筆者本人も困惑しています・・・。
『送信者:織部春貴
日付:9月30日21時18分
件名:無事に戻れました
本文
こんばんは。先ほど無事に学園艦の寮へと戻ることができました。
半年ぶりなので、自分の部屋なのに別の誰かの部屋のように感じて仕方ありません・・・。
帰る途中で1年生のクラスメイトとばったり会って、早くも根掘り葉掘り聞かれました。
明日は、クラスの振り分けと、留学の報告の予定です。
ですが、友達から根掘り葉掘り聞かれると思うと、少し辟易します・・・。
でも、僕は自分の夢を叶えるために、この先も多くの事を頑張っていくつもりです。
小梅さんも、黒森峰で副隊長として頑張ってください』
『送信者:赤星小梅
日付:9月30日21時28分
件名:Re:無事に戻れました
本文
こんばんは。無事に戻れたようでよかったです。
春貴さんが帰ってしまって、根津さんや斑田さん、三河さんや直下さんも寂しそうにしてました。
もちろん、私も寂しいです。まだ1日も経っていないのに、春貴さんに会いたくて、
会いたくて、仕方ありません。
でも、いつかまた春貴さんと会える日が来る事を信じて、戦車道も学校も、
副隊長も頑張ります。
春貴さんの夢が叶うように、私も応援します。
どうか、頑張ってください』
『送信者:赤星小梅
日時:12月24日19時01分
件名:メリークリスマス
本文
こんばんは、春貴さん。メリークリスマスです。
黒森峰学園艦は、現在北海道の近くを航行していて雪がすごいです。まさに、ホワイトクリスマスですね。
今年のクリスマスは、まさかエリカさん達戦車隊のメンバーでクリスマスパーティをするとは思いませんでした。
パーティと言っても、私とエリカさんの他に、根津さんと斑田さん、三河さんと直下さんでドイツ料理店で一緒にご飯を食べただけなんですけどね。
そこで小さなプレゼント交換をして、私は三河さんの用意したミトンの手袋を貰いました。私が用意した雪の結晶の形の髪飾りはエリカさんの下に渡りました。
エリカさん達と過ごすクリスマスは初めてだったので新鮮でしたし、楽しかったのですが、
春貴さんと一緒に過ごしたかったので、それは少し残念です・・・・・・』
『送信者:織部春貴
時刻:12月24日19時18分
件名:Re:メリークリスマス
本文
こんばんは、小梅さん。メリークリスマス。
僕の学校の学園艦は、四国の近くにいて寒いけど、雪は降っていないかな。
小梅さんのクリスマスは皆と過ごして楽しかったみたいで、僕も嬉しいよ。
楽しいって気持ちが伝わってきたもの。
僕の方は、仲のいい友達と一緒にご飯を食べたぐらいで、別に変った事はなかったよ。
僕だって、小梅さんと一緒に過ごしたかったけど、学園艦が離れていて仕方がないね・・・。
いつか、一緒にクリスマスを過ごせる日が来る事を、願っているよ。
寒くなってきたから、小梅さんも体に気をつけてね』
『もしもし、小梅さん?』
「あ・・・・・・春貴さん。あけましておめでとうございます」
『うん、あけましておめでとう』
「今・・・大丈夫ですか?」
『大丈夫だよ』
「・・・・・・ごめんなさい、急に電話してしまって・・・」
『謝らなくて大丈夫だよ。僕だって、電話を掛けようかなって思ってたし』
「あ、そうでしたか・・・・・・」
『小梅さんは今・・・・・・実家?』
「あ、はい。春貴さんは?」
『うん、僕も同じだよ』
「そうでしたか・・・・・・」
『ごめんね・・・本当はそっちに行きたかったんだけど・・・』
「私も・・・です。春貴さんと、一緒に過ごしたかった・・・」
『まあ・・・実家が離れているし、仕方がないよね・・・』
「・・・・・・ええ」
『あ、ごめんね。暗くしちゃって・・・』
「い、いえそんな・・・」
『あ、ところで小梅さん、もう初詣には行った?』
「はい、行きました。親と一緒に・・・近くの神社へ」
『ああ、それって僕と小梅さんが言った夏祭りの・・・?』
「はい、あそこです」
『そっかー。僕は地元の小さな神社だったからなぁ・・・。確かそこって、結構大きかったよね』
「そうですね・・・・・・あの、最後のデートで行った神社よりは少し小さいですが」
『・・・・・・デート、か』
「あ・・・・・・その・・・・・・」
『いやいや、別に気を悪くしたんじゃなくて・・・。また、小梅さんと2人だけで出かけたいな、って思ったんだよ』
「・・・・・・私もです。春貴さんと・・・また、デートがしたいです・・・」
『・・・・・・・・・小梅さん』
「・・・?」
『いつか絶対、小梅さんに会いに行く。だから、それまで待っていてほしい』
「・・・・・・」
『・・・会いに行く、小梅さんに悲しい思いはさせない。だから・・・・・・それまで・・・・・・』
「・・・・・・春貴さん」
『・・・・・・・・・』
「・・・待っていますね」
『・・・・・・うん。待ってて』
『送信者:赤星小梅
件名:新年度
日付:4月3日19時43分
本文
こんにちは、春貴さん。
何とか無事3年生に進級することができました。私の周りの人たちも、
3年生になっても変わらず元気です。
西住元隊長はドイツへと留学し、エリカさんはひどく寂しがっていました・・・。
さて、新年度が始まり、今年も戦車隊への入隊希望者が大勢来る予定です。
できる限り、皆さんを隊に迎え入れたいのですが、例によって厳しい1週間の訓練期間があり、
私自身も副隊長という立場上どうしても厳しくしなければなりません。
隊長のエリカさんも厳正に決めようとしていますし、
去年や私たちが入隊した時同様に厳しくしなければならないです。
副隊長になると、こうして悩むことが多くて大変ですね・・・。
愚痴っぽく書いて、すみませんでした。
もし読むのが嫌でしたら、流し読みしても、
このメール自体を破棄しても、全然大丈夫です。
春貴さんも頑張ってください』
『送信者:織部春貴
日付:4月3日20時08分
件名:Re:新年度
本文
こんにちは、小梅さん。
やっぱり副隊長にもなると、悩みの種が増えるんだね。
でも、その悩みを素直に話してくれてありがとう。
自分で全部を抱え込まないで、僕にそれを話してくれたことがとても嬉しいよ。
新しく入ってきた隊員をなるべく迎え入れたいという考えは、
大切にするべき、尊重するべき考えだと僕は思う。
新しく入ってきたのは皆、黒森峰の戦車隊に憧れているからだろうし、
僕が小梅さんの立場なら同じことを考えると思う。
そして多分、隊長のエリカさんだって小梅さんと同じことを考えているかもしれない。
だけどもし、全員を戦車隊に迎え入れたとしたら、入隊する人も最初は喜ぶかもしれない。
けれど本来強豪校のレベルについていけないような人も、半端な気持ちで挑んでいる人たちも、
強豪校のレベルを正式に入隊してから初めて知ることになる。
そのレベルが自分たちの想像よりもあまりにも高かったら、
そのレベルの高さを痛感し、挫折して辞めてしまうかもしれない。
途中で挫折するのは多分、最初の訓練でふるいにかけられた時以上にショックが大きいと僕は思う。
だから最初の訓練で厳しくするのは、隊に正式に入隊した後で挫折しないようにする、
黒森峰なりの心遣いだと、そう言う見方もあると僕は思う。
もちろん、小梅さんのように考える事が悪い事とは言えない。
だけど、入隊を希望する人たちの事をよく考えるのであれば、
厳しくするのも多少は仕方のない事だと思うよ。
黒森峰と、入隊する皆のため、と考えて割り切るのが良いと、僕からはそうとしか言えない。
無責任な形で申し訳ないけど、僕の方からはこれぐらいしか言えないよ。
でもこれだけは分かってほしい。
小梅さんの考えは、絶対にダメだと言うわけじゃない。
むしろそうして、皆を入隊させたい、希望を受け入れたいと思うその姿勢は、
大事にするべきことだよ。
だから、恥じる事も罪悪感を抱く事も無い。むしろそうした考えをできる事を、
誇っていいんだ。
長文、ごめんね』
『送信者:赤星小梅
日付:4月2日20時16分
件名:Re:新年度
本文
ありがとう、春貴さん。
春貴さんの言葉を聞いて、私の胸のつかえも、無くなったように感じます。
確かに春貴さんの言う通りかもしれませんね。黒森峰と、入隊希望の人の事を考えれば、
それが最善かも、ですね。
春貴さんに話をして、本当によかったです。
春貴さんももし何か、思い悩んでいる事があるのなら、隠さずに私に話してもらえると、私も嬉しいです。
遠く離れた場所で、春貴さんが悩み苦しんでいるんじゃないかと思うと、
不安で、心配で、夜も眠れません。
だから、遠慮なく私にも、話してください』
『送信者:織部春貴
日付:4月2日20時18分
件名:Re:新年度
本文
ありがとう、小梅さん。
大好きだよ』
『送信者:織部春貴
日付:5月28日17時43分
件名:全国大会
本文
こんにちは、小梅さん。少し暑くなってきたね。
もうすぐ、全国大会が始まり、忙しくなるころだと思います。
聞いたところによると、黒森峰の1回戦の相手はBC自由学園らしいね。
試合会場に行って応援する事は出来ないけど、影ながら応援させてもらうよ。
全国優勝を目指して、頑張ってね』
『送信者:赤星小梅
日付:5月28日19時52分
件名:Re:全国大会
本文
こんにちは、春貴さん。
訓練でメールに気付くのに遅れてしまいました。ごめんなさい。
全国大会ですが、私たち黒森峰は誰が相手でも油断はしない所存です。
応援に来られないのは少し残念ですが、応援すると言ってもらえるだけで、
力がみなぎってくるかのように温かい気持ちになれます。
私たちも、優勝目指して、一意専心、頑張りますね』
『送信者:織部春貴
日付:6月6日18時57分
件名:誕生日おめでとう!
本文
こんばんは。
まずは1回戦突破、おめでとうだね。戦車道ニュースサイトで結果を見たよ。
無事に勝利できたようで僕も一安心です。
2回戦も頑張ってね。僕は全力で応援させてもらうよ。
そして、誕生日おめでとう。
プレゼントとかが用意できなくて、メールだけでごめんね。
いつか会う時に、渡せなかった分のプレゼントを持って行くよ』
『送信者:赤星小梅
日付:6月6日19時31分
件名:Re:誕生日おめでとう!
本文
こんばんは、春貴さん。
誕生日のメール、ありがとうございます。
BC自由学園は手強かったですが、
皆で力を合わせたおかげで勝利することができました。私も本当によかったです。
次の試合も、全力で挑みますね。
プレゼントの件ですが、春貴さんからのお祝いの言葉が貰えただけで、
私は十分ですよ?
でも、そのいつか会う時が来る事を期待して、
楽しみに待っていますね』
『送信者:織部春貴
日付:6月14日20時12分
件名:2回戦突破記念
本文
こんばんは、小梅さん。
2回戦も勝つことができて、良かったね。
サンダースは四強校の一角と言われるだけあって苦戦したみたいだけど、
何とか勝てたみたいで、本当によかった。
試合を直接見て応援できないのが残念だけど、
次の試合も、頑張ってね』
『送信者:赤星小梅
日付:6月14日20時28分
件名:Re:2回戦突破記念
本文
こんばんは。メール、ありがとうございます。
サンダースも確かに強かったです。1回戦も中々に苦戦しましたが、
今回はそれ以上に厳しい戦いでした。
でも、戦車隊の皆さんのおかげで、勝利を収めることができました。
無事に勝利することができて、何よりです。
次の試合も油断はせず、黒森峰の戦いをしていきますので、
応援してもらえると、嬉しいです』
『送信者:赤星小梅
日時:6月25日21時13分
件名:
本文
今、電話しても大丈夫ですか?』
『送信者:織部春貴
日時:6月25日21時15分
件名:Re:
本文
大丈夫だよ』
「もしもし?」
『あ、春貴さん・・・ごめんなさい、こんな夜遅くに・・・』
「ううん、大丈夫」
『ええと・・・・・・その・・・・・・』
「・・・・・・明日は、いよいよ決勝戦だね」
『・・・はい』
「・・・・・・・・・・・・・・・」
『・・・・・・実は、春貴さんに電話したのは・・・』
「・・・・・・うん」
『・・・・・・ちょっとだけ、私の・・・ええと・・・・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・不安を、聞いてもらいたいんです』
「・・・・・・・・・・・・いいよ。話してみて?」
『・・・ありがとう、ございます』
「気にしなくて大丈夫だよ」
『・・・・・・明日は、春貴さんの言った通り決勝戦です。戦うのは・・・みほさんが率いる大洗です』
「・・・・・・うん」
『・・・今回の大会でもみほさんは、聖グロリアーナや継続と言った強敵を破り勝ち上がってきました。戦車も新しく増えていて、実力は去年とはまた違います』
「・・・・・・・・・・・・」
『そんなみほさんを、大洗を相手に戦うのが、不安なんです。勝てるのかな、負けたらどうしよう、って・・・・・・そう考えてしまうんです』
「・・・・・・・・・・・・」
『副隊長になったから、かもしれません。隊を率いる人として、責任を背負っているからかもしれません。だから余計、不安で仕方ないんです・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・そう、なんだ」
『・・・・・・・・・ごめんなさい、こんなことを話してしまって』
「そんな事無いよ。前にも言ったかもしれないけど、こうして小梅さんが頼ってきてくれることが、僕はすごく嬉しいから」
『・・・・・・・・・』
「・・・小梅さん」
『・・・・・・・・・はい?』
「・・・確かに大洗の事はネットで見た。でも、黒森峰だって負けてない」
『?』
「1回戦でBC自由学園、2回戦でサンダース、準決勝でプラウダに勝った黒森峰だって、十分に強くなってる。それは、僕にも分かるよ」
『・・・・・・・・・』
「常連校のBC自由と、四強校の内の2校を破ったのは、黒森峰の実力の賜物だって言うのは紛れもない事だ。でもそれとは別に、小梅さんが副隊長として隊を率いていたのも、勝利できた要因だと思う」
『・・・・・・・・・』
「だから小梅さんも、不安になるぐらい弱いわけじゃない。むしろその逆で、小梅さんも十分強いんだ」
『・・・・・・・・・』
「それと小梅さん・・・この大会で送ってくれたメールに、いつも書いてたよね。『皆のおかげで勝つことができた』って。『皆が力を合わせたから勝つことができた』って」
『・・・・・・・・・』
「小梅さんは、自分の隊の仲間たちの力を信じて、今日まで戦ってきた。そうでしょ?」
『・・・・・・・・・はい』
「・・・・・・隊を率いる者として何より大切なことは、自分に付いてきてくれる仲間たちを信じる事だと僕は思う。西住元隊長が隊長として信頼されていたのも、元隊長自身も隊の仲間たちを信頼していたからじゃないかな」
『・・・・・・・・・』
「だから小梅さんも、仲間がいる事を忘れないで、そして仲間を信じて戦うんだ。そうすれば、どれだけ不安でも、負ける事が怖くても、戦うことができる。勝つことだってできるはずだ」
『・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・ありがとう、春貴さん』
「?」
『・・・春貴さんの言葉のおかげで、また少し緊張が無くなったように感じます。また、助けられてしまいましたね・・・』
「ううん、大丈夫だよ。小梅さんは、気にしないでいいんだ」
『・・・明日の試合・・・皆さんを信じて、全力で戦います』
「うん」
『そして、大洗に・・・みほさんに勝って、優勝します』
「・・・・・・頑張って。僕も応援するよ」
『・・・ありがとう、春貴さん』
「うん、じゃあね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さて」
観客席が水を打ったように静まり返っている。先ほどまでの歓声も嘘であったかのように、静寂に包まれている。
観客席の前にあるモニターには先ほどまで、黒森峰女学園のフラッグ車のティーガーⅡと、大洗女子学園のフラッグ車であるⅣ号戦車の激しい撃ち合いが映されていた。だが今、そのモニターは、戦車から立ち込める黒煙によってほとんど真っ黒になってしまっている。試合会場を飛行する無人ドローンからの映像は全部で4つあるのだが、その4つともが全く機能していない。
観客たちは、黒煙が晴れるまで声も上げず、静かに待つ。
7月が近づいている割には涼しい風が観客席を撫でるように吹き、状況が動く。
モニターを覆い尽くすかのように上がっていた黒煙が静かに払われ、戦車の姿が見えてきた。観客たちは無意識にモニターにのめり込むように、身を乗り出してモニターを見る。
やがて黒煙が晴れたそこに映されていたのは―――
『大洗女子学園フラッグ車、走行不能。よって・・・・・・』
砲口から白煙を上げているティーガーⅡと、白旗を揚げているⅣ号戦車だった。
『黒森峰女学園の勝利!!』
審判長の蝶野亜美が高らかに宣言する。
第64回戦車道全国高校生大会の決勝戦。それを制したのは、黒森峰女学園だ。
つまり、黒森峰女学園が優勝したのだ。
観客席の誰もがそう認識した直後、喜びの声と、残念そうな声が半々ぐらいの割合で観客席から上がる。
大洗女子学園は、去年の第63回大会で奇跡の快進撃を見せ、さらに大学選抜チームとの試合をも制した、伝説と言っても過言ではない学校だ。今年だって、ダークホースの中立高校、継続、聖グロリアーナを破った快進撃を見せていた。
その学校が、かつては前人未到の領域・全国大会を9連覇していた“最強”と謳われる黒森峰に敗北したのが、大洗女子学園のファンや関係者にとっては非常に残念だったのだ。
一方で、黒森峰が優勝を遂げた事を悔しがる人がいないわけではない。もちろん、黒森峰を応援するサポーターだって大勢いるのだから、優勝を決めて喜ぶ者だって当然いる。
モニターに、ちょっと残念な気持ちを表しつつも笑っている大洗のⅣ号戦車のメンバーと、優勝を決めた事に対する喜びを極力面に出さない黒森峰のティーガーⅡの乗員が戦車から身を乗り出す。
それを見ると観客たちは、優勝した黒森峰を称える拍手と、奮戦した大洗を労う拍手を惜しみなく贈る。
「・・・・・・エリカさん、小梅さん」
表彰式と閉会式が行われる場所へ向かおうとしている、小梅とエリカの背中に声が掛けられた。
そのふわりとした声は、2人からすれば聞き間違えるはずのない声。
振り返ってみればそこにいたのは、大洗戦車隊の隊長である西住みほと、首の後ろで跳ねるセミショートヘアの、今年から副隊長になった澤梓と言う少女だ。梓は先ほどまで泣いていた様で、目が少し充血しているし、頬も少し紅くなっている。
「・・・・・・優勝、おめでとう」
みほが少しはにかみながら告げると、梓も『おめでとう、ございます』と告げる。多分、梓は悔しいのだろう。去年の副隊長とは違う人物だから、恐らくこの大会が初めて彼女が副隊長を務めた大会なのだろう。だから悔しいと、それは深く考えずともわかる。
その姿を見ると、少し罪悪感を抱かないわけでもない小梅だが、ここで謙遜するのは逆に相手を侮辱するに等しい。
「・・・・・・あなた達も、十分戦ったわよ」
「・・・・・・そうかな?」
「そうよ」
エリカが、いつもと変わらない風を装ってみほに告げる。少し皮肉交じりの、だがそれでも相手を素直に称賛する微笑みを携えて。
「エリカさんの言う通りですよ。みほさん達も、本当に強かったです。やっぱりみほさん達大洗は強いんだなって、そう思いました」
「そ、そんなにかな・・・・・・」
「ええ、その通りですよ」
小梅の言葉に、エリカも頷く。同じことを思っていたらしい。
そして小梅の言葉を聞いて、みほの隣に立つ梓も、少し表情を緩める。
「でも、黒森峰も変わったね。去年とは全然違った」
「・・・どうかしらね」
みほが感心したように告げるが、エリカはそっぽを向く。その姿を見て小梅は、少しだけ可笑しく思い笑う。
確かに試合の最中で黒森峰の取った作戦は、去年の決勝戦では見せなかったような者ばかりで、観客たちの度肝を抜いたのも事実である。
「エリカさーん、赤星さーん!行くよー!」
と、そこでトラックのハンドルを握る直下がエリカと小梅に声をかけてくる。少し話をしているのが長すぎたらしい。
「そろそろ、行くわね。あなた達もでしょ?」
「あ、うん。そうだね」
「では、また」
「・・・・・・はい」
エリカとみほ、小梅と梓が挨拶を交わして、お互いにそれぞれの学校のトラックへと乗り込んで表彰式へと向かう場所へと向かう。トラックに乗る黒森峰の生徒たちは、皆唇を歪めて勝利の喜びに浸っていたり、あるいは涙を流して嬉しさを表現する者もいた。小梅だって、優勝が決まった時は泣きそうになるぐらい嬉しさが胸の中に込み上げてきたのだが、副隊長として、隊を率いるものである以上、そうした感情はあまり面に出してはならない。
だから、勝利の喜びの声を上げるのはまだお預けだ。
そしてこの気持ちは、すぐに自分の愛する織部に伝えたかった。自分の口で、伝えたかった。
学園艦に戻ったら、まずは織部に電話をしよう。そして、優勝したことの喜びを、ありのままの自分の気持ちを、織部に伝えよう。
そう思いながら、小梅たちのトラックは表彰式の会場へと向かって行った。
「いやぁ~・・・勝っちゃったね」
表彰式と撤収作業を終えて、清水港に停泊している黒森峰学園艦へと向かう電車の中で、三河が疲労と歓喜の入り混じった声を洩らす。隣に座って窓の外を眺めていた根津が、ゆっくりと三河の方を見る。
「まあ、僅差で勝ったって方が正しいか」
「そうだね・・・。最後の方なんてギリギリだったみたいだし」
直下が根津の言葉に頷いて、同意する。
三河も根津も、直下だって去年大洗と直接戦ったのだから、大洗がどれだけ強かなのかは分かっていた。そして去年の戦いで、黒森峰の弱点を突かれたことを教訓に、去年から今日に至るまでその弱点を克服するように練習を重ねてきた。不測の事態に冷静に対処し、新体制になってからは個人でも考えて動くことができるようになる訓練をしてきたものだ。
その成果を大洗に見せつける意味もあった今回の試合は、大洗に完全におちょくられた去年と比べると、大洗の少し上を行くことができたように感じられる。
エリカの発案した煙幕を用いた群狼戦術も1度きりとはいえ大洗の不意をつけたようで、一気に2輌撃破する事ができた。隊の戦車たちも、大洗の挑発行動に乗る事は無くまとまって進撃して、大洗のペースを乱す事にも成功した。
だがそれでも、大洗も去年から成長していないという事は無かった。3年生が卒業しても、大洗の隊長であるみほは次の世代の仲間たちをしっかりと育て上げ、去年と同等か、もしくはそれ以上に強くなっていた。そして新しい戦車も投入されていて、その試合の結果は根津の言った通り本当に『僅差で勝てた』のだ。
「でもまあ・・・・・・黒森峰にいるうちに、優勝できて本当によかったよ」
「まあ、それは確かにそうだな」
「うんうん、やっぱり優勝は誰でも嬉しいものだよね」
三河たちも、強豪校たる所以の戦車道に憧れて黒森峰に入学し、そして入隊したのだ。最初期の厳しい訓練に耐えてきたのも、戦車隊で戦いたいという一心だった。
その強さに憧れて、厳しい訓練に耐えて抜き、敗北を味わったからこそ、今回優勝できたことが筆舌に尽くしがたいぐらい嬉しいのだ。
ちなみに、彼女たちとよくつるむ斑田は、優勝したことで緊張の糸が切れてしまったのか、直下の隣で窓に寄り掛かって眠りこけている。
「・・・赤星さんも、優勝できて良かったよね」
直下が、隣のボックス席に座る小梅に話しかける。それは、一昨年の全国大会で優勝を逃してしまった直接の原因として気に病んでいただろうと思い、そして今日こうして優勝できたことが本当によかったと思っての事だった。
だが、その小梅は手の中にあるスマートフォンを見たまま、直下の言葉に反応しない。
「・・・・・・赤星さん、どうかした?」
「・・・・・・え?あ、いえ、何でもないですよ」
小梅は直下にもう一度尋ねられてそう答えたが、何かあるのはあからさまだった。
だが、直下も、傍にいた三河と根津も、その“何か”については言わなくても分かっていた。
おそらくは、去年の4月から9月末までの半年の間、留学という特殊なケースで黒森峰にいた織部がらみだろう。
その織部と小梅が付き合っているのを根津たちは知っている。そして、織部が黒森峰を去ってからも小梅は連絡を交わしているのだって、もちろん知っている。
とすれば、小梅とエリカの率いる黒森峰が全国優勝を果たしたこのタイミングで小梅が連絡―――恐らくはメール―――を交わした人物は、織部である確率が高い。小梅の両親と言う可能性も捨てきれないが、織部の方が可能性が高かった。
そしてメールの内容は恐らく、小梅と黒森峰への、勝利を祝うメッセージだろうと、根津たちは思っていた。
そんな根津たちの予想は、少しだけだが違っていた。確かに小梅が見ていたのは織部からのメールだったのだが、内容は黒森峰と小梅を称えるものだけと言うわけではなかった。
だが、そうでなくても、そのメールは小梅の心を揺り動かすほどの内容だった。
学園艦に戻り、戦車を格納庫まで戻して隊員たちは解散となった。優勝の興奮冷めやらぬ隊員たちは一緒に夕飯を食べに行ったり、家族に喜びを電話で伝えたりしている。
エリカも、黒森峰を優勝へと導いた立役者として隊員たちから胴上げでもされそうな勢いだったが、エリカが必死に『それはやめて』と抵抗したので胴上げは叶わなかった。
だが、去年までの黒森峰なら胴上げなんて考えもしなかっただろう。これまでは優勝したとしても、粛々と、淡々と祝って終わりだったのだから。それだけ黒森峰も、変わったという事だ。
さて、隊員たちが優勝した喜びに浸っている中で、小梅は1人で、ある場所へと向かっていた。どうしてこうなったのかと言うと、それは先ほどの織部からのメールにある。
あのメールには、お祝いのメッセージが書かれていたのだが、それとは別に写真が1枚添付されていた。そしてそれに加えて、『できれば、この場所に来てほしい』と書いてあった。
その写真は小梅にとっても馴染み深い場所の写真であり、黒森峰学園艦にある場所だった。
そこに織部がいると、小梅は信じている。
だから小梅は、小走りになりながらもその場所へと向かう。既に陽は落ち、歩道を照らすのは街灯だけで、おまけに空には雲が広がり星も月も見えず、しかも本格的な夏が近づいていて蒸し暑くなってきてはいるが、そんな事は気にせずに小梅はその場所へと向かう。
その場所に、織部がいると信じて、迷わずに突き進む。
やがて小梅は、そこにやってきた。2人が分かりあえた場所であり、恋人同士となれた場所でもあり、そして再会を約束した場所でもある、あの花壇だ。
去年、織部と離れ離れになってしまった後も、小梅は何度かこの場所を訪れていた。寂しくなった時や、副隊長としての重圧に押し潰されそうになった時、心細くなった時、そんな時はここを訪れていた。ここに来れば、織部と過ごしていた時間の事をより克明に思い出すことができたし、そして織部とメールや電話を交わすと織部が傍にいてくれているような感覚を得られたから。
その花壇の近くに小梅がたどり着くと、花壇のすぐそばにあるベンチに誰かが座っているのに気付く。この辺りは街灯が少なくて暗いうえに空が雲に覆われていて、その人物の顔は見えない。
だが、その人物が、小梅には誰なのかが分かるような気がした。
「・・・・・・春貴さん?」
そう、確かめるように呟く。その言葉は、その座っている人物に向けてかけたものではなかったのだが、その座っている人物は小梅の声に反応し、小梅の方へと顔を向けた、ように感じる。
そして、その人物はゆっくりと立ち上がり、小梅の前に向かい合うように立つ。
すると、タイミングを計ったかのように空に広がる雲が流れ、暗かった周囲がわずかに明るくなっていく。
徐々に、小梅の前に立つ人物の姿が明らかになっていく。
足下から順々に姿が明るみになっていき、着ているのはどこかの学校の制服などではない私服だというのが分かり、やがてその顔もまた、月明かりで照らされていって。
「・・・・・・春貴さん・・・っ!」
その人物の顔を認識した瞬間、小梅は瞳に涙をにじませて、その人物に抱き付いた。
月明かりに照らされたその人物は、小梅が会いたいと切に願っていた、他ならない織部だった。2人が再会を約束してからまだ1年も経っていないのだが、それでも長い間会えなかったことに変わりはない。会えなくて心細かったことに変わりはない。
だから、長い時間を経て会えたことに対する嬉しさをこうして小梅は体現している。
そして寂しいと思っていたのは織部も同じだったようで、抱き付いてきた小梅を引きはがそうとはせず、むしろ自分に抱き寄せるかのように優しく背中に手を回した。
「・・・・・・本当に、久しぶりだね。小梅さん」
「・・・会いたかった・・・・・・会いたかった・・・・・・!」
そうして少しの間、お互いに抱擁を交わして再会を喜んでいると、織部の胸に顔をうずめたまま、小梅はぽつぽつと話し出した。
「・・・・・・優勝、できました」
「うん、見てたよ。会場で」
「え・・・・・・?じゃあ・・・・・・」
どうしてすぐに会いに来てくれなかったのか、と小梅は目で問いかける。あの時会場で観ていたのであれば、すぐに会う事も可能だっただろうに、そして回りくどく呼び出すなんてこともせずに済んだはずだ。
「・・・・・・僕はもう、黒森峰の人間じゃないからね。だから試合会場に入る事ができなかったし」
「・・・・・・」
「それに、小梅さんはもう去年とは違って隊を率いる副隊長だ。だから、すぐに会うのは難しいと思ったんだよ」
「・・・・・・そうでしたか」
なにも織部は、意地悪で小梅をこうして呼んだのではない。小梅の事を考えて、呼び出したのだった。
それを知って、いや知る前でも、小梅は織部に対して怒ったりはしない。むしろどんな形であれ、直接会うことができたのがとても嬉しいのだ。
「・・・・・・優勝、おめでとう。小梅さん」
「・・・・・・ありがとう、春貴さん」
やっと、直接聞くことができた、織部からの祝いの言葉。その言葉を織部から直に聞けただけで、優勝したことによる喜びよりもさらに大きな喜びを感じられる。
「勝てました・・・・・・私たち・・・・・・!」
「うん・・・・・・頑張ったね。小梅さん」
「・・・・・・よかった・・・本当によかった・・・!」
直下の懸念していたように、小梅は一昨年の全国大会で黒森峰が優勝を逃し、みほのあの行動をとってしまった直接の原因であるという事を、失念してはいない。
だからこそ、その黒森峰を率いて、自分のせいで逃してしまった優勝を取り戻した事が、嬉しくて仕方が無くて、こうして織部の前でひたすら自分の中にある嬉しい、良かったという感情を吐き出している。
「でも、勝つことができたのは、皆さんが力を貸してくれたからです。私1人の力じゃありません・・・」
「・・・・・・小梅さんなら、そう言うと思ったよ」
そして織部は、小梅を抱き締める力を一層強くする。
「でも、小梅さんだって頑張った。それは、変わりないよ」
そう織部が告げると、小梅もまた織部を強く抱きしめる。
そして、少しの間だけ、2人は離れ離れになった後の自分たちの出来事を話した。共通したところと言えば、織部も小梅も進学する大学を決めていて、お互いに推薦入学ができるように頑張っているとのことだ。
小梅に限った話では、副隊長として隊長のエリカと接する時間が増えて、大分仲良くなることができたという。ごくたまに、エリカから愚痴のような事を聞かされているようで、距離感が大分縮まったようだ。隊長としての憂鬱を小梅は真面目に聞いているので、エリカとしても色々話しやすいのだろう。
織部としては大した話は無く、別に大きなイベントも無かったのだが、織部と直接会って話をすることができるだけで、小梅は満足だったらしく、終始微笑んでいてくれた。
そして夜も更けてきたところで、織部の帰る時間が来てしまった。清水港から織部の学園艦へと向かう連絡船の最終時刻が迫っているのだった。
名残惜しいが、今一度小梅と離れ離れになってしまう。だが、それでもまた再会を約束し、2人が再開する事を願って、また別れる。
また明日からは、お互いに離れ離れとなる日が始まる。
だけれども、2人は今日再会したことで、寂しさがまた少しだけ軽くなっていた。
『送信者:赤星小梅
日付:3月10日17時53分
件名:卒業
本文
こんにちは、春貴さん。
こちらは温かくなってきましたが、春貴さんはいかがお過ごしでしょうか。
今日私は、無事に黒森峰を卒業することができました。
3年間、辛い事も、楽しい事もあった黒森峰ですが、私は黒森峰が大好きです。
だって、この黒森峰にいなかったら、春貴さんと出会う事もできなかったんですから。
でも、いつまでも感傷に浸っているわけにはいきませんね。もう来月からは、
大学生として新しい生活が始まるんですから。
そして大学でも、戦車道は続けます。
1人では心細いと思ったのですが、意外にもエリカさんが同じ大学に進学するので、
エリカさんと一緒に戦車道を続けていきます。
春貴さんも、頑張ってくださいね。
応援しています』
『送信者:織部春貴
日時:3月10日18時07分
件名:Re:卒業
本文
こんばんは、小梅さん。メールありがとうね。
卒業、おめでとう。
小梅さんは将来も、戦車道を続けるって言っていたね。
プロ入りをするのは、決して楽な道のりじゃないというのは僕にも分かるけど、
小梅さんなら乗り越えられるって僕は信じてる。
だから、できる事は少ないけど、僕は全力で小梅さんを応援するよ。
僕も大学で夢を叶えられるように頑張るから、
お互いに、頑張って行こう。
逸見さんにもよろしく伝えてくれると、ありがたいかな。
またいつか、会える日が来たらいいね。
P.S.
いつか、小梅さんに伝えたい大事な言葉があるんだ。
だから、その日が来るまでは、どうか待っていてほしい』
リンドウ
科・属名:リンドウ科リンドウ属
学名:Gentiana scabra
和名:竜胆
別名:―
原産地:日本、中国、朝鮮半島、シベリア
花言葉:勝利、固有の価値、正義、あなたの哀しみに寄り添うなど
2人の離れ離れになっていた時間を表現するために、
メールに日付を入れてみましたがいかがでしたでしょうか。
流石にこれ以上長くしてはならないと思ってこうしました。
お気に召さないようでしたら申し訳ございません。
感想・ご指摘等があればお気軽にどうぞ。
中立高校、劇場版内のサイトでちょこっとだけ出てきました学校です。
最終章にも出てきたらしいですけど、どこに出てきたのか筆者には分かりませんでした・・・。