中和のため次回は磯風さんがカレー持って大暴れしてくれます。メシマズではありませんよ?
第九司令室の扉が開き、人が二人、入ってくる。頭にバンダナを巻いた袴姿の不審者(提督)と、制服を着た娘(時雨)だ。
部屋の中央、整然と佇むダンボール箱の壁に目をやると、時雨はまた、提督の意思を確かめる。
「提督、本当にいいの?」
「申請書か」
答えながら、雷蔵は壁を崩し、生じたダンボール箱を床の上、一列に並べている。
「いいさ。あとで必要なものをまとめてやったほうが早い」
『それに』と彼は続ける。
「こいつら捨てたらいよいよ家具がない。見ろよ、こうすりゃベッドになる!」
箱の配列を終え、提督は両手で示す。縦2行、横4列のそれはどう見ても、床板の上に隙間なく並べられたダンボールの箱だった。
あまりにいたたまれない提督を前に、時雨は少し目を伏せ、その顔に悲しみを滲ませた。
「……ごめんね、提督」
「はは、なんでお前が———。というか」
自前のダンボール箱ベッドに転がっていた提督が、不意に起き上がる。その衝撃で箱がずれ、ベッドは完成十秒足らずで体をなさなくなる。
そんなベッドの瓦解には反応せず、彼は箱に腰掛けたまま、制服姿の娘と向き合った。
「キミはそもそも、何者なんだ?」
問いを受けて、時雨は一音ずつ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「僕は白露型駆逐艦、『時雨』。いわゆる、『艦娘』、だね」
「かん、むす……」
艦娘。語感だけだと、名古屋方面で売ってそうな新種のおにぎりを彷彿とさせる。
研修の内容を反芻してみても、そんな言葉に心当たりはなかった。『駆逐艦』、『提督』。彼女の言葉から、その意味を推測すると……。
「『時雨』の整備員さん?」
「ううん、僕が『時雨』。提督は僕たちのこと、何も聞いてないの?」
彼女はまた手を後ろに組んで、雷蔵の言葉を待つ。
僕が、『時雨』。
そうだ、初対面の時から彼女はそう名乗っていたし、現に今まで、その名で呼んでいた。
提督は今更ながら、重大な認識の乖離を自覚した。駆逐艦? この、目の前の女の子が?
どの辺りをどう丸めれば、こんなに可愛くなるんだよ。
座ったまま、彼は手を顎に添え、考えを整理する。まずは、そもそも彼がここに来た目的を、伝えた方が良いように思われた。
「おれは提督として、海上兵器の運用を任されて来たんだ。聞いてるのはそれだけだな」
「ああ、それが僕たちのことだね」
雷蔵が言い終わるや、時雨はにべもなく、自身を兵器と言ってのけた。
提督の認識がどうであれ、ただそのことだけは、受け入れて欲しいと言わんばかりに。
この、この生身の娘が、日本の誇る、対深海棲艦用海上兵器?
唖然とする雷蔵に、時雨は少しだけ俯いて、なおも説明を続ける。
「艤装がないから、わかりにくいかもしれないけれど」
彼女は重心を逆足に乗せ替え、また顔を上げる。
「深海棲艦に対抗するため、その力を元に造られた兵器。それが、僕たち艦娘さ」
彼女が提督に向ける笑顔は、先ほどまでとは変わり、どこかに寂しさをはらんでいた。
「改めて、これからよろしくね。提督」