というか、意外と1人称視点は書きやすいですね。
その後、タクと姫と俺の3人で話し合い、赤の王の企みは俺を3日間かけて籠絡させ自分のレギオンに丸め込むつもりだったという結論に至った。
まったく、俺はシスコンでもロリコンでもない。絶対に絶対だ。
「マジで俺の家に来るのか?」
「当たり前だろう。キミの家にそんなタチの悪い女子が住み着いているのなら、即刻対処すべきだ。」
話がズレてる......
今俺と姫は2人で俺の自宅のマンションに向かっている。赤の王がリアルで話し合いたいと行ってきたので、それに乗ってやろうということらしい。
確かにあの子が赤の王なのは間違いないが、昔から姫は脈絡が無い。びっくりだ。
「それとも、私が来たらマズいことでもあるのかい?
あの赤の王は簡単に招き入れたというのに。」
「......ナンデモゴザイマセン。」
圧力がハンパじゃない。視線で制圧されてしまう。
「いやー、ただ女子を家に招待するのは緊張するというか、何というか。」
「なら、今のうちに練習だな。
なに、あと何年かすればいずれ私とキミの自宅となるのだ。予行練習は大切だろう。」
「..........」
笑うしかない、もはや。
俺の恋人が積極的すぎる。普通ならここでかなり喜ぶところなのだろうが、実際に言われるとなかなか本気か冗談かわからない。
そうこうしているうちに着いた。
......大丈夫だろうか?
俺の自室には多くの媒体がある。テレビゲームとか、あと昔の大ヒットアニメの円盤と再生装置。
あとは、まあ、その......参考書とか?
保ホニャララの。ホニャララは想像に任せるが。
とにかく、そういったやむを得ない事情によって俺は自室を守り抜かねばならないのだ。
ガチャッと鍵を開けると、リビングの扉が閉まっていて、テレビをつけているのがわかった。大人しく夕方のニュースでも見ていてくれ。
「なんだよー、そこで電話くんのか。タイミング悪すぎだっつの。」
んん?電話?何言ってんの?
今のは赤の王の声だった。何だろ?ドラマかな?ドラマだよね。
「あー、結局こいつとくっつくのかよ。確かにこいつの作画だけやけに気合入ってっかんなー。」
作画?くっつく?
アニメ見てんの?
「さっきのも面白かったけど、やっぱ学園モノだなー。」
..........悪い夢だな。全く、何たることだ。
落ち着け。世の理から考えて、こういうときのオチはしょうもない勘違いなのだ。男女のいかがわしい会話をドア越しで聞いていたが、ドア開けると実はマッサージしてただけとか、そんな感じ。そうに違いない。
リビングのドアを開けてみる。
するとどうでしょう?あら不思議。なんと赤の王は
「あっ、おかえりお兄ちゃん。イイトコで帰ってきたねー。」
俺の秘蔵コレクションのラブコメ系アニメを御覧になっていた。
ラブコメでは定番(?)のいいところで電話がかかり恋人同士が気まずくなるシーンだ。
神様..........ナンスカコレ?
「へぇー、お兄ちゃんってこんな趣味あるんだー。知らなかったなー。
でもダイジョーブ。大事そうに隠してた秘密の参考書は黙っててあ・げ・る・か・ら。」
嬉しそうだ。昨日妹モードで見せた笑顔の倍は嬉しそうだ。
すげえニヤニヤしてきてる。いや、『おかえりお兄ちゃん』の辺りから憎たらしいほど口角が上がっていたが。
「..........」
ふと姫を見ると、ラブコメアニメに興味を持ったのか、結構見入っているのがわかった。
いや、俺の恥ずかしいコレクションに食いつかないでくれ。シリアスな雰囲気がまるでシャボン玉みたいに弾け飛びそうだ。
すると、赤いのはテレビを消して座っていたソファーから離れて俺の後ろの姫を見てきた。
「ん?なんだよお兄ちゃん。その女が黒の王か?確かに黒いな。まさかリアルまでこんなんとはビックリだぜ。」
すると姫は「ほう」と言ってこっちも笑った。微笑んでない。挑発してらっしゃる。
「貴様に言われたくはないな。そんなに赤いと簡易的な自販機にでも使えそうだな。」
こいつら、王って言うより端から見たら大人ぶってる子供の会話だよ。
つーか、火花を散らすな。レベル9同士が対戦なんかしたらどちらかがポイント全損だ。何かあってからでは遅い。ここは第三者たる俺が仲裁をしよう。
「え、えーと、2人とも何飲む?
いろいろ揃えてあるけど。」
言えた。よし。こうやって誰かの喧嘩を止めるのは1度や2度ではないのだ。経験上、これでいけ
「「アンタ(キミ)は黙って(い)ろ」」
ませんでした。凄い目で見られた。殺気というか殺意だろ、こんなん。
5分後、ようやく気が済んだのか2人はフンッとお互いに目をそらして、食卓に使っているテーブルの椅子に腰掛けた。
俺は盛大に溜め息をついてから、赤いのにはココアを、姫にはコーヒーを煎れてやった。
というか、姫はなんでコーヒーが飲めるんだろうか。しかもブラック。あいつと同い年の俺でもブラックなど一口目で降参、サレンダーだ。
ちなみに、俺が赤いの前にココアのカップを置いたときに「ありがと、お兄ちゃん」と妹モードで言われた。
不覚にもドキッとしてしまい、姫に足を踏まれてしまった。
女子のバーストリンカーを舐めると痛い目に遭うのをしみじみ思い知った。
さて、そんなやりとりがあった後ようやくタクがやってきた。俺とタクはミルクティーを煎れて2人の王のいるテーブルの椅子に腰掛けた。
やっと本題か。長えよ、前置きが。今までのやりとりなんなんだよ。仮にアニメだとしたらさっきのやりとり多分カットされるぞ。
「コホン、えっと、じゃあ自己紹介にするか。誰からにする?」
「あたしから名乗るよ。」
俺の発言にすかさず反応した赤いのは指を鳴らしてネームタグを見せた。
「上月由仁子《コウヅキユニコ》だよ。」
確かにそう書かれてる。最初は本名を教えるのは渋ってくるんじゃないかと思ったが、こうもあっさり言われるとは。
生年月日から数えると十一歳──小学五年生だ。
「あんたは?」
赤いの、もとい上月由仁子はタクを見ながら言った。タクは指を滑らせて由仁子にネームタグを送った。
「僕は黛拓武《マユズミタクム》。」
ふーん、と由仁子は今度は俺の方を見てきた。名乗れってことか。
「教えなかったっけ?」
「本名かどうかの確認すんだよ。早く寄越しな。」
昨日の妹モードは幻だっのだろうな、うん。
「桐嶋遊佑《キリシマユウスケ》だよ。ほら。」
ちょっとしぶしぶネームタグを送った。あとは姫だけか。
姫は由仁子の視線に気付き、指を滑らせてネームタグを由仁子に送った。
「私は黒雪姫《クロユキヒメ》だ。よろしくな。」
「おい、本名じゃねーだろそれ!!」
すると、さも当たり前のように俺の視界に姫のネームタグが表示される。
マジで黒雪姫と書かれてる。本名は名乗らないのか..........
そのニックネーム気に入ってるのか?
「もーいいよ!自分で姫とか名乗ってる女だって覚えとく!」
「何せ、王より姫のほうがかわいいと、この間ユウスケくんに言われてしまったのでな。」
はいいっ!?
ジロッと由仁子が俺を睨んできた。多分、「余計なこと吹き込んでんじゃねーよ」と思っているのだろう。
刹那、1週間くらい前に《姫》と名乗るか《王》と名乗るかであいつがちょっと悩んでたときに「俺は《姫》の方がかわいいから、好きだ」って言ったら「じゃあ《黒の姫》って名乗ってもいいかな!?」なんて満面の笑みで返されたという記憶が俺の脳裏に蘇った。
「ああ、あったな。そんなこと..........」
消え入るような声しか出ない。姫は勝ち誇ったような顔で由仁子を見ているのだが......姫様、俺は瀕死です。
「まあいい。本題に入らせて貰おうか。」
さて、これでようやく真面目な話し合いができるな。
魔王に挑む前にMPがゼロになった気分だ..........