ダンジョンで情報を探るのは間違っているだろうか 作:怠惰ご都合
どれくらいの間、抱きしめていただろう。随分と長かった気もするし、あっという間だった気もする。気にしないのかと思われるかもしれないが、実はもう既に余裕がないのだ。
「・・・・・あったかいね」
「・・・・・うん」
相変わらずミレアの顔は赤いままだけど、その声には落ち着きが戻っていた。
「やっぱり、ズルいって思う?」
「思う・・・・けど、今はこの方がいい。だけど、こっち見ないで欲しい」
さっきと言ってる事が違うけど、これはこれでキツいというかなんというか。
「どうして?」
「・・・・・恥ずかしいから言いたくない」
そう言いながらミレアは顔を伏せた。
「別に気にならないよ?」
「・・・・・・すごい変な顔になってるから、見られたくないの。だから今だけは顔を見られないこの方が、いいの」
あ、なんだろうこのモヤッとする気持ち。どう言い表したらいいのかな。1番それっぽい言葉にするなら、うーん・・・・『見てみたい』になるなのかな。そんなことを考えているとミレアが静かに離れた。もう満足したのだろうか、その顔は嬉しそうだった。僕としてはもう少しそのままでも構わないんだけど、それだと動けなくなるから仕方ないね。
「でも、どうして来れたの?頼んだ私が言うのもなんだけど、ヘルメス様、結構強めに止めてなかった?」
確かに圧は強めだったね。今までに見たことないくらいだった けど、あの
「それはもう、精一杯説き伏せて怯んだ隙に突っ切ってきたからだよ」
見上げてくるミレアに、悟られない様に最大限の笑顔で対応する。
「本当?」
「・・・・・・・・うん」
互いに何も言わず、そっと離れる。後はヘルメス様に伝えるだけ。外に出るためにゆっくり足を動かすと、ミレアも何も言わなくてもついてきた。
「何よその間は。まぁいいわ、あの
まさか聞き返されるとは思わなかったなぁ、それ僕が言うのもなんだけどヘルメス様の信用度ってかなりアレじゃないか?ミレアから頼んでおいてその言葉はあまりにもドライじゃない?
・・・・・それはいいけど、いや良くはないんだけどさ、さっきの直後で隣を歩かれるのって恥ずかしいな。今まで以上に近くに感じるというかなんというか。
ついさっき歩いてきた通路を引き返しているだけのハズなのに、こんなにも楽しく感じるのは、やっぱりミレアが隣にいてくれるからだろう。
外に出た途端、帽子を被ったヘルメス様が手を振りながら寄ってきた。
「いやぁ、すまないねミレア。俺とした事が不意をつかれてしまったよ。流石に君の認めた男なだけはあるね」
飄々としている様に見えるが、心なしか安堵している様にも見える。
「ふぅん、どうせまともに止める気なんて最初からなかったでしょうに。よくもぬけぬけと・・・・・」
「いやだって・・・・そもそも追い返したら荒れるだろう、ミレア。そうなったら俺が直接サンドバッグになるか、泣きつかれたアスフィに俺が物理的に責められるかの2択なんだ。だったら全力で逃げるに決まってるだろう?」
「・・・・うっ」
うっわぁ、ものすごい爽やかに言い放ったよこの
「・・・・・それは確かに、追い返しちゃったらどうしようって考えたりもしたけどさ。だからって別にそこまですんなり通していいっていう訳でもないし」
歯切れの悪いミレアを見て、ヘルメス様はニヤニヤしている。
「でも本当のところは?」
「・・・・・・・感謝してます」
流石ヘルメス様、解ってるね。
「・・・・何嬉しそうにしてんのよ」
あっマズい、こっちに飛び火してきたよ。うわ怖いよこの豹変ぶり、さっきまであんなに照れくさそうにしてたのに、急にどうしちゃったのさ。
「ここまでミレアの事を解ってもらえて良かったなぁって。それが嬉しくって、ね」
こうすればミレアは照れるって学習したもんね。流石に今までみたいに墓穴を掘るなんて事はしないよ僕は。今まで何度も怖い目に遭ってきたんだから、多少は想定してるとも。
「『ね』じゃないわよ。私の事なんて・・・・・アンタの方が比べようがない程知ってるに決まってるじゃない。私にはそれだけで十分よ」
ミレアの顔が段々と赤くなっていく。ほらね、思ってたじゃないか。ふっふっふ、やったね。ちなみにこのやり取りの間にヘルメス様が、さっきの何倍もよりニヤニヤしているのは言うまでもないよね。
「なぁルミト君」
「・・・・・なんでしょうか」
正直、嫌な予感しかしないけど、知り合いの・・・・それも神様の言葉を無視するわけにも行かない。
「正直いって、どこまで伝えられたんだい?」
「えっと・・・・・・」
「おいおい、神に嘘は通じないぜ?」
「・・・・・・・全部、デス」
再び自分の顔が熱くなるのを確認しながら答える。その言葉を聞いた途端、ヘルメス様は満足そうに笑っている。
隣のミレアも顔を赤くしながらも笑っている。
「そうかそうか、良かったなぁミレア。これでやっと両想いになれた。俺もヘファイストスもこれ以上、気を揉まずに済むよ」
・・・・・えっ、ヘファイストス様知ってたの?しかも両想いってのも知ってたって事は割と最初の方から?
「いえあの、元から・・・・・両思いだったみたいで」
「おおっと、そんな事は承知していたとも。勿論最初から気づいていたんだからそんなに惚気なくてもいいさ!」
・・・・・・・?
「いえ、あのですねヘルメス様。こんな状況で言うのもおかしいとは思うんですけど。ルミト、自分の気持ちにも、周りがそのことをとっくに把握してたって事も知らなかったと思うんです」
「えっ、それは・・・・・・・・・・なんというか、最悪じゃないか?まさか、いくらルミト君が鈍い事で有名だとしても、流石にそこまでじゃ・・・・」
「・・・・・・」
「マジか」
頭上に『?』を浮かべていると、何故か知らない間にヘルメス様が凄い呆れてるんだけど、えっこれ・・・・全部僕が悪いんですか?
「だからこんなに苦労したんです!」
ヘルメス様が呆れながらも嬉しそうに笑って、最後にこう告げた。
「二人して
「・・・・・・えぇ?」
それ、自分の
「じゃあヘルメス様・・・・そういう事なんで私、しばらく戻ってこないつもりなんで!」
「・・・・・だ、そうだからよろしく頼んだよ、ルミト君?」
・・・・・・・・えぇ?
いやもう、何が正しいのかわかんないけどさ、これだけは言える。なんか・・・・・・すんごいドキドキしてます。
あの後、情けないことにずっとドキドキしててどうやって戻ってきたのか、道中何を話たのか覚えてないけど、気づいたら自分の工房に帰ってきてたよ。帰巣本能ってやつなのかな。
ちなみに肝心のヘファイストス様にはここに来る途中で、すれ違った瞬間にバレて、それはもう大変満足そうに笑われましたとも・・・・・いくらなんでも察しが良すぎないか、あの
道具の整理をしてなんとか気持ちを落ち着かせようとしていると、ベッドの方からミレアの上機嫌な声が聞こえてくる。
「・・・・・えへへぇ〜」
「どうしたの?」
「なんでもな〜い」
ミレアが僕の顔を見つめては嬉しそうに笑う。ちなみにこのやり取り既に両手で数える程繰り返しているけど、ずっと上機嫌なのも落ち着かない。
「・・・・・」
「ミレア?」
ふと、ミレアが大人しくなった。覗き込むと既に寝ていた。いやもう・・・・・当たり前のように僕のベッドで寝てる事には突っ込まないけどさ、もう少し警戒して欲しいと言いますかなんと言いますか。正直なところ、ミレアにとって僕はどういう位置付けなんだろう。そう思った瞬間からずっとドキドキしてて落ち着かないんだよね。とはいえ直接聞くのも違うだろうし、かと言ってこのままモヤモヤするのも嫌だし、あーもう、どうしたらいいんだろコレ。
いつも通りルミトの工房。見慣れた風景に使い慣れたベッド。だけどいつもと違うのはルミトの雰囲気。その大人しさからいつもの何倍も格好良く見える。勿論、夢だということは解っている。だってさっきまで夜だったしルミトも私も寝ようとしていたのだ。それが今では夕方だし向き合ってベッドに座っている。そしてなにより、ルミトが素直だった。
『・・・・・ねぇミレア』
「な、なにかしら?」
気の所為かしら、ルミトがいつになく真剣な顔をしてる。偶にはこういう表情を見るのも悪くないわね。精一杯いつものように振る舞おうとするも、やはり上手くはいかない。
『急にじっと見つめてきてどうしたの?そんなに見つめられると・・・・・・流石に恥ずかしいよ』
・・・・・ルミトが、恥ずかしそうに顔を染めているのなんて、初めて見たかもしれない。これはアリね、全然アリ!寧ろもっとやって欲しいくらいよウン!
「別に恥ずかしいことじゃないわ、だって今まで隠してたんだもの。それを今までの分だけ自分の心に従っているだけなんだから、何もおかしいことじゃないわ」
『そう、なのかな・・・・・・ううん、ミレアがそう言うならそうだよね!』
ま、眩しい!ルミトの笑顔ってこんなにも素敵なものだったなんて、嗚呼もっと見ていたいわ!
嬉し過ぎて思わず目を閉じてしまったが、勿体無いからすぐに目を開ける。気の所為かさっきと景色が変わっているような・・・・いや夢なのだからそれは特に大したことじゃない筈だ。寧ろもっと続けなければ。夢だと解っているのだから、せめてその分は楽しまなければ!
「一体なんの夢見てるのさ、こんなに嬉しそうな顔しちゃって」
寝ているミレアの顔を眺めながら、そう口にする。ミレアが寝ているのは当然、僕のベッド。最初は色々と起こそうとか思ったんだけど、ミレアの嬉しそうな表情を見てたら割とどうでも良くなってきてしまった。ただ、1つ文句を言えるのなら・・・・・時々すごいふにゃふにゃした声で名前を呼ぶのは控えて欲しい。ちょっとどころかかなり心臓に悪い。
つい頬に指を当ててしまった。大変柔らかい感触が伝わってくるが、コレは本当にこの世の物なのだろうか。バレたら怒られるどころじゃ済まないだろうなぁ・・・・・そう考えながらも自分の指はまるで独自の意思を持ったかのように僕の言う事を聞かず、ふにふにとミレアの頬を弄んでいた。どうせ待っている結末は同じなのだ。ならせめて今だけでもコレを堪能しなければ逆に失礼というものだろう。
むにむにと頬を触られる感覚に意識を引っ張られる。例え夢であっても、ありがたいことにそこは忠実に再現されているのだろう。しかしこっちを優しく覗き込んてくるルミトの表情がかつてないほど私に突き刺さった。夢にしてはやけに再現度が高い気がするが・・・・・・まぁ夢だしそんなに深く考えなくてもいいわよね。
「・・・・・ねぇルミト」
「ぅん、どうかした?」
「・・・・・・・くすぐったい、よ」
「・・・・・・っ!?」
「どうか、した?」
・・・・あ、危ない、何今の破壊力!?心臓が・・・・・心臓が止まるかと思った。てっきり意識だけ飛んで器がドロップアイテム化するんじゃないかと焦ったよ。
「ぜ、全然!・・・・・嫌だった?」
「んーん、気持ちよくてホッとする」
「そ、そうなんだ。なら良かった、よ?」
本当に良かったのか?・・・・・・・・いや、迷うことないじゃないか。本人がいいって言ってるんだから、それでいいじゃないかウン!後は、バレなけければいいんだから!幸いか不幸か、当のミレアは夢だと思い込んでるんだから、このまま押し通せばなんとかなる。
「なんで疑問形になるの・・・・ぁ、どうして逃げるのよ」
・・・・・・バレないようにゆっくり手を離そうとしたのに、捕まったんですけど。ねぇコレマズいって!絶対後で怒られるって!というかこんな事になってるのに僕が悪いことになるのはおかしいじゃんか!・・・・・・・・いや、でも最初に触り始めたの僕だし、やっぱり僕が悪いのか?いやいやそんなことよりもミレアの手がふにふにしててナニコレ柔らかい。こんな素晴らしい物がこの世に存在して良いの?
「・・・・・あったかい」
終わったよ。がっちり掴まれて動けなくなっちゃった。というか本音を言えば動きたくないけど、嗚呼でもそうじゃなくて!?
そんなことを考えているとミレアが徐々に覚醒してきた。
「や、やぁ起きたのミレア?」
「えぇ、寝てたみたい・・・・・・ごめんね?」
「それは大丈夫だけど、ちょっとこれ以上は耐えられそうにないんで、そろそろ開放してもらえるとありがたいなぁって」
「なんの・・・・・こ、と?」
ミレアの顔が赤くなってきたから、悲鳴か爽快音まで秒読みだね。うんうん、何度も体験してきたから流石に覚えちゃったよ。さぁさぁどっちが先にくるかな、コレを機に予想しておくのも悪くないと思うんだよね。お、顔が一層赤くなってきたからそろそろだね・・・・・・・・・さぁ、どっちで来る!?
・・・・・・・・まさか頬への衝撃と甲高い悲鳴の両方いっぺんに来るとは思わないじゃん。普通順番にやって来るんじゃないの?まさかさっきまでの柔らかい感触が、数分も経たない間にあんな凶器に早変わりするなんて・・・・・・うー、左の頬がジンジンするよぅ。
今までと比べてあまりに展開が変わり過ぎて、作者自身が把握出来てないけど何だろう、ルミトを困らせる様に考える方が進めやすいかもしれない(許してルミト)。
あと作者のアレがアレなので今後の展開が・・・・・どうなるんでしょうね(・・・・・次回どうしよ)