「ところで、レン。おまえたちが追ってる賞金首は一体誰なんだ?」
レンに連れられてある場所に向かってる最中、俺は気になっていたことをレンに訊く。
「俺たちが追ってる奴の名前はカリス。カリス・パトゥーリアだ。おまえも聞いたことあるだろ?」
レンに言われ、無言で頷く。カリス・パトゥーリアか・・・・・・。・・・・・・厄介な奴がこの町に来たもんだ。
「そのカリスってのはどんな奴なんだ?」
イッセーの質問にレンが答える。
「罪のない人々を殺しまくった最悪な男。『はぐれ
「はぐれ?
「ああ。他人の手柄を奪ったり、手柄のために不必要な殺しをやったりした奴がはぐれに認定されるんだぜ。まぁ、そんなにいないんだけどな」
「なんでだ?」
レンの言葉に首を傾げるイッセー。
「はぐれになれば、ハンターの仕事ができないだけでなく、多額の賞金をギルドにかけられて、全ハンターに狙われるからな」
そのことが抑止力になって、はぐれになる奴は少ない。
「もっとも、目先の欲にかられて、魔が差す奴もそれなりにいるんだけどな」
だが、それでもあくまで少ないだけであり、レンの言ったように、はぐれになる奴は確実にいる。
だが──カリス・パトゥーリアははぐれになる奴らの中で例外なタイプだった。普通のはぐれハンターが金への執着からはぐれになるのに対し、カリス・パトゥーリアは金への執着がない。
カリス・パトゥーリアは賞金のことは二の次で、賞金首そのものを目標にして行動している節があった。実際、他のハンターが目をつけないような大した賞金をかけられていない賞金首を進んで狩っていた。
「カリス・パトゥーリアはどうやら研究者みたいでな。なんらかの研究のために遺体を回収してたみたいなんだ」
なんらかの研究。それがどういうものかはさておき、賞金首には人間もいる。つまり、人の死体を使った研究をしていたのだ。それだけでも、カリス・パトゥーリアが非人道的な奴なのは明らかだった。
「そのことに関しては、賞金をかけた奴を積極的に狩ってくれるってことで、ギルドはあまり気にしなかったんだよな」
賞金首になるのは人に被害を及ぼす存在だ。それを積極的に狩ってくれるのなら、多少の非人道的な研究を行っている可能性についてギルドは目を瞑った。
「だが、いつからか罪のない一般人にまで手を出し始めたんだよ。・・・・・・把握できてる限りだと、累計五万はいってるぜ」
『っ!?』
レンの言葉にイッセーたちは絶句する。
そう、カリス・パトゥーリアは累計五万人ものの罪のない一般人を殺してる。老若男女問わずな。しかも、これはあくまで罪のない人々での数だ。犯罪者なんかも含めれば、さらに増えるだろう。
「そして、殺した人間のほとんどの遺体はやっぱり回収してる。一体どういう研究をするつもりなのかはわからないが、ま、ろくでもないことなのは間違いないと思うけどな」
さっきからへらへらしていたレンだったが、いまの話をしてるときだけは目を細めて嫌悪感を出していた。
悪戯好きで悪ふざけがすぎるこいつだが、それなりの正義感を持っている。特に、カリス・パトゥーリアみたいな罪のない人を手にかける輩には最大級の嫌悪を示す。
「しかも、カリス・パトゥーリアは自ら進んではぐれになった可能性もある。そりゃそうだろうな。研究のために必要な材料が向こうからやってくるんだからな」
はぐれになれば全ハンターから狙われる。つまり、自身を狩りにきたハンターを返り討ちにするのを繰り返してれば、自然と研究のための材料を入手できる。そのために進んではぐれになった可能性があった。そして、実際にカリス・パトゥーリアによって返り討ちにあって帰ってこなかったハンターは多かった。つまり、カリス・パトゥーリアはそれだけを行える実力、もしくは戦力を持ってる可能性があった。ゆえにカリス・パトゥーリアにかけられた賞金は通常のはぐれよりも多額だが、それに見合うだけの討伐する困難度も高い。
おまけに、なかなか所在を掴ませない男でもあった。
そんなカリス・パトゥーリアがこの街にいて、なおかつ、エクスカリバーを奪った連中のところにいる。
一体、どういう目的があって?
「お、そうこうしているうちに着いたぜ」
俺たちがたどり着いたのは、繁華街の一角に位置する地下バーだった。地下への入口の上に店の名前が書かれた看板があった。店名は『JB』。
「ここに情報提供者がいるのかね?」
アルミヤさんの質問にレンが頷く。
「ああ。ここはその情報提供者の情報屋が経営してる店なんだよ」
この店のマスターが俺たちがこれから会おうとしている情報提供者。マスターの正体はハンター相手を中心に情報を売る情報屋だ。そして、このバーはマスターから情報を買うために集まるハンターたちの溜まり場にもなってる。むろん、普通のお客のためのバーでもある。
「・・・・・・なぁ、学生の俺らがこんな時間にいちゃヤバい場所じゃないのか?」
匙の言う通り、本来なら、こんな時間に学生である俺たちがこんなところにいるのは問題があるのだが、幸い、このバーが位置してる場所は比較的人通りが少ないから人目にはついてない。そして、このバーのマスターも、顔見知り相手ならそういうことを気にしないヒトだ。
「じゃ、早速入るとするか」
レンが俺たちを引き連れて入ろうとするが、イリナが入口の前に立ててある看板を見てレンに訊く。
「ねぇ、これに『貸し切り中』って書いてあるわよ?」
「ああ。それ、俺たちのことだから、気にしなくていいぜ」
あのヒト、わざわざ、俺たちのために貸し切りにしてくれたのか。
入口を通って階段で地下一階に下りる。
シックな感じな扉を開けるとベルが鳴り、カウンター席から髪を後頭部でまとめて結い、バーテンダーの格好をした女性が出迎えてくれた。
「いらっしゃい、レンくん。明日夏くんに千秋ちゃんも」
挨拶をくれた女性の名前は
樹里さんはシェイカーを振りながらイッセーたちやゼノヴィアたちの初対面組に視線を向けて挨拶する。
「それから、はじめましてね。グレモリーとシトリーの眷属悪魔や教会の戦士の皆さん。私はこのBAR『JB』のマスターをやってる番場樹里よ。立ち話もなんだから座って座って」
樹里さんに促されて、俺たちはカウンター席に座る。
「何か飲む? 私の奢りよ。お酒はダメでしょうから、ジュースかノンアルコールカクテルを作ってあげるわ」
そう言われ、俺たちはそれぞれ別の果物ジュース(ライニーはいらないと言っていたが、ユウナが勝手に頼んだ)、アルミヤさんはミルクと答える。
レンは樹里さんがいましがた作ってたノンアルコールカクテルを出してもらって飲んでいた。レンが来るのに合わせて作ってたみたいだな。
そして、黒のセーラ服風な制服の上からエプロンを着けた少女が俺たちの頼んだジュースやミルクを持ってきた。
「また会ったな、槐」
「ああ」
俺が頼んだリンゴジュースを俺の前に置いた槐と軽く挨拶し合う。
槐が他の飲み物を置いたところで、レンが槐のことを皆に紹介する。
「こいつは俺の妹の夜刀神槐だ」
「はじめまして」
槐は木場のほうに視線を移すと、頭を下げる。
「あのときはすまなかった」
頭に血が昇って暴走する木場を止めるために一撃かましたときのことだな。
そのことを思い出した木場は気にしてないように手を振る。
「気にしないでください。僕もあのときは冷静じゃなかったから。強引にでも止めてくれて感謝してますよ」
そんな木場と槐のやり取りを怪訝そうに見ていたイッセー、千秋、塔城、匙に俺が事情を説明してやる。
その後、イッセーたちも二人に軽く自己紹介する。
「そういえば、明日夏。おまえ、樹里さんとは知り合いだったんだろ? なんで、わざわざ、レンに仲介してもらう形にしたんだ?」
「ああ、そのことか」
イッセーの疑問はもっともかもな。知り合いなら、わざわざ仲介してもらう必要はないと考えるだろう。
「樹里さんは見習いのハンターには情報を売らないからだ」
単純にそういうことだからだ。
「それは一見さんに限った話よ、明日夏くん。あなたや千秋ちゃんなら、別に知らない仲じゃないから、特別に情報は売ってあげるわよ」
樹里さんはそう言うけど、実は理由は他にもある。
「あんまり、俺たちのことを特別視すると、樹里さんにまでいらぬ被害を受けますよ」
「どういうことだ、明日夏?」
「俺や千秋、兄貴たち、それにレンや槐は他のハンターにあんまり好かれてないからな」
樹里さんが俺に続いて言う。
「ただの大人げないやっかみよ。最近、この子たちのような若い子のハンターが活躍しまっくてるもんだから、大人げない大人たちがやっかんでるのよ」
そう。どういうわけか、最近は俺とそう年の離れていない若手のハンターの実力が抜き出ていて、その実力を遺憾なく発揮して活躍しまっくている。そのことが大人のハンターたちにとっておもしろくなく、また、その知名度によってほとんどの仕事を取られたことで、やっかんでいるのだ。
「特に抜き出て実力が高い十二人の若い子たちがいてね。その子たちを周りは『
樹里さんが口にした名称にアルミヤさんが反応する。
「私も聞いたことがあるな。その実力は各勢力の実力者たちと遜色のないほどだと」
アルミヤさんの言葉にイッセーたちやゼノヴィアたちが息を呑む。
そう。『
「ちなみに、ここにいるレンくんがそのうちの一人だったりするのよ」
樹里さんの言葉に俺、千秋、槐以外の皆が驚いたようにレンのことを見る。アルミヤさんだけはどこか得心がいったようにレンのことを見ていた。
そう。ここにいるレンはその一人だったりするのだ。先ほどの悪ふざけで、皆をいいように手玉に取れたのも、それだけの実力があったからだ。
「俺なんて、一番よぇほうだよ。よく言う、『奴は四天王の中でも最弱だ』的なポジションだよ」
当のレンはこんなふうに謙遜する。レンほどでさえで最弱なら、他はどれほどなんだって話なんだがな。
「ちなみに、兄貴や雲雀さんもそのうちの一人だ」
「えっ!? 冬夜さんと雲雀さんも!」
何気に兄貴や雲雀さんも該当者だったりする。ただ、それゆえに多忙なわけなんだが。そんな兄貴の弟、妹だっていうことで、見習いで大して知名度のない俺や千秋のことを必要以上にやっかむ奴がいる。別に俺も千秋もそのことは気にしてないが、その矛先が他の誰かに向くのは我慢できなかった。そして、樹里さんはわりと顔馴染みをお得意さまにする傾向があり、おまけに細かいことを気にしない性分なヒトなのだ。だから、俺らのことも優遇してくれるので、そのせいで俺たちに向けられるやっかみが樹里さんに向くんじゃないかと思ってしまう。
「気にしなくていいわよ。そうなっても私は気にしないし。もし、妙なことをしてくるような輩がいても、自力でぶちのめせるし」
樹里さんは屈託のない笑顔で物騒なことを言う。
このヒト、実は元ハンターで、結構な実力者でもあったらしい。情報屋になったいまでも、その実力は衰えていないみたいで、仮にそのようなことをしてくる輩がいても返り討ちにしてしまうだろう。
「さて、それじゃ、そろそろ本職の仕事をしましょうか」
樹里さんはカウンター下から数枚の写真を取り出す。
「これらの写真に写ってるのは、今回のエクスカリバー強奪事件に関わっている人物で私が把握している者たちよ。まず、こっちがレンくんと槐ちゃんが追ってるカリス・パトゥーリアよ」
その写真には、メガネをかけた若い男性が写っていた。野戦服らしき服装の上から白衣を着ており、いかにも研究者って風貌だった。
「そして、これが資料だけど・・・・・・ゴメンなさい。あなたたちがすでに知ってるような情報しかないわ」
渡された資料に目を通すが、ここに来るまでに話した内容しか書かれていなかった。
「さて、次は──」
樹里さんが次に見せた写真は五枚。そのうちの一枚にはフリードが写っていた。
「「ッ!」」
そして、ある一枚の写真を見て、ライニーとユウナが目を見開く。
その写真には、俺たちとそう変わらない年齢と思しき少年が写っていた。
二人の反応からして、おそらく、こいつがベルティゴ・ノーティラス。二人にとって、因縁浅からぬ男。
そして、ある写真を指差しながら、樹里さんは木場に言う。
「この男性の名はバルパー・ガリレイ。あなたが復讐相手として追い求める男よ」
「ッ!」
それを聞いて、木場は瞳を憎悪に染めあげて、鋭い視線でバルパー・ガリレイの写真を睨む。
こいつがバルパー。メガネをかけた初老の男性で、見た感じは好好爺然とした風貌だ。
他の二枚も元教会の戦士だった男だった。資料を見る限りじゃ、どちらも異端にかけられて当然と思えるようなことをしていた。
「そして、最後に──」
樹里さんが最後の一枚の写真を指差す。
「この男がコカビエル。堕天使の組織、『
樹里さんの言葉に俺たちは目を細める。
こいつがコカビエル。ウェーブのかかった長い黒髪と長い耳を持った男だった。
「間違いなく、戦ったら一番危険な相手よ。かつての大戦を生き残った、堕天使の中でも武闘派の幹部なのだから」
その情報だけでも、いまの俺からしたら、天上な存在なのは確実だった。
「残念だけど、コカビエルに関してはそんなに情報がないの。ゴメンなさいね」
まぁ、俺たちの目的はエクスカリバーを木場に破壊させること。コカビエルと戦うことじゃない。エクスカリバーを破壊したら、希望的だがコカビエルが戦わずにこの街から去る可能性だってあるからな。
「尋ねるが、彼らが潜伏している拠点などの情報はないのかね?」
アルミヤさんがそう訊くと、樹里さんは新たに三枚の写真を取り出した。
「その三ヶ所でときおり出入りしてるのが確認できたわ」
出された三枚の写真を見ると、どれも見覚えのあった場所だった。
以前、俺がはぐれ悪魔を退治した廃工場。イッセーたちがバイサーというはぐれ悪魔を退治した廃屋と理性を失くしたはぐれ悪魔を退治した廃工場だった。
人気がない場所だから、おそらく、前線基地的な場所として利用していたのだろう。
「残念ながら、潜伏場所まではわからなかったわ」
なんも手がかりがないのに比べれば全然マシだった。
写真を見て、アルミヤさんは顎に手を当てて言う。
「ふむ。となると、その場所に何かかしらの手がかりが残っているやもしれん。三手に別れてそれぞれの場所を調べるのがいいだろうな」
「なら、俺と槐はここ。明日夏たち悪魔組はここ。教会組はここ。それでいいか?」
レンの言葉に誰も異論は唱えなかった。
「何かあったら、俺のケータイに連絡をくれ」
「では、そちらは私のケータイに」
レンとアルミヤさんはそれぞれのケータイ番号を交換する。
「じゃあ、こっちは──」
「あっ、こっちはイッセーくんのケータイに連絡を入れるわ。番号ならおばさまからいただいてるから」
「なっ!? マジかよ! 母さん! 勝手なことを!?」
勝手なことをされて憤るイッセー。
おばさんのことだから、昔馴染みが現れたから、「電話でもしてみれば?」的な感じ教えたのだろう。
「じゃあ、俺たちはおまえのケータイに連絡を入れるぞ?」
「ええ。はい、これ番号」
イリナから番号が書かれたメモ用紙を受けとる。
「じゃあ、こっちは明日夏のケータイに連絡を入れるぜ。そっちからは槐に。番号は明日夏と千秋が知ってるぜ」
まぁ、頻繁にではないが、たまに連絡を取り合ったりしてたからな。
今後の方針が決まり、『JB』をあとにしようと立ち上がる。
「じゃ、あとで情報料をはいつもの場所に振り込んでおきますよ」
「俺の分はもう振り込んでるぜ」
今回の情報料は俺が全部払うつもりだったんだが、レンが「先輩の奢りだ。遠慮すんな」と強引に三分の二も払われた。仲介してくれるだけなのに、なんでそこまでしてくれるのかと疑問だったのだが、行動を共にするからだったんだな。
「ええ。それよりも、気をつけてね。コカビエルもそうだけど、他の面子も危険なのばかりだから」
樹里さんの言葉に軽く頷き、店を出ようとする。
「あっ、そうだ! 兵藤一誠くん!」
扉の前に来たところで、樹里さんが思い出したようにイッセーのことを呼び止める。
「えっと、どうかしましたか?」
「サービスよ。『
「っ!」
それを聞いて、イッセーは緊張した面持ちになる。
『
イッセーの様子からして、もう知ってるみたいだな。籠手に宿るドライグにでも教えてもらったのかもな。
「しかも、『
なっ!? つまり、ヘタをすれば、今回の騒動に介入してくるかもしれないってことか!
イッセーもその考えに至ったのか、神妙な面持ちになっていた。
「とにかく、気をつけてね」
樹里さんのその言葉を最後に、俺たちは『JB』をあとにし、それぞれの担当の場所に向かった。