世界観はアキくんの配信をベースにして、物語導入や全体の雰囲気、配信に対する自分の印象などを創作部分としています。
書きたい気持ちで書いたもので拙い文章です。また原作崩壊の可能性があります。
灰色の空からしんしんと雪が舞い落ちる。ふわりふわりと落ちる雪は周りの雪にとけこんで隠れてしまう。雪は街の景色をすっかり変えていく。
「ニャー」
猫の可愛い鳴き声が聞こえた。
僕は辺りを見回すけれど猫は見当たらない。
「どこどこー?あっ、いた。」
ゆったりと歩いていると家の影から白い猫がとてとてと歩いて現れた。体は白い雪が保護色になってとても見えにくいからそのくりくりとした綺麗な黒い眼だけが頼りだ。ずっと雪の上を歩いていたのだろう、足跡だって真っ白で、それもすぐに消えてしまう。
この街の足跡はきっと僕と猫のものだけだろう。
半年前、近くの火山が噴火して避難勧告が出された。僕はお姉ちゃんやお父さん、お母さんと一緒に遠く離れた隣街まで避難していた。僕の住む街は湖にはみ出たような場所にあり、反対には今回噴火した山がある地形だった。だから隣街とはかなり離れていたので小一時間程かけて隣街に続く橋を渡って避難したのだった。小さな噴火が続き立ち入り制限が解除されたのは3ヶ月前だった。
ひさひざに訪れた僕たちの街はすっかり変わってしまっていた。綺麗な街並みは灰被りの見窄(みすぼ)らしいものになっていた。それを嬉しそうな顔で写真に収めるマスコミや野次馬の人たちに心が痛む。
そんなに僕の街の不幸が嬉しいの?僕はそんなことされてもちっとも嬉しくないよ。
「アキ?大丈夫?」
心配そうな顔でお姉ちゃんが僕を見ていた。僕はニコッと笑ってみせる。
「お姉ちゃん、僕は大丈夫だよ。」
「そう?なら良いんだけど。もう行きましょうか。」
名残(なごり)惜しいけれど、ここに居ても辛いだけかもしれない。僕はそう思って頷(うなづ)こうとしていた。
「ニャー」
猫の鳴き声が聞こえた。どこからだろう。辺りを見回すけれど猫は見当たらない。
「猫?どこかにいるのかな?」
「ふふっ。アキ、そこにいるわよ。」
お姉ちゃんは僕の足元を指差す。ふと視線を下げてみれば小さな猫が僕の足元で丸まっていた。少し灰に汚れてしまっていたけれど、綺麗な三毛猫だった。
「ほんとだ、見つけたっ。全然気付かなかったなぁ。」
僕は嬉しくなってその三毛猫を撫でた。気持ちよさそうな声で鳴いて僕の手に頬を擦り寄せてくる。それがとても可愛かった。
気付けば帰る事を忘れていた。ふとお姉ちゃんの方を見れば、しょうがないわねと言うようにくすりと笑っていた。
「……もう少しだけここにいる?」
「うん!ありがとう、お姉ちゃん。」
そうして暫く猫と戯れてから僕は隣街へと戻った。
数日して、再び大きな噴火があった事を知った。大きな噴石が街を結ぶ橋に落下したらしく、再び立ち入り禁止となった。立ち入り禁止を解除してすぐのことだったうえに今回の噴石で怪我人も出たようで行政は大バッシングをくらった。それで行政はすっかり萎縮(いしゅく)してしまっただろうから、これから一年は立ち入り禁止のままだろうとの事だった。
あの三毛猫は大丈夫だろうか。そればかりが心配だった。
日もすっかり暮れたある晩のことだった。
晩御飯のレバニラを食べた後部屋に戻った僕は、机に体を預けながら椅子に座ってだらりとスマホを眺めていた。机の下では裸足で足をぷらぷらと遊ばせている。しまいには少し鼻唄なんかも歌ってしまう。
そんなゆっくりとした時間を過ごしていると、不意に窓を叩く音がした。わっと小さな声を上げて驚き、窓の方を見るがカーテンを閉めているので外の様子は分からないから小さな不安は消えない。ちょっぴり震えながらカーテンを開けると、そこに居たのは三毛猫だった。
あの時の三毛猫だろうか。
「ニャー」
三毛猫はそうだよとでも言うように鳴いて、前足でバンザイをする。そうして、バンザイした両手で僕の手を引っ張って外に連れ出そうとする。
「裸足だから待って〜」
情けない声で抗議する僕に、三毛猫はしょうがねえなぁとでも言いたげに肩をすくめて笑った。そうして、自らのお腹をごそごそと漁ってもこもこのスリッパを取り出して僕に突き付けた。
「これを履けってこと?」
「ニャ」
大きく頷く三毛猫はどこか格好付ける子供のようで可愛かった。くすりと笑って僕は差し出してくれたスリッパを履いて窓から飛び出した。
窓の外には可愛らしい前後二人乗りの小さな車が停められていた。三毛猫はてとてとと歩いて車まで行くと、後ろのドアを開けてエスコートしてくれる。
「もしかして君が運転してきたの?」
「ニャ!」
「ふふっ、そうなんだ。すごいね、猫のタクシーだなんて僕はきっと夢を見ているんだね。」
乗り込んだ猫のタクシーは猫の掛け声と共に発進した。
「ニャワー」「ニャーン」「ニャニャ」
どうやら、三毛猫以外にも中に乗っているようで、気になって運転席を覗(のぞ)くと白猫と黒猫がハンドルを握る三毛猫の掛け声に合わせてブレーキとアクセルをせっせと押していた。
小さな揺れを心地よく感じながら、これからどこに向かうのだろうと思考を巡らせているといつのまにか橋を渡っていた。
「あ、あれ?こんな橋あったかな?」
綺麗なトラスの橋だった。
知らない場所に来たのかと思ったけれど、横を見やると噴石で壊れた橋が見える。ここは僕の街と隣街の間にある川で間違いないだろう。
橋のたもとまで行くと交通安全のヘルメットを被った猫が木材を運んでいた。
僕は驚いて目が点になった。
「これも君達が作ったんだ……」
橋を渡って、車を走らせて、ついに僕の街に辿(たど)り着いた。
雪のように降り注いだ灰が街を覆い、僕と猫しかいないこの光景はどこか退廃的な雰囲気を作り出している。
三毛猫が僕の手を引っ張っていく。
大人しくついていくとそこには一匹の猫がいた。灰被りで力の入らない様子の猫だった。僕を見て怯えた様子だったが、三毛猫を見ると何かを察したのかゆっくりと近寄ってくる。僕はこの猫を驚かさないようにと優しく撫でた。
「ニャー」
ゆっくりと何度か撫でていると安心したのか猫は嬉しそうに鳴いた。そんな猫を見て三毛猫も嬉しそうに鳴いた。ここにはとてもゆっくりとした時間が流れていた。
「猫を探したらいいの?」
暫くして猫が満足した頃、僕は三毛猫に尋(たず)ねた。三毛猫は飛び上がりそうな程嬉しそうにニャーニャーと鳴いて何度も頷いた。
それから何匹かの猫を見つけ同じように撫でた後、僕は三毛猫に送られて家に帰った。夢のような気分でベッドに入ると、不思議な程にすっきりと眠れた。
朝目が覚めて、昨日のことは夢だったのだろうかと僕は橋を見に行った。歩きでは遠かったが、それでも気持ちを抑えきれなかった。
期待半分で見に行ったそこには、噴石で壊れた橋があるだけで昨日の光景は幻のように消えてしまっている。
やっぱり僕は夢を見ていたのだろうか。
学校も終わり、僕は部屋でくつろいでいたがどこか上の空だ。学校の間もずっと昨日の夜のことばかり考えていた。
あれは本当に夢だったのか。ありえない事だ。けれど僕はきっとあんな日常を望んでいたのかもしれない。
コンコン
ノックの音に僕は思わず窓に詰め寄った。カーテンを勢いよく開けるが、そこには誰もいない。
「アキー?お母さんが晩御飯出来たって言ってたわよ。」
「あ、ああ……うん。ありがとう、お姉ちゃん。」
ノックはお姉ちゃんだったようだ。くぅと小さくなったお腹に、まだ晩御飯を食べていなかったなと大人しく晩御飯を食べに台所に向かう。
晩御飯は挽肉とネギともやしの炒め物だった。後、フライドチキンも食べた。出来立ての温かさや僕の好みを把握した味付けに、すっかり夢中になって箸が止まらなかった。
コンコン
またノックだ。今度はお風呂の時間かな。
ドアに向かうとき、ちらとカーテンに移る影が見えた。
コンコン
もう一度ノックの音が聞こえた。
音は窓からだった。昨日のことは夢じゃなかったんだ。
僕は弾むような気持ちで家を抜け出し、猫のタクシーに乗って、街を訪れ、猫を探しては戯れた。
それは次の日も、その次の日も続いた。
僕は夜中の21:30に家を抜け出してこっそりと街に戻る。そうして今日も、猫を見つけて戯れるのだ。
「ニャー」
猫はすりすりと頬を擦(こす)らせてくる。その姿がたまらなく愛おしい。しゃがみこんで、包み込むように頭を数度撫でる。
「僕も好きだよ。」
灰の雪が今日も降る。
街はゆっくりと今日を終える。