帰国して
さて、ウイニングライブも無事終わった訳なんですけど、皆、私の歌に大号泣ですよ。
いや、あの、そんなに泣かれるとは思ってませんでした。確かに私も感情が色々こみ上げながら歌ってましたけれども。
初めてじゃ無いですかね、私のウイニングライブでスタンディングオベーションなんて、大抵は何というか爆笑の渦なんですけど。
てなわけで帰って来ました日本。
「ただいまー! アイルビーバック!」
「お帰りアフちゃん、死ぬ覚悟は出来てるのかしら」
「笑顔でその第一声は勘弁してくだしあ!」
満面の笑みで出迎えてくれたのは目が笑っていないスズカさんでした。
いや、怖すぎて泣きそうなんだが、そもそも原因は私なんですけどね。
でもさ、ほら凱旋門勝ってきたわけだからもっと褒めてほしいじゃないですか、皆、私をもっとチヤホヤしてください。
「ご、ごめんなさい! スズカさん! 違うんです! あれはですね! 焼肉パーティーをする為の鉄板でしてね!」
「何! 焼肉だと! なら更に焼きそばを焼いても良いのか!」
「どっから湧いて出たんですかオグオグ⁉︎」
トレセン学園帰ってきて早々にこれですよ。
そう、私は今、ワイワイと皆から歓迎を受けている真っ最中です。
今や、私を知らないウマ娘なんていないんじゃないんですかね。もし知らない奴がいれば間違いなくそいつはモグリです。
「よし、誰か知らねーけどヨーロッパに帰って良いぞ」
「なんだとこの野郎」
とか言ってたら早速白いあんちくしょうが笑顔で煽ってきました。
せっかく私が凱旋門勝って来たのにこの仕打ちってあんまりだよ! もっと褒めて皆デレデレしてくれるって思ってたのに!
チヤホヤされて、えへへ、となる筈の私のプランがそもそも台無しじゃないですか。
「だってお前、甘やかしたら調子乗るじゃん」
「それより奥で少しお話ししましょうか?」
「あっ……あっ……! スズカさん待って! ヘッドロックは締まる⁉︎ あ、それに微かに胸の感触が……」
「ん?」
「無い」
ヘッドロックしたまま、奥の部屋に消えていきバタンと扉を閉めるスズカさん。
その後、ヘッドロックされた私はスズカさんから奥の部屋に連れて行かれ、もう、口に出せないほどすごい事をされました。
外にいたウマ娘曰く、すごい悲鳴が聞こえたとかなんとか。
その後、ボロボロにされた私はシクシク泣きながらスペちゃんから頭と背中を優しく摩って貰いました。
「うっ……うっ……」
「よしよし、怖かったねぇ」
「だって……無かったんだもん」
「そうだねぇ、無いもんねぇ」
「お前、本当にぶっ殺されるぞ。あと、スペもやめとけな? スズカ泣くぞ」
スペちゃんに慰められている私を見ながら呆れたようにため息を吐くゴルシちゃん。
凄いよね、癖ウマ娘と名高いあのゴルシちゃんからため息を吐かせるなんてよっぽどだと思うんだけども。
はい、では気を取り直して、私は改めてトレセン学園に帰ってきました。
帰ってきて、早々にこれなんですけども。
「あー……久々の学食は落ち着きますね」
「ハムハムハム」
「うん、やっぱりオグオグさんは癒しです」
ご飯を一心不乱に頬張るオグリンを見ながらほっこりとする私。
この光景を見るとトレセン学園に帰ってきたんやなって実感が湧きます。
帰ってきた時は賑やかに歓迎してくれるんやろなぁ、ワクテカとか思ってたんですけどね、現実は厳しいです、やっぱり。
すると私の胸をジーと見つめていたオグオグさんから一言。
「……スイカが食べたくなってきたな」
「どこ見て言ってます?」
私の胸がスイカに見えたと、そう言いたいんですかねこの人。
まあ、確かにデカいですけど、自分で言うのもなんなんですがね。頭と身長に栄養がいって欲しいなって思うばかりです。はい。
さて、トレセン学園で何か変化が無かったの? って思っているそこの貴方。
ありましたよ、めちゃくちゃね。いやはや、数時間前なんて大変だったんですから。
『アフちゃん先輩! 凄かったですっ!』
『あ、あの! 先輩! 付き合ってください!』
『抱いて!』
『サインください!』
『あー可愛いすぎっ! もう食べちゃいたい!』
『好きです! アフちゃん先輩!』
などなど、もう揉みくちゃにされました。
女の子にこんなに言い寄られるとは思いませんでしたね、というか女の子同士なのに良いのかね君達はそれで。
ウマ娘達を含め女性ファンが増えるのは良い事だ。
私のファンって基本変態しかいませんけども。
「やっほーアッフだよ!」
「わー! アフちゃんだー!」
「可愛いー!」
「綺麗ー! 尻尾ツヤツヤー」
「あ、馬鹿! 尻尾は握ったらダメですよ! 敏感なんですから!」
ですから、こんな純粋な子供達のファンができたのは本当に嬉しいですね。
でもね、特に小さい男子小学生諸君、君達が中学生や高校生になった時、私を見る目が純粋なそれじゃなくなるのは悲しく思うよ。
なんもかんも私の事をやらしく描く作者やたづなさんみたいな汚い大人が悪い。
まあ、アグデジさんも悪いんですけども。
そんなわけで私も色々とファンサービスをこなして来たわけですよ。
「カクカクウマウマだったわけなんですよ、オグオグさん、大変でしょう?」
「ムシャムシャムシャムシャ」
「食ってばっかじゃねーか、おい」
いや、オグリキャップさんならそれも致し方ないんですけど、絶対聞いてないなこの人。
私がこれだけ一生懸命にどれだけ大変だったか熱弁したというのに、あんまりです。
しかしながら、オグリキャップさんなら仕方ない。マスコットでアイドルウマ娘ですからね、何しても許されるんです。
あれ? 私と大きく違ってるぞー? おかしいなぁ。
「おーい、アフ公、私のチャンネルやるから早く来いよ」
「えぇ……」
「お前をデビューさせてやったのは私だろう? このおたんこなす。良いから来いって」
そんな感じで、ゴルシちゃんのパカちゅーなんとかってチャンネルにも呼ばれて息つく暇もないですね、本当。
もうちょっと海外で過ごせば良かったかな? 地中海あたりでバカンスしていた方が良かったかもわからんね。
さて、ひとしきり色んなウマ娘やファン達から振り回された私なんですけど、ようやく一息つけるようになり、トレセン学園の中庭にあるベンチに腰掛けて大きなため息を吐いておりました。
「はぁ……」
空はあんなに青いのに私の心の安寧は何処へやら。
お前も青いやんけと言われると、まあそうなんですけどね、いや、空って自由やん? 素晴らしいやん?
そんな中、ぽけーっと私が空を見上げているととある男性が私に声を掛けてきた。
「ここ、座っても良いかい?」
「ん? あぁ、別に構いませんよ」
「良かった、それじゃ遠慮なく」
そう言って彼はにっこりと笑うと私の横に腰をおろし、一息つくようにため息を吐いた。
何というか、どこかで見たことあるような方なんですよね? 何処だったかな、何というか忘れたくても忘れられない様な人な気がするんだけど。
すると、彼は中庭を見つめたまま、私に話しをし始める。
「凱旋門賞、凄かったね。久しぶりに鳥肌が立ったよ」
「あぁ、貴方も見ていたんですか」
「そりゃもう、……僕にとってもあそこは夢の舞台だからね」
彼は隣に座る私に嬉しそうに笑みを浮かべながらそう告げる。
そりゃそうだ、誰だって凱旋門賞は夢の舞台だろう。日本のウマ娘に関わる誰もがあそこを制覇する為に血の滲む様な努力を積み重ねてきている。
いや、きっとそれは日本だけではない世界のどのウマ娘だってそうだ。
「……実を言うと君が勝った時、嬉しかったんだけども少し複雑な気持ちだったな」
「あら? それは残念でしたね」
「あはは、本当にね。僕が見ているウマ娘に是非勝たせてあげたかったレースだったからね」
彼は困ったような表情を浮かべながら、私にそう告げてくる。
うん、そりゃすまんかった。私みたいなのが勝ってしまったのはなんか申し訳ないなとは思っていますよ。
その分、死ぬ思いは何度もしましたけどね、地獄を見続けたので勝てたレースでもあります。ギリギリの勝負でしたけれど。
「さて、そろそろお邪魔みたいだから行こうかな」
「……ちょっと貴方、名前は?」
「あぁ、そうだったね、えーとね」
そう言いながら何やら考えるような仕草をする男性。
しばらくすると、彼は私の方へと向き直り、何やら暖かな眼差しをむけてくる。
そんな目で見つめられたらなんだか照れてしまいますよね。
「皆からはタケさんって呼ばれてるよ」
「え⁉︎」
私は思わず変な声が出てしまった。
トレセン学園の中でもレジェンド級のトレーニングトレーナー。
いや、嘘でしょ、そんなんあり得へんやろ。
多分、G1ウマ娘の中で彼から指導を受けてないウマ娘はかなり少ないんじゃなかろうか、それくらい、素晴らしいトレーナーで有名である。
ウマ娘を見る眼は一級品、海外のウマ娘からもかなりの信用を置かれているトレーナーだ。
「ディープインパクトが君を倒したがっててね。来年の有馬記念、そこで決着を着けたいらしい」
「……ディープインパクト……」
「あぁ、僕も彼女に最近付きっきりでね。英雄対魔王の最終決戦には……申し分ないだろう?」
タケさんは私に笑みを浮かべたまま、静かにそう告げてくる。
来年の有馬記念、確かにディープインパクトちゃんが本格的にクラシックに参戦する年だし、きっと私とぶつかるのならばそのレースが1番良いだろう。
これは、いわゆる果たし状というやつなんだと思う。まさか、レジェンドと呼ばれるトレーニングトレーナーから私に直接言われるとは思いもしませんでしたがね。
「受けて立ちましょう。良いですよ」
「君ならそう言うと思っていたよ」
タケさんは私の返答に満足する様に笑っていた。
売られた喧嘩は買う主義なんでね、まあ、彼女とは以前の年末年始のレースからの約束もありますし、それを果たすなら良い機会でしょう。
私は約束は守ります、必ずね。
その後、言いたいことを私に言うだけ言ったタケさんは手のひらをヒラヒラとさせながら、その場から立ち去っていく。
そして、それから私の元にトレーニングウェアを着た姉弟子が現れました。
「……トレーニングの時間です。行きますよ妹弟子」
「えぇ、今行きます」
ベンチから立ち上がった私はそう告げる姉弟子の後からついていくようにその場を後にする。
何にしても、次の菊花賞をまず勝つことが優先だ。
凱旋門賞の祝いはかなりしてもらったし、もう、次のレースに頭を切り替えておくべきだろう。
私は新たにできた目標に静かに闘志を燃やしつつ地獄のトレーニングに向かうのだった。
いきなり唐突なアンケート。