深夜、俺はチャリをとばして、依頼者のもとへ向かっていた。
──小猫の召喚がまた重なってしまったの。今夜一件お願いできるかしら?
ていうことで、また小猫ちゃんへの契約が重なったので、片方を俺が行くことになった。
「それにしても、『
下僕を持つには、上級悪魔にならなければならない。
最初から上級悪魔な部長と違って、俺たち転生者は力を認められ、昇格しなきゃならない。──だが、俺は『
はぁ・・・・・・ハーレム王への道は遠いなぁ。
内心でため息を吐いていると、隣で走って俺と並走する明日夏が言う。
「『
いつものように、俺の身を案じてくれた千秋が俺の護衛につこうとしてくれたんだけど、「毎回毎回やってたら、身がもたねぇぞ」ということで、今回は明日夏が護衛についてくれることになった。
本人的には、こうしてチャリで移動する俺と並走することで、ついでで鍛錬になるそうだ。
「『
「プロモーション?」
「ああ。実際のチェスでもある相手の陣地に入った瞬間から、『
へぇー、『
でも、プロモーションできないと、結局は最弱の駒のままじゃねぇか。
やっぱり、ハーレム王の道は遠いなぁ・・・・・・。
そうこうしていると、依頼者が住んでる場所に到着した。
森沢さんのときとは違い、普通の一軒家だった。
「俺は外で待ってる」
「えっ、いいのか?」
「ああ。少し休憩がてらに夜風に当たりたいしな」
「ああ。わかった」
明日夏には外で待ってもらうことになり、俺は依頼者の家のインターホンを鳴らす。
けど、反応がなかった。
「ん?」
扉に手を掛けると、鍵がかかってなかった。
開けっ放しなんて、物騒だなぁ。
奥のほうを見ると、電気はついておらず、淡い灯りが漏れている一室があった。
「ちわーっス。グレモリーさまの使いの悪魔ですけど」
呼んでみるけど、返事がない。
「依頼者の方は──ッ!?」
中へ足を踏み入れた瞬間、なんか、いやな感じがした!
「・・・・・・いらっしゃいますかぁ?」
もう一回呼んでみるけど、やっぱり返事がない。
・・・・・・なんだ? それに、このいやな感じも?
正直、もう帰りたくなってきた。
でも、脳内に夕方部長に言われたことが思い出される。
──今度こそ、必ず契約を取ってくるのよ。私の期待を裏切らないで。
このまま帰ったら、いよいよ部長に合わせる顔がねえし、俺は意を決して、依頼者の家の中に入る。
「お邪魔しますよ」
灯りが漏れている部屋のほうに進んでいく。
この灯り、ロウソクかなんかか? 雰囲気でも作ってんのかねぇ?
「すいませーん──うぉわっ!?」
部屋の中に入ったところで、何か液体みたいなものを踏んでしまい、靴下が濡れてしまった。
「なんかこぼれて──」
靴下についた液体を手で取った俺は絶句してしまう。
これって・・・・・・。
ドロドロとしていて、鉄のような臭いがする液体──そう、血だった。
俺は床にこぼれている血の先を見る。
「なぁっ!?」
そこには逆十字の恰好で壁に貼りつけられた人間の死体があった!
たぶん、この家の住人、今回の依頼者の男性だ。
全身が切り刻まれ、傷口から内臓もこぼれている。太くて大きい釘で手のひら、足、胴体の中心が壁に打ちつけられており、それで壁に固定されていた。
「ゴボッ」
腹から込み上げてくるものがあり、思わず口を手で押さえる。
な、なんだこれ!? 普通の神経でじゃこんなことできねぇよ!?
「『悪い人はお仕置きよ』」
突然した声のほうを見ると、白髪の男がこちらに背を向ける形でソファーに座っていた。
「って、聖なるお方の言葉を借りて──みましたぁ♪」
男は首だけをこちらに向けて舌を出してニンマリと笑う。
十代くらいの若い外国人の少年で、結構な美少年だった。──浮かべた醜悪な笑顔でせっかくのイケメンが台無しだが。
「んーんー。これはこれは、悪魔くんではあーりませんかー。俺の名前はフリード・セルゼン」
礼儀正しく一礼をするフリードと名乗る少年。
だが、すぐふざけたように手足を躍らせ、礼儀正しい雰囲気をぶち壊す。
「とある悪魔祓い組織に所属している少年神父でござんす♪」
「神父!」
「まぁ、悪魔みたいなクソじゃないのは確かですが」
俺は殺された男性を指差しながら、少年神父に訊く。
「おまえがやったのか!?」
「悪魔に頼るなんてのは人として終わった証拠。エンドですよ! エンド! だから殺してあげたんですぅ! クソ悪魔とクソに魅入られたクソ共を退治するのがぁ、俺さまのお仕事なんでぇ」
そこまで言うと、神父は刀身のない剣の柄のようなものと拳銃を取り出した。さらに柄から光の刀身のようなものが出てきた。
「光の剣!?」
「いまからおまえの
イカレた表情を作り、神父が飛びかかってくる!
「うわっ!」
光の剣の一振りをすんでのところで身をかがめてなんとか躱す!
「バキュン!」
「ぐあぁぁっ!?」
後ろから左足を撃たれてしまい、足に凄まじい激痛が走る!
この痛み!? 撃たれただけだからじゃない!
「エクソシスト謹製、祓魔弾。お味はいかがっスかぁ?」
「くぅっ・・・・・・こんのォォッ!」
俺は
「おおぉっ! まさに悪魔! そのほうがこっちも悪魔祓いの気分が出ますなぁ!」
「でぇぇあぁぁぁッ!」
「残・念!」
ズバッ!
「ぐあぁっ!?」
俺は神父に殴りかかるが、あっさりとかわされた挙句、神父に背中を斬りつけられてしまった!
「ぐっ・・・・・・ぅぅ・・・・・・」
「おやおや、見かけ倒しっスかぁ? というのが一番ムカつくざんす!」
神父がキレた笑いを発しながら、俺にトドメを刺そうとしてきた!
「きゃあああ!」
瞬間、神父の背後で悲鳴があがった。
神父と一緒に後ろのほうを見ると、金髪のシスターが男性の遺体を見て呆然としていた。
そして・・・・・・そのシスターを俺は
「おんやぁ? 助手のアーシアちゃん」
神父がシスターの名を言う。
そう。そのシスターは、つい先日出会ったアーシアだった!
「結界は張り終わったのかなぁ?」
神父はアーシアに声をかけるが、アーシアは男性の遺体の惨状に目を奪われていて、聞く耳を持っていなかった。
「・・・・・・これは・・・・・・?」
「そうかそっかぁ。キミはビギナーでしたなぁ。これが俺らの仕事。悪魔に魅入られたダメ人間をこうして始末するんっス」
「・・・・・・そ、そんな──あっ!」
アーシアが初めて神父のほうへ目を向ける。当然、俺のことも視界に入る。
そして、俺とアーシアの目が合ってしまった。
「イ、イッセーさん・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・アーシア・・・・・・」
「何なぁにぃ? キミたちお知り合い?」
神父の問いに答えず、アーシアは俺に訊いてくる。
「どうして、あなたが!?」
「・・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・俺・・・・・・悪魔なんだ・・・・・・」
「悪魔・・・・・・? イッセーさんが・・・・・・?」
「騙してたんじゃない! だから、キミとは・・・・・・もう二度と会わないほうがいいって・・・・・・決めてたのに・・・・・・っ!」
俺の言葉に、アーシアは目に涙を浮かべている。その姿に胸が痛む。
「そ、そんな・・・・・・!? じゃあ、千秋さんも・・・・・・?」
「千秋は悪魔じゃない! 悪魔じゃないけど・・・・・・たぶん、千秋は・・・・・・」
悪魔である俺たちと関わっている以上、千秋ももうアーシアに会うつもりはなかったはずだ。
「・・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・また会おうって約束・・・・・・破るようなことをして・・・・・・」
しかも、その再会がこんな最悪の形になるなんて。
「残念だけど、アーシアちゃん。悪魔と人間は、相容れましぇーん。ましてや僕たち、堕天使さまのご加護なしでは、生きてはいけぬ半端者ですからなぁ」
堕天使? こいつ、いま堕天使って言ったか?
「さて、ちょちょいとお仕事完了させましょうかねぇ」
首筋に光の剣の切っ先が突きつけられる。
「覚悟は
神父が光の剣を振りかぶった瞬間、俺の前に躍り出る影が──。
「あぁ?」
「えっ? アーシア?」
アーシアが俺の前に立ち、両手を広げていた。
「・・・・・・おいおい、マジですかー?」
「フリード神父! お願いです! この方をお許しください! どうかお見逃しを!」
「キミィ、自分が何をしてるか、わかってるのかなぁ?」
「たとえ悪魔だとしても、イッセーさんはいい人です! それにこんなこと、主がお許しになるはずがありません!」
アーシアは必死に神父へと主張する。
「ハァァァッ!? バカこいてんじゃねえよ!」
神父が光の剣を縦に一閃。そして、アーシアの服が剣閃に沿ってに切り裂かれた!
「ああぁっ!?」
アーシアは悲鳴をあげ、慌てて腕で前を隠しながら崩れ落ちる。
「アーシアッ──ぐっ!?」
アーシアの前に出ようとしたが、足の激痛で膝が崩れ落ちてしまう!
「このクソアマがッ! マジで頭にウジ湧いてんじゃねぇのかぁ? ああぁん!」
神父がアーシアの顎をつかんで、無理矢理立たせる。
「・・・・・・堕天使の姐さんに傷つけないよう、念を押されてるけどぉ──これはちょっとお仕置きが必要かなぁ!」
アーシアが両手を上げさせられ、袖を光の剣で縫いつけられた。
「
「いやあああああっ!?」
野郎! アーシアの体をまさぐり始めやがった!
「・・・・・・やめろ!」
怒りがふつふつと沸き上がってきた俺は、激痛に耐えて立ち上がる。
「おっとぉ! タダ見はご遠慮願いますよ、お客さん!」
「・・・・・・アーシアを・・・・・・はなせ!」
「ヒュゥゥ。マジマジ? 俺と戦うのぉ? 苦しんで死んじゃうよぉ?」
アーシアを縫いつけていた光の剣が抜かれ、切っ先がこちらに向けられる。
「イッセーさん、ダメです!」
アーシアの静止の叫びをあげ、俺に逃げろって促すけど、俺は構わず神父と向かい合う!
勝ち目はねえ。たぶん、死んじまうかもしんねぇけど──俺を庇ってくれたこの子の前で、逃げるのもねえ──。
「だろぉぉッ!」
「ッ──痛いッ!?」
俺が反撃できるとは思っていなかったのか、神父はまともに俺の拳をくらって、床に倒れ込んだ。
「あぁぁぁ・・・・・・プッ・・・・・・おもしろいねぇ・・・・・・」
神父はすぐに立ち上がってきた。
クソッ。やっぱ、勝ち目がねえな!
いまの一撃も不意討ちだったからだし、もうこっちの攻撃も当たらねぇだろうな。
・・・・・・勝ち目があるとすれば──明日夏。明日夏ならなんとかしてくれるかもしれないし・・・・・・最悪、アーシアだけでも・・・・・・。
窓ガラスを割るなりして暴れ回れば、明日夏も異変に気づいてくれるかな?
「あれ? もしかして、お外にいるお仲間さんが助けに来てくれるかも、なんて期待しちゃってるぅ?」
なっ!? こいつ、明日夏のことに気づいていたのか!
「ざ〜んね〜んながらぁ、僕ちんのお仲間もお外にいましてねぇ。今頃、そいつらに八つ裂きにされてるころだろうさぁ!」
「なっ!? てめぇ!」
「さぁて、どこまで肉を細切れにできるかぁ、世界記録に挑戦しましょうかぁ! イェェアァァァッ!」
神父が光の剣を振りかぶって、飛びかかってきた!
避けようとしたが、足の激痛で膝をついてしまう!
「きゃあああ!?」
「ギャッハハハハハッ!」
悲鳴と笑い声が響き、もうダメだと思った瞬間──。
ズガァァン!
「なっ!?」
「なんだぁっ!?」
突然、破砕音を伴い、部屋の壁が外側から吹き飛んだ!
ヒュッ。
さらに神父に向かって、何かが飛来する!
「ッ! しゃらくせぇ!」
神父はそれを光の剣で払うが、その間に俺を横切り、神父に肉薄する人影が──。
「フゥンッ!」
「ぐぼぉぉあぁぁぁっ!?」
突き出した拳が神父に突き刺さり、神父が後方に吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられた!
「──無事か、イッセー」
人影の正体は、以前俺を助けてくれたときに着ていたロングコートをなびかせ、体からバチバチっと青白い電気を迸らせた──外で待っていたはずの明日夏であった。
―○●○―
どうやら間に合ったようだな。
とはいえ、クソッ。無傷じゃねぇか。
確認できるイッセーのケガは──背中の切創と左足の銃創。それ以外はなさそうだな。
だが、
「チミチミィ・・・・・・」
吹っ飛ばした神父が起き上がってきた。
殺すつもりでやったんだが──感触から察するに、剣か銃を盾にしたか?
「これは銃刀法違反、器物破損、家宅侵入で犯罪ですよぉ?」
「・・・・・・てめぇが言うな」
俺は壁に貼りつけられた男性の遺体を見ながら言う。
「ていうかぁ、お外にいた僕ちんの仲間はどうしたのかなぁ?」
「ああ。あいつらなら──」
俺はさっきまでの出来事を思い出す。
―○●○―
イッセーが依頼者の家に上がっていくのを見届けた俺は、持ってきたスポーツドリンクを呷る。
渇いた喉をスポーツドリンクが潤し、適度に疲れた体内にスポーツドリンクの糖分が染み渡る。
「ふぅ──ッ!」
一息ついていた俺だったが、すぐに警戒心を上げた。
「・・・・・・・・・・・・」
一人、二人──いや、三人か。
三人ほどの敵意と殺意が、道の先の暗闇から発せられていた。
ザッ。
暗闇から現れたのは、神父の格好をした男が三人だった。顔は何やらマスクのようなものをかぶっており見えない。
「・・・・・・
この敵意と殺意、たぶん間違いないだろう。
俺は警戒心をさらに深めながら神父たちに訊く。
「狙いはイッセーか?」
俺の問に対し、神父たちは鼻で笑い、懐から拳銃を取り出し、銃口をこちらに向けてきた!
「忌々しき悪魔なら、今頃、家内にいる同胞が滅していよう」
「ッ!?」
「我々の狙いは、悪魔と知りながらも関わろうとする貴様だ!」
「悪魔に魅入られし者よ! 滅してくれる!」
問答無用で拳銃の引き金が引かれる!
「ちっ!」
俺はすぐさま電柱の陰に隠れて、銃弾をやり過ごす。
問答無用なうえに、やり方もずいぶんと過激だな?
まぁいい。そんなことよりも、「家内にいる同胞」って言ったな。だとしたら、イッセーが危ねぇ!
「時間をかけてられねぇな! さっさと片付ける!」
俺は左右の中指にそれぞれ指輪をはめる。
左手の指輪から魔法陣が出現。俺の体を通過すると、制服から黒のロングコートにインナー、ズボン、ブーツにオープンフィンガーグローブという出で立ちになる。いわゆる、戦闘服ってやつだ。
兄貴が
俺は電柱の陰から飛び出し、神父たち目掛けて駆け出す!
「「「ッ!」」」
神父たちは再び銃撃を放ってくる中、俺は顔の前で腕をクロスさせる。
銃弾は俺に命中するが、戦闘服がダメージと衝撃を緩和してくれるため、俺は無傷だった。
銃撃が無意味と判断した神父たちは拳銃を捨て、刀身のない剣の柄を取り出すと、柄から光の刀身が現れた。
俺は右手の指輪から魔法陣を出現させる。この指輪は『
俺は指輪の魔法陣から、以前はぐれ悪魔との戦いに使用した刀を取り出す。
『
「
音声コードを口にすると、鞘から電気が迸り、刀身に帯電していく。
肉薄した神父に居合の一閃。神父は光の剣で防ごうとするが、俺は光の剣ごと、神父の首を一閃する!
神父の首が飛び、残った体が崩れ落ちる。
これが
「なっ!?」
「貴様ッ!」
残る二人の神父が前後から光の剣で斬りかかってくる。
背後からの斬撃を
「きさ──」
ザシュッ!
残りの神父が何かを言おうとしたところを、
ゴキャッ!
そのまま背負い投げ、背後から神父の首を折る。
「イッセー!」
俺はすぐさま、イッセーのあとを追い、家内に入ろうとしたが、何かに阻まれてしまう。
「これは・・・・・・結界か!」
おそらく、人払いと侵入妨害のためのものだろう。
クソッ! 時間がねえってときに!
俺は結界を何回か斬りつけるが、結界はビクともしなかった。
「・・・・・・やっぱり・・・・・・単純な物理攻撃じゃダメか」
一応、方法はあった──が、正直躊躇われる手段であった。だが、イッセーの身が危ない以上、迷ってられない!
「おい、聞こえるか? ドレイク!」
俺は
『なんだよ?』
「いまからおまえの力を使うが、絶対に介入はするな」
そう。俺がいまやろうとしていることは、俺の
だが、そんなリスクを犯してでも急がなければ、イッセーが危ない。
『好きにしろよ。言っただろ? 「今回は宿主さまの肉体を奪うつもりはないぜ。見てても退屈じゃなさそうだからな。だから、俺の力を遠慮なく使っていいぜ」てな』
「・・・・・・なら・・・・・・今回だけ遠慮なく使わせてもらう!」
俺は瞑目し、脳内で自分の体からオーラを発するイメージをする。
目を開くと、俺の体から緋色のオーラが放出されていた。
『緋霊龍の衣《アグレッシブネス・スカーレット》』──それが俺の
その能力は、
俺は緋のオーラで
緋のオーラには、あらゆるものと混ざり合い、侵食する特性がある。いま、緋のオーラはただ刀身を覆うだけでなく、刀身と融合している。そうすることで、単純に覆うよりも、強度や斬れ味を強化できる。
「ハァッ!」
緋のオーラが刀身を完全に覆ったことを確認した俺は結界に袈裟斬りの一閃!
結界は斬られた箇所から崩壊していった。
思ったよりも脆いな? 張り方が不十分だったのか?
まぁいい。いまはイッセーだ。
俺は背負った鞘に
「
普通の人間なら、肉体に並々ならぬ負担がかかり、最悪感電死しかねないが、俺は人よりも電気に強い体質で、そこまで問題なかった。──負担が大きいのは変わらないが。それと、もうひとつの欠点として、この状態になると、刀身が使えなくなってしまう。
俺は窓のカーテンのすき間から灯りが僅かに漏れている部屋を見つけると、その部屋の壁に向けて構える。
「猛虎硬爬山ッ!」
―○●○―
そのような感じで、この部屋の壁をぶち抜いて、いまの状況に至っている。
「──問答無用で襲いかかってきたから、返り討ちにした」
神父の質問に答えながら、
さっきの身体強化の負担があったが、そこまでひどくないので、一応問題はなかった。
「チッ! 役立たず共が! ま、いっか。獲物のクソ人間が増えたってことだしぃ」
神父は舌を出して狂ったような醜悪な笑みを浮かべ、光の剣をデタラメに振りながら言う。
この神父、随分と聖職者にあるまじき言動だな?
さっきの神父たちといい──こいつら、はぐれか?
「さぁて。今度こそ、どこまで細切れにできるかぁ、世界記録挑戦と行きましょうかぁ!」
斬りかかってくる神父の光の剣を
「なかなかイカす刀じゃねぇか? 何々、サムライってやつですかぁ?」
「・・・・・・その口、黙らせろ・・・・・・」
「おまえが黙れよ!」
「ッ!」
至近距離から顔面に銃口を向けられる!
「バキュン!」
引き金が引かれるのと、俺が顔を逸らすのはほぼ同時だった。
銃口から放たれた銃弾が俺の頬を掠める。
「ッ!」
すぐさま、神父の顔面に自分の額をぶつけてやる。
「痛いッ!?」
俺の頭突きで神父が仰け反ったところを斬り上げるが、神父に後ろへ飛ばれてしまい、俺の一撃は空振ってしまう。
チッ。言動はアレだが、さっきの神父たちと違い、強いなこいつ。
「いいねいいねぇ。やるじゃん、キミィ。殺しがいがあるじゃん。だから、早く殺されて?」
「・・・・・・はいって言うと思うか?」
「あ、答えは聞いてないんで」
そう言いながら神父は光の剣と拳銃を構える。
俺も奴の行動に素早く対応できるように、身構えた瞬間──。
「なんだっ?」
「魔法陣!」
部屋に紅い光を放つ魔法陣が現れた。
魔法陣が輝き出すと、光の中から人影が俺の隣に躍り出てきた。
「木場ッ!」
「二人とも、助けに来たよ」
「おせぇよ」
人影の正体は木場だった。
「あらあら、これは大変ですわね?」
「・・・・・・
「皆!」
さらに、木場に続いて、副部長と塔城も現れた。
「ヒャッホォォォッ! 悪魔の団体さんのご到着ぅ!」
距離を置いた神父が余裕の態度を崩さず、むしろ、獲物が増えたことに歓喜していた。
「悪いね。彼らは僕らの仲間なんだ」
「おおお! いいね、そういうのぉ! うーん、何かいぃ? キミが攻めで、彼らが受けの3Pなのかなぁ?」
「・・・・・・んなわけねえだろ・・・・・・」
「あっ、もしかして、キミが攻め──」
「・・・・・・お前、ホント黙れ・・・・・・」
正直、鬱陶しい。
「ヒュゥゥ。怖いねぇ。そんなに照れな──」
「・・・・・・舌を抜かれるのと、斬られる、どっちがいい・・・・・・?」
「もちろん、俺さまがおまえの舌を斬るだよん♪」
神父の下品な言動に木場は嫌悪の表情を見せる。
「・・・・・・神父とは思えない下品な口だ」
「上品ぶるなよ、クソ悪魔。てめぇらクソ虫を狩ることが、俺の生きがいだ! 黙って俺に殺されりゃいいんだよぉ!」
「悪魔だって、相手を選びますわ」
副部長が目元を鋭くして言い放つ。
「いいよ! いいよ、その熱視線! ああ、これは好意? いや殺意ぃ? ンヒヒヒヒヒ! 殺意は向けるのも、向けられるのもたまらないねぇ!」
「・・・・・・調子に乗ってると死ぬぜ」
「殺せるものなら殺してみろよ!」
「なら、消し飛ぶがいいわ」
醜悪な笑みが張り付いていた神父の顔が急変し、その場を飛び退いた瞬間、黒い魔力がその場に当てられ、床の一部を消滅させた!
やったのは当然、魔法陣から現れた部長だった。
「私のかわいい下僕をかわいがってくれたみたいね?」
部長は凄まじい殺気を神父に放つ。相当キレてるな。
「おおぉ! これまた真打ち登場? はいはい、かわいがってあげましたが、それが何かぁ?」
「大丈夫、イッセー?」
部長は神父の挑発を無視し、イッセーに視線を向けて問いかける。
「・・・・・・はい・・・・・・部長、すみません・・・・・・叱られたばっかなのに・・・・・・俺、またこんなことを・・・・・・」
部長の期待に沿えなかったどころか、こんな面倒をかけてしまったことに、イッセーはうなだれてしまう。
だが、部長は膝を曲げて、うなだれるイッセーの頬に優しく手を添える。
「・・・・・・こんなにケガしちゃって。ごめんなさいね。はぐれ
さっき、俺が破ったもののことだろう。
「あぅっ!?」
「何してんだよ! このクソアマ! 結界は、おめぇの仕事だろうがぁ!」
「アーシア!」
神父がシスターを足蹴にしていた。
どうやら、あの結界は彼女が張ったものみたいだ。そして、イッセーの反応からして、彼女が教会へ案内したシスターなのであろう。
部長はスッと立ち上がると、鋭い眼差しで神父を睨みつける。
「私は、私の下僕を傷つける輩を絶対に許さないことにしているの。特にあなたのような、下品極まりない者に自分の所有物を傷つけられるのは、本当に我慢ならないの!」
部長から危険な魔力が迸り始める。
「・・・・・・おっとぉ・・・・・・ちょっと、この力、マズくねぇ? つか、かんなりヤバァ・・・・・・!」
部長の迫力と状況でさすがのこいつも焦りだしてきたようだ。
「・・・・・・堕天使、複数」
塔城が鼻を動かしながら言う。
「アッハッハハハハハ! 形勢逆転すなぁ! 皆さん、まとめて光の餌食ケッテーイ!」
状況が好転したと見るや、再びふざけた態度に戻りやがった。
だが、確かに堕天使が来るのはヤバいな!
「部長! イッセーを連れて先に行ってください! その魔法陣による転移ができるのは部長の眷属だけでしょう?」
「ええ、そうよ。急いでいたものだから、時間がなかったの。だから明日夏、私たちが時間を稼ぐから、あなたが先にこの場から!」
「俺は自力で逃げれます! いまはイッセーの回収が最優先でしょ!」
「わかったわ。気をつけなさいね、明日夏。朱乃、ジャンプの用意を」
「はい」
「小猫、イッセーを頼むわ」
「・・・・・・はい」
「クソ悪魔共! 逃がすかって──わたたた──痛ぁい!?」
神父が追撃しようとするが、塔城が投げたテーブルが直撃して伸びてしまった。
皆がイッセーを連れてジャンプしようとする中、イッセーとシスターがお互いのことを見ていた。
「部長! あの子も一緒に!」
「それは無理よ。明日夏が言っていたでしょう? この魔方陣は私の眷属しかジャンプできない」
「そ、そんな!?」
イッセーが一瞬、俺のほう見ると、何かを言おうとしたが、すぐに目を逸らして黙ってしまう。
「アーシア!」
イッセーはシスターのほうへ手を伸ばすが、当然届くはずもない。
「はなせ!? アーシアを助けるんだ! はなせ! アーシアァァァッ!」
イッセーはじたばたと暴れるが、イッセーを担ぐ塔城の腕は緩まない。
「イッセーさん・・・・・・また・・・・・・また、いつか・・・・・・どこかで・・・・・・」
シスターは目に涙を浮かべて、にっこりと微笑む。
「アーシアァァアアアアアアアッッ!」
イッセーの叫びが響き渡る中、イッセーたちは光に包まれて消えていった。