EDF部となんか愉快な少女たち(+1)   作:アサルトゲーマー

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地球も守るし人類の未来も守る…そういう噂だ

 馬と武士は見かけによらぬ、という言葉がある。

 たとえ精悍な見た目の馬がいたとしても実際のところは臆病で足が遅いことがあるし、もやしのような武士であっても実際は矢をかるく切り払えるほどの達人かもしれない。つまりは、見ただけでは正確なところを知ることはできない、ということだ。

 

 ちょうど、僕の目の前にいるお淑やかな見た目の友人のように。

 

「お待たせしましたわ。こちら、仕上がりましたのでお持ちしましたの」

 

 来たぜ、レイ娘だ…。

 スイカの皮をかぶったお祭りボーイズのような感想を抱きながら、目の前の女子を見る。

 

 長い黒髪に緑のリボンがアクセントの清楚美人、高空麗娘。僕はレイ娘と呼んでいる。実家がとんでもないお金持ち。そのためか金銭感覚がおかしくて、EDF部に1万ドルとか2万ドルという巨額の援助をしてしまっている。僕たちが通っている極東支部高校じゃなくて私立夢ヶ島高校に通っている、なぜここに来るのかよくわからないEDF部100不思議のひとつだ。

 

「はい、『かわいそうなソラス』。ハジメさんのアイディアで良い本ができました。こちらは初版です」

 

 レイ娘の手には一冊の本が乗っていた。先ほど聞いたようにタイトルは「かわいそうなソラス」。ソラスは身長40メートルほどの火を噴く怪獣…らしい。

 一言断ってからそれを手に取り、表紙をめくる。児童書でありがちな分厚い表紙は、まるでシルクでも触っているかのように手触りが良い。

 そして肝心の内容は、良くも悪くも刺激的だ。

 人と仲良くしたいソラス。しかし体が大きすぎるソラスは人を踏んでしまうのを恐れて山に引きこもっていた。しかしある日、山に怪我をした人間が迷い込んできて…。人間の手当をしたいソラスであったが、人間はその巨躯に怯えてしまう。なら、せめて人間の住処に帰してあげようとソラスは山を下りるのであった。そして人間を手に乗せて下山したソラスが見たものとは…。

 

 なんとも悲しい結末だ。まさかソラスの親切心があんなことになるなんて…!

 

「あらあら…ジンさん、涙が」

 

 なんてこった。まさかこんな歳にもなって絵本で泣いちゃうなんて。いやでもすごい作品だった。

 だけど一つ、問題点がある。

 

「なんでしょう?」

 

 きょとんとするレイ娘。本当に分かってないようだ。

 この絵本、実は幼稚園に寄贈するための物である。それなのに結末は悲劇。これは駄目でしょ…。

 

 

 

■■■

 

 

 

「うおおー!ソラスぅー!死ぬなー!」

 

 結局、例の絵本はEDF部に寄贈されることになった。それを読んだおフェンが騒いだりしているけど、些末な問題だろう。

 

「で、結局出し物はどうしましょう?」

 

 レイ娘がそう訊ねる。我らEDF部は地球を防衛することに関連するならあらゆる分野で出張るのだ。もちろん子供の教育もその一つであり、ハジメの提案で朗読会を行うことになっていた。だけど肝心の本が駄目になったので別の案を出さなければいけないんだけど…。

 

「はい!航空ショー!」

 

 もーペリ子はすぐ空を飛びたがるー。

 

「ストーム1体験会!」

 

 黒ヘルが積極的に赤ヘルを狙うアレ?だめー。

 

「では、劇などはいかがでしょう」

 

 劇かぁ。これならいいかも。ところで内容は?

 

「泣いた赤蟻です」

 

 泣いた赤蟻ね。……アリだって?

 僕は思わずレイ娘を見た。

 

「はい、アリです」

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなるんだろう。そう思わずにはいられない。

 ここはサンドロット幼稚園。名前の通り、大きな空き地のように見える巨大なグラウンドが特徴だ。

 

「いけー赤蟻!かてー!」 

「黒蟻負けるなー!」

 

 そして象よりでかい巨大生物がど真ん中で取っ組み合いの大喧嘩をしている。

 正確には巨大生物型の乗り物だ。黒蟻にハジメとペリ子が、赤蟻にレイ娘とおフェンが乗り込み、ド派手なバトルを演じているという訳だ。

 余った僕は舞台演出をしている。えーと、次のシーンはこのボタンだな…。

 

 ドガガガガッ!という音と共に地面が隆起する。しかしただの演出なので隆起した地面はあっという間に元に戻った。

 ええ…一体どんな技術なんだよ。と昔は思ったものだけど今となっては「まあレイ娘だし」で済む。慣れとはげに恐ろしきものだ。

 

 舞台はいつの間にかクライマックス。黒蟻は背中から羽が生えてブンブン飛んでるし赤蟻は赤黒蟻に進化している。少年漫画ばりの戦闘力インフレで園児たちも大興奮だ。

 当然舞台裏の僕も大忙し。ドーンハンマーみたいな衛星レーザーのためにサテライトおばさんと連絡とったり、ガンシップおじさんに弾幕を要請したりでてんてこ舞いだ。ちなみに衛星もガンシップもレイ娘提供だ。お金持ちってすごい、改めてそう思った。

 

 

 

■■■

 

 

 

 そんなこんなで劇はつつがなく(少なくともEDF部としては)終了した。コマンドーやトゥルーライズを観た後のようなスッキリ感はあったけど泣く要素あっただろうか?もっとターミネーター2とかラストアクションヒーローを見習ってほしいと思うような脚本だった。

 

「今日はみんな楽しんでくれたか?」

 

 ハジメが園児に向かってそう言うと「たのしかったー!」「めっちゃすごかったー!」と口々に聞こえてくる。たしかに園児向けだったら単純明快なほうがいいよな。メッセージ性があったかどうかはともかく。

 

「楽しんでくれてありがとう!我らEDF部はいつでも君らと共にあるぞ!ところで我々に興味が出たんじゃないか?我らEDF部はいつでも体験入部や見学などを受け付けている、ほかにも入部者には様々な特典が……」

 

 そして始まるランニングマンのエンディングばりのEDF部宣伝。園児でも入れる高校の部活ってなんだよと思いながら小さな椅子に座った。

 思ってたより疲れが溜まっていたのか、大きなため息が出た。それを見ていたレイ娘が飲み物を差し出してきてくれる。

 

「どうぞ、ジンさん」

 

 ありがとうと言って缶飲料を受け取り、プルタブを開ける。アシッドサイダーと書かれたそれは見た事のないパッケージだ。

 

「わが高空カンパニーの新商品プロトタイプです」

 

 ああ、どうりで見たことないわけだ。口を付けるとほんのりした甘さと刺激的な酸味が舌を刺す…が、それもほんの一秒だけのもので、あっという間に爽やかな後味に変化していった。ありていに言えば美味い。

 二口、三口…と飲んでいき喉を潤す。すると缶はあっという間にカラになってしまった。なんだか体が軽くなるような、スッキリしたおいしさだったな。

 

「ナノマシンが体調を調整してくれますので、疲れた日に最適ですよ」

 

 え、なんだって?

 

「ナノマシンです」

 

 そんなのゲームとか映画でしか見たことないよ…。人体に影響はないの?

 

「過剰に摂取しなければありませんよ」

 

 全部飲んじゃったよ…。悪戯に成功したといったようなにこやかな笑顔を見ながら僕は頭を抱える。

 

 高空麗娘、おしとやか美人。しかしその実金銭感覚ゼロの箱入りお嬢様で、趣味はイタズラと派手なドンパチ。

 美人の友人が変人でつらい。

 

 


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