また少し時間が飛んでいます。
予めご了承下さい。
戦車道の世界は決して甘くはない。
生半可な気持ちで挑む事などできない、厳しい世界だ。
勝負の世界だからこそ敗北を経験する時はあるし、あるいは困難な壁に行く手を阻まれ挫折する事だってある。
第62回戦車道全国高校生大会で、西住みほの行動が大多数から否定されたように、自分の信じた道が否定されるという事も、また起こり得る。
大洗女子学園のように、戦車道で自分たちの居場所を取り戻すというケースは稀だが、そのような事態に直面する可能性もできてしまった。
だが、そのような厳しい世界の中で、小梅は戦ってきた。
小梅もまた、戦車道の世界で心に大きな傷を負い、苦悩を抱えていた。本当に心が折れるぐらい、小梅はどうしようもない悲しみに囚われていた。
だが、今日まで小梅が戦車道を続けていられるのも、小梅にとってかけがえのない、大切な人ができたからだ。
その大切な人は、小梅と同じように過去に大きな傷を負い、だからこそ小梅の気持ちを理解してくれた。そして、小梅の傍にいると言ってくれた。
その人もまた過去に傷を負ったからこそ人に優しくすることができ、小梅もその人と思い出をいくつも重ねてきた。
いつしか小梅は、その人と離れたくない、ずっと一緒にいたいと思うようになった。
それが恋という感情に気付くのに、そう時間はかからなかった。
そして2人は互いに恋人同士となり、さらにはその先の未来も約束した。
だがその未来が訪れる前に、小梅には一つだけ、やらなければならない事があった。
ある日の夜、学習机で勉強をしていた織部だが、脇に置いていたスマートフォンが電話の着信を告げた。
しかして織部は、電話を取る前から誰からの電話かは、薄々気付いていた。
画面を見れば、『着信:赤星小梅』の文字。ビンゴだった。だが、電話自体が嫌なわけではない。
すぐに電話を取る。
「もしもし、小梅さん?」
『あ、春貴さん。こんばんは。ごめんなさい、夜遅くに・・・』
「ううん、気にしないで。それで、どうかしたの?」
織部は口ではそう尋ねるが、小梅がどうして電話をかけてきたのかは大体予想できている。
『・・・・・・明日の試合、の事で、その・・・・・・』
その織部の予想は当たった。だからと言って呆れたりはしないし、話をしたくないと言うわけでもない。
「・・・・・・話してごらん?」
『・・・・・・・・・えっと、春貴さん』
「うん?」
『・・・・・・突然電話したのに・・・いいんですか?』
どうやら小梅は、小梅が唐突に電話を掛けたのに、織部が電話を掛ける事を分かっていたかのように落ち着いていて、そして何か相談をしてくることも予想していたかのような様子が不思議に思えるらしい。
「・・・・・・小梅さん、多分今頃緊張してるんじゃないかな、って思ってね」
『どうして・・・?』
「小梅さんと付き合い始めてから大分経ったし・・・小梅さんが今どんな気持ちなのかなって・・・なんとなくだけど分かるんだ」
『・・・・・・・・・』
「だから、大事な試合の前の日に、小梅さんが今どんな気持ちなんだろう、っていうのも、分かるようになってきたよ」
『・・・・・・・・・』
小梅が黙り込む。恥ずかしいのか、織部にそう心配させて申し訳ないと思っているのか、可能性としては後者の方が高い。
『・・・・・・迷惑、でしたか?』
「とんでもない」
何度も言うようだが、こうして小梅が織部を頼り、そして不安や恐れを口にしてくれることが織部にとっては嬉しい事なのだ。織部を頼るという事はそれだけ信頼されているという事だし、これで小梅の中の不安や恐怖心を軽減させることができるのであれば、いくらでも話を聞く所存だ。
『・・・・・・ありがとう、春貴さん』
その織部の言葉を聞いて、小梅も最初に抱いていた織部に対する申し訳なさが無くなったらしい。これで、少しだけかもしれないが話しやすくなっただろう。
『・・・・・・明日は、大事な試合なんです。恐らく、これまでの私が戦った試合の中でも、特に・・・』
「・・・・・・うん、分かるよ」
大学に入学して早4年が経過するが、小梅はその間も戦車道を続けている。それはもちろん、小梅自身が将来はプロ戦車道選手となる事を希望しているからだ。
黒森峰でも戦車道を嗜んでいて、3年の間とは言え副隊長を務めていたから、大学の戦車道チームに入隊する事は、別に問題は無かった。
ただし、大学の戦車道もそれなりにレベルが高いがゆえに、色々と苦労する事はあったようだ。織部は大学の小梅の戦車道を見た事が無いから、どれだけ厳しいのかは分からないが、時折小梅との電話でどれだけ厳しいのかを何度か耳にしていた。それでも小梅はめげずに、大学選抜チームと言うチームに入ることを目標としていた。
かつて大洗女子学園が存続をかけて北海道で戦った大学選抜チームは、全国の大学から選りすぐりの戦車道選手を集めて構成されたチームであり、以前は島田流戦車道後継者の島田愛里寿、バミューダ三姉妹と言われるメグミ、アズミ、ルミの3人が属していた。時が流れて今はその4人もプロ入りなどで脱退したが、それでも大学選抜チームは社会人チームと肩を並べるほどに強いチームとされていた。
そんな大学選抜チームに、小梅は現在所属している。それは小梅の努力によるものであるが、それと同時に小梅と同じ戦車に乗る乗員との協力にもよるものだと、同じ戦車で戦う仲間のおかげだと小梅は言っていた。
黒森峰にいた時のように、自分の実力によるものだと驕ることはなく仲間と協力したからこそと堂々と言える小梅は、黒森峰の時と良い意味で変わっていない。大学に入ってから小梅の戦車の乗員は変わってしまったが、小梅はそれでも同じ戦車の乗員とは親交を深めて打ち解け、こうして大学選抜チームに抜擢されるまでに強くなっている。
そして、大学選抜チームの隊長をエリカが務めている今、小梅は黒森峰と同様にエリカの補佐であり、副隊長でもあった。それほどまでに小梅はチームの中でも指折りの戦車乗りで、エリカからその実力を認められている。そしてチームの皆からも、その実力は認められていた。
だが、大学選抜チームに入れただけで満足、とはいかない。小梅の最終目標は、プロなのだから。
『明日の試合で勝てば・・・・・・プロ入りは、目の前なんです』
「・・・・・・うん、僕もそう聞いてる」
明日の試合は、大学選抜チームと社会人チームの試合の日だ。この試合はメディアの取材も来る事が決まっており、戦車道関係者が注目する試合である。
そしてこの試合に勝てば、かつて島田愛里寿が大学選抜チームを率いていた時以来の大逆転、ジャイアントキリング、大金星となる。さらにこの試合で成果を挙げることができれば、プロの道は約束されたも同然だ。
はっきり言って、この試合がどれだけ重要な意味を含んでいて、これまでのどの試合よりも重いものだというのは、織部よりも小梅の方がずっと分かっているはずだ。
「・・・・・・緊張してるよね、やっぱり」
『・・・・・・はい』
それはそうだろう。この試合の勝敗で、小梅の人生が決まると言っても過言ではないぐらい、この試合に賭けるものは大きい。小梅が副隊長を務めた黒森峰と大洗の全国大会決勝など比ではないぐらいだろう。
「でも、小梅さんは何度もこうして、不安や弱音を打ち明けても、こうしてここまで戦車道を続けてくることができた」
『それは・・・春貴さんが話を聞いてくれたから・・・・・・』
「いや、違う」
小梅の言葉を、織部は少し強めに否定する。電話越しにも小梅が少し怯んだのが分かる。
「確かに小梅さんの言う通り、僕は何度か小梅さんの話を聞いてきた。そして、小梅さんにもいくつかアドバイスや助言もした」
『だったら・・・・・・』
「でも、僕の言葉を聞いて、ここまで戦車道を続けてきたのは、他の誰でもない、小梅さんだ」
『・・・・・・!』
再び小梅が押し黙る。それでもなお織部は続ける。
「僕はただ、小梅さんが道に躓きそうになった時、それを支えてあげただけに過ぎない。小梅さんが道に迷いそうになった時、その道を示しただけでしかない。躓いて、そこから立ち直って、そしてまた道を歩き出したのは・・・小梅さんの力だよ」
『・・・・・・・・・』
直接小梅の下へ行って、小梅を励ます事はできない。抱き締めたり、口づけを交わしたりして不安を晴らす事や軽くすることもできない。だから今できる事は、織部自身の気持ちを言葉にして、精いっぱいの気持ちを籠めて言葉で伝える事だけだ。
ここまで来て、小梅の夢への道が閉ざされるというのはあまりにも残酷だ。ましてやそれが、小梅自身の内にある不安や恐怖によるものだとすれば、なおさら酷な事だ。
だからせめて、言葉だけで小梅の中の気持ちを和らげる。それが今の織部に出来る最善の事だった。
「本当に初めて会った時の、過去の事に囚われて涙を流していた小梅さんはもういない。今の小梅さんは、あの時よりもずっと、ずっと・・・強くなってる」
『・・・・・・・・・』
「小梅さんの乗る戦車が強くなったのを、小梅さんは自分1人だけの力だとは決して思わず、同じ戦車に乗る仲間のおかげだっていつも言っていた。そうして自分1人だけに執着する事も、驕ったりもしない小梅さんは、とても強い人だ」
『・・・・・・・・・』
「前にも言ったと思うけど、仲間の力を疑わず、信頼している人は、とても強い人だ。だから小梅さんも同じだと僕は思う」
小梅からの反応は無い。だが、今だけは織部も小梅に反論させるわけにはいかなかった。ここで反論させてしまえば、持ち直しかけているであろう心がまた傾き始めるだろうから。
「どれだけ不安でも、恐怖に押し潰されそうになっても・・・・・・それだけ強い、僕なんかよりもずっと心が強い小梅さんなら・・・・・・乗り越えられる。僕はそう信じているよ」
『・・・・・・・・・』
「それでももし、怖かったら、不安だったら、自分に自信が無いのなら・・・・・・今から僕がそっちへ行く」
それは冗談でも比喩でもない、本当に織部の気持ちだった。
明日の試合を直接観戦し小梅を応援する事は、残念ながら織部の都合でできなかった。だが、そんな事は今はどうでもいい。小梅にとっての一世一代の大勝負を前にして小梅が怯え、恐れ、不安でいるというのであれば、本当にどんな手段を使ってでも試合会場へと行って、小梅の事を直接励ますつもりでいた。
それだけ織部は、本気だった。本気で小梅の事を心の強い人だと考えているし、励ましたいとも思っている。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・春貴さん』
「・・・・・・?」
少しの沈黙の後、小梅が織部の名を呼ぶ。織部は、静かに小梅の次の言葉を待つ。
『・・・・・・私みたいな人の事を、そこまで、考えてくれて・・・本当に、本当に・・・・・・』
「・・・・・・・・・」
『・・・・・・ありがとう・・・』
小梅の言葉が途切れ途切れだ。それは小梅が泣いているのだという事が電話越しでも分かるし、その小梅は今、励ましてくれた織部に対する感謝の気持ちと、織部を心配させるまでに不安になっていた自分に対する情けないという気持ちがないまぜになっているのだというのも伝わってくる。
『・・・・・・ごめんなさい、春貴さん。心配をおかけしてしまって・・・』
「大丈夫だよ、小梅さん。小梅さんが、持ち直せたのなら、僕はそれでいいんだ」
『・・・・・・本当に・・・ありがとうございます』
もう大丈夫だ。小梅の言葉には、不安や怯えの感情は感じられない。そう思って織部が、最後に励ましの言葉をかけて切ろうとするが、その直前。
『・・・春貴さん』
「何?」
『・・・・・・明日の試合・・・勝てたら・・・』
「うん」
『・・・・・・春貴さんに伝えたい言葉が、あるんです』
その“伝えたい言葉”とは何なのか、織部にはすぐに分かった。だが、その言葉は織部自身が先に言いたい言葉であるし、ずっと前にそう決意した言葉だ。
「・・・・・・僕も、小梅さんに伝えたい言葉がある」
『?』
「本当に、大切な言葉だよ」
『・・・・・・分かりました。楽しみに、していますね』
「うん、僕も小梅さんの言葉、待ってるよ」
『はい』
「だから・・・・・・・・・明日は、頑張って」
『・・・・・・ええ、頑張ります』
そして、電話は切れた。
それからほんの少しの間、織部は手の中にスマートフォンを置いたまま、目を閉じて先ほどまでの小梅と交わした言葉を思い出す。
小梅を励まそうとするあまり、少しばかり感情的になってしまった気がする。だが、全ては大事な試合の前に心が揺れ動いている小梅を励まし、安心させるための事だ。間違った事は何一つとしていないし、間違った言葉も言っていない、と思う。
小梅の声を聞く限りでは、小梅の中の明日の試合に対する不安は無くなった、あるいは和らいだように思える。それについては、自分の言葉で小梅が持ち直したという事で、一安心だ。
ただもう一つ気になるのは、『試合で勝ったら伝えたい言葉』だ。
織部は、このタイミングで伝えたい言葉は、一つだけしか考えられない。それは自分の思考回路があまりにも極端すぎるからか、そうでないのかは分からないが、とにかく“それ”を告げるとしか今は考えられない。
そして織部自身、小梅にも伝えたい言葉がある。それは恐らく、小梅の伝えたい言葉と内容はほとんど、あるいは全く同じだと思う。
そこで織部は、机の引き出しを開けて、白い小さな紙袋を見る。その中身を見て、ちゃんと“ある”のを確認し、小さく息を吐く。大学に入ってから始めた接客業のアルバイトで稼いだ給料で買い求めたものだ。
(・・・・・・僕はもう、小梅さんに伝えるだけだ)
織部の将来の夢―――戦車道連盟で働くという夢は、成就した。
ほんの数か月前に試験を受け、合格の通知が1週間ほど前に織部の下へとやってきた。
これで、織部が中学時代から抱いていた、長年の憧れでもあった将来の夢は叶ったのだ。
隠しきる事も無理だったので小梅にそれを話すと、電話越しでも小梅の『ものすごい嬉しい』という気持ちがまるで直接対面して伝わるぐらいには、小梅も喜んでいた。終いには涙ぐみながらも小梅は織部に、祝福の言葉を贈ってくれた。
だが今、織部が気にしているのは小梅の事、明日の試合の事だ。
手元にある“これ”と、ある言葉を伝えるかどうかは、明日の試合の是非によって決まる。
この織部の事情を差し引いても、小梅の将来は明日の試合に懸かっているので、織部はただひたすら小梅の所属する大学選抜チームが明日の試合に勝つことを祈るほかなかった。
絶対に、負けないでほしいと。絶対に勝ってほしいと。
そう願わずにはいられなかった。
顔を上げれば、雲一つない清々しすぎる空が広がっている。気温は秋にしては少し高めで、しかし湿気はそこそこと、絶好の試合日和だった。
観客席には、遠目から見ても大勢の観客たちが席に座っているし、先ほどちらっと報道陣の姿も見えたので、恐らくこれから始まる試合は、今試合会場にいる人の他にも多くの人間が見ているのだろう。戦車道はエリカが黒森峰にいた時よりもはるかに知名度のある武芸となっていて、こうして試合が中継される事もざらだった。
その試合を目前に控え、エリカは戦車の前でかつかつと足を鳴らしていた。普段こういった目に見えるような形でイライラを表現しないエリカにしては珍しい事だったのだが、今エリカは別に苛立っているわけではない。
「・・・・・・エリカさん、緊張してるみたいですね」
そんなエリカの下へ、とことこと小梅がやってきた。小梅は穏やかな表情をしていて、緊張しているようには全く見えない。
自分はといえば、滅茶苦茶緊張している。こうして足を鳴らしているのも緊張を紛らわせるためのものだし、心臓の鼓動は普段の比ではないぐらい高い。
「・・・・・・緊張しないわけないでしょ」
「そうですよね、それは分かりますよ」
エリカは現在所属する大学選抜チームの隊長であり、小梅は副隊長である。奇しくも黒森峰の3年生の時と同様にエリカと小梅がチームを率いている。だがしかし、今は状況が黒森峰の時とはまるで違う。
相手は社会人チームであり、戦車はほぼ互角だが、技術も練度も認めたくはないが向こうの方が上だ。加えて、この試合にはプロ入りができるかどうかが懸かっている。エリカだってプロ入りは自分の最終目標の様なものだし、小梅もここまで戦車道を続けているのだから同じだろう。
だからこそ、それが自分の肩にかかっていると思うと緊張しないはずは無かった。
「その割に、小梅は緊張していないみたいだけど?」
そう、今エリカと話をしている小梅には、見た感じでは緊張している様子が無い。隊長ではないが、副隊長としてチームを率いる立場にあるはずなのに、エリカと同じように小梅にも背負うべきものが多くあるはずなのに、なぜここまでゆったりとしていられるのか。
「・・・・・・昨日、春貴さんに励ましてもらいましたから」
そう言う事か、とエリカは内心で小さく笑う。
小梅は、自らが好いている人から激励の言葉を貰って、この試合の覚悟が既に決まっていたのだ。おそらくその言葉を貰うまでは、小梅も緊張感に苛まれ、心が不安と恐怖に押し潰されそうになっていたのだろう。だが、それでも小梅は織部という最愛の人物に緊張をほぐしてもらったのだ。
そして今、エリカよりも心に余裕ができている。
「・・・仲がよろしくて、大変結構な事だわ」
「あはは・・・」
エリカがいつものように皮肉っぽく言うと、小梅が小さく笑う。だが否定はしないあたり、そんな自覚はあったようだ。本人が否定しないから、つくづくあの織部と小梅の仲は相当良いのだと思わさせられる。
「こんな大舞台を前に緊張しないっていうのも、羨ましいわね」
「緊張していないわけじゃないですよ?心の中ではまだ緊張してますし」
確かに、織部から励ましを受けただけで緊張を微塵も感じないのであれば苦労はしないし、言葉だけで緊張が無くなるというのならそれはそれで素晴らしいと思う。ただ、織部と小梅の間に限っては、その可能性もあると思えてしまうのだが。
しかし一方で、エリカ自身は自分の中にある緊張を誰にも吐露できてはいない。それは自分がチームの隊長である故に、隊長が不安をこぼすとチーム全体の士気にも関わるからであるし、エリカ自身そう言う気持ちを素直に吐き出せず、少しばかり素直ではない性格だからだ。
「西住元隊長に話すというのは・・・」
「そんな事、できるはずがないわ」
今なお信奉しているまほに相談するというのは論外だ。まほは既に一足先にプロとなっていてプロの世界を生きているし、エリカが何のためにまほの後を追わず、ドイツ留学をせず国内の大学に進学したのかを考えればそれも望ましくはない。
エリカは確かにまほを心酔しているが、心のどこかではまほに縋っているような気がしていたのだ。いや、『気がしていた』ではなくて『だった』。いつもまほの後ろにくっついていたのも、まほの意見には素直に従っていたのも、まほを心酔して、まほに縋っていたからだったのだ。
だがエリカも、いつまでたってもまほに縋ってばかりではいられないと自分で考えて、あえてドイツ留学の話を蹴った。そして、まほ無しでも戦車道の世界を自分だけで生きるために、日本に残って自らの技術を磨き上げてきた。
その結果が、大学選抜チームの隊長だ。
だからこそ、まほに相談し、またまほに縋るという手はナシだった。
「・・・・・・相談できる人がいるって、良い事よね」
「・・・・・・」
エリカがポロっと口にするが、小梅にはその気持ちが分かるような気がした。
エリカは、エリカ自身の立場と性格のせいで、なかなか人に相談するのが難しい。だから一人で多くのものを背負っている。たまに同じ戦車の乗員と雑談をするエリカの姿を小梅は何度も見てきたが、それでも自分の中にある不安を話すまでにはエリカも素直にはなれないのだろう。
「・・・・・・そうですね。いろいろな事を話せる、信頼できる人がいるってだけで、心も落ち着きます」
「でしょうね」
小梅がそう告げると、エリカがジッと小梅の事を見ながらそう返す。小梅の言葉は、まさに小梅自身がいい例だったからで、現在進行形でそれを体現しているからだ。
「私にも、そう言う人がいればねぇ」
「彼氏とか・・・・・・いないですよね・・・そう言えば」
「女子大でどうやって彼氏を作れっていうのよ」
エリカのいじけた言葉に、違いないと小梅も苦笑する。ただ、エリカの言う通り、今小梅たちは女子大に所属している。黒森峰も元々女子校だったから、織部の留学というイレギュラーが無ければ、今小梅には彼氏などいないだろうし、そもそも戦車道を続けられていたかさえも定かではない。そう思うと、織部が黒森峰に来たのは相当な偶然だったという事だ。
「家族の方に話してはどうでしょう?」
「ウチの両親は過保護気味だし、姉は私の事を子ども扱いするしで・・・・・・なっかなか難しいものよ」
「ああ・・・・・・それは確かに相談しにくいですね・・・」
「もうちょっと程よい距離感を持ってくれればまだやりようはあったのに」
確かに、その両親に緊張している事を話せばあれやこれやと言われるのは必至だろうし、子ども扱いする姉に相談しても逆効果にしかならない。だが、エリカは一度たりとも家族の事を『嫌い』と言ったことはないので、なんだかんだでエリカも家族の事が好きなのだろう。
「というか、もうすぐ試合が始まるんだし、そんなこと話す時間も無いわよ」
「そう言えばそうでしたね・・・。話していて、時間を忘れてしまってました」
時計を見れば、試合開始時刻が迫ってきている。いよいよ試合が始まると思うと、気を引き締めなければならない。
「・・・・・・小梅」
「はい?」
戦車に乗り込もうとする直前で、エリカが小梅に声をかけてきた。小梅は振り返るが、エリカは小梅の方は見ておらず、試合会場である広い草原を見つめたままだ。
「・・・・・・ありがとうね」
「へ・・・・・・?」
「・・・・・・あなたと話してたら、自然と緊張しなくなってた」
唐突過ぎるエリカの感謝の言葉に小梅も拍子抜けするが、確かに小梅と話をしている間はエリカも緊張している様子は無かった。
「・・・小梅と話して、西住元隊長の事や家族の事を思い出すと、なんか・・・・・・緊張しなくなったのよ」
緊張している時は大体、心の中には自分以外の誰の顔も思い浮かばなくなり、思う事とはネガティブな想像上の末路や、不安な気持ちだ。だが、そこで親しい人の顔を浮かべると、不思議とその緊張も解れていく。特に、その親しい人との思い出が明るく温かいものであればなおの事だ。
エリカも、小梅と話しているうちにまほやエリカの家族の事を思い出して、萎縮しきった心を持ち直せるほどの良い思い出を思い出す事ができたのだろう。
「・・・それは、よかったです」
小梅も、エリカの緊張をほぐすのに一役買うことができたと思うと、少しばかり誇らしい気持ちになる。エリカはこの大学選抜チームを率いる隊長であり、大切な要だ。だからこそ、万全なコンディションで試合に挑んでもらいたいし、小梅としてもこの試合は負けるわけにはいかないので、エリカが立ち直ったというのは嬉しい事だった。
「・・・・・・絶対、勝ちましょう。エリカさん」
「言われなくても、そのつもりよ」
いつものように勝気な口調でエリカが返すと、お互いに戦車に乗り込む。
「装填手、準備完了です」
「操縦手、いつでもどうぞ~」
「通信手、問題ありません」
「砲手、いつでもいける」
小梅が車内に乗り込み、全員の準備が整っているのを聞き届けると小梅は頷く。
黒森峰の頃のパンターの小梅以外の乗員は、今ここにはいない。だが、今この場にいる仲間は、小梅が大学で新たに作る事の出来た信頼できる仲間だ。
『仲間の力を疑わず、信頼している人は、とても強い人だ』
織部の言葉がふと頭をよぎる。
そうだ、仲間の力を疑わずに信じていれば、その信念はやがて通じる。この試合にだって、一世一代のこの大勝負にだって勝てるはずだ。
時計を見る。試合開始時刻もいよいよ秒読みとなっていた。
(・・・・・・絶対に)
キューポラから身を乗り出して、目の前に広がる草原を見つめる。
まだ視界に捉える事はできないが、この草原の先には、相手チームの戦車がいる。
そしてまだ見る事はできないが、この試合の先には、小梅の夢がある。
(・・・・・・勝つ!)
試合開始を告げる号砲が鳴り、隊長であるエリカの通信が入った。
『全戦車、Panzer Vor!!』
大学選抜チームと社会人チームの試合は熾烈を極めるものだった。
両チームともに臆することなく前進し、敵戦車と肉薄すれば容赦も遠慮も無く砲撃を放つ。装甲が弾け飛び、火花が散って、地面が抉れて、草原には戦車の轍が無数に刻まれる。
だが、社会人チームもこれまで何度も激戦を勝ち抜いてきたチームだ。だから攻め時も、引き際も弁えている。近接戦闘で無理はせず、不利と判断すれば迷わず一度引いて態勢を整え直す。
エリカと小梅も、率いているのが黒森峰の戦車であれば、黒森峰の時のように撤退する暇も与えずに追撃戦を仕掛けていただろう。だがそれも、相手チームが及びもしないほど黒森峰が重厚なる装甲と高い火力を持っていたからできた事だ。相手のチームとこちらのチームの戦車の性能はほぼ互角。それに加えて練度は相手の方が上だ。この状況で追撃しても、芳しい成果が得られるとは言い切れない。
だからエリカも小梅も、深追いして深手を負うのは避けて、同じように態勢を整えるために引いて勝機を覗う。
そして再びじりじりと近づき、砲撃戦を交え、そして引き際を見て撤退し、またにらみ合いをする。これの繰り返しだ。それは草原地帯でも、山岳地帯でも、市街地地帯でも変わらない。
気がつけば、試合開始直後には頭上にあった太陽も傾き、戦車や木など物体の影が伸び始めている。
殲滅戦には制限時間は存在しない。だから、燃料と弾薬が切れるまで、動ける戦車は戦い続けなければならない。
だが、試合は間もなく決着がつくだろうと、観客席の誰もが、中継を見る誰もが悟っていた。
試合開始時点では30輌あった両チームとも、今では両チーム合わせて3輌しかいない。
社会人チームは、隊長車が1輌だけ。
大学選抜チームは、2輌。それは隊長であるエリカの車輌と、副隊長である小梅の車輌だけだ。
茜色に染まる空の下で、両チームの戦車が対峙する。大学選抜チームにはまだ2輌残っているとはいえ、相手チームの隊長車もこの時まで生き残ってきた実力者だ。決して、侮る事はできない。
キューポラから身を乗り出した小梅は、隣に止まる戦車のエリカに目を向ける。全く同じタイミングで目が合い、そして小さく頷く。
「「前進!!」」
2人が同時に指示を出し、2輌の戦車は敵隊長車へ向けて走り出す。相手の戦車も同時に動き出し、こちらへと向かってくる。
両者の距離はみるみる詰まっていき、そして両チームともほぼ同じタイミングで発砲した。
その放たれた砲弾は、一直線に戦車へと吸い込まれていった―――
電車の中で、織部の手の中にあるスマートフォンがニュースを知らせる。そのニュースを見て、織部も顔を綻ばせる。腕を突き上げて喜びたいところだったのだが、ここは電車の中なのでそれは心の中でだけ済ませておく。
すると、立て続けに4件ものメールが送られてきた。
差出人は根津、斑田、三河、直下だった。ただ、メールを開く前からどんな内容のものなのかは大体想像がついていたし、実際開いてみても予想通りだった。だが返信しないのも失礼なので、一件一件丁寧に返事を書いて返信する。
ちなみに彼女たちの送ってきたメールだが、どれも内容は狙ったかのように一緒で『彼女がやったぞ!早く連絡してやれ!』というニュアンスのメールだった。
メールを打っている内に目的の駅についていたので、急いで降りる。と、今度は電話がかかってきた。その相手は、織部の母だった。
「もしもし?」
『もしもし、春貴?小梅ちゃん、やったじゃない!』
「ああ、今さっきスマホのニュースで知ったよ」
興奮冷めやらぬような母親の嬉々とした声を聞いて、織部も辟易する。あんたもか、と心の中で呆れる。母は試合会場で直に試合を観たのか、それともテレビで中継を見ていたのか、どちらかは分からない。
『あなた、小梅ちゃんにメールなり電話なりでお祝いのメッセージちゃんと送りなさいよ?』
「送るよ、絶対」
それは言われずともやるつもりだ。
だが、それは今すぐではない。これだけ大々的に試合の結果が発表されれば、試合をしていた当人たちにもメディアは多く殺到するだろうし、大学選抜チームのメンバー内でもお祝いなどでてんやわんやになるだろう。それならば、もっと遅い時間に伝える方がまだ無難だ。
そして電話を切って、改めて先ほど入ってきたニュースの見出しをもう一度見る。
『大学選抜チーム、大金星!激闘の7時間』
小梅が自分の部屋へと戻ってこれたのは、日付変更も間近と言わんばかりの時間だった。
試合の直後は閉会式、そして会場を後にしようとしたところでメディアの取材が殺到し、その後はチーム内での祝勝会やら何やらで、ここまで遅くなってしまった。
テーブルに荷物を置いたところで、小梅は椅子に座り込む。自分の部屋と言う、プライベートな空間であり落ち着ける場所に足を踏み入れた事で、緊張の糸がプツンと切れてしまったのだ。
同時に、疲れがどっと押し寄せて来て、全身から力が抜けて、項垂れる。何しろ7時間以上も戦車に乗り続け、絶えず変化する戦況を頭をフル稼働させて分析し、そして副隊長として隊を率いてきたのだから責任感も尋常ではなかった。だから、精神的にも肉体的にも小梅は疲れていた。
だが、その疲れは不快感を抱かない、とても心地良いものだ。その疲労感を塗り替えるぐらいの、自分にとって最良の出来事があったからだ。
メディアが注目していた、社会人チームと大学選抜チームのこの試合に勝ったことで、プロへの道は約束されたと言っていい。これで、小梅の夢であるプロ戦車道選手になるという夢は、叶ったも同然だった。
(・・・・・・春貴さん・・・)
その小梅が思い浮かべているのは、織部だ。
試合の前日の夜、小梅は織部に『試合に勝ったら伝えたい言葉がある』と言った。そして織部も同じように、『大切な言葉を伝えたい』と言っていた。
小梅には、織部がどんな言葉を伝えたいのか、それがなんとなくだが分かった。だがそれを、あえて言及はしなかった。その言葉は、織部自身の口から直接聞きたかったからだ。
ともあれ、後はお互いにその言葉を伝えるのを待つだけとなった。
ポケットからスマートフォンを取り出して、先ほど織部から送られてきたメールを見る。そのメールには、小梅たち大学選抜チームの勝利を祝う最大級の言葉と、織部自身がとても嬉しいという気持ちが文字として綴られていた。それだけでも十分嬉しかったのに、そのメールには続きがあった。
『もし、ほんの少しでも時間があるのなら、
大切な言葉を伝えるために、小梅さんに会いたい。
そしてできればその時は、また久しぶりに2人でデートがしたいかな』
断らない理由などなかった。
そして、その日が一日でも早くなるように、小梅は時間も忘れてスケジュールを確認して、予定の無い日を織部に伝えた。
ただ、もう夜が遅いという事だけは分かっていたので、翌日にメールが届くように時間指定はした。
2人の久々のデートが叶ったのは、あの大学選抜チームと社会人チームとの試合からそこまで経っていない、2~3週間ほど後の事だった。2人の実家も、通う大学も離れてはいるが、それでも“どうにかした”。
そんな2人のデート先となったのは、小梅がまだ黒森峰の生徒だった時、そして織部が黒森峰に留学していた時、最後に2人がデートをした大きな神社と植物園のある港町だった。
どうしてこの町にしたのかと言うと、それぞれの理由があったからだ。織部は、ライトアップされた植物園を回りたかったから。小梅は、あの神社へお礼参りがしたかったから。最初にデートをした際は、2人それぞれの行きたかった場所が逆だったのだが、それについては別段気にすることはなかった。
さて、随分と長い間会っていない2人が再会したのだが。
「・・・・・・久しぶり、小梅さん」
「・・・はい、お久しぶりです。春貴さん」
そこまで長い間会っていなかったことを感じさせないような、そんな2人の挨拶だった。ただ、2人の服装は高校生だった時と比べると少しだけ大人っぽくなっている。大学生になって服に対する感性が変わったからかもしれない。
本当は2人とも、長い時間を経た上での再会と、試合に勝利し夢への道が開けた事への嬉しさを思い切り伝えたかったのだが、今は周りに人が多すぎるのでそれも少し憚られる。
だから、胸の内で高ぶる気持ちはそっと秘めておき、まずはデートだ。とはいえ、織部の希望しているのは夕方からのライトアップだったのと、2人がそれぞれ少し遠い場所から来たので、2人が集まった時刻は少し遅めの正午前だった。
なので最初に行くのは食事なのだが、2人が訪れたのはカフェだった。喫茶店とカフェの違いは営業許可の違いだと聞いたが、織部と小梅からすればカフェの方がカジュアルなイメージがある。喫茶店だと少し緊張感があるのだが、カフェだとそれはあまり感じられない。あの時はまだ高校生だったのでそれもあるのかもしれないが。
カフェで昼食を済まして、2人はゆっくりと街を歩きながら、まずは小梅の行きたいと言っていた神社へと向かう。まだ、夕方の植物園のライトアップには十分の時間があるので、焦る必要はない。
さて、小梅が神社に行きたかった理由だが、『お礼参りがしたいから』とのことだ。
「・・・もしかして、最初に来た時に祈願したの?」
「あ、いえ、そうじゃないんです」
あの時と変わらず参拝客が多い中で、織部と小梅は並んで参拝を待つ。その中で織部が、最初のデートで来た時も『プロ入りできますように』と祈願したのかを聞いたのだが、当ては外れた。
「実は、織部さんが黒森峰から去ってから、またこの街に寄港した時に来たんです」
「ああ、そう言う事か」
織部が去った後、2回目にここを訪れた際に『プロ入りできますように』と祈願したのだろう。となると、1回目の祈願した内容が気になるところだったが、聞くのは失礼だし、それにあの時小梅が何を願っていたのかはなんとなくだが分かっていた。今さら聞く気にはなれない。
やがて順番が回ってきて、2人は礼儀作法に従い参拝をする。小梅はお礼参りだが、織部は違うのでちゃんと別の事を祈願する。
参拝を終えると、2人はまた絵馬所を訪れていた。最初に小梅が書いた『戦車道で強くなれますように』という絵馬は、あの後来た多くの人たちの絵馬に少し隠れてしまっていたし、月日が流れて少し色褪せてしまっていたが、それでも読むことはできる。
そして、その祈願した内容が成就したと思うと、ここのご利益も確かなのかなと思わざるを得ない。小梅が全く努力をしていないとはこれっぽちも思ってはいないが、ご利益もあったのかも、と思う。
「・・・・・・本当に、戦車道で強くなったね。小梅さん」
「・・・・・・ええ。夢みたいです、今もそうなのかなって、思う事がありますね・・・」
どうやらまだ、自分が社会人チームに勝ったという実感があまり湧いていないらしい。
だが、あの試合に勝ったことは紛れもない事実だ。加えて小梅は、その勝利した大学選抜チームをエリカと共に率いていた副隊長なのだから、忘れてはならないだろうと思う。
「でも、夢じゃない」
だから、試合に勝利して、お礼参りに来た今現在の事を夢ではない、現実であるという事を実感させるために、織部は隣に立つ小梅の手を強く握る。
そこで小梅が織部の方を向いて、織部もまた小梅の方を見る。
「・・・・・・おめでとう、小梅さん」
小梅にとっては、それがあの試合の後で初めて織部の口から直接聞いた、お祝いの言葉だ。
それを聞いて小梅も、勝利したことは決して夢ではなく紛れもない現実であるということを再認識して、そして勝利したこと、夢が目前に迫ってきた事による嬉しさが胸の中で大きくなっていく。
「・・・・・・ありがとう、春貴さん」
その後は2人で授与所で無病息災のお守りを受け、織部の行きたかった場所である植物園へとバスで向かう。ライトアップはそれなりに人気らしく、最寄りのバス停に着いた時には、織部と小梅の他にも多くの客が下車した。
そして入園料を払い園内へと入るのだが、今回も織部が先んじて小梅の分の入園料も払った。ただそれについて、小梅はもう不満そうな顔をしたりはしない。織部がそう言う優しい男だという事は十分に理解しているから、とやかく言いはしない。ただ、ちょっと悔しいので腕に抱き付いてせめてもの仕返しをする。
園内に入って、改めて空を見上げると、まだ夕方5時を迎える前だというのに空は暗くなってきている。“秋の日は釣瓶落とし”と言う言葉のように、陽が落ちるのが早いのだ。
そしてこの植物園の半分を占めるほどの屋外エリアの花畑を縁取るような緑道には、ライトアップを待つ多くの人が立っている。中には本格的なカメラまで持参して、今から見られるであろう光景を1枚写真に撮っておくつもりの人もいた。
織部と小梅も、緑道でそれほど人が集まっていない場所で立ち止まり、ライトアップが始まるのを待つ。
やがて、ライトアップが始まる5時になると、園内の時計の鐘が鳴り響き、そして同時にライトアップが始まった。
『おお~・・・!』
そして、ライトアップされた直後、緑道に立つ多くの人たちが歓声を上げる。カメラのシャッター音が鳴り響く。
「わぁ・・・・・・」
織部の隣に立つ小梅も、感嘆の声を洩らす。織部も、口を小さく開いて目の前の美しい光景を見る。
花壇を縁取るような明りは、決して咲き誇る花の色と被るようにはせず、なおかつその花の色を損なうような配色にはせずに、花壇に彩りを加えている。
周りを見れば、イチョウの木もライトアップされていて、黄色い葉が下から灯された明りによって一層綺麗に輝いている。
「すごい・・・・・・綺麗です・・・」
小梅が思わず言葉にする。織部もまた頷いて、小梅の意見に同意する。確かにこの光景は、綺麗だった。
織部と小梅は、そのライトアップされた花壇を横目に見ながら、緑道を歩く。そのライトアップは、どの角度から見ても幻想的でなおかつ美しく、何よりも心に訴えかけてくるものがある。
何時間でも見ていられそうなぐらい魅力的な光景なのだが、残念なことにこのライトアップは閉園までのおよそ2時間の間だけしか見られない。だが織部も小梅も、その2時間という短い間だけでしか見られない光景と言うのもまた一興だと思う。こうした幻想的な光景は、いつどんな時でも見られるとなると、あまり感動しなくなるものだからだ。
途中で、織部と小梅はベンチに座って、ライトアップされた植物園を見渡す。2人の目の前の緑道を歩く人の姿はまだ少し多い。
「・・・・・・ここに来ることができてよかったです、今日」
「うん、僕もだよ。誘った本人が言うのもなんだけどね」
小梅が、本当に嬉しいという気持ちを言葉に載せてそう呟く。織部もまた、小梅と同じように今日ここに、小梅と共に来ることができてよかったと本当に思っている。長い間会えなかった小梅に会えたこと、小梅が戦車道で本当に強くなったのだと実感できたこと、そして小梅の夢が叶ったことを改めて実感できたのだから。
2人の目の前の緑道を歩く人の姿が、まばらになってきた。
「春貴さん・・・」
「何?」
「・・・・・・ありがとう」
何度目かの、ありがとう。その意味は、多くの事を含んでいるのだろうと、織部も分かる。
「・・・・・・私をここに連れてきてくれて・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「そして・・・私と、付き合ってくれて・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「私を、支えてくれて・・・・・・」
小梅の告げる、織部への言葉を織部は静かに聞き届ける。今だけは、小梅の言ったことを否定したり、謙遜したりはしない。小梅は本当に織部の事をそう想ってくれているのだという事が嬉しかったからだ。
試合の前日で、小梅を励ますために、ここまで来たのは全て小梅の力だと言ったのは小梅を元気づけるためのものだったし実際そう思っていたからでもある。
だが、小梅の言う『支えた』とは小梅を励ましたという意味もあるのだろうから、その事実までは否定しない。だから何も言わないのだ。
緑道を歩く人の姿が、ほぼ見えなくなった。
そろそろかな、と織部は思い至って、立ち上がる。
「・・・・・・小梅さん」
「?」
小さく深呼吸して、ポケットの中にある“もの”の存在を確かめる。ちゃんとある。
そして織部は、小梅の顔を見る。極力、あまり表情は変えていないつもりだったのだが、小梅が織部の顔を見て同じように立ち上がる。どうやら表情が変わっていたのがバレてしまったらしい。自分はポーカーフェイスなどとは無縁の存在だと内心でほんの少し考える。だがその考えもすぐに払拭して、小梅に改めて向き直る。
「・・・・・・僕は、小梅さんと出会えたことを、本当に嬉しく思ってる」
「・・・・・・」
「今日まで小梅さんと付き合えたことは、これから先、ずっと、絶対に忘れない」
「・・・・・・」
「でも、今日で終わりじゃない。むしろ、その逆だ」
「・・・・・・」
織部がポケットから、“それ”を取り出す。丁度、手のひらに収まるサイズのその白い箱を見て、小梅の瞳が潤む。
大学に入ってからアルバイトを始めて、それ以前からコツコツと貯金していた自分の財産で、自分の力で買い求めた“それ”が何なのか、小梅は気付いたのだ。
「これから先、ずっと小梅さんと一緒にいたい。ずっと、離れたくないよ」
「・・・・・・」
「いや、絶対に離れない。もう、離したくはない」
「・・・・・・」
自分の手が、緊張しているせいで震えているのが織部自身分かる。だが、小梅の真剣な、そしてどこか嬉しそうな顔と、海のように揺らぎ潤んでいる瞳を見ていると、自然とその震えも収まっていく。
なにも緊張することはない、恐れる必要なんて無いと、告げているように感じたからだ。
震えが無くなったところで、織部はゆっくりとその箱の蓋を開け、中にあるものが小梅に見えるようになる。
「小梅さん」
「・・・・・・はい」
その箱の中にあったものとは、銀色に輝く指輪だった。
「僕と、結婚してください」
これまでは、そうなりたいという希望、願望があったし、それを口にしたことは何度もあった。
だが、今この瞬間に織部が告げた言葉はこれまでとは全く違う。
それは明確に、そうなろうという意志が、覚悟が、決意が、想いが籠められていた。
その織部に対する小梅の返事は、ずっと決まっていた。
小梅の言いたかった言葉は、言われてしまった。織部の言いたかった言葉と同じだった。
だからその答えは、たった1つだけだった。
「・・・・・・はいっ!」
風が吹いて、涙が小梅の瞳から零れ落ちた。
その風は、とても心地良いものだったと、今でも覚えている。
「なんか、やっとここまで来たかって感じだね」
控室で水を飲んで落ち着いている織部に、薄い水色の準礼装ドレスを着た三河が話しかけてくる。緊張感が過去最高クラスとなっている織部にとってはそのぐらいの話題だけでもありがたいものだった。
「遅すぎたかな」
「いやいや、妥当じゃないかな?」
交際期間およそ5年は長かったかと織部は思わなくも無かったが、織部も小梅も十分若いので、むしろそれぐらい付き合って今ぐらいの年齢で挙式する方が無難だと三河は思う。
「まあ、ようやくくっついたかって感じはするね」
三河の隣に立つ、リボンが施された黒のドレスの根津が冷やかし交じりに告げる。
「色々と私らも心配したんだよねぇ。あの織部と赤星が、って思うと」
「あのってどういう意味?」
「イレギュラー的な意味で」
ぐうの音も出ない。
と、そこでドアがノックされる。織部に代わって三河が『どうぞー』と告げると、緑のドレスを着た直下と、薄い桃色のドレスを着た斑田が入ってきた。
「おー、そんな感じなんだ」
「へぇ、馬子にも衣裳って感じだね」
「それ意味わかってて使ってる?」
直下が、明るめのタキシードを着る織部の姿を見て感心したように声を上げる。一方で斑田の言葉には、織部も少しだけだがカチンとくる。
「ジョークよ、ジョーク」
「ジョークに聞こえないんだけどね・・・・・・」
織部のそんな呆れた様子の言葉など聞き流して、三河が問いかける。
「向こうはどうだった?」
「うん、すごかった」
「いやぁ、私もああいうのは一回着てみたいね」
直下と斑田の言葉を聞く限り、あっちの方も準備はできたらしい。そう思うと、いよいよもってその時が近づいているのだと実感せざるを得ないので、織部の緊張感が1段階上がる。
そこでまたしても部屋のドアがノックされる。入ってきたのは織部の両親だった。根津たちと織部の両親が挨拶をすると、父親が部屋の外へ出ろと合図を出してきた。
ファーストミートの時間だ。織部もそれを理解して、椅子から立ち上がり外へ出ようとする。後ろから根津たちの『頑張れー』とか『死ぬなよ~』という励ましの言葉が背中に突き刺さってくる。
「緊張で胃に穴が開きそうなんだけど・・・・・・」
「こんなとこで病院送りなんてシャレにならないわよ」
「・・・・・・むこうの家族が泣くぞ」
織部が弱音を吐くが、確かに母の言葉も父の言葉も正しい。こんなところで倒れて病院に運び込まれたら笑い話にもならないし、女性にとっての晴れ舞台が台無しになってしまう。それだけは絶対に避けるべきなので、お腹を押さえて深呼吸しながら目的の部屋へと向かう。
やがてその部屋の前に着くと、織部がノックをする。そして中から聞こえてたのは、小梅の母の声。そしてドアを開けたのは、小梅の父だ。
「どうも」
「ああ、来たか春貴君」
「あ・・・・・・もしかしてまだ・・・・・・?」
「いや、ナイスタイミングだ」
早すぎたか、と思ったがそうでもなかったらしく、準備は万端だったらしい。
「入っても大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
いざその姿を目にすると思うと及び腰になってしまう織部。そんな織部に代わって織部の母が小梅の父に聞くと、ドアを開けてくれた。開けてしまった。
そして、ドアの前に立っていた織部の目が、その部屋の中にいた人物の姿を認めて、脳が認識する。
部屋の中にいたのは小梅の両親、そしてピンクがかったクリーム色のドレスを着たエリカと、レースが縫い付けられた黒いドレスを着るまほ、薄い黄色のドレスを着たみほ。
そして何よりも一番目を引くのは、スレンダーラインの純白のウェディングドレスに身を包んだ小梅だ。
そのドレスの白さ、そして化粧が施された恥じらう小梅の顔も、織部にとっては。
「・・・・・・眩しくて、直視できない」
冗談に聞こえるようなセリフだが、まさにその通りだったのだ。織部にとっては今の小梅の姿は、正直言って直接見ることができないぐらい眩しく見えたのだ。
「なっさけないわねぇ、新郎サマのくせに」
小梅の隣に立つエリカが、前と変わらない口調で笑いながら織部にそう告げる。
「そう言うな。織部の言い分も分かる」
まほが織部を援護する側に立ち、エリカも『ふぅ』と小さく息を吐く。みほが苦笑して、織部に同情する。
織部はまだ、まほが自分に告白し、それを織部自身が断った事を忘れてはいない。ただ、留学最終日にちゃんと謝ってまほ自身も大丈夫だと言っていたことと、小梅に相談したことでもうそれについてはもう心配はしていないし、それに囚われてもいない。だから今、まほと話をする事に関しても、問題は無かった。
ちなみに織部の両親だが、母親はともかく、あまり感情を表に出さない父親さえも、小梅の晴れ姿を見て興奮を隠せないようで、小梅の両親と色々と話をしている。その会話の内容すら、今の織部には上手く聞き取れない。
そして、まほが懐中時計を見て、織部と小梅以外(自分を含めて)に部屋を出て少し2人だけの時間を作ろうと提案し、全員がその話に乗って部屋の外に出る。
その直前でまほが、織部の肩をポンと叩いてきた。
「・・・・・・今日は、織部にとっても晴れ舞台だ。頑張れ」
「失敗は許されないわよ。まあ、アンタはそんな奴じゃないでしょうけど」
「頑張って、くださいね」
まほが励ました後で、エリカが叱咤激励をして、みほもまほと同じように励まし、織部は嘆息する。
そして残されたのは、織部と小梅だけだ。
「「・・・・・・・・・・・・」」
お互いに、何をどう言えばいいのか分からなくて、沈黙してしまう。
何か言わなければと思ってはいるのだが、何を話せばいいのかが分からないのだ。
けれど式が始まるまでこの状況は厳しいにもほどがあるので、織部は思っていたことをありのまま伝える事にした。
「・・・・・・小梅さん」
「・・・・・・はい」
小梅は応えてくれた。それだけでいい。
「・・・・・・さっきは、直視できないなんて言っちゃったけど・・・・・・」
「・・・・・・」
「すごく、綺麗だ」
その織部の言葉に小梅は、ハッとしたように織部の顔を見る。織部は、恥ずかしさと緊張を隠せないような表情で笑いながらも、ちゃんと小梅の事を見てくれている。だからその言葉が出まかせではないという事が、小梅にも分かる。というよりも、織部は伊達や酔狂でそんな言葉を言うような男ではないと小梅も分かっている。
だからその言葉には、小梅は素直に返事を返す。
「・・・ありがとう、春貴さん。でも、春貴さんも、カッコいいですよ」
「・・・・・・ありがとう」
小梅の言葉に、織部ははにかむ。
そこで、ドアがノックされ、織部と小梅の母親が顔を見せた。
「そろそろよ。準備して」
「ああ、分かった」
「はぁい」
2人が返事をすると、母親ズはドアを閉める。
そこで、織部と小梅がほぼ全く同じタイミングで緊張をほぐすために息を吐き、そしてそれが可笑しくて笑う。
「・・・・・・ここまで来たね」
「・・・・・・本当、ですね」
この時を、どれほど待ちわびていたことか。2人が恋人同士となることができた日から、2人はこうなる事をずっと望んでいた。
離れ離れになって、また出会って、そしてまた会えない日々が続いて。
そして、今日この日から2人はずっと一緒となれる。
「・・・そして、これからはずっと一緒だ」
「・・・・・・はい」
そう言って織部が手を差し伸べると、小梅はその手を取る。
「・・・・・・それじゃ、行こうか」
「・・・・・・ええ」
そして2人は、一緒に歩き出した。
ここ最近は随分と仕事が忙しい。と言うのも、戦車道世界大会の誘致をしているために、各方面との調整や連盟内でのごたごたで、普段よりも忙しさに拍車がかかっているのだ。東奔西走する日々が続いているので、帰りの電車では大体立っていても眠りこけている。
家路を行く足取りも、普段と比べると少しだけ鈍いのが自分でもわかる。相当疲れがたまっているのだと、嫌でも実感させられる。
だがそれでも、自分が好きな仕事に就いているうえでの疲れなのだから、嫌悪感はしない。これで嫌いな仕事だったとしたら、自分はどこかで壊れてしまっていたであろう。
それと、どれだけ疲れていても自分を保っていられる理由は、他にもある。
自らの家の前に着く。帰る前に、大体の帰宅時間は伝えてあるので、いきなり帰ってきてびっくりさせるということはないだろう。
ドアを開けて家の中に入ると、奥から顔を出したのは。
「春貴さん、おかえりなさい」
エプロン姿の小梅だ。その姿を見ただけで、その言葉を聞けただけで、身体の中の疲れが抜けていくような感じがする。父の言っていた『帰る家と、自分を迎えてくれる人がいるのは良い事だ』と言っていたのを思い出し、まさにその通りだなと今では思う。
そして、小梅の横から別の人が姿を見せた。
「お父さん、お帰り~」
小さな犬を抱きかかえるその少女は、自分と小梅の子供だ。少し癖のある黒い髪は自分たち2人の血を引いているのがよく分かる。割とおとなしい性格なのだが、それでも自分の意見ははっきりと述べるあたり、プロ戦車道選手の小梅の性格も受け継いでいるように見える。大人しいところは、自分と小梅の性格に似ているところがあった。
そして、その少女に抱きかかえられている豆柴は、顔が少しぶにっと歪んでしまっていて、苦しそうにぴすぴすと小さな息を吐いている。
「あ、ごめんね」
それに気づいたのか、豆柴を放してやると一目散に春貴の下へと駆け寄ってきた。そして春貴の脚に自分の前足をつけて、『遊んで』と言わんばかりにしっぽを振っている。
この反応から分かるが、随分となついている。春貴に限らず、家族に。譲渡会で家族に迎え入れたのだが、誠意をもって接すれば応えてくれるというかつての言葉の通り、この子はその気持ちに応えてくれた。今では従順で、無邪気な子に育っている。
「疲れたなぁ・・・・・・」
「ご飯できてるよ」
「ありがとね」
靴を脱いで家に上がり、リビングに入るとなつかしさを感じる匂いを嗅ぐ。その匂いで、夕飯が何なのかが分かった。
「肉じゃが?」
「うん、正解」
「私も手伝ったよ~」
「そうかそうか」
言い当てると、小梅が嬉しそうに笑う。そして、手伝ったという自分の子の髪を優しく撫でる。嬉しそうに目を細めるので、撫で甲斐があると言うものだ。
それにしても、と思う。
「小梅さん、疲れてない?」
料理をして疲れたか、という意味ではない。
小梅はプロ戦車道選手として今も戦車に乗っていて、世界大会が近づいている今は練習する時間が増えてきている。だから普段よりも疲れが溜まっているはずなのだ。春貴を心配させないために無理に笑っているという可能性もあるので、念のために聞いてみたのだ。
「私は、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
小梅はそう言ってくれている。
確かに戦車道の練習と試合は疲れるものではあるが、こうして小梅自身がずっと望んでいた春貴と一緒の家庭で暮らせるという事だけで、そうした疲れも感じない。上手い具合に、春貴も小梅もお互いがいる事で自分を強く保っていられるのだ。
「・・・・・・次の休み、どこかへ出かけようか?」
だがそれでも、気分転換、リフレッシュと言うものは必要だ。それは働いている身である春貴にとっても、プロの世界で活躍する小梅にとっても言える事だ。
「・・・そうね、行きたいかな」
「やったー!」
2人とも喜んでいるので、とりあえず出かける事は確定した。どこへ行くかは、また追々決めることにしよう。できることなら、今も春貴の足元で『遊んでほしい』と言わんばかりにお座りをして春貴の事を見上げるこの豆柴も一緒に遊べるような場所だ。
そして、3人で協力して夕食の準備に取り掛かる。小梅は春樹に『ゆっくりしてていいよ?』と言ってくれたが、それでも春貴は自分が手伝いたいから手伝うのだ。
3人で協力したので夕食の支度もすぐにできて、椅子に座り食卓を囲む。
「じゃあ、食べようか」
「ええ」
「いただきます!」
3人で手を合わせて、ご飯を食べ始める。みそ汁の味も、昔と変わらず美味しかった。肉じゃがだって、美味しくなっている。
「・・・美味しい、すごく」
「ありがとう」
素直な感想を述べると、小梅が嬉しそうに笑ってくれる。本当、自分の胃袋は小梅に完全につかまれてしまったのだなあと、春貴は思う。最初に肉じゃがを食べた時から、まさにそうなっていたのだ。
その時の事を思い出して、自然と春貴は笑ってしまう。
「どうかした?」
「・・・いや、どこか懐かしいなと思って」
「・・・・・・そうね、少し懐かしいかな」
小梅と春貴の娘と、テーブルの傍に座る豆柴だけは自分の食事に意識を向けていたが、2人はテーブルの上に置かれている“あるもの”に、自然と目を向けた。
それは、2人の結婚祝いで小梅の家族から贈られたものだ。中々、風情のある贈り物で、春貴も小梅も喜んでそれをもらい受けた。それを見ると、なぜだか自然と、かつての事を自然と思い出すことができた。これを自然と見たのも、そのせいだ。
それは、白い綺麗な花を咲かせる、小さな梅の木だ。
ウメ
科・属名:バラ科サクラ属
学名:Prunus mume
和名:梅
別名:
原産地:中国
花言葉:約束を守る、美と長寿、高潔な心、澄んだ心など
これで、小梅と織部の物語は完結となります。
長い間、ここまで読んでくださりありがとうございました。
完結には大分時間がかかってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。
ここまで長くなったのも、小梅が最初に落ち込んでしまっていて、
織部とすぐに和解することができなかったからかなと思います。
そして打ち解けてから恋愛感情に気付き、そして想いを告げて結ばれるまでの時間が、
長くなってしまいました。
さらに小梅が落ち込んでいたからこそ、それを上書きするぐらいの楽しく幸せな思い出をと思い、
ここまで多くのイベントを書き、こうして物語を書き終えました。
また、あの試合の小梅の事を書いた以上は、黒森峰の事、みほとまほの事、
そして西住流の事についても書かなければいけないと思って、
ここまで長くなってしまいました。
今回も評価をしてくださった方、感想を書いてくださった方、
本当にありがとうございました。とても嬉しかったです。
次回作の予定ですが、多分年明けになるんじゃないかなと思います。
今回や、最初に書いたアッサム編で使った”期間限定の恋愛”と言う設定は、少しの間封印したいと考えています。
また、今回は少し暗めな雰囲気がしたかなと自分では思っていますので、
次回はサンダースの誰かを主役に据えて明るめの話を書いていくつもりです。
その時はまた、応援してくださるとありがたいです。
まだまだレオポンさんチームや継続高校、大学選抜チームに審判組やプラウダと、
書きたいキャラは大勢いますので、書けていけたらなと思います。
最後にもう一度、
ここまで読んでくださった読者の皆様、応援してくださった方々、
本当にありがとうございました。
また、次の機会にお会いしましょう。
ガルパンは、いいぞ