ダンジョンで情報を探るのは間違っているだろうか 作:怠惰ご都合
待っていて下さった方々には、申し訳ないと思っています。
「ちょっとルミト、あんたいつまで籠ってるつもりよ?」
「えー、だってー・・・・」
あれから数日。
ルミトはずっと工房で過ごしていた。
人と接する機会といえば、同じく工房で寝泊まりしているミレアだけで、つまり僕の自由は武器を製作中のこの瞬間だけ。
「あと、少しは休みなさいよ。倒れるまでそうしてるつもり?」
「そんなつもりじゃないよ」
「じゃあ何よ、人に迷惑かけるのが好きなの?」
「・・・・いやいや勝手に転がり込んで、寝泊まりしてる時点でそれはお互い様じゃない?」
「何よ、私と一緒は嫌なのかしら?」
「そうは言ってないさ」
「なら・・・・何よ」
因みにここ最近、ミレアは虫の居所が悪い。
昨日も似たような事を言われた。
どうも彼女の機嫌が悪いのは僕が工房に籠ってるのが原因な様だが、こればっかりは譲れない。
僕だって一応は【ヘファイストス・ファミリア】の団員であるため、製作に取り掛からないと勘違いされるかもしれない。
「ありがと」
自分は突然そんな事を言っていた。
なんで言い出したのかは解らない。
「・・・・な、何よいきなり」
ミレアは驚いて固まっていた。
それはそうだろう。
僕自身でさえ、さっきまで動かしていた手を思わず止めてしまったのだ。
そして、思い出した。
確か少し前にヘルメス様がこんな話をしてくれていた。
『いいかいルミト君。女の子の機嫌が悪くて、自分に対して当たりが強くなったと思ったら・・・・とにかく感謝するんだ』
『は・・・・・・はぁ』
『それは相手が照れているだけだ。決して呆れているからじゃないんだ。“ああ、この子はなんて優しいんだ。こんな子に心配されるなんて幸せだ”と思えばいいのさ』
『・・・・』
『だから、“心配してくれてありがとう”って伝えれば、きっとその子は照れながらも微笑んでくれるよ』
『あ、あのヘルメス様?』
『うん、なんだい?』
『どうして泣いてるんですか?』
『ハハハ、さぁなんでだろうね。まぁまぁ、それよりもこの事は内緒にしておいてくれよ。君以外に知られたら、恥ずかしい』
最初は笑っていたのに、途中からグラス片手に泣きながらそう教えてくれた。
涙の理由は解らなかったが、その時はそれ以上は聞かなかった。
多分、そのタイミングは今なのだろう。
無意識に言った事とはいえ、ここで話題を変えても怪しまれるだけだ。
なら今はヘルメス様の教えに従おう。
「心配・・・・してくれてんでしょ?」
「・・・・」
「外に出ないでずっとこうしてるから」
「・・・・」
「嬉しいよ」
「・・・・・ねぇ」
「何?」
「それ、ヘルメス様に教わったわね?」
バレた。
いきなりバレた。
こうすれば、女の子たちをやり過ごせるって聞いてたのに。
「安心して。どんな風に教わったのかは大体把握できてるから」
つまりは全然安心できないって事ですね。
お手上げだ。
「適当に感謝すれば、状況を切り抜けられるとかそんなとこでしょ。違う?」
「・・・・仰る通りデス」
「ならその話には続きがあるって知ってる?」
「・・・・存じ上げません」
「ヘルメス様はそれをする度に、アスフィさんに絞られてるのよ」
「・・・・・・」
これには言葉が出なかった。
そうか、そうだったのか。
あの涙の理由はそれだったのか。
「因みに処罰についても知りたいかしら?いつもヘルメス様の謝罪が大音量で聞こえる程なんだけど」
「・・・・丁重にお断りします」
「まぁそうよね。ならいいわ」
そこで、ミレアの表情が少し柔らかくなった。
いつもなら『そんな遠慮しなくてもいいのよ?』なんて言って強制的に執行されるのだが、今回は違った。
“これはひょっとしたら、処罰無しの流れなのでは?”なんて考えていた矢先。
「罰として私に付き合いなさい」
もっと酷い結末が笑顔で待っていた。
「今から出かけるわよ」
「・・・・どちらへ?」
「外に決まってるじゃない。ほら行くわよ」
手を捕まれた。
そのままズルズルと引きずられて僕は扉を出てしまった。
籠りきりで特に運動してなかった運動不足の僕が、その手を振りほどけるはずもなく、大人しく連行されるしかなかった。
久しぶりに日光を浴びて暫くした頃。
彼女はゆっくりとこっちを向いた。
彼女の身長は、160
「それで、何作ってたの?」
「・・・・ん、ん~とねぇ」
これは正直に伝えていいのだろうか?
怒られる事が目に見えているから躊躇ってしまう。
「嘘ついたりしたら、メインストリートで氷漬けにするからね」
「・・・・机と椅子」
「はい決定。さぁ動かないでねー、下手に抵抗すると危険だからねー。【嘆くは己が侵し・・」
「わー待って待って。それはまずいって色々終わるから」
「・・・・何が終わるって?」
「社会的地位とそれによる名誉なんだけど・・・・」
「そんな、あなたのちっぽけな存在なんて知らないわよ」
「いや待って本当に待って。やけに辛辣だねどうかしたの!?」
答えた途端、問答無用で呪文を唱え始めるミレアと、半泣きになりながら全力で彼女を制止するルミト。
端から見ればシュール以外の何でもないこの状況。
止めたのは、意外にも近くを通り過ぎたベルだった。
「・・・・あのー、お二人はこんなところで一体何をされてるんですか?」
「・・・・チッ」
「ありがとう、ベル。助かったすごい助かった」
舌打ちをするミレアと物凄い勢いで感謝しているルミト。
この組み合わせを見れば、ベルでなくても困惑するだろう。
「えーと、お二人は何をされていたんですか?」
「・・・・甘えてるだけ」
「はっきり言って命の危機」
「・・・・本当に、お二人ってどんな関係なんですか?」
お互いの言い分が異なることで、ベルが余計に混乱する。
いや、というか“甘えてる”って何さ。
しかもそれが氷漬けとかどんな甘え方なの。
「あの、ベル様?」
横からのジト目を必死に受け流しながら、そんな事を心の中で呟いているた時だった。
この前ベルと話していたサポーターが、ルクスの後ろからこっそりと顔を出した。
「あ、ごめんリリ。今すぐ行くから」
「・・・・誰よ?」
「・・・・知ってる?」
「知らないから私が聞いたんじゃない。なんで質問に質問で返すのよ」
「あの、二人とも?」
再び言い争いになりかけたところで、またもベルが仲介に入る。
「ベル様ベル様、リリは別に構いませんよ。隠しといて変に勘繰られよりも、今伝えた方が後々面倒事にならないとリリは思います」
「わかったよリリ、ありがとう」
例のサポーターにそう告げて、ベルは僕たちの方に向き直った。
「彼女は、リリルカ・アーデ。少し前に個人的に契約したんです」
ベルが言い終わると、彼女・・・・リリはぺこりと頭を下げた。
「ルミト・ラネッサ、です。これでも一応【ヘファイストス・ファミリア】所属
「私は、ミレア。ミレア・サナシアよ。所属は【ヘルメス・ファミリア】なの、よろしく」
「えっと、リリは【ソーマ・ファミリア】に所属してる
フードを外して、笑顔で名乗った彼女は、獣人だった。
そして彼女は笑顔でそう言っていたが、僕にはその笑顔が、張り付けた仮面のように感じられた。
しかし、すぐにフードを被ったので確証は得られなかった。
「・・・・で、なんでベル“様”?」
「まさか、ベルにそんな趣味があったなんて。これはヘルメス様たちに伝えなければ。いやでも、これはこれで・・・・」
そんな事を考えながら、冗談混じりに質問する。
すると意外なことに、ミレアも便乗した。
後半の部分は、何か欲望に聞こえた気がするが、必死に聞かなかった事にする。
聞けばその分、自分に降りかかるような、そんな予感がしたから。
「違いますって‼僕も最初は反対してたんですよ‼」
「つまりは、押し負けた・・・・と。つまんないわねぇ」
「まぁまぁ、やっぱりベルはベルって事だよ」
「・・・・・・お二人って、本当に仲がいいんですね」
「そこは幼馴染だから」
「単なる腐れ縁だよ」
「アハハ、ソウデスカ。それじゃ、僕たちはこれで」
乾いた笑いをしながら、ベルとリリルカさんはダンジョンへと向かっていった。
「・・・・悪かったわね、腐れ縁で」
ベルたちと別れて、暫くしてからもミレアは不機嫌なままだった。
ひょっとしたら、一層酷くなったかもしれないが、そこは幼馴染。
こういう時の対処法ぐらい心得ていなければ、『オマエ今まで何してた』って話さ‼
「まぁまぁ、そんなにむくれないでよぅ」
「・・・・何よ」
「彼女、
「・・・・だから?」
そこで僕はニヤリと笑う。
そう、『ベルのサポーターは獣人かパルゥムか』という賭けの話だ。
当たった方は、相手に1日付き合ってもらうという約束で、だ。
当然、僕はミレアをこき使う・・・・予定だったのだが、今回は彼女の機嫌を直す事に役立てようと思う。
「あ~もう、わかったわよ‼好きに命令すればいいじゃないの‼ほら、さっさとしなさいっての‼」
「今からどこに連れてってくれますか、お嬢様?」
そう伝えると、ミレアは黙って俯いていたしまった。
「・・・・」
「お~い」
「・・・・・・」
「ね~ね~」
「・・・なんでよ」
「僕としてはねぇ、君の嬉しそうな顔を見てる方が安心するの」
「・・・・ずるい」
「だから、君が不機嫌なら笑って欲しいと思うし、泣かれるより笑っててもらいたい。君が笑う為なら、君が望む事を叶える」
「・・・・卑怯よ」
俯いているレアの頭にそっと手を乗せる。
そのまま、ゆっくりと撫でる。
「何よ、こんな時にばっかり」
「・・・・・・ごめん」
「バカ」
「・・・・・・ごめん」
俯いたままの彼女と、そんな彼女の頭を撫で続けて謝る僕。
周りからはどう見えてるんだろうか。
柄にもなく、神たちから弄られそうな事をやってしまって、気付けば夕方。
もはや、“1日”どころではなくなっていた。
「・・・・・・明日」
「なに?」
「明日、1日付き合ってあげるって言ったの‼」
「・・・・そっか。うん、わかった」
「楽しみにしてなさい‼」
顔を上げたミレアは、笑顔だった。
それは僕の好きな表情。
「じゃあ、帰りましょ!」
「・・・・は~い」
返事して、僕はミレアの横に並んで歩き出した。
ルミトが、いつもより少しだけ凛々しく見えるのは私だけじゃない・・・・ですよね?
・・・・私だけじゃないといいなぁ。
そして、“結局二人が帰るのはルミトの工房じゃん”とか、そういう事を突っ込んではいけない。
実は、気にしてるのは私自身とか、そういうのは心の中に留めておくべきで、後書きに書くべきじゃないですよね。
それではまた次回。