チユリとの直結から一夜明けた朝。ユウスケはいつも通り登校していた。今回のことで改めてチユリ=シアン・パイルが間違いだとわかったこと、さらに奴がチユリにバックドアを仕掛けていたことも報告しないとな。と色々考えながら通学路を歩いていると、
「やあ、おはよう。」
「のわっ!?」
いきなり背中を後ろから叩かれ、変な声を上げた。黒雪姫だ。
「あ、ああ、おはよう姫。」
「うん、しかし何だ?今の声は?」
「いや、何でもねえよ。」
「そうか....あー、ところでだな。その....昨日はすまなかった。大切な友達をあんな風に言われたら........腹が立つだろうから。」
「いやいや、気にするな。」
「気にするさ、さらには直結してくるなんて、無理を言わせてしまって......」
「え?いや、俺直結してきたけど。チユリと。」
「......何?」
いきなり姫に立ち止まられた。ジト目で見てくる。何でなんすか?
「どこでだ」
何か荒い。
「通学路の途中の公園で......だけど。」
「公園のどこだ」
「ベンチで......だけど。」
「どんな座り方だ」
「隣に座って......」
何だろう、なんか聞いてる内容が本題からズレているような......それからなぜに不機嫌なんだ?
いかんいかん、今はシアン・パイルの話をしないと。
「それでさ、あいつのメモリを覗いたときに......」
「ケーブルの長さはどれくらいだ。2メートルか?1メートルか?」
遮られた。やっぱなんか怒ってる。
「えっと......30センチ、です。」
ダメだ、なんか知らんけど敬語になる。
「......ふーん、へぇー......夕方の公園のベンチで2人で隣り合わせに座って30センチケーブルで密着して直結か......」
まとめられた。てか、密着とか言ってないのに。いや、否定しないけどさ。
「姫......それで.......さ」
姫はすごい速さで校門を抜けていった。しかも走ってない。早歩きみたいな感じで。
......女子の気持ちはわからないな
「なーんか怒らせるようなことしたっけかな......」
確かに俺はバカだから無神経なことを無意識に言うこともあるんだよなあ.........もしくは、あいつが個人的に嫌なことでも言ってしまったのか
「だーめだ、集中できん。」
もともと授業が退屈で集中などしていないが、これから黒雪姫にどう接していけばいいのか、いよいよわからなくなっていく。
確かに、人付き合いもよくないからなぁ........もしかしたら、今まであいつもガマンしてたんじゃなかろうか
などと、ネガティブな思考を幾度となく繰り返しながら廊下を歩いていると、
「こんにちは!2年の桐嶋遊佑君ですね!」
「?」
後ろから声をかけられ振り向くと、そこにいたのは見覚えのない女子2人だった。どちらも肩のあたりに【新聞部】というホロタグが出ている。周りの生徒が興味津々で見てくるが、そんなことを考える余地はない。
「わあ、噂には聞いてましたけどやっぱり結構カッコいいですね。黒雪姫さんが気に入るのもわかる気がしますね!」
「え?気に......いる?姫が?俺を?」
それはつまり姫が俺に好印象を抱いていると?ないない。
「てか、一体これは......?」
「ああ!申し遅れましたね。梅郷中リアルタイムズ、《噂のあいつにヘッド☆ショット》のコーナーなんですが!
今回は、桐嶋くんがあの黒雪姫さんと付き合っていると聞きまして、ご本人に取材しに来ましたー!」
付き合ってる?ナンスカソレ?
ユウスケは頭をぶんぶんと左右に振って、相手の録音アイコンを確認した。
「どうなんですか?」
問い詰められたが、
「そんなことはない。ただの噂だ。」
そう、ただの噂だ。というか、噂であることがそもそもおかしい。
「しかし、あなたは学校のラウンジと校区内の喫茶店で2度直結したこという情報が入ってきておりますが!」
「は....?」
間違ってないけど、なんかそれだとデートしてたみたいじゃないかよ?
「いや、それはあいつが会話の内容をなるべく聞かれたくないからって、無理に直結しただけであって......世間一般のものとは、種類が違う直結だから......」
よし、対応できた。とりあえずは反論はないはずだ
「まだありますよ、あなたは黒雪姫さんとは昔からの知り合いで昨日告白されたと、そういう情報もありますが。」
まずい、それがあったか。
「それは、その......あいつとはホントにただの知り合いで、別にそんな関係じゃないし......それに今朝だって俺と話してたら凄い不機嫌そうになったんだからさ」
よし、これで終わりだ。付き合っているのに話すのが嫌だ、なんていうのは矛盾してるからな。なんとかこの場は収めたぞ。
「不機嫌?どうして?何かしたの?」
女子生徒は首を傾げて不思議そうに聞いてきた。
「いや、わかんねーけど俺がチユリの話をしたら急に怒ったみたいに......」
「チユリ?えーっと、確か1年の倉嶋さんのこと?校門前で黒雪姫さんと言い合ってた......」
「ああ、そうだけど。」
すると、ユウスケの視界から録音アイコンが消えた。
よかった。やっと終わりか。
「あの、さ。これは取材とは関係なしに聞きたいんだけど......」
「何だ?」
「確かあなたって倉嶋さんとは幼なじみなのよね?」
「そうだけど。それが?」
「いや、つまり......それって」
「あなたと倉嶋さんが仲がよくて........それを黒雪姫さんも知った上で不機嫌なのよね?」
「うん。」
何を聞かれてるんだろう、さっぱりわからん。
「だったら......それ、嫉妬してるんじゃないの?」
体育館裏
「はぁ~......」
なんだろ?シット?なんだよそれ。俺はバカだからそんな日本語............いや、知ってるか。
つまり、姫は俺とチユが仲良しなのに対して妬いていると、嫉妬していると。そういうことなのか?
だったら......姫が俺と
「ないな、絶対に。」
そうだ。ありえない。
変に期待してから後で落ち込むのは目に見えてる。
俺は姫には明らかに釣り合わない。あいつと比べたら俺はかなり低レベルな人間だ。
才能が違う。頭脳が違う。人望が違う。
──人間が違う。
あいつが俺を数年前に《子》に選んだのも、ただの偶然だ。ただ偶然出会って、偶然手を差し伸べられただけだ。
あいつと俺の接点なんてほぼブレイン・バーストだけだ。そうだ。
「すぐに消える夢なら.....希望なんて抱かせないでくれ」
誰もいない体育館裏でユウスケの声は小さく響いた。
放課後
ユウスケは戸惑いながら靴を履き替え、下校していた。
校門を抜けると、横には黒雪姫がいた。
「......やあ」
黒雪姫は少し硬い笑みを見せながら話しかけてきた。
「ああ」
ユウスケもそっけなく返す。
「歩きながら話すか......」
ユウスケは黒雪姫に背を向けると、歩き出した。
「チユリとシアン・パイルの関係がわかった。」
「あ......そう......なのか?なら直結して話そう。誰かに聞かれるとマズいからな。」
すると、黒雪姫はカバンの中からケーブルを取り出した。しかし、いつもの2メートルのものではない。新品のようだ。
「き、昨日まで使ってたやつは、うっかり断線させてしまったから......新しく買ってきたんだ。いいかな?これでも。」
そう言って黒雪姫が出したのは1メートルのケーブル。購買で売っているもののなかで一番短い。
「......いいけど。」
ユウスケはほとんど何の反応も示さなかった。むしろそんな解釈はしなかった。
うーん、多分シアン・パイル戦は次の次くらいですね。主人公の活躍に乞うご期待です。
では、これからもよろしくお願いします。