黒森峰女学園は、戦車道に力を入れている名門校だ。
その黒森峰に属する戦車隊のメンバーは、誰もが自分の隊に誇りを持っており、黒森峰学園艦の真面目な気風と相まって、全員が生真面目で勤勉、そして何より忠実だ。
戦車道に力を入れているからこそ、全ての戦車道を取り入れている学校の戦力や過去の戦績等一通りのデータは揃っているし、情報は逐一更新されていき常に新鮮だ。
だから、戦車道全国大会の情報だって否が応でも最新のものが入ってくる。
戦車道連盟が発行している戦車道新聞だって、いつも最新版が隊員たちに提供される。
「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」
今日も戦車道で模擬戦を終えて、ミーティングを終えてから帰路に就いた織部と小梅、そして根津たちいつもの4人は、練習で疲れたので夕食は外にしようかという斑田の意見に全員賛成し、ドイツ料理店にいる。
夜の7時を過ぎたので、水と一杯のノンアルコールビールが6人分用意されて全員の前に置かれる。だが、誰もそのノンアルコールビールにも水にも口を付けない。
見ているのはテーブルの上に広げられている、正式には昨日発行された戦車道新聞だ。
その一面の見出しは。
『大洗女子学園、奇跡の快進撃!』
1回戦で大洗女子学園が、四強校の一角であるサンダースを破ったのは記憶に新しい。だがその勢いはとどまるところを見せず、続く2回戦のアンツィオ高校との試合でも大洗女子学園は勝利した。
昨年度までアンツィオ高校は、所有する戦車が快速戦車CV33にM41型セモヴェンテ自走砲とそれほど強くはなく1回戦落ちが続いていた。だが今年は2回戦にまで進出し、2回戦ではアンツィオの秘密兵器・P40型重戦車を投入して大洗との戦いに臨んだ。
さらに、アンツィオ戦車隊を率いる隊長の安斎千代美は、中学時代はブイブイ言わせていて戦車道界隈でも有名であり、アンツィオにスカウトされて入学した後は衰退していた戦車隊を立て直し、今の規模にまで復活させた。容姿こそふざけているが、安斎千代美はそれだけの実力を持っている。過去に黒森峰はアンツィオと対戦した事があるようで、その時戦いアンツィオに勝ったまほは、『甘く見ない方がいい』と言っていたという。
サンダースに続き、その安斎千代美率いるアンツィオ戦車隊を大洗女子学園が倒したのは、戦車道の世界に衝撃を走らせた。
新聞の記事には、この大洗女子学園を率いている隊長の事も記されていた。
それはすなわち。
『初戦で四強校の一角であるサンダースを下し、2回戦ではあの安斎千代美が率いるアンツィオも破った、破竹の勢いで勝ち上がる大洗女子学園を率いている隊長は、西住みほだ』
織部の右隣に座る根津が、新聞の記事を凝視している。
『西住みほは、その名の通り西住流の直系に当たる人物である。しかし、昨年の第62回戦車道全国高校生大会では黒森峰女学園に所属し、副隊長として黒森峰戦車隊を率いていた。その彼女がなぜ、黒森峰を離れて大洗にいるのかは定かではないが、その原因の一端にあるのは昨年の全国大会で彼女のとった行動があるとされる』
織部の向かい側に座る直下が、まじまじと記事を読み進めている。
『彼女は昨年の決勝で、対戦していたプラウダ高校戦車隊の攻撃を受けた黒森峰の1輌の戦車が川に落ちた際、自ら戦車を降りて救出に向かったが、彼女はフラッグ車の車長だった。その隙を突かれてフラッグ車を撃破された黒森峰は優勝を逃し、前人未到の10連覇の夢を絶たれた。しかし勝利よりも仲間を助けることを選んだ西住みほは、スポーツマンの鑑だと一部の戦車道ファンや専門家は評価している』
織部の左隣に座る小梅が、表情を曇らせる。
『とはいえ、西住流は“犠牲無くして大きな勝利は得られない”という考えが根付いているため、この西住みほの行動は黒森峰と西住流からすれば完全なるイレギュラーだとされる。この一件があって西住みほと黒森峰及び西住流と何らかの確執があった事は想像に難くない』
織部の右斜向かいに座る三河がメガネの位置を正す。
『恐らくは優勝を逃した直接の原因としての責任を取る形で黒森峰を去り、大洗へと転校した西住みほは、その新しい地で戦車道を再び歩み始めたということだろう。ただ、西住みほが再び戦車道を歩み始めた理由や経緯などについては一切不明であり、それは本人と彼女の周りにいる人物しか知らない事だ』
織部の左斜向かいに座る斑田が、つばを飲み込む音が聞こえた。
『とはいえ、20年ぶりに復活して、戦力も十分とは言えない西住みほが大洗女子学園を率いて強豪校を次々倒して準決勝まで進出したことに関しては紛れもない事実だ。これには西住みほの人並み外れた計算力や統率力など、隊長としての資質が揃っているという事が見てとれる。その能力は、他のどの強豪校の隊長にも勝るとも劣らないほどだと、専門家はコメントをしている』
織部は沈痛な面持ちで記事を読み進めていく。
『一部の専門家は、他のどの学校の戦車隊隊長に負けずとも劣らずだと評価しており、人材育成能力については他のどの学校の隊長も追随を許さないほど秀でていると高く評価しコメントする専門家も少なからずいる』
テーブルを囲む全員が、記事から目を逸らさず最初から最後までじっくりと読む。
『大洗女子学園の準決勝の対戦校は、昨年度の優勝校であるプラウダ高校だ。去年黒森峰に所属していた西住みほからすれば因縁の相手である。強靭・高火力な重戦車を多数有するプラウダ高校に対して、西住みほ率いる大洗は果たしてどんな戦略で戦うのかがとても気になるところであり、その戦いにファンや専門家の期待が膨らんでいる』
最後には、件の大洗女子学園の隊長である西住みほと、次に大洗が戦うプラウダ高校の隊長・カチューシャの写真があった。
その場で記事を読んでいた全員が、小さく長く息を吐いて、背もたれに身体を預ける。
長時間集中して記事を読んでいたので、口の中の水分が飛んでしまっていた根津が、水を一口飲んで、呟いた。
「まさか・・・・・・西住が率いていたとはね」
「うん・・・名前も知らない学校のはずなのに、やけに強いなあと思ったら・・・」
根津の言葉に応えるのは、水をちびちびと飲む直下。
「・・・何で、大洗でまた・・・?戦車道はもうしないって言ってたはずなのに・・・」
「確か隊長もそう言ってた」
斑田は水にもノンアルコールビールにも口を付けないが、反対に三河はぐびぐびと水を一気飲みしてグラスをテーブルに置いた。記事を読むのに集中しすぎて、根津以上に喉が渇いてしまったらしい。
「「・・・・・・・・・・・・」」
一方で、小梅と織部はみほが戦車道を続けていて、しかも大洗を率いていたという事を知っていたのであまり驚きはしないが、この4人にそれがバレてしまった事が不安だった。
みほが黒森峰を去る前、根津と三河はみほの事を同期の誇りだと言っていたし、直下と斑田も同じだったのかもしれない、と小梅は話していた。
だが、今みほが新たに大洗を率いていると知ったら、この4人はどう思うだろうか。それが怖い。
「・・・・・・織部と赤星はあんまり驚いていないとこ見ると、知ってたのか?」
2人の反応の薄さにいち早く気付いたのは根津だ。
「・・・・・・西住隊長から聞いていたんだ。抽選会で見たって」
「私はエリカさんから・・・・・・」
申し訳なさそうに織部と小梅が言うが、向かい側の直下が『責めてるわけじゃないよ』と取り繕う。
「西住隊長の事だし、混乱を避けるために口外するなとか言ってたんでしょ?」
鋭いことを言う三河。大体その通りだったので織部は頷く。
「・・・・・・まあ、先輩方は怒るだろうねぇ」
「現にこの記事見た先輩、ロッカー蹴ってたもんね」
そういう人が出てくるだろうとは、織部も小梅も分かっていた。
聞けば、そのロッカーを蹴っていた先輩は、みほが学校から糾弾されたのを恨み、黒森峰に復讐するために大洗で戦車隊を率いてきたと言っていたらしい。被害妄想もいいところだが、一応先輩だったので何も言えなかったとのことだ。
では、今この場にいる織部と小梅以外の4人は、この事をどう思っているのか。
みほが戦車道を続けていることをどう思っているのか。
あの全国大会決勝戦でみほのとった行動を、どう思っているのか。
それは、織部にも小梅にも分からない。
「・・・・・・皆さんは・・・どう思っているんですか?」
たまらず小梅は、特定の誰に向けてと言うわけではないが問いかけた。
その直後、織部と小梅以外の全員の肩から力が抜けたように、嘆息した。
「・・・いや、別に西住を責める気はないよ」
「そうね・・・・・・西住さんが黒森峰に復讐するためだとか、そんな私怨で戦車にまた乗るなんてことはしないと思う」
根津が結論を告げ、斑田も補足する。
直下はうんうんと頷く。
「何かもっと、別の理由があるんじゃないかって私は思うな」
「西住さん、そんな恨みとか怒りとかジトっとした感情とは無縁な感じだったしね」
三河の言葉に、確かにと根津たちは頷く。
小梅も、まだ黒森峰にいた頃のみほの事を思い出す。確かにみほはどこかポヤンとしているところが目立っていたし、戦車に乗っている間も凛々しかったが、怒ったりすることは無かったし、怒鳴り声を上げた事など一度たりとも無い。三河の言っている事は正しいと思う。
織部はこの4人は、発言からしてみほに対して悪い印象を抱いてはいないのではないか、と思った。
とすれば、去年の全国大会決勝でのみほの行動についても、それほど怒ってはいないのではないかと考える。
「去年の事だって、赤星たちを助けたかったって言ってたぐらいだもんね」
「仲間想いなんだよ、西住さん。そんな人がウチの学校に復讐するためだけにここまで勝ち上がるかな?」
根津と斑田が、去年の決勝戦の事を思い出している。やはりみほの名を聞いて思い出すのは、あの時の事か。
小梅の顔が少し暗くなってしまうが、それを敏く見た織部は小梅の手を優しく握る。
そして、小梅の表情の変化に気づいたのは直下も同じだったようだ。
「あ、私は別に西住さんを責めてはいないよ。去年の事だって、西住さんの事をある程度知ってたから、まああの場面ならそうするだろうなとは思ってたし」
直下の言葉に、三河と根津、斑田も頷く。
あの時、黒森峰のフラッグ車が撃破された時の状況は、あの場所にいたエリカが試合後のミーティングで全て話した。そのミーティングに参加していた直下たちも、それによってあの状況を知ることとなった。
だが、同期の直下たちはみほがどんな人物なのかをおおよそ分かっていたから、みほの行動に関しては責め立てたりはしなかった。さらに言えば、学校中からみほが糾弾されても、根津や直下たちはみほを責めはしなかった。
それはやはり、みほの性格を知っているから、みほがあの時とった行動についても“みほならそうするだろうな”と思っていたから、ショックでもなかった。
優勝を逃し、10連覇の夢も断たれたことに関しては、確かに悔しかった。だが、みほの行動と性格に理解を示していたから、怒り狂うということは無く、怒りの矛先をみほに向けるのも違うと分かっていた。みほに対して怒りを覚えていたのは、みほの事をほとんど知らない人間だ。
つまるところ、みほは同期の一部―――少なくともこの場にいる織部と小梅以外の4人からは、別に恨まれても責められてもいなかったのだ。けれどもみほは、小梅と同じように自分の周りに味方はいないと思い込んでしまい、それが黒森峰から去る原因の一つとも言える。
「・・・まあ、エリカさんは絶対キレてるよね」
「・・・・・・うん、怒ってたよ」
三河が苦笑いしながら、質問とも取れないような聞き方で小梅と織部に話しかけると、織部も少し苦笑しながら答えた。具体的に何と言っていたかについては、一応エリカの事を考えておいて言わないでおく。
「いやしかし・・・・・・あのおっとりしてる西住に、こんな力があったなんてね」
根津が感慨深そうに、改めて新聞の記事を見る。力と言うのは、やはり無名校を率いて準決勝まで勝ち上がってきた事についてだろう。
記事によれば、大洗戦車隊のメンバーはほぼ全員が戦車道をするのは今年度に入って初めてだという。だとすれば、大洗で唯一の戦車道経験者であり隊を率いるみほは、その初心者たちを僅か数か月ほどで全国大会で通用するレベルになるまで育て上げた育成能力があるという事になる。
さらに、サンダースやアンツィオといった全国大会常連校を凌ぎ、さらには練習試合で
どの試合でも相手や観客の度肝を抜くような展開と作戦を見せ、ある専門家は西住の名を背負っているとは思えない型破りなタイプだと評価していた。
どれも、黒森峰にいた時には分からなかったみほの力だ。
黒森峰では、西住流という縛りがあったせいで、その柔軟性に富み臨機応変に対応できる、型破りな力を存分に発揮する事ができなかったのだと、織部と小梅、そしてここにいるごく一部の黒森峰生はそう思える。
もしかしたら、みほは黒森峰にいるべきではなかったのかもしれない、とさえ今は思えた。
だが、皆の間に流れる緊張や安堵、様々な思いが混ざった雰囲気は、三河の腹の虫によってかき消された。
それで全員の緊張が取れて、閑話休題とばかりにメニューを手に取ってそれぞれどの料理を注文するかを決める。
全員が自分の食べるものを決めて、店員を呼び注文を終えると、小梅がノンアルコールビールを飲む。小梅に限らず、未成年の女子高生がジョッキを傾けてビールのような色の液体を飲むというのは、普通の進学校に通う織部の目にはどうもミスマッチに映ってしまう。
とはいえ、織部だってここにきて何度かこの黒森峰学園艦で製造されたノンアルコールビールは何度も飲んでいるので、今さらどうこう言えはしない。
ノンアルコールビールを飲み、少し慣れてしまったほろ苦い味が口の中に広がる。
そこで、三河が興味ありげに身を乗り出して織部に質問をした。
「全然関係の無い話なんだけど・・・」
「ん、どうした三河?」
「気になっていたんだけどさ・・・」
「?」
織部がジョッキをテーブルに置いて三河を見る。三河は、目をキラキラさせて単刀直入にこう聞いた。
「織部君と赤星さんって付き合ってるの?」
織部の隣で小梅が『ん゛っ・・・!』と聞いた事も無いような声を上げて咽る。織部はすぐに小梅の背中をさすって呼吸を落ち着かせる。
小梅があからさまに動揺しているのを見て、三河の隣に座る直下が窘める。
「・・・・・・三河さん、直球過ぎるよ」
「他にどう聞けっていうのさ、気になるでしょ」
「そりゃ気になってたけど・・・」
気づけば直下も興味ありげに織部と小梅の事を見てくる。小梅の背中をさすって呼吸を整えている間に織部は根津と斑田を見るが、2人のにやけ顔は『全部知ってるぞ』と語っていた。
小梅が呼吸を落ち着かせると織部と顔を合わせる。顔には若干の不安が混じっており、その顔は『話しても大丈夫だろうか』と言っているのが分かる。
話す事で皆との関係が拗れてしまうのではないかと心配しているのかもしれないが、そうはならないのでは?と織部は思っている。
ここにいる人は織部を含めて、小梅の事を心配してくれていた。そして、今ここにはいないみほの事を性格も含めてちゃんと理解していたから、悪い人ではないというのはもう分かる。
だから、織部と付き合っているからと言って排除したり拒絶したり、あるいは嫉妬の念に狂うという事も無いはずだと織部は思っている。
仮にもしそうなったとしたら、織部は全力で小梅を守るつもりでいる所存だ。
その意思を小梅の手を優しく握る事で示し、そして織部は告げた。
「・・・・・・付き合ってる」
言った本人だけれども、織部はすごい恥ずかしい。小梅だって恥ずかしい。そんなわけで2人の顔は少し赤い。
三河が『ほっ』と声を上げ、直下が『わー』と小さく呟きながら口元を押さえ、根津と斑田は『やっぱり』と言わんばかりに頷く。
根津と斑田は、それぞれ織部と小梅から悩みの相談を受けていたので、2人がそうなるだろうというのは予想できたし、この前登校した際2人の距離が確実に縮んでいたのを見て、2人は付き合っていると予想が確信に変わった。そして今、本当に付き合っていると織部自身が告げた事で、その確信も間違っていなかったと認識した。
三河は、根津と斑田の反応が薄い事に気付き問いかけてくる。
「あれ、2人は知ってたの?」
「あー、ええとね・・・」
斑田が頬を掻きながら小梅の方を見ると、小梅は意図が掴めずにキョトンとする。一応、小梅から相談を受けた事については誰にも言っていないのだが、小梅と織部の交際が公になった今隠す必要も無いと思い、話すことにした。
「・・・赤星さんから、織部君が気になってるって相談を受けてね。それでまあ、多分こうなるんだろうなぁ、とは思ってた」
「え?」
声を上げたのは織部だ。小梅の方を見ると、小梅もそのことを思い出して少し頬を赤くして俯く。
それはまだ全国大会が始まる前、織部とのちょっとしたすれ違いが起きてしまった時、ドイツ料理店で斑田にそのことに関して相談を持ち掛けた事だ。
その時の事を思い出して、小梅は縮こまる。
だが、根津がさらに追い打ちをかけた。
「ああ、斑田もか。私もさ、織部から相談されたんだよ。赤星の事が気になってるって」
「え?」
今度は小梅が反応を示し、織部は対照的に顔を押さえる。
それはまさに、小梅が斑田に相談を持ち掛けた時と同時刻、定食屋で根津に相談したことだ。
「でまあ、この前皆で登校する時、なんか2人の距離が縮まってるなぁってことに気付いて、それでくっついたのかと思ってね」
「そうそう、だからそんなに驚かなかったよ」
今この瞬間、織部は小梅が斑田に相談していたことを、小梅は織部が根津に相談を持ち掛けていたことを知った。
そしてその時から、既に織部と小梅は両想いだったということにも気づき、恥ずかしくなってしまう。
だって、相手の事が好きになって、そのことで悩み別の誰かに相談していたなんてことを、その相手に知られるというのは相当恥ずかしいからだ。
「あ、そうだ気になってたんだけど」
三河が身を乗り出して織部に聞こうとする。
今は自分の恥ずかしさを処理するだけで精いっぱいだというのに、これ以上何を聞いてくるのかと、織部は恐怖心のような感情に支配されながらも三河を見る。
「織部君って、赤星さんのどんなとこが好きなの?」
その手の質問はいずれされると思っていた。
この質問に関しては三河に限らず、直下や根津、斑田も気になっていたらしい。
織部と小梅は知らないが、小梅と織部がどうしてくっついたのかを根津たちはあらかた理解している。織部が小梅と話をして、それで小梅が立ち直った事から見当がつく。
とすれば、小梅が織部を好きになる理由も、真摯な態度と真面目な性格だからだとある程度推測できるが、織部が小梅のどこを好きになったのかは、根津たちは分からない。
だから根津や斑田も、そこのところは気になっていたのだ。
「・・・・・・いや、それは・・・・・・」
だが、当の織部はそれを言うのを憚られてしまう。今自分の隣にその付き合っている人がいるというのに、その人の前でどこが好きなのかを話すのは、結構ハードルが高いものだ。
できる事なら適当にはぐらかしてこの場を退けたいのだが。
「・・・そう言えば、私もそれは聞いていませんでした」
意外や意外、小梅までもが興味を示してきた。
思い返せば、織部があの時あの花壇で告白した時、小梅が織部のどこを好きなのかをちゃんと言っていたのに対して、織部は半ば小梅に便乗する形で告白した。だから、小梅のどこが好きなのかを、小梅には伝えていなかった。
小梅の言葉を聞いた事で、『おいおいどういうことだよ』という4人分の視線が織部に殺到する。その上織部のすぐ隣からは『聞きたい』という小梅の真剣な眼差しを向けられて、まさに四面楚歌。
小梅にちゃんと言っていないことから、変に誤魔化すという事もできなくなり、織部は大人しく、全部白状することにする。
「・・・・・・初めて小梅さんと会った時、小梅さんは泣いてたんだ」
泣いていた、と言う言葉を聞いて織部以外の面々が少し落ち込む顔を見せる。泣いていた理由については、心当たりがあったからだ。
「・・・それから少しの間小梅さんと話をしたりしても、小梅さんはあまり笑ってはくれなくて・・・笑っても、少し悲しそうな笑顔と言うか、そんな感じの顔をしていて」
「・・・・・・」
「でも、初めて小梅さんが、本当に心から笑ってくれた時・・・。小梅さんって、すごく可愛らしく笑うんだ、って思ったんだ」
その時の事を思い出して、少し笑う織部。小梅も、『可愛らしく笑う』と言われて少し恥ずかしくなる。
一方で、言い出しっぺの三河は『それでそれで?』と好奇心を隠さずに続きを促す。
「それに、小梅さんは強い信念を持ってる。黒森峰で、独りぼっちに近い状況にあっても、決してその信念だけは曲げずに、それだけは見失わずに今まで懸命に黒森峰で生きてきて、今は戦車に乗ってる」
その信念―――西住みほの行動は、みほの戦車道は間違ってはいないということを証明するという信念は、言わない。その信念は、例え小梅の理解者で、小梅の恋人であっても、本人以外の誰かがおいそれと他人に言ってはならない事だ。
「それに・・・・・・責められた僕を庇ってくれるぐらい優しい」
それはエリカに詰問され、責められた時の事。その翌日で責めた事について、エリカは自分が間違っていたと謝ってきたが、あの時小梅が織部の事を庇ってくれたのに変わりは無い。
織部が真摯に向き合っていたから、小梅は織部の真面目さ、誠実さを理解して、臆さずエリカに面と向かって意見することができた。
「・・・強く優しい心と、優しい笑顔・・・僕はそんな小梅さんのことが好きだ」
力強く、真っ直ぐな瞳をして告げた織部の言葉。
初めて聞いた自分を好きな理由。それを聞いた小梅は胸を打たれ、織部と繋いでいる手を強く握る。そして、それだけにとどまらず身体をずらして織部と肩をくっつけてきた。
それは自分の事を好きになってくれたことが嬉しい故の、気持ちの表し方の1つだ。
一方、理由を聞き届けた三河を含め4人は、少し恥ずかしそうに顔を逸らす。
三河も、当初からかうつもりで織部に聞いたのだが、思いのほか割と真剣に語られてしまったのでどう反応を返していいのか困った。
ただ、惚気とも違う恋の話をされた事で少し顔が熱くなり、ノンアルコールビールを飲んで気を紛らわせようとする。
根津、斑田、直下の3人も三河と同じように、恥ずかしさをノンアルコールビールのほろ苦さで消そうとし、グイッとジョッキを傾ける。
けれどどこか、そのノンアルコールビールは少し甘かった気がした。
黒森峰女学園の準決勝の相手は、聖グロリアーナ女学院。黒森峰、サンダース、プラウダと並ぶ四強校の一角。また、準優勝の経験もある強豪だ。
イギリスと提携している故か所有する戦車は全てイギリスのもので、主力戦車は装甲の厚いマチルダⅡ、機動力の高いクルセイダー、そしてフラッグ車は攻守ともに優れたチャーチルだ。
加えて、準決勝のレギュレーションは15輌に増えた。使用できる戦車の台数が増えるとなると、取れる戦略の幅も広がるという事だ。
今度の相手は、知波単はともかく継続のように“ちょっと手こずる”程度の強さではないだろう。
過去の資料から見ても、準決勝にはほぼ毎年進出しており、それが他の学校の追随を許さないほどの実力の証明となっている。
聖グロリアーナの強さは隊長のまほも認めているようで、作戦会議では隊員たちに対して『これまで以上に気を引き締めて、緊張感をもって試合に臨むように』と告げた。
レギュレーションが変わった事で、黒森峰も戦車の台数を増やした。具体的には、パンターとⅢ号戦車を1輌増やし、さらに新たにⅣ号駆逐戦車―――ラングを2輌、そして重駆逐戦車エレファントを1輌参戦させて、フルの15輌で試合に挑むこととなった。
この新たに追加されたパンターは、小梅の車輌ではなかった。やはりまだ、小梅の車輌は全国大会に安心して出せるほど実力がついていないという事なのだろうか。
真意を確かめる術はないが、当の小梅はへこたれることはなく、隊内での訓練に励んだ。試合に選ばれなかったのならば、練習で試合に出る皆の実力がつくように、精いっぱいサポートをするだけだ。選ばれなかったことに拘って先へ進めないようでは意味がない。
今は耐え忍び、黒森峰が勝つことを願うほかない。
迎えた聖グロリアーナとの準決勝。
試合を行うのはだだっ広い荒野。草花も生えず、枯れ木が数本生えているだけ。おまけに天気は曇りと、1回戦よりも暗然たる空気に試合会場は包まれていた。
それのせいか、観戦客たちも騒ぎ立てることなく静かに試合開始の合図を待つ。
既に隊長同士の挨拶は終わり、両校ともにスタート地点へと移動している。
黒森峰の隊長のまほと、聖グロリアーナの隊長の金髪の少女はどうやら顔見知りのようで、試合開始前の挨拶でも一言二言言葉を交わしていた。何を言っていたのかは観客席に立つ織部たちには聞こえなかったが、少なくとも挑発し合っているような感じではなかった。
お互いに試合開始地点へと移動して、それから少し時間が経ってから試合が開始する。
広い荒野を挟み、黒森峰は窪地から、聖グロリアーナは小高い丘からスタートする。
聖グロリアーナの戦車は不整地に適した走破能力を有しており、不整地でも整地とほぼ変わらない速度を持って走行することができる。その点を踏まえると、黒森峰が少々速さで後れを取ってしまう事になる。
ただ、黒森峰にはラング、ヤークトパンター、ヤークトティーガーと長射程、高貫徹力の戦車がいる。反対に聖グロリアーナの戦車の射程はさほど長くはない。つまり、黒森峰は聖グロリアーナの射程外から戦車を狙い撃つことができるのだ。
とはいえ、彼我の距離が開けば開くほど、命中する確率は下がるし、当たっても決定打とはなり得ない。なので、あまり有効射程外から攻撃するのは望ましくはないのだ。
モニターの向こうに映る黒森峰は、聖グロリアーナの進んでいる場所を予測し、そこを目指して最短ルートで向かっている。やはり、得意の電撃戦を仕掛けるつもりだ。
モニターが俯瞰図に変わり、距離は離れているものの両者が一直線上に向かい合うようになったのが分かる。それでも両者は前進を続ける。お互いに、肉眼で見える距離にまで詰めてから砲撃を始めるのだろう。
黒森峰が最短ルートを通った事で、恐らくだが聖グロリアーナの予想する接敵時間よりも早く戦闘が始まるだろう。そうなれば、奇襲とまではいかずとも先手を打つことができる。
そして黒森峰戦車隊の先頭を行くヤークトティーガーが、聖グロリアーナの戦車が有効射程より少し外側の地点に到達すると発砲した。聖グロリアーナのマチルダⅡはこれを回避する。
「あれは牽制だな」
「多分、そうですね」
モニターを見る根津と小梅が呟く。
ヤークトティーガーも、有効射程ギリギリにいるマチルダⅡの撃破を狙ってはいなかったのだろう。根津の言う通りあれは恐らく牽制で、あわよくば撃破したい、と言う心積もりのはずだ。
牽制をしたのには理由がある。相手の戦車の近くに着弾させることで相手を怯ませ動きを鈍らせる。また、砲弾の届く距離に敵戦車がいると思い込ませて『狙おうと思えばいつでも狙える』と言う事を相手に示している。強豪校の聖グロリアーナがその程度の脅し、というよりも警告に屈するようなやわな精神で戦いに挑んでいるとは考えにくいが、少なくとも相手の陣形の妨害にはなるし、大なり小なりの恐怖心を植え付ける事だって可能だ。
さて、聖グロリアーナ戦車隊は浸透強襲戦術―――敵の攻撃を厚い装甲で受け流しつつ前進し、敵をじわじわと侵攻するスタイルをとる。黒森峰と似ているが、黒森峰が“素早く”動くのに対し、聖グロリアーナは“ゆっくり”と動く。これが明確な2校の差だ。
聖グロリアーナはこれまでの試合では、フラッグ車を精鋭で護衛し、残りの車輌で攻めていく戦術を取っているのだが、今回は少し違った。
「総当たり・・・?」
「聖グロリアーナにしては珍しいですね」
黒森峰とは若干異なるが、V字型の陣形を形成して、黒森峰戦車隊に突っ込んでくる。もちろん、フラッグ車はすぐにやられないように陣形の後ろ中央に位置している。
そのV字陣形の先頭を行くのは足の速い巡航戦車・クルセイダーだ。その後方にチャーチルが控えているので、まずはその戦車を撃破しようとヤークトティーガーが発砲する。既に聖グロリアーナの戦車隊はヤークトティーガーの有効射程に入っている。ティーガーやラングの有効射程にはまだ入っていないので、少しの間はヤークトティーガーが聖グロリアーナ戦車隊と応戦する事になる。
だが聖グロリアーナ戦車隊もただではやられず、ヤークトティーガーの砲弾を避けていく。やがて致命傷にならないと分かっていても、後ろのティーガーやパンターが砲撃を始める。
そしてついに、両戦車隊が激突した。
その後の試合は、混戦と表現するに相応しいものとなった。
すばしっこいクルセイダーは黒森峰の陣形を崩そうと戦車に体当たりをかまして来た。
一方で黒森峰のパンターとⅢ号戦車は、クルセイダーとマチルダの侵攻を阻止しようと、時には砲撃し時には前進して戦車をぶつけて、聖グロリアーナの戦車の動きを妨害して、撃破した。
終盤近くになると、隙を見て1輌のマチルダⅡがエレファントの後ろに回り込み、装甲の薄い箇所をゼロ距離で狙撃して撃破した(このマチルダⅡは近くにいたパンターによって撃破された)。エレファントのような重駆逐戦車がやられた時には、織部はもちろん小梅も根津も少し驚いたように目を見開いた。
終いには、聖グロリアーナのクルセイダーの中でもものすごくよく動くクルセイダーが真正面から突っ込み、両校のフラッグ車であるティーガーⅠとチャーチルの間に道を作って、ほんのわずかな時間だけの1対1の状況を作り上げた。
その1対1の状況で、どちらの戦車もほぼ同じタイミングで発砲する。
結果は。
『試合終了、黒森峰女学園の勝利!』
モニターに映されているのは、白旗を揚げて黒煙が上がっている、聖グロリアーナのフラッグ車・チャーチル。僅差で、黒森峰が勝ったのだ。チャーチルの砲弾は、ティーガーⅠのウィークポイントから少しズレたところに撃ち込まれていて決定打とはならなかった。
観客席から拍手が上がり、織部たちも同様に拍手をする。
そして、両校の選手が挨拶をしたところで、また拍手喝采。それが終わると撤収作業に入るので、織部たちもそこを離れることにした。
撤収作業に向かう道すがら、根津が話しかけてきた。
「やっぱり、流石聖グロって感じだな。ウチの戦車が7割近くやられるなんて」
確かに、1回戦や2回戦とは違い、この準決勝で黒森峰の戦車は多くが撃破された。パンターが4輌にⅢ号戦車が2輌、さらにエレファントとヤークトパンターが1輌ずつ。中でも一番ショックなのはエレファントがやられた事だ。
もっと言えば、倒されたⅢ号戦車には三河が、ヤークトパンターには直下が乗っている。相手が強豪校とは言え、ここまで損害を受けては評価が見直されてしまうかもしれないだろう。下手すれば決勝戦には出られないかもしれない。
けれど、斑田のパンターはやられはせず、むしろクルセイダーを1輌撃破する戦果を挙げた。それに三河と直下だって、それぞれクルセイダーとマチルダⅡを1輌ずつ撃破している。その功績は認められるはずだ。
「でも、聖グロリアーナがあんなに総当たり戦を仕掛けてくるとは少し驚きました」
「それは言えてる。去年とは全然違ったからな」
小梅も言ったように、少数精鋭でフラッグ車を護衛する事無く聖グロリアーナは全車輌で黒森峰の戦車とぶつかった。過去とは違う戦い方に、驚いたのは織部たちだけではなく、去年も聖グロリアーナの試合を見て、あるいは実際に戦ったであろうまほも同感だろう。
とりあえず、積もる話は後にして、試合に参加しなかった戦車隊の面々は撤収作業を手伝うために、合流地点へと足早に向かった。
翌日からの訓練は、走行・砲撃訓練と小規模な模擬戦と、比較的軽めになった。
と言うのも、聖グロリアーナ戦でかなり戦車を消耗し、稼働できる戦車の数が少ないのと、隊長であるまほが不在であるからだ。
昨日の試合の後にミーティングを行ったのだが、まほは師範・西住しほに呼び出されて急遽熊本の本家に戻ったのだ。
なぜ全国大会という気の抜けない時期にまほをわざわざ呼び戻すのか、それは副隊長のエリカでさえも知らされていない。まほに近しいエリカでも知らないのだから、ただの一隊員の皆も分かるはずがない。
ともかく、まほが不在の間は副隊長のエリカが指揮を執ることとなった。だが、隊員たちの疲労と戦車の稼働状態を鑑みて、予め訓練のメニューはまほによって指定されている。まほも、戻るのは恐らく大洗女子学園とプラウダ高校の準決勝の後になると言っていたので、帰ってくるのは早くても4日後だ。その後は、また大会期間中の特別訓練に戻る。
その間、副隊長のエリカが隊長代理として指揮を執るのだが、何を思ったのか小梅と織部を補佐に回してきたのだ。正確に言うと、小梅は訓練で副隊長として隊全体に指示を出し、織部は雑用を任された。やれ書類をもってこいだの、やれ戦車の修繕状況を確認しろだのと容赦なく織部をこき使い、片時も心が落ち着かない。
ただ、指示に従い行動を終えるとエリカは必ず、『ありがと・・・』とだけ言ってくれる。これで労いの言葉の1つも無かったら流石にムッとするが、その言葉を聞けただけで悪い気も起らない。
それはさておき、自分と同じ高校2年生の女子が、高校生には不釣り合いな椅子に座り、机の上に資料を広げて一心不乱に読みふけっている。まだ決勝戦の相手も決まっておらず、使用する戦車も具体的には決まってはいないのだが、それも分かっているだろうにエリカは決勝戦の作戦を考えているようだ。
「・・・随分、熱心に資料を見返していますね」
何の気なしに織部が言うと、エリカは戦車のスペック表を読みながら言う。
「隊長がいないからってうかうかしてられないわ。少しでも決勝戦で勝てるように作戦を練って、戦車を万全な状態に戻してすぐにでも練習できるようにして、今年こそ優勝できるようにしたいのよ」
そこで、持っていた資料を机に置き、少し寂しそうにエリカが呟く。
「・・・もう、隊長は来年には卒業しちゃうんだから」
その言葉に、織部のハッとする。
忘れがちだが、まほは織部と同じく高校生で、一つ年上で高校3年生だ。とすると、留年でもしない限り今年はまほにとって最後の全国大会となる。
その最後を優勝で飾りたい、まほに有終の美を飾らせたいとエリカは心から願っている。そう思うと、エリカはまほの事をとても尊敬し、敬愛しているのが分かる。
そこで小梅が、いつの間にか淹れた緑茶の入った湯呑をエリカの手元に置く。エリカは『どうも』と一言だけお礼を言ってお茶を啜る。
一方で織部は、エリカの様子をじっと見ていた。
エリカは、副隊長と言う立場もあるがまほの最後の大会で優勝を届けたいと思う心を持っている。そして今目の前で、恐らくは一般人からすれば全く何のことかさっぱり分からない資料を読みふけって頭をフル回転させて作戦を練っているその姿は、織部や小梅と同じ高校2年生には見えない。
総じて、織部の目にはエリカがすごい人物に見える。
「・・・逸見さんってすごい人なんですね」
「はぁ!?」
思わず口に出してしまった。それは当然エリカの耳にも届き、動揺したエリカは書類を手元から落としてしまう。
「な、なに言ってんのよ急に・・・」
「あ、すみません。ただ、今こうして作戦を考えているところとか、西住隊長に有終の美を飾らせたいと思うところとか、僕みたいな普通の高校生とは違ってすごいなぁと」
「・・・そうですね。普段のエリカさん見てると、本当に私と同じ高校2年生なのかな、って思う事が何度かありますよ。それだけ、エリカさんがすごいって思います」
小梅も織部に同調して、恐らくは普段から思っていたであろう心中を吐露する。
それを聞いてエリカは。
「べ、別に褒めても何も出ないわよ!」
と言いつつ、恥ずかしいのか嬉しいのか少し顔を赤くして、文字を書くペンは先ほどよりも格段に速くなっている。
さては照れ隠しだろうか、だとすると可愛いものだ。普段から気丈に振る舞い自分にも相手にも厳しいエリカの知られざる一面を見て、織部も小梅も内心ではほっこりする。
その後は特に何事もなく訓練と補佐の仕事が終了し、家路につく織部と小梅、そしてエリカ。ただ、エリカは先ほどのやり取りが恥ずかしかったのか、先にそそくさと帰ってしまった。
そして途中までは織部と小梅の2人で帰り、いつもの交差点で別れ、織部は自分の部屋にたどり着く。
荷物を置き、制服から部屋着に着替えていざ夕食の準備を、としたところで鞄の中の携帯が電話の着信を告げた。
おそらくは親だろうな、と思いながら画面を開くと。
『着信:西住まほ』
まず織部は、特例として黒森峰戦車隊に入った際にまほの事を聞いている。そして、最初にまほと話をした際に、もしものためと、何かの縁と言う事で連絡先を交換した。それ以来、電話はおろかメールすらもしてこなかったのに、唐突にそのまほから電話がかかってくるとは思わなかった。
加えてまほは今、西住流の本家、つまりまほの実家に戻っているはずだ。その実家から電話してくるとは何事だろうか。戦車道の話なら副隊長のエリカに電話すればいいのに―――
予想外の人物からの着信に不意を突かれて、少し動揺するがすぐに我に返って電話に出る。
「はい、もしもし。織部です」
『織部か?すまない、こんな時間に』
「いえ、大丈夫です」
『今時間は大丈夫か?』
本音を言わせてもらえば、夕食前なので少しお腹が空いていて、せめて夕食の後にしてほしかった。だが、いきなりのまほからの電話となれば普通ではないと察したのでそれは後回しにする。
「問題ないですよ。それで、何か?」
『・・・・・・単刀直入に言うが、冷静に聞いてほしい』
わずかに間を開けて、まほが電話越しでもわかるぐらい真剣なトーンで言葉を発する。その口調と来たら、普段織部と話すときのようではなく、さながら戦車に乗っている時と同じぐらい真剣味を帯びていた。
「・・・・・・はい」
『・・・いいか』
そのまほの尋常ではない真剣さから、何か重大なことを言われると瞬時に理解した織部は、身構えてまほから告げられる言葉を待つ。
そして、少し時間を置いてまほが、告げた。
『みほが、勘当される』
ツクシ
科・属名:トクサ科トクサ属
学名:Equisetum arvense
和名:
別名:
原産地:北半球暖温帯地域
花言葉:驚き、意外、向上心
(もっとらぶらぶ作戦の話とは言え)
みほは誕生日に黒森峰の皆からビデオレターを貰うあたり、
そこまで黒森峰から嫌われていないんじゃないのかな、と思っています。
感想・ご指摘等があればお気軽にどうぞ。
そして誤字報告をしてくださった方々、本当にありがとうございます。