菊花賞が終わって、ウイニングライブ。
レース後、案の定、私は皆にもみくちゃにされました。
涙ながらに駆け寄って来たり、発狂して喜んで飛んできたりとまあ、賑やかなことこの上ないですよ。
大体、予想通りなんですけどね。いつものことです。
「アッフ! 流石だ!」
「自慢の後輩だよっ!」
「本当、おめでとう!」
いやはや、皆、はしゃぎてワロタ、確かに嬉しいのはわかるんですがねほんと。
私の事好きすぎ問題、いや、気持ちは本当嬉しいのだけれど愛が重いんじゃあ
ナリタブライアン先輩は抱きついてきて頬擦りしてくるし、メジロドーベル先輩なんて号泣しながら手を握ってくる始末。
「アフちゃん、ぼんどうにぃよがっだぁ〜」
「どぉわぁ! ドーベルさん! 顔! 顔!」
おうふ、女の子がしてはいけないような顔になってて草しか生えんのだが。
送られる祝福の言葉が嬉しい限りですね。素直な気持ちでこの言葉は受け取っておくべきでしょう。
私としても頑張って走った甲斐があったというものです。
「アフちゃん先輩! ほんっと最高の先輩ですっ!」
「ドゥラちゃん……」
「次は私の番ですからね! ね!」
ドゥラちゃんはそう言いながら、私の手を握りしめてぴょんぴょんしてました。
あぁ〜可愛いんじゃ〜、この娘は誰にもやらんぞいいな!
あざといんですけどね、本当あざといんですけど。
まあ、私を持ち上げてくるドゥラちゃんはさておき。
今回、勝てた最後の一冠、菊花賞はあくまでも自分の中である意味区切りとなったレースになったかと思います。
私や義理母、姉弟子、そして、ライス先輩にもいろいろと思い入れがあるレースでしたからね。
「ふふふ、おめでとうアフちゃん」
「ライス先輩……」
「お揃いだね、嬉しいよ本当」
ライス先輩は私を暖かい眼差しで見つめたまま、そう告げる。
そのライス先輩の言葉に私は笑みを浮かべながら、静かに頷いた。
しかしながら、やはり3000mという距離はかなりしんどいレースだったと振り返って思います。
実力のあるウマ娘が勝つ菊花賞、実力の証明が出来たとはいえ、私とて余裕があった訳ではありません。
いや、むしろギリギリだったかも、それだけ今回のレースは非常に難しいレースでした。
「アフちゃん」
「アッフー」
「!? ……ゼンちゃん、ネオちゃん」
それから、私を倒さんと挑んできた同期の二人は晴れやかな顔つきで私の元に来てくれました。
その顔は全てを出し切ったような表情で私は思わず目を丸くします。
そんな中、手を差し伸べてきたゼンちゃんはゆっくりと口を開きます。
「本当に強かった、おめでとうアフちゃん」
「ゼンちゃん……」
「本当本当! あんな走りを見せられたんじゃね、完敗だヨ」
そう言いながら、ゼンちゃんに同調しつつ笑みを浮かべるネオちゃん。
いや、本当に二人とも手強くなっていて正直私も驚いた。
私を倒すために困難な道を選んだ二人、海外で三冠という称号を提げて挑んできた怪物達だ。
下手をすれば、私もやられていたかもしれない。
揺さぶりやその鍛え抜かれた脚も見事としか言いようがなかった。
「次は負けないからね」
「私もだ」
「……いつでも待ってますよ」
私は笑みを浮かべながら、純粋に勝利を祝ってくれる二人の言葉にそう応える。
きっとこの二人はまた強くなるんだろうなと思う。
また挑んできたその時には、また容赦なく走らせてもらいたいものだ。
それからしばらくして、私は観客席にいる人達にも視線を向ける。
そこには、私を出迎えるようにファンの人達からも暖かい声援が飛んで来た。
「アッフすげーぞ!」
「マジでやりやがった!」
「おめでとう〜! アフちゃん!」
こんだけ褒められたら私も天狗になって良いですよね。
おらおら、すげーだろ、私の実力見たか! みたいな感じになっても良いですよね?
まあ、調子に乗ると大概鼻っ柱をへし折られるのがテンプレなんですけども。
「私は約束は守るからな! ほら見たか! 凱旋門も取ったんだぞー!」
私はそう言いながら、観客達に笑顔で告げます。
忘れてませんよ? ライス先輩が勝った天皇賞でブーイングして来た観客達の事を。
今後一切、これでそいつらを黙らせる口実ができたな。
おうおう、世界一のウマ娘が愛してる先輩のウマ娘にブーイングするなんていい度胸してんねー。
世界中のウマ娘敵に回すぞ? お? お?
みたいな感じで煽り散らかすこともできますな。
日欧三冠制覇した超凶悪なウマ娘に変なこと言ってくる観客なんているとは思いませんけど。
まあ、私を黙らしたかったらセクレタリアトさんレベルかルドルフ先輩レベルになってから出直してこいという話ですよ。
とはいえ、観客にいる人達は私を素直に祝福してくれる人がたくさんいて助かります。
アンチが少しくらい湧いてもいいのよ? だったら私は抵抗するで! 拳で!
さて、そんな私なんですが、今現在、ウイニングライブでステージに上がっている真っ最中です。
「イェーイ! 皆! 元気にやってるかい! アッフだぞ!」
マイクを掴んでそう言いながら会場を湧かせる私。
私のライブに来ている人達はいつも開けてびっくり玉手箱状態ですからね、きっとワクワクしながらライブを楽しみにしていたに違いないです。
そんな期待に応えてあげるのが私の役目なんでね。
「じゃあ一曲目からいくぞぉ!」
そう言いながら、私はライブを盛り上げながら歌を歌い始める。
基本的にウイニングライブはこんな感じですからね。
私はゆっくりとマイクを握りしめたまま、ウイニングライブでいつも通りダンスを派手に踊りながら要所で盆踊りなどを入れて笑いを取りに行きます。
そうして、ライブで一通り歌を歌い終わり、いよいよ締めの曲。
私の周りにいたウマ娘達は全員バックヤードに帰り、私だけステージに取り残されます。
そして、代わりに現れたのはドラム等の楽器を携えたゼンちゃんとネオちゃん。
楽器を弾けるウマ娘って新しいですよね。
歌って踊れるだけでウマ娘がやっていけると思うなよ! 最近は多芸になってんだからな!
はい、大体私のせいなんですけどね。
私はギターを持ち、ゆっくりと弾き始めながら歌を歌いはじめます。
「夕べの月の〜♪ 一昨日の残りの〜♪ 春の匂い〜で目が覚める〜♪」
菊花賞、そのレースにはたくさんの人の思いが乗っています。
私の姉弟子も例外ではありません、そして、それはきっと背後にいる二人もそうでしょう。
だからこそ、私はこの歌をファンとそんなウマ娘達に送りたいと思いました。
「私の好きなぁ〜♪ スニーカーで通う〜♪ トレセンに続く〜桜並木♪」
私の歌を聞いてる人達は静かにその曲に耳を傾けてくれます。
基本的に私が歌う歌は誰にも縛られない自由な歌が多いですからね。
でも、真面目に皆に送りたいと思った曲を選んで歌っているつもりです。
「耳の先では四月の虫の唄が〜♪ 心を奮わすように奏でるから〜♪」
世界に渡り、私は強者達を倒してきました。
ですが私が一番、因縁があったのはきっとこの菊花賞だったと思います。
姉弟子もライス先輩も、そして、義理母にもこのレースはある意味ターニングポイントでした。
もちろん私にとっても。
「茜空に〜♪ 舞う花びらの中〜♪ 夢だけを信じて駆け抜けろ〜♪」
レースに勝つためだけに走り続けるウマ娘達。
最初は私もきつい練習をするのが嫌いで嫌いで仕方ありませんでした。
ですが、私には仲間もいて、家族が居て一人で戦っている訳ではなかった。
どんなきつい事でも乗り越えて積み重ねて今があります。
「瞳には未来が輝いている〜♪ そうアフだから〜♪」
私の歌に皆は静かに目を瞑りながら耳を傾けてくれています。
菊花賞だからこそ、私はこの曲が一番良いと思いました。
未来を見据えさせてくれるきっかけを作ってくれたレースに感謝を込めて歌を歌います。
「………………」
「……マスター」
私の歌を聞いていた義理母は目を押さえ、静かに涙を拭う。
それを見ていたミホノブルボンの姉弟子は静かに笑みを浮かべて肩にそっと手を乗せます。
そして、義理母は涙声になりながら姉弟子にゆっくりとこう告げます。
「……長生きは……するもんだねぇ」
「……!? ……そう……ですねっ……」
その義理母の言葉を聞いた姉弟子もまた、目から涙を流して静かに頷きます。
自分の果たせなかった三冠という夢を代わりに義理母に見せてあげた妹弟子のアフトクラトラス。
姉弟子は自分のその意思を継いで、私がこうして叶えてくれた事が嬉しくて仕方がなかった。
「私の分まで走ってくれましたから……」
「あぁ……、立派な走りだった」
姉弟子の言葉にそう言いながら頷く義理母。
二人はウイニングライブでギターを弾きながら歌を歌っている私を真っ直ぐに見つめる。
私はそんな二人のやり取りを他所に、必死に声を張り上げながら歌を歌い続けていた。
「茜空に〜♪ 舞う花びらの中〜♪ 夢だけを信じて駆け抜けろ〜♪」
長い夢の中に私はまだいる。
一度は命を落とした私がこうして皆に愛されて、この場にいられているのはきっと当たり前なんかじゃない。
その事に感謝しながら毎日を生きていきたい。
「瞳とは未来そのものだから〜♪ 輝かせて♪」
ウマ娘には皆それぞれ物語がある。
私の物語はまだ、終わりなんかじゃない。きっとこれからも続いていくと思う。
だから、誰にも負けないようにもっと強いウマ娘になってやる。
「…………ッ!」
そう思っていた矢先の事だった。私の胸に急激な痛みが走ったのは。
だが、今はライブ中である。皆が見ている前で下手な事は出来ない。私は滲み出る脂汗を拭いながらマイクを握りしめて最後まで歌を歌い切った。
今までに無い痛みが身体の中を駆け巡っているようなそんな感覚だった。
そして、脂汗をかいたまま私は笑顔を浮かべたまま、皆の前でお辞儀をする。
「ありがとうッ! また来いよな! 諭吉置いていけぇ! うえーい!」
そう憎まれ口を言いながら、ゆっくりとステージの裏へと消えていく私。
無事になんとかライブを終わらせる事ができたし問題ないでしょう。
ステージから退場する私に会場からは止むことのない拍手が送られてくる。
ウイニングライブを見届けてくれたチームメイトにも満面の笑みを浮かべたまま、私は手を振りその場から早足で出て行く。
だが、この時の私は全く考えもしていなかった。
自分の体で起きているある異変に。