ダンジョンで情報を探るのは間違っているだろうか 作:怠惰ご都合
ちなみに、なんだかんだで投稿が1週間伸びたのは内緒ですよ(遠い目)
時間が経てど、それでも私は動けずにいる。ダンジョンに向かうべきなのかもしれないけど、それでは今までと変わらない。ただ、ルミトの邪魔をするだけだ。
「ルミト、急にごめんなさい。ちょっといいかしら、聞きたいことが・・・・あら?」
体を起こしたたままベッドの上で動けずにいると、ヘファイストス様が扉を開けた。
「今はあなた一人なのね、ミレア?」
「はい、私が起きたときには既にいなくて」
「・・・・
そう、ヘファイストス様の言うように、ルミトは何も言わずに出かける事がある。いつも何も言わずにダンジョンに行こうとするから、私が同行するたびにヘファイストス様に言うようにと強制している。だが、今回はそれも出来なかった訳だから、当然ヘファイストス様には何も言わずに出ていったのだろう。まぁ今回に関しては、どうしてダンジョンに向かったのか想像がつくから多少はマシだろうか。
「それで、あなたは行かないの?」
「・・・・・っ!?」
あまりに突然で、言葉に詰まってしまった。それを口にしたら、否定されるのではないか。
「・・・行けません」
どうにかして声に出せたのは、その一言だけだった。
「どうして?いつも一緒にいるじゃない。パーティメンバーでしょう?」
「・・・置いていかれるのが怖いから、です」
「・・・・普段、あんなに楽しそうにしてるのに、何をそんなに恐れてるの?」
「彼は変われているのに、私はいつまでも変われないままなのが。変われないまま、置いていかれるのが怖いから、」
「一体いつからパーティメンバーがついてく側になったって言うのよ。どっちが上か下、先を行くとか後をついていくとか、そんなんじゃないのよ。あなたは【ヘファイストス・ファミリア】が『武器を押し付けて代価を巻き上げる』なんて一方的な商売をしてるのを、一度でも見たことがあるかしら?」
「・・・・・いいえ」
【ヘファイストス・ファミリア】の人と冒険者がやり取りをしているのを何度か見たことがあるが、彼らが横暴な態度だったことは、私の記憶では一度もない。ちなみにルミトに関しては商売云々以前に、客が寄り付かない為に例外である。
「そう、互いに対等であろうとすることが、自分の作品を受け入れてもらい、その過程を経て専属になる。それはダンジョンでのパーティにおいても同じじゃないかしら?」
「・・・・・」
「変わりたいのなら、変わればいいじゃない。実行するには難しいけれど、言葉にするほど楽ではないけれど、“変わりたい”とそう思えなければ、何も行動できないわ」
「・・・・・・
それは
「・・・それに、いつまでも無鉄砲に行動するあの子に世話を焼いてくれるのは、私としても安心できるわ。その結果としてちょっとくらい加減を間違えたとしても、それであの子が反省してくれるのなら、私としては嬉しい限りね」
だから、行ってあげてと。彼についててあげて、ダンジョンで無茶しないように見張ってて欲しいと。そう言われたように感じたのは間違ってない。
「私が・・・・ですか。はっきり言って、私は強くありません。安全を願うなら【ヘファイストス・ファミリア】の団員の方が・・・・」
「そうでしょうね。それでもあの子の、ルミト・ラネッサの事を知っててその上であの子の世話を出来るのは、
その言葉が私の心を覆っていた悩みを吹き飛ばしてくれた。同じ【ヘファイストス・ファミリア】の団員やオラリオ2大派閥が彼とパーティを組んだとして、それは戦闘における戦力としては十分過ぎる程だが、それだけだ。単純に彼を心配しての事ではない。なら、その役目は私自身が背負うべきだ。それに・・・・仮にそうなってしまった場合、私は冷静でいられる自身がない。
「あと、これは余計な一言かもしれないけど・・・・」
ようやくダンジョンに向かう決意ができた。この気持ちが揺らがないうちに、そう思って準備し始めた最中、ヘファイストス様が何か言いかけた。
「・・・・はい?」
「お揃いの首飾りまでしておいて、相応しくないなんて、こっちが聞いてて恥ずかしくなるわ」
「・・・・・・・あっ!?」
ヘファイストス様が苦笑いでそう口にすると、その言葉の意味に気づいた私は、急に顔が熱くなった。椿さんと話していたときには気づかれていたのだろうか。確かにあの時はルミトも入ってきたていから、その可能性は十分にある。
「だから、悩むくらいならさっさと行きなさい」
「・・・・はいっ!」
準備を済ませ足早に工房を出て、ダンジョンに向かう。またいつも通りルミトの隣を歩くために。またいつもみたいに彼と冒険をするために。
「・・・・・まったく、本来ならこれは彼女の主神である
静かに呟く、ヘファイストスの愚痴は、幸か不幸か誰にも聞かれることなかった。
「結構降りたかなぁ、ちょっと休憩してもいいかなっと!」
別に急ぐほどでもないしのんびり行こう、そう考えてすぐ横の壁に魔剣で炎を撃ち穴を空ける。
ダンジョンを傷つけることで再生を優先させ、その分だけモンスターの産まれるタイミングを遅らせることが出来る、というのは担当アドバイザーのお言葉だ。今までにも使ってきた手ではあるし、実際にその通りなのだから文句を言うなど以ての外だ。今日も担当アドバイザーに心の中で感謝しながら休息を取る。
「・・・・・どうしたもんかなぁ」
未だに一振りしか試してないのだから、無理に等しいのだが、ミレアにどんな魔剣を持ってもらうのがいいかわからない。わからないまま戦闘で魔剣を使って、その結果失ったのだから、流石に焦る。
「まぁでも、確かに彼女の手は早いけど雷っていう印象はないかな・・・・・・いやいや、そもそも魔剣って印象でどうこうする物でもないし。今までにも断られてきたんだから“何がいい?”なんて聞けないし・・・・はぁ」
きっと魔剣を受け取らないのには、何か理由があるんだろうけど、それでも構想が固まらないとやはり落ち着かないのだ。というかそもそもの話、冒険者って大抵は強い武器や魔剣に憧れるのではないだろうか。しかし、今までに何度も接してきたが彼女がそのようなことを口にしたことは一度もない。まったく、何が彼女をそうさせるのか、理解できない。
「・・・・・どうしよ」
声に出しても誰が教えてくれる訳でもなく、考えても答えを見つけられる訳でもない。詰まるところ、お手上げなのであった。
工房を出て来たはいいものの、ルミトがどの階層にいるのかわかるはずもない。かと言って闇雲に探せばいいということでもない。こういう困ったときには担当アドバイザーである彼女に聞くのがいいだろう。そう思ってギルドに向かい、目的の人物がいるかどうか見渡す。
「およ、一人で来るなんて珍しいじゃない。どうしたの?」
後ろからから聞き慣れた声が聞こえ、そのまま振り向くと彼女が立っていた。
耳をピンと立てた白い
と言っても一緒だったのはほんの数年で、それ以降は彼女は家族でオラリオに引っ越したから、私達がオラリオに来たときには驚いたものだ。それでも覚えていたのは、よく遊んだ間柄というのもあるし、村自体が小さかったというのもある。
「サーちゃん、実はちょっと相談したいことがあって」
「なによ、またルミトの事なの?」
「・・・・・・うん」
「相変わらずルミトの事となるとわっかりやすいわね。それで?」
「ルミトと一緒にいてもいいのかなって、相応しくないんじゃないかなって、実は最近思ってて・・・・」
それを声に出した途端、彼女の雰囲気が変わった。
「なに馬鹿なこと言ってんの!?
「待って待ってサーちゃん!?違うのよ、別にルミトに言われたから凹んでるんじゃなくてね!自分で考えちゃっただけなのよ。だから行かないでホントに待って!!」
踵を返して制服のまま、出ていこうとする幼馴染を慌てて引き止める。このまま工房に行かせてしまったらルミトがいないことがバレて、オラリオ中探し回り、最終的にはダンジョンにまで向かってしまう。そうなってはルミトが無事では済まない。昔喧嘩した時みたいに引っ掻き傷や咬み傷をいくつもルミトにプレゼントしてしまうかもしれな・・・・してしまうだろう。下手したらルミトの命が『ドロップアイテム』と化してしまうかもしれない。ルミト大丈夫、私が助けるからね!
「サーちゃん、お願いだから話を聞いてー!?」
精一杯の力で彼女を行かせないように物理的に引き止めながら、ミレアはそう決意する。
「・・・・っくしゅん!どうしたんだろう、何故か嫌な予感と冷や汗が止まらない。休憩し過ぎて体冷やしたのかな。だとしたらもう一度動くまで。さぁ休憩終わりっと!」
未だに試してない二振りの魔剣と、魔剣を装備し直し立ち上がる。今いるのは上層だ。どうせ性能を試すのだからどの階層まで通じるのか、併せて試しておいてもいいだろう。
“どうせまた、たいして考えないまま一人でダンジョンに潜ったわね。あれほど考えてから行くように伝えたってのに。えぇ良くわかったわ、そっちがその気なら私にも考えがあるから。お説教
脳裏に担当アドバイザーの笑顔が浮かぶ。マズい、アレはヤバい。寝ぼけたミレアとはまた違った意味で恐怖を感じる。というか下手したら階層主にも匹敵する程の相手だ。無傷で済むなど、今までに一度もなかった。正直、説教という言葉責めでも結構精神を抉られるのだからそれ以上のこととなると考えたくない。・・・・そもそも、冒険者を恐怖させるアドバイザーとか、よくギルドが採用したものだ。苦情とかないのかな。まさか需要があるとでもいうのだろうか、恐ろしや幼馴染。
などといずれ遭遇するであろう恐怖に怯えながら足を動かしていると、壁から再びモンスターが産まれる。
「・・・・インプ2匹にハードアーマード1匹か」
インプは上層のモンスターにしては珍しく知恵があり、同種族だけでなく、他種族のモンスターとも連携してくる厄介な相手だ。ハードアーマードに関しては、とにかく硬い。背中を覆う鱗を持ち、身を丸くして回転しながら突進してくる。だが、それも物理しか対抗する手段が無い場合。今回は魔剣を試すのだから、多分なんとかなるだろう。
「厄介ではあるけど、
正直言って、物理も魔法も通じない幼馴染と比べたら、目前に迫るモンスターたち等とかわいいものだ。とはいえ油断するつもりはないが。
最初に襲ってきたのは2匹のインプ。その小さな体格を活かしてすばしっこく駆け回り、左右同時に攻めてくる。右は片手剣で、左は短剣型の魔剣で防ぐ。とはいっても一瞬ならいざ知らず、長時間もの間両方を防ぐにはそれなりの腕力が必要な訳で、 Lv.2といえど流石にキツイ。とにかくこの状況をどうにかしなければ身動きできないままハードアーマードにふっ飛ばされてしまう。左手の力を抜き、短剣を落とすことで拮抗していた力を無くし、インプを引き寄せる。その鋭い爪を首を前に倒すことでやり過ごし、通り過ぎたところを、右の片手剣で引き止めていたもう1匹のインプとぶつける。
「・・・・ギャッ!?ギッ、ギ‼」
鋭い爪を戻し損ねていたのか、その爪は対角線上にいたインプの魔石を貫いた。
慌てて体勢を整えようとするが、それを見過ごすほどの余裕はない。そのまま片手剣で切り裂こうとしたのだが。
「・・・・・があっ!?」
ギィンッ!と、突進して来たハードアーマードの硬い鱗に防がれてしまった。その衝撃によって僕の体勢が崩れたのは想像に難くない。
「ギギィッ!」
その光景を見ていたインプが笑い、再び攻めようと飛びかかる。その横にいたハードアーマードも続き、転がってくる。
「・・・・ついてるなぁ、それっ!」
体勢が崩れたのは本当にマズかったが、唯一良かったのは、崩れた方向が落とした短剣の側だったことだ。
衝撃を利用し、短剣を拾うとそのまま距離を取る。そしてモンスターたちが、それぞれ重なったのを確認し氷弾を撃ち出す。
「・・・ギギッ!?」
「グオォッ!?」
撃ち出した氷弾には勢いがあったし、モンスターたちもそれなりの速度で迫ってきていたことから、その氷はモンスター2匹を纏めて貫いた。
今回は流石に一度使っただけでは砕け散ることはなかったが、それでも使用できる回数に限界があることは事実。どうせ使うのだから最後まで使い倒さなければ、せっかく創り出された魔剣に申し訳が立たない。
「さっ、まだまだ行きましょうかっと!」
剣を鞘に納め、『ドロップアイテム』がないことを確認し更に下の階層へと足を進める。
「なーんだ違ったの?それならそうと早く言ってくれれば良かったのに」
「いやいや、言い切る前に行こうとしたのサーちゃんじゃないの」
「それもそうねー」
久しぶりに幼馴染と会ってから数分後、ルミトをひっ捕まえようとダンジョンに向かう彼女をようやく引き止めること&向かいのソファに座ってもらう事に成功したが、その疲労度たるやモンスターの大群との戦闘をいくつも乗り越えたときのソレにも劣らない程である。
「じゃあ何の相談に来たの?」
「実はね、
「・・・・はあ。そんなに困ってるようには見えないけど」
「ひどいっ!?本当に困ってるのよ!?せっかく頼って来た幼馴染をそんな風に扱わなくてもいいじゃないのよ!」
「あっはははゴメンゴメン。でもこの前までなかったわよね、そんなに素敵なネックレス。一体どうしたの?」
「・・・・・ぁ、それは・・・その、ぅん」
それを指摘されたその途端、あの時のことを思い出してしまい顔が熱くなっていくのを感じた。
「ふーん、まぁいいわ。二人揃ったらたっぷり聞かせてもらうから。いやぁ楽しみね、一体どういうつもりでソレを渡したのか、ルミトから聞き出せると思うと待ち切れないわぁ。それで、ミーちゃんだけが変われてないって思っちゃたったんだ?」
「・・・うん」
ルミトごめんね、サーちゃんがルミトに怪我させないように防いだつもりだったのに、それ以上のダメージを負うことが決定しちゃった。
「私からしたら全然そんなことないと思うけどね。正直言って『悩んで損した』って後悔すると思うわよ?」
「・・・・ぇ、でも村にいたときとは全然・・・・」
「それはそうでしょうよ。私も村にいたからわかるけど、取り巻く環境が違うから。自然とソレに順応しようとなるってものでしょ?現に貴女だって3人で遊んでた時とは違うじゃないの」
「う・・・・・ん」
仕方ないのだろうか。確かに3人仲良く遊んでた時は、特に何も考えなくても楽しめていた。でも今は様々なことを考えなければならない。
「今は色んな事を考えなければならないけど、結局のところパーティ組んでダンジョンに行ったり、一緒に工房に籠もる程には仲良しじゃない。つまり根本的には何も変わってなんていないのよ。それでも変わったように感じるのはそれは変化じゃなくて“成長”したって事よ?」
変化じゃなくて“成長”。確かにそうなのかもしれないけど、それは彼の種族がヒューマンだからであって、対する私はエルフ。よく魔法の扱いに長けていると評価され勝ちで、特徴といえば長命なくらい。しかも長命が故にその成長速度も遅い。
「言っておくけど、“ヒューマン”だから“エルフだから”とかそんな
「・・・・・」
「だから、考えるだけ無駄っていうのはそういうことよ。わかった?」
「・・・・うん」
「どうせミーちゃんのことだから、その辺もちゃんとヘルメス様・・・・・・はないけど、ヘファイストス様あたりに相談してるんじゃないの?」
極稀に、この
「勿論、ヘファイストス様にも相談したわ。『まずは変わりたいと望んで、次にそのためにはどう行動すればいいのかを考えればいい』って、そう言われたの」
「いかにも、【ファミリア】の主神が言いそうな事ね。あぁ、別に悪い意味じゃないの。私とは違う考えがあるのが、流石だなって思っただけよ・・・・まぁそれは置いておいて、話を整理するとヘファイストス様に言われたように考えては見たけれど、具体的には思いつかなかったから
「うん」
「なら、さっきも言ったけど悩む必要なんてないわ。私から見たら貴女だってルミトに負けないぐらい成長してるんだから、大丈夫。気にするだけ無駄よ・・・・これもさっき言ったわね」
「・・・・サーちゃん、ありがと」
「ふぁ〜い、どういたしまして」
相談事が無事に解決したのを確認した向かいに座る幼馴染は一つ伸びをし、立ち上がると思ったのだが、
どうやら開放してもらえるのは、まだまだ先のようだ。ルミト、私全てを話さない自身ないわ。
特に魔剣に頼ることもなくいくつもの戦闘を越え、より下の階層へと歩みを進めるうちに、ふと疑問に思った。ここは何階層なのだろうか、と。あぁ、これが『試し切りを繰り返すうちにのめり込んでしまった』というやつか・・・・等とどうでもいい事を考えていると壁からビキビキと、今日で何度目かのモンスターが産まれる瞬間の音を聞いた。
壁を裂いて出てきたのは
「・・・・・うわ、キッツイなぁ」
俊敏なだけでなく、何よりの特徴といえばその口から放たれる
「っ・・・・いきなりかよ!?」
「・・・くっ!?」
体勢を崩しながら氷弾を打ち出すも、2匹は左右に別れることでソレを避け、こっちを挟み込んだ。
「ガアアアァァァァッ!!」
奇しくも先のインプのような位置関係になるが、その危険性は比ではない。同時に飛びかかり、正面は首を、後ろからは右足首に狙いをつけて襲いかかる。同時とは言ったが、飛びかかりから牙を覗かせるまで全てがまるっきり同じな訳ではない。若干後ろのほうが早いといったところか。
「・・・・こっ・・・・のっ!?」
右脚を蹴り上げることで、正面のやつを蹴り飛ばそうと考え、かつ自らバランスを崩すことで必然的に首を後ろに引き、正面から迫る牙を避ける事に成功する。後ろからのやつは少し前まで足があったところを過ぎ去っていく。器用のステータスを上げておいて良かった。ウォーシャドウのときに上げてなかったらきっと今の曲芸じみた回避動作は不可能だっただろう。
正直どこまで避け続けられるかわからないが、対抗手段がない訳ではない。
「・・・・・できるか?」
再び迫りくる火炎放射を避けながら短剣型の魔剣と片手剣を構える。体の向きも、さっきとは変える。さっきは正面と背後を同時に確認しようとしていたが、今度は左右に見えるようにする。左のヘルハウンドが距離を取ってから火炎放射を、右からは再び噛みつこうと走り寄る。
「ガアアァァァァッ!」
「ふっ!」
右から迫るヘルハウンドを体を半回転させながら真横に蹴り飛ばし、ついでに炎を避ける。
「ギャゥッ!?」
何度かバウンドしたヘルハウンドが体勢を立て直そうとする前に、右手に持つ片手剣を投擲する。放たれた剣は、防がれる事も避けられることもなく、その身に吸い込まれ、地面に深々と突き刺さった。
急いで、剣を引き抜きに駆け寄ろうとするが、それよりも先に跳ね飛ばされてしまった。
「ぐあぁっ!?」
自分を吹き飛ばしたのは勿論、さっきまで火を吐いていたもう1匹。仰向けになり、すぐに起き上がろうとするも既にその牙は目前に迫っていた。距離があるからいいかと思ったのだが、そうはいかなかった。下げたままの敏捷ステータスが影響していたのだろうか。いやそれを考えるのは後だ。少なくとも今かやるべきは、この状況を乗り越えることなのだから。
「・・・・っ!?」
魔剣で防いではいるが、その鋭い牙はギリギリと迫りつつある。短剣であるが故にリーチ面で不利。それを悟ったヘルハウンドがその口を大きく開き、業火を放とうとしたその瞬間。
「へっ、やっと口を開けたな。待ってたよ?」
短剣をその口に入れ、氷弾を放つ。放たれた氷弾はその黒い体を貫通。ポッカリと穴の空いたその体はドサリと音を立てて横に倒れた。
隙を見せないなら誘えばいい。例えば今みたいに、敢えて自分が不利に陥ったかのように立ち回り、相手に有利な状況を、勝利を確信させる。
“モンスターだろうが冒険者だろうが、勝ちを確信したときは最大火力で始末しようとしてくるけど、それは『絶対に自分が有利だから』と思って油断しているからなのよ。つまり、相手に隙がなければ、こっちから誘い出せばいいのよ。アンタ得意でしょ、そういうの”
これが作戦なのだが、例の幼馴染に教わった訳で決して自分で考えていた訳ではない・・・・恥ずかしながら。というか、“得意でしょ”とか言われて、はいそうです・・・・とは誰だって自慢気に言えるものではないだろうに。まったく、なんてことを聞くんだあの幼馴染は、僕にそんな、相手のことを弄ぶような事が出来るとでも思っているのだろうか。心外な。
「・・・・それでもいざ実践するとなると焦るなぁ、やー怖かった。特にあの牙、尖すぎて何回冷や汗かいたことか。ふっ・・・・あれ?」
ぼやきながら片手剣を引き抜こうとするも、予想していたよりも深くまで突き刺さっているのか、なかなか抜けない。
「ぐっ、この!・・・・・・うぁーダメだ、全っ然抜けない。おっかしいなぁ」
諦めて座り込む。こうなってしまっては放置するしかないだろう。いやでもそれは・・・・せっかく自ら仕上げたものだし(工房の片隅に放置してたのはともかくとして)放っておいては他の冒険者の邪魔になるだろうし、場合によってはモンスターが引き抜いて、そのまま武器として扱うかもしれない。
「それはなんか嫌だなぁ。自分の
しかし、そのまま大人しく黙って片手剣を引き抜かせてくれるほどダンジョンという環境は易しくない。
「・・・・くっそ」
再びダンジョンがそれを阻もうと刺客を生み出す。
間抜けなことをした冒険者を排除せんとダンジョンより派遣されたのは4匹のアルミラージ。全身が白く赤い目を持つ、二足歩行の兎は。いずれの個体も天然武器として石の斧を持っている。その手に持っている得物はともかくとして、白い体躯に赤い目?おかしいな、割と最近どっかで見かけたような・・・・・・
「うわわっ!?ちょっ、ま・・・危なっ‼」
ふとベル・クラネルが脳裏に浮かびかけたその瞬間、4匹の兎は揃って石斧を投擲してきた。咄嗟に片手剣型の魔剣を剣帯から抜き弾く事に成功する。
「今はもう少しだけ待ってて欲しかった・・・・・かなっ!」
お返しとばかりに氷弾を撃ち出す。放たれたソレは一番端にいた個体に命中。
「よし、じゃあもっかい・・・・・ぁ」
もう1匹狙おうと短剣を振り上げた途端、しかしもう一度氷弾が放たれることは無かった。切っ先から柄まで全てにヒビが入り、留まることはなくソレは粉々に砕け散った。
やはり魔剣はその力を行使する度に限界を迎えやすくなる。その原因は大きさなのか、はたまた扱う属性によるものなのか詳しいことは、多くの鍛冶師が当たり前のように製造し、多くの冒険者が扱うようになった
とにかく、片手剣は使えず魔剣も残り一本となった今、このまま魔剣を使ってしまえば避けられた際の対抗手段を失うことになる。先程弾いた石斧を拾い、それで今尚突き刺さったままの片手剣、のすぐ近くを削る。削るというより掘るに近い動作だがそんなことを気にしている場合ではない。
「・・・・・・やった!」
単純な力で引き抜くのは無理だったが、石斧でどうにか周囲を堀り進めることで抜くことに成功した。
「さぁさぁ待たせたね
しかし獲物を地面から引き抜いたのは、どうやら僕だけではなかったようだ。いざ対面し直し意気揚々と近寄ろうとした時に気づいてしまった。
「・・・・・時間かけ過ぎた」
間違いなく彼女に怒られる。一時的に得物を失っただけに飽き足らず、相手に武装させる暇を与えてしまった。ここまでやらかしてしまうとミレアが助けてくれる事すら絶望的かもしれない。
ミレア、助けてぇ。
そしてサラッと新キャラが登場したことで、ルミト君に降りかかる危険性が跳ね上がる始末。・・・・ルミト君、強く生きるんだよ(切実)
まぁもう一話続くんですけどね。それが意味するところは・・・まぁお察しの通り、ルミト君が危機なだけです(オイ)
そんでもって今までにもあったミレアの心境を、実はもう一段階深堀してみたり、そんな今回でした。
それでは、また次回!