ダンジョンで情報を探るのは間違っているだろうか 作:怠惰ご都合
連休中に待っていて下さった方々には申し訳ないです。
・・・まぁ、私自身がGWを満喫していたのが理由なんですがね。
久しぶりに六千字に挑戦です。
「・・・・・ねぇミレア」
「・・・・何かしら?」
工房にて、ルミトはミレアに問いかける。
もう、彼女の宿泊については諦めた。
・・・・諦めたのだが、泊まる度にベッドを奪われるのは我慢ならない。
それとこれとは話は別なのである。
つまり、何が言いたいのかといえば、
「そろそろ、自分が使うベッドは自分で用意してくれないかな!?二日連続で床で寝るのは、流石に身体がきついんだけど!?」
ミレアがベッドで、ルミトが床で寝るという今の境遇についてである。
そう、この工房の主はルミトであるのだが、当の本人がベッドを使えないとは如何なものか、というのがルミトの言い分だ。
「いいんじゃない?鍛える事ができるんだから。良かったわね、レベルアップに近づいて。ひょっとしたらレベル3になれるかもよ?」
しかし、ミレアは満面の笑みでそんな事を言ってのける。
「んじゃ、自分でやったらいいじゃんか!?」
確かにこのまま続けていたら本当にレベルアップしそうだ。
しかし、それだけはどうにかして避けたい。
「・・・・嫌よ面倒くさい」
ミレアは相変わらずの笑顔ではっきりと口にする。
「さっきと、言ってる事が違うんだけど!?」
「・・・もう、じゃあ何?ベッドを一台追加するとでも言うの?」
「うん」
「ならさっさと買って来たら・・・・え?」
彼女もやっと気づいたようだ。
まさか本気だとは思っていなかっただろう。
しかし、僕としてもここで引き下がる訳にはいかないのだ。
そう、安眠の為にも。
「・・・・本気で言ってるの?」
「うん。だってこのままだったら泊まる度に言い合うからねぇ、多分。それを回避するには一番いい方法だと思うんだ」
「え、えぇ確かにそうね」
「という訳で、今から
「・・・今から?」
「うん。自分の作品の売れ行きも見ておきたいからね」
『バベル』は
そして、一部の空きスペースを様々な商業者に貸し出している。
当然、【ヘファイストス・ファミリア】も出店している。
更に、【ヘファイストス・ファミリア】は他の【ファミリア】と違って、上級、下級問わず職人に作品を作らせ、それを商品として売りに出している。
当然、熟練の
しかし、新米同士が作品を通して専属に・・・・という可能性もある為、【ファミリア】側にとっても悪い話ではないのだ。
「あれ、でもあなたの作品ってあんまり売れてないんじゃなかったっけ?」
バタバタと準備をしながら、ミレアがそんな事を聞いてくる。
「・・・・・・」
違う、違うのだ。周りが僕の作品の素晴らしさを理解できていないだけなんだ。
決して、形が歪だとか使いづらいとかで不評な訳ではないのだ・・・・・多分。
心の中で自分にそう言い聞かせ、ルミトは彼女の一言を聞かなかった事にし、工房を出たのだった。
目的のフロアに来る道中、接客しているヘスティア様を目撃した。
恐らく、この前の我が儘にかかった費用を働いて返すよう言われたのだろう。
しかし、返すのに何年かかるか判らない。
何しろ、天界で『神匠』と呼ばれていた
費用を完済するのに何百年・・・・というのも十分にあり得る。
まぁここで働いている以上、これから何度も会うことになるだろう。
詳しい話はその都度聞いていけばいいだろう。
そんな事を考えていると、自分の作品の売り場を見つけた。
「・・・・・うん、知ってたよ。売れてないって事は」
「・・・・はぁ、いい加減諦めなさいよ。何度確かめても結果は同じ。あなたの作品を使うなんて物好き、少数派に決まってるじゃない」
実際に自分の目で見てぼろぼろになったところで、ミレアが追い討ちをかけてくる。
泣きそうな気持ちになりつつ、ふと彼女の言葉が気になった。
そう、彼女は『物好き』と言ったのだ。
それが正しいのなら、いつも僕の武器で戦っている彼女もそういう事になる。
「・・・じゃあ、ミレアも『物好き』なんだ?」
「・・・・べっ、別に!?せっかくあるのに使われないなんて、武器が可哀想だなって!それだけだから!?」
彼女は顔を赤くしながら、早口で答える。
「へぇ、そうなんだぁ?」
「な、何よ!?」
「なんでもないよ~?」
なんだかんだで、彼女は武器を使ってくれている。
冒険者が武器を使う。
たったそれだけなのに。
そんな当たり前の事なのに。
自分の作った武器が役に立っている。
それが・・・・・嬉しい。
「あれ、ルミト君じゃない。どうしたの?」
感動していると、エイナが話しかけてきた。
今日は私服のようだ。
普段の制服も似合っているけど、私服も・・・・なんて考えていると冷ややかな視線が突き刺さる。
「ちょっとした買い物・・・・ですかね。エイナさんこそどうしたんです?」
後で色々と言われるかもしれないが、一先ずミレアの視線を流す事にする。
「実はね、ある冒険者の装備を買いに来てるんだ‼」
なんともまぁ、いい笑顔で答えるものだ。
それに、冒険者一人の為に買い物に付き合うとは、関係ない人が見ればデートと勘違いされるだろう。
今日、ここに来るまで周りから凄い目で見られたであろう相手が少し気の毒だ。
「へぇ、因みにどんな人なんです?」
「う~ん、白髪と
「ねぇ、ルミト。ひょっとしてあの時の少年の事、言ってるんじゃない?ほら、ダイダロス通りの」
エイナの情報から何かを察したのか、さっきまで不機嫌だったミレアが話しかけてきた。
「あぁ、あのシルバーバックを倒した子?」
「えぇ、聞いてましょう」
ミレアに賛成して、僕はエイナさんに聞く事にした。
「エイナさん、今日一緒に来た相手って、ひょっとして
「うん、そうだけど。・・・・って何?もしかして知り合い?」
「や、ただすれ違っただけなんで。正直なところ名前とか詳しい事は全然」
エイナの反応からするに、どうやら当たりのようだ。
ミレアの顔がどこか誇らしげだが、まぁ今は突っ込まなくていいだろう。
「じゃあこれを機会に、自己紹介でもしてみたら?装備品は【ヘファイストス・ファミリア】のを見に来てるから、所属
「・・・・まぁ、 上手くアドバイスできるか判りませんけど僕でよければ。・・・ということでミレア、ちょっと寄り道だけどいいかな?」
「あなたが良ければいいんじゃない?時間はまだあるしね」
まぁそんなこんなで、三人で例の少年の装備を身繕う事になった訳だが、当事者がいなければ決まるものも決まらない。
何より、自分以外の
「二人とも、これはどうかな?プロテクターに
品探しをしている中、エイナさんの嬉しそうな声を耳にする。
「お、いいんじゃないですか」
「私もいいと思うわ。他にこれといった物も見つけられなかったからね」
「じゃあ伝えてくるね‼」
決まるや否や、エイナは小走りで去っていく。
「どうするの?」
「まぁ、折角だしついてってみようよ」
走るエイナの背を見て、二人は後を追う事にする。
歩いて向かうと、やはりあの時の少年がエイナと話していた。
話を聞く限り、どうやら少年は自分でしっくりくる装備品を見つけたようだ。
しかもボックスを抱えているのを見る限り、一式揃えるつもりだ。
「そんなぁ、折角選んだのになぁ」
「・・・・すいませんエイナさん。でも、僕は・・・・」
「ううん、ベル君の装備だもんね。いいよ、ほら気持ちが変わらないうちに買ってきて」
「はい‼」
そう返事をして、少年は嬉しそうに歩いていった。
「・・・・・エイナさん、買ってくるなら今よ?」
ミレアが一言呟いた。
「・・・・うん」
「確かに使うのは彼だけど、彼が心配ならプレゼントしてもいいと思うわよ」
その言葉を聞いた途端、先程まで黙っていたエイナが頷いた。
どうやらミレアの言ったように、プレゼントとして渡す為に購入しにいくようだ。
「・・・優しいねぇ」
「・・・・うるさいわね」
「さて、プレゼントならもう一個くらい多く貰っても困らないよね」
「確かにプレゼントなら嬉しいけど、あなたの作品の場合は迷惑の間違いでしょ」
「ひっどいなぁ。ミレアだって使用者じゃん・・・・一応」
「・・・私は慣れたからいいのよ。・・・というか、一応って何よ」
「別に。お、これなんて良さそう。まぁ少し変だけど大丈夫でしょ」
そんな話をしながら、ルミトは自作品の中から刃先が蛇のようにくねくねと曲がった短剣を見つける。
「どっかの誰かさんみたいにひねくれた武器ね。いつ作ったのよ、そんな武器」
「・・・・・・なんか最近、辛口だねミレア。作ったのはこの前さ、知らないうちにこの形になっててさ」
「・・・へぇ」
「んじゃ、見つからないうちに買いに行きますか‼」
二人が店から出ると丁度、エイナが
「お、いいタイミング」
そんな事を言って、ルミトは少年に近づく。
「無事に渡せたみたいですね、エイナさん?」
「うん、ちょっと押し切っちゃったけどね‼」
「・・・・・エイナさん、この人達は?」
「そうね、まだ三人は自己紹介してないのよね。それじゃ丁度いいから、今やっちゃいましょ‼」
「は、はい。・・・・えっと、【ヘステイア・ファミリア】のベル・クラネルです」
「僕は【ヘファイストス・ファミリア】所属
「・・・・・【ヘルメス・ファミリア】のミレア・サナシアよ」
三人の自己紹介を見て、エイナは満足そうに頷いている。
「・・・で、いきなりで悪いんだけどベル・クラネル、君に頼みがある」
「は、はい」
「これを使用した上で感想が欲しい」
そう言いながら、ルミトは先程の短剣をベルに手渡した。
「・・・えっ!?いや、でもこれは!?」
「突然なのは承知してる。でも、さっきも言ったようにこれでも僕は
「・・・・・」
「勿論、代金はいらない。単純に評価が知りたいだけなんだ」
「・・・・解りました」
「うん、ありがとう」
最初は戸惑っていたが、最後には了承してくれた。
真っ直ぐに見つめてくるベル・クラネルの瞳を見て、僕は安心した。
すると、ミレアがベル・クライネルに近づいた。
「あの、ちょっと!?」
白髪の少年は顔を赤くしてあたふたしている。
確かに、突然エルフが自分に近づいたら驚くだろう。
外見はいいし、物腰も柔らかい。
加えて、その笑顔は見る人を惹き付けるだろう。
「気に入らなかったら、容赦なく壊していいからね」
しかし、性格がきつい。
容姿と中身が合っていないのだ。
冒険者じゃなく、商売人だったら成功してるかもしれない。
「・・・・あ、あはは」
「さて、じゃあ僕達はこれで」
「またね、ベル・クラネル」
苦笑いしている白髪の少年にそう告げ、僕はミレアと共に歩き始める。
「あ、ありがとうございます。その、今度からは名前で呼んで下さい!」
そして僕達は二人と別れたのだった。
「・・・疲れたぁ」
あの後、なかなかミレアの気に入るベッドが見つからず、結構歩き回った。
そして最終的に、今あるベッドと全く同じのを買う事となった。
因みにその時、最初から言って欲しいと伝えたのだが、
「別にいいでしょ、判ってないわねぇ」
なんて言われて、何故か知らないが呆れられてしまった。
まぁ、そんなこんなで買い物を終え、ベッドを工房に運び込み、今は自分の工房でゆっくりしている訳だが。
「それで、今日も仲良くデートかしら?」
ヘファストス様まで工房に来るのは予想外だった。
自分で言うのもアレだが、こんな変な所に来るのはミレアだけだった為に油断していた。
幸か不幸か現在、ミレアはいない。
「まさか?というか『も』ってどういう意味ですか。全く身に覚えがないですよ。そもそも付き合ってすらいないんですから」
「・・・・これは少し、彼女が可哀想に思えてくるわねぇ」
事実を伝えたはずなのに、何故か溜め息をつかれてしまった。
このままでは気まずい。
話を変えなくては。
「あ、そういえばヘファイストス様。今日ベルに、ベル・クラネルに会いましたよ」
「あらそうなの。どこで?」
「バベルの武器売り場で」
「・・・・彼も冒険者なんだから、別に不思議な事ではないでしょ」
なんとか話を変える事には成功した。
しかし、このままでは普通の報告になってしまう。
それに、ヘファイストス様の表情に変化がないのも、僕にとっても面白くない。
「それがですねぇ、彼が購入した装備、ヴェルフさんの打った作品だったんですよ」
その名前を聞いた途端、ヘファイストス様の表情が変わった。
「あら、ヴェルフのを!?確か、ベル・クラネルってヘスティアのところの子よね‼」
「はい」
「結構見る目あるのね‼少し感心したわ!」
予想通り、ヘファイストス様の反応が変わった。
そう今の一言で解るように、ヘファイストス様はヴェルフさんに一目置いているのである。
「いいこと聞いたし、私はこれで失礼するわね」
一息ついたところで、今度はミレアが入ってきた。
武器に服、色々と道具を持ち込んでいるが、気にしたら負ける気がする。
触れるのは止めておこう。
「ヘファイストス様、やけに上機嫌だったわね。何かあったの?」
「うんまぁ、そんなとこかな?」
「・・・・ふーん」
それだけ言って、ミレアはベッドに横になる。
「それで、明日はどうするのよ?」
「うーん、特に欲しい素材はないけどダンジョンに行こうかなぁ、と。・・・・えっ何、ついてくんの?」
「当たり前じゃない?」
「ヘルメス様は?」
「そもそもの話、出かけてていないのよ」
「・・・・アスフィさん達は?」
「最近忙しいみたいなのよ」
「つまり、どさくさに紛れて出て来たと?」
「端的に言ってそういう事ね」
なんてことだ。
僕の自由は何処へ消えたのだ。
いや、戻ってくる保証もないが、少しでも可能性があるなら期待しているのだが、どうやら無駄みたいだ。
そこで気がついた。
今日はミレアのベッドを買ってきた。
そして工房に運んだ。
ここまではいい。
しかし、ミレアが横になったベッドは買ったばかりの新品ではなく、普段僕が使っていたはずのベッドだっ。
「・・・・・ねぇミレア」
「・・・・何かしら?」
「なんで、僕のベッド使ってるのさ?」
「私、新品のベッドだと寝つけないのよね」
「うんうん、それで?」
「だからあなたはあっちで寝てね?」
「ミレアさんミレアさん、全然説明になってないよ!?」
「・・・・」
既に寝てしまった。
こうなっては仕方ない。
諦めよう。
僕は大人しく、もう一つのベッドで寝る事にした。
何故だ、何故寝れない。
いや、既に理由は解っている。
ベッドが狭いのだ。
決して、サイズを間違えたのではない。
ミレアが横にいるのだ。
確かにさっきまでは隣のベッドで寝ていたはずなのに、気付けば入り込んでいた。
しかも、ただ寝てるだけならいいが、寝相がアレなのである。
寝ぼけていてもそこはLv.2冒険者。
決して必殺の一撃ではないが、避けなければ肉体的にも精神的にも危ない。
「こんなに寝相悪かったかなぁ?」
どうやら今日も安心して寝れそうにない。
無意識の一撃を避けないがら、明日を迎える事になるとは、なんと不運なのだろう。
因みに私、早くも五月病になってます。
なので、連休中決して怠けていた訳ではないです・・・ハイ。
さて、今回無かった戦闘シーンですが、出すなら次回あたり・・・・かもしれないですね。
それではまた次回。