菊花賞に向けての追い込み時期に差し掛かり。
私は朝早くからランニングに出かけていました。とはいえ、全身に重しを付けてのランニングですけどね。
最近、厳しいんですが、義理母も私の体を気遣ってか、あまり無茶な追い込みをしなくなってきました。
なので、これは自主的にって感じですけどね。
「ふっ……ふっ……」
身体に久々に重し付けて走るとやはりくるものがありますね。
とはいえ、止めるつもりはないんですけども。
だって私の同期が二人とも三冠ウマ娘ですからね、今年の菊花賞は頭がおかしいレベルなんだよなぁ。
「アフちゃん先輩! 早いですよぉ〜」
「これこれ、こんくらいで根を上げていたらすぐに負けちゃいますよ?」
そして、私の背後からついてくるのはドゥラメンテちゃん。
私や姉弟子のようなウマ娘になるのならこのくらいで弱音を吐いていたらなれません。
私なんて入学当初から号泣しながら坂を死ぬほど走ったわけですからね。
次第と普通の感覚というものが損なわれてきてからが本番なんですから、とはいえ、これでも無茶するなと念を押されてセーブしている方なんですけどね。
「アフちゃん先輩頭おかしい」
「え? いずれ貴女もそうなりますよ?」
「絶対嫌ですけどっ!?」
そう言いながら、左右に首を振るドゥラメンテちゃん。
嫌と言われましても次第にそうなるんだよなぁ、私もそんな感じでしたし。
何、お前もいずれ、卍◯とかできるようになるから心配するな、私は使えないけども、だってウマ娘ですし。
某少年雑誌では努力・友情・勝利が鉄板なんですが、アンタレスでは努力・努力・勝利はオマケですからね。
鉄板とはなんだったのか、陰キャラぼっちの私には関係ない話だったようです。
おい、そこ、誰が淫キャですか、失礼な。
「まあ、何にしても私は菊花賞があるのでね、あまり手抜いた特訓なんかはできないんです」
「いやぁ、まぁ、そうなんですけど……」
なんですか、そのジト目は。
えぇ、そうですよ! そんなこと言いながら影では動画配信とかしてますよ!
別に良いじゃないですかっ! 人気あるんですよアフちゃんねる!
私の事を一目見ようと皆さん見てくれてるんですから! 人気者なんですからね! 私!
「というかアフちゃん先輩の動画配信のマシュマロってなかなか凄いのばかりですよね」
「あん? 私の胸がデカいマシュマロみたいだと? 言うじゃあないですか」
「違いますよ、質問のお便りのことですっ!」
そう言いながら、詰めてきた私に慌てて訂正する様に告げるドゥラメンテちゃん。
マシュマロとか言われてもわからんて、思わず胸の事かと思っちゃったじゃないですか。
私、そういったことに関しては最近非常にデリケートなんですよ。?
やれ西瓜だの、やれビックハンバーガーだの、散々、弄られてきたわけですからね。子供から柔らかーい、お餅みたーいと言われた時にはなんて顔したら良いかわからなかったんだぞ。
私は何にも悪くない、なのに、スズカさんから私の一部分だけは異様に敵視されているのにも最近悲しくなりましたからね。
憎しみからは何も生まれない、皆、いいね?
「ほら、後輩と遊んでないで本腰入れてやらないとアフちゃん」
「うへぇ……」
「菊花賞は長距離レースなんだから走り込みはたくさんしなきゃでしょ」
そう言いながら、私のほっぺを人差し指でグリグリしてくるメジロドーベル先輩。
とはいえ、遥かに人並み以上には走り込みはしているとは思うんですけどね、3000mというのはそれだけ距離が長いですから確かに相当な走り込みは必要だとは思うんですけど。
「私もG1レースがあるしね」
「あー、エリ女ですか?」
「そう、エリザベス女王杯」
「ほえー……先輩達二人ともG1レースですかぁ、大変ですねぇ」
そう言いながら、興味深々に私達の話を聞いて尻尾をフリフリしているドゥラメンテちゃん。
メジロドーベルさんも以前と比べてより凛々しくなったといいますか、やはり、アンタレスでのトレーニングはハードなんですけどその分、一皮剥けますからね。
あ、私や姉弟子のように頭がおかしくなるのはごく一部のウマ娘だけです。
私の場合は義理母から育てられた時からそんな感じだったんで。
そんなわけで、午前中にトレーニングを終えた私は現在、生配信をし始めたわけなんですけど。
「やっほー! アッフだよ!」
『アッフさぁ……』
『草』
『菊花賞もうすぐだぞお前』
「うぐっ⁉︎ ……べ、別にサボってるわけじゃねーし! 午前中ちゃんとトレーニングしましたからね! 私!」
視聴者さん達からはこの反応である。
なんだよ、私とお話ししたくなかったんですか! 全く! 私だってこうして皆のためにこんな風に配信の枠とってあげてるんですからね!
視聴者からはへたれのアッフとか言われています。酷い言われようだ。
「ふっ、今日は皆驚け、なんとコラボ配信なんですよ! どうですか! えへん!」
『お?』
『アッフにしては趣向を変えてきたな』
『ゲスト誰だろう(wktk』
ふふん、皆、ゲストと聞いて興味深々みたいですね。
まあ、度々、乱入みたいな形でたまにいろんなウマ娘が来たことはありましたけど、本格的なゲスト出演はまだなかったですからね。
「はい、というわけでメジロドーベルさんです」
「やっほーこんにちはー」
『わお』
『ドーベルパイセンッ!』
『ふつくしい』
そりゃそうですよ、だってメジロドーベル先輩ですからね。
メジロ家のご令嬢でそりゃもう、名門一家の出ですし。まあ、私の記憶じゃ没落した貴……げふんげふん。
いや、なんでもありません、あれは嫌な出来事でしたね。仕方ないです、時代の流れというのは悲しいものですね、はい。
「アフちゃんに頼まれてね、それで? 何したら良いのかしら?」
「えーと、特には考えてなかったんですけど、一緒に料理でも作ろうかなって」
「愛の共同作業というやつね」
「愛かどうかはさておき、共同作業ですね」
ここはウン、ととりあえず頷いて答えておく。
まあ、共同作業なのは間違いないですけどね。皆に嫌がらせのように飯テロしたかったのが動機なんですけども。
こういうところが残念とか私は言われてるんだろうけどね、だが、私は謝らない。
「さて、じゃあ、今日はカロリー少なめの料理に挑戦してみましょうか」
「あら? 本格的ね」
『アッフの手作り料理か』
『いよいよ嫁入りが見えてきたな』
『ママ……』
「まあ、ダイエット食事については定評のある私ですからね」
スペピッピの減量にも一役買った料理の腕前を披露する日が来てしまうとはね。
ふふふ、腕が鳴りますよ、さて、ではまず最初に使うのはササミのお肉ですね。
ウマなのに、肉を使う。矛盾しているとか言わないで、私達こう見えて雑食なんで、ニンジン大好きですけども。
「まず、ササミ肉を切ります」
「はい」
「次にニンジンですね、こちらを細めに切っていっていい感じにするんですよ」
私は包丁を巧みに扱いながらにこやかに笑みを浮かべ説明しながら料理を作り始める。
いい感じというのはフィーリングですんで、まあ、おおよそこんな感じです。
次にフライパンにいれて、卵を加えて軽くごま油と味付けを施します。
「はい、一品め。ニンジンのササミしりしりです」
「簡単に作ったわね」
「次行きますよー、じゃあ、ドーベルさんこの魚さん捌いて貰えますか?」
「ん?」
そう言って私が渡したのは仕入れてきたいい具合の大きさのアジ。
ちなみに活きはかなりいい、まだ、ぴちぴちと動いている新鮮なものである。
すると、メジロドーベルさんは包丁を持つと、アジの脳天に目掛けてスコンッ! と突き刺した。
ビクッ! と身体を硬直させたアジはそのまま帰らぬ魚さんへ。その間、メジロドーベルさんの目にハイライトはありませんでした。
「魚はちゃんと締めないとね」
「あ……は、はい」
『ひぇ……』
『クレイジーサイコドーベル……』
『一切迷いがなかったな』
『俺らも……いやなんでもない』
うん、恐怖を感じました。
私も思わず身体が固まりましたもの、普通に怖いです。その後、何ごともなかったかのようにアジを捌いていくドーベルさん。
手慣れた手つきでお魚さんが解体されていく様は素晴らしいのひとことに尽きました。
いやはや、促したのは私とはいえ軽く罪悪感さえ感じてきます。
「刺身の出来上がりね」
「あとは、ニンジンの炊き込みご飯ができるのでそれを加えて完成です」
お米は玄米とニンジン、それと出汁を使った炊き込みご飯。
いやはや、少し手が込んでしまいましたけど、これだけ料理が並べば壮観ですよね。
あ、写真撮って後で上げておきましょう。
「アフちゃん、エプロン姿可愛いわよねぇ」
「ん? そうですか?」
「うん、背後から抱きつきたくなるもの、こうやって」
「わっ……!」
そう言いながら、ギュッと背後から抱きついてくるメジロドーベルさん。
何というか、そんな風にいきなり抱きつかれてもびっくりするんですよね、いや、まんざらでもないんですけど。
『あら^〜』
『アッフ配信でイチャイチャするの巻』
『ふぅ……』
私達の仲睦まじい光景に和む視聴者さん達。
ドーベル先輩とは同じチームですし、元から仲は良いですからね。
「でもそのTシャツはどうかと思う」
「な! なんでですかっ⁉︎ 可愛いじゃないですかこれ!」
『センスを疑う』
『アッフだからなぁ……』
『女子力があるようで(ないです)』
私のTシャツに容赦ない評価が下される。
おかしい、『あふん』て書かれてるこのTシャツ、なかなか良いセンスしてると思うんですけどね、シンプルですし。
アフちゃんだけにちなんで、あふんって非常に語呂も良くて良いと思うんですけど。
「まあ、アフちゃんが可愛いからどうでもいいんだけどねそんなこと」
「んむぅ〜〜すりすりしないでぇ」
私にそう言いながら頬をスリスリと擦り合わせてくるドーベルさん。
視聴者さんが喜んでいるから別に良いか、私としても別に満更でもないですし。
その後、私達は一緒に作った料理を食べながら楽しく談笑させていただきました。
食事もレースに勝つには必要なものですからね、皆さんも生活を変えるならまず食事から変えてみるのも良いかもです。