを発し、それを煙りのオーラで覆うと核のオーラに込められた念の操作条件に従って自在に動き回る煙人形を作れる、その数、最大216体ッ…!!
その能力は操作、放出、変化も行う複合能力である。そのことからもこのモラウの実力を高さを伺う事が出来る。
もっとも今勇次郎を捉えているものは煙にオーラを込めただけのものであったが、ここまでオーラを凝縮した煙に捕まったが最後、引きちぎれる実力者など皆無に等しい。
勇次郎「ぬぅぅぅぅッッッ!」
モラウ「やめておけ、お休み中のようだったから鎖以上の強度になるようにゆっくり練らせてもらったぜ」
勇次郎「ぐぉぉぉぉぉぉッッッ!!」
ネテロ「おーおー怖い顔をしておる、おぬしを呼んでおいてよかったわい」
モラウ「腕力じゃ俺の煙を破れねぇ、手足が千切れる前におとなしくするんだな…」
勇次郎は焦っていた…この体勢では出来ない。手を上に万歳のようにして両足を少し開いた状態でモラウの煙によってベットに拘束されているのだ…ましてや横たわっている状態では出来ない…
浮殿手(うどんでぃ)を……ッッッ!!!
勇次郎の最適な括約金へ力を入れる体勢は左右のくるぶしをピッタリと合わせることで完成となる。
このままでは満足に括約筋に力を入れる事さえ阻まれる…
勇次郎「ぐぉぉぉおぉぉぉぉっぉ!!!」
モラウ「おい、お前いい加減にしねぇと…本当に…」
モラウが時間をかけて練った煙のオーラを勇次郎が破ったッッッッ!!!
モラウ「バカなッッッッ!!!!」
ネテロ「やはりな…とんでも無い化け物を起こしてしまったわい…」
この世界に勇次郎がやってきて数日、ネテロの百式観音により勇次郎はついに念能力者として目覚めたていたのであった。いままで垂れ流しにしていた莫大なオーラを誰に教えられるともなく身体に纏っている。それはただの纏であっても一般の能力者の堅に匹敵するようなオーラであった…
だが…モラウの呪縛を破った勇次郎はそれと同時に「絶」(体内の精孔を全て閉じオーラ完全に絶つ技)となり。抵抗を辞めた…
モラウ「この野郎…俺の煙を解きやがった…」
ネテロ「ほっほ 精進が足りんな。まぁやっと話を聞く気になってくれたようじゃの」
勇次郎「…………」
勇次郎に宛てがわれた病室に異臭が溢れた…みるみると茶色く汚されていく純白のシーツ…ベットから滴り落ちる程の量であった…床には水たまりが出来始めていく…
モラウ「…まじか」
ネテロ「…すまんのう」
勇次郎は笑っていた。最初は抵抗をしたがモラウの煙を破る為に全身に力を入れていたのだ。それが起爆剤になり…悪魔達が目を覚ます。もう笑うことしか出来なかった。横たわりながら腕を目の上に持ってゆく、男泣きをするような姿勢のまま言い放った。
勇次郎「日に二度も敗れる馬鹿がどこにいる…」
東京ドーム地下闘技場の最大トーナメント直後に、地上最強の兄弟喧嘩と言われた、2人の息子、範馬刃牙、ジャック範馬との戦いの後、刃牙に破れ自分に挑みに来たジャックに言い放った言葉を思い出していた…
勇次郎「(汚れた身体で舞い戻りおって…)それは俺じゃねぇか…」
勇次郎「(恥を知れぃッッッ…)エフッ エフッ エフッ」
壊れてゆく…
1度目の敗北はまぎれもなく、ネテロの百式観音によるノックダウン…
2度目の敗北は既に勝利を確信していた。己の身体との戦闘だ。おもむろに立ち上がる勇次郎、立ち上がると身体に付着した汚物がポタポタとおちていく…
ネテロ「なんかすまんのう…特例でハンターライセンスをやろう」
モラウ「会長それは…まぁでも…そうですな実力は申し分ない…」
ネテロ「ほら、これがハンターライセンスじゃ…受け取ってくれ」
勇次郎は渡されたライセンスを受け取り世話になったな…と部屋の出口に向かう。相変わらず動く度に汚物がポタポタと落ちていく…
勇次郎「おっと…こいつは返しておくべきか?」
もはや汚物まみれで番号すら確認できなくなった肛門付近の315番のプレートを指差しながら言う。
ネテロ「…ワシがさっきしたみたいに、顔面に一発入れられるようになったら返しにきてくれ…」
勇次郎「あぁ、そのつもりだ…」
勇次郎はその背中に哀愁を漂わせ部屋を出て行った
範馬勇次郎、ハンター試験合格ッッッッ!!!!