遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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雪を越えて

 

 

 

 有馬記念。

 

 寒い冬の寒空の下だというのにその場所だけは熱い熱気が渦巻いている。

 

 アフトクラトラスとディープインパクト。

 

 この二人の二度目の激突。

 

 互いに凱旋門を勝ち、そして、世界を制した二人がこの有馬記念でまたぶつかり合う。

 

 

「……全力でいかせてもらいます」

「受けて立ちますよ」

 

 

 バチバチと既に火蓋が互いに飛び散る私とディープインパクトちゃん。

 

 この日のために私は駆けてきた。

 

 リベンジすると約束して、ディープインパクトは凱旋門を獲って私の前に立った。

 

 姉弟子とマトさんからの厳しいトレーニングを耐え抜いて、こうして、また戦えるとは本当に感謝しかない。

 

 会場全体には実況アナウンサーの声が響き渡る。

 

 

「さぁ、雪が降っております中山レース場。超満席で迎えた本日ですが、やはり注目はこの二人でしょう」

 

 

 それから、中継カメラから写される私とディープインパクトの姿。

 

 レース前だというのに見つめ合ってバチバチと火花を散らしている光景に会場はさらに盛り上がります。

 

 

「魔王、アフトクラトラス。英雄、ディープインパクトとの二度目の決戦。前回の宝塚記念では魔王に屈したディープインパクトでしたが、なんと凱旋門賞を勝ち獲りこの有馬記念で再び彼女の前に立ちリベンジに挑みます」

「いやぁ、凄まじい執念ですね」

「はい、これはもはや宿命と言っても過言ではないですね」

 

 

 私とディープインパクトとの二度目の対決。

 

 宝塚記念では私が勝ち、ディープインパクトはその時改めて強い挫折を味わった。

 

 それをバネに歯を食いしばり、リベンジを糧に凄まじいトレーニングを積み重ねて凱旋門を勝ち、私へ再び挑戦状を叩きつけた。

 

 世界を知り、努力を知った彼女はこれまで戦ってきたウマ娘の中でもかなりの強敵だ。

 

 だが、それでも、私は負けるわけにはいかない。

 

 互いに暫し見つめ合った後、私とディープインパクトは踵を返してゲートへと向かう。

 

 

「さあ、有馬記念のファンファーレです」

 

 

 高々に鳴り響くファンファーレ。

 

 会場からは、それに呼応する様に観客達から声が上がる。

 

 深呼吸をして、ゲートでその時をひたすら待つウマ娘達。私も静かに瞳を閉じて集中し、いつものようにクラウチングスタートの構えをとる。

 

 後悔しないレースをする。命をかけて、全てのレースを私は勝ってきた。

 

 途中で倒れる可能性だってあった。

 

 それでも乗り越えて、この場所に辿り着いたんだ。

 

 耳を澄ませば、ドクンッドクンッと鳴る自分の心臓の音が聞こえてくる。

 

 まるで、周り全体に研ぎ澄まされた神経が行き渡る様なそんな不思議な感覚だった。

 

 そして、その空気を打ち壊す様に、バンッ! という音と共に目の前にある運命のゲートの扉が開いた。

 

 

「今ッ! 有馬記念スタートしましたッ! さあ! 見事なスタートを決めたのはアフトクラトラスとディープインパクトの二人!」

 

 

 スタートを決めたのはやはり、私とディープインパクトでした。

 

 綺麗なスタートを決めて、先行を取りにいく私にぴったりと合わせてくる。

 

 ギリギリのスタート、ゲートが開いてからの一瞬のロケットスタートに会場からは驚いたように声が上がる。

 

 

「上手いっ!」

「めちゃくちゃ際どかったぞッ!」

 

 

 そのスタートの速さに声を上げるタキオン先輩とナカヤマフェスタ先輩の二人。

 

 ゲートが開くと同時の素早いスタート。

 

 さらに言うなら、位置取りも両者完璧な位置につけている。

 

 意識しながらの駆け引き、ディープは私をマークしながらもペースを乱す事なくついてきている。

 

 私はそのディープインパクトの姿に冷や汗を流します。

 

 

「……成長しましたね」

「当然です」

 

 

 私についてきながらも、余裕の表情を浮かべるディープインパクト。

 

 ほぼほぼ、真横に近い位置で私に対して物凄いプレッシャーを放ってきている。

 

 だが、そんな事で私はペースを崩したりなんかしない。集中力はかなり研ぎ澄まされていて、調子も悪くない。

 

 

「アフちゃん先輩、コーナリングに無駄がねぇ」

「しかも、逃げのウマ娘の背中にピッタリと付けてスリップストリーム……凄すぎるわ」

 

 

 私の姿を遠目に見ていたスピカのウオッカちゃんとダイワスカーレットちゃんはそう声を溢す。

 

 無駄のないコーナリングは足の負担と心臓の負担を軽減するため、私が考え抜いた末に身につけた技術だ。

 

 心臓と足の負担を減らす為にオカさんの助言の元、必死にこの技を身体に身につけた。

 

 脚をためて、一気に押し切るには最適な走りとも言える。

 

 コーナリングやスリップストリームについては普通にできるウマ娘も私以外にも居るでしょう。

 

 二人が関心しているのは私の場合はディープインパクトを警戒しながらも、それをさも当然のようにやりきっている事だ。

 

 

「序盤から注目の二人ですが見事なコース取りでレースは進んでいきます有馬記念」

 

 

 実況席のアナウンサーは私達二人の駆け引きを見ながらそう告げる。

 

 周りのウマ娘ももちろん警戒はしなくてはいけないが、他は見るなとばかりにこうマークされてはね。

 

 雪の降る中山レース場を駆ける中、私は静かに昔の事を思い出していた。

 

 それは、義理母との思い出、トレセン学園に行く前に私は有馬記念についての話を義理母に聞いたことがあった。

 

 

『有馬記念?』

『はい、そうです! 強いウマ娘がたくさん集まる凄いレースですよね!!』

 

 

 私の話を聞いていた義理母は興味深そうに何か考えながらゆっくりと口を開き始める。

 

 有馬記念、それは名優達が駆け抜けるグランプリ。

 

 私はそのレースでたくさんの感動を貰った事を思い出す。大勢の観客が居て、たくさんのウマ娘達が見ていて皆がその舞台に胸を熱くする。

 

 そんな舞台に私は憧れた。

 

 

『有馬記念な、そうさな。ワシはブルボンもお前もその舞台にきっと立てると思うておるがな」

『私が?』

『それはそうだろう、何の為に毎日こんなキツいトレーニングをしとるんだお前は』

 

 

 そう言いながらため息を吐く義理母。

 

 まあ、キツいトレーニングしてるのは確かにそうなんですけども、流石に私がその舞台に立っている姿なんて想像出来なかった。

 

 何やら頭を悩ませている私に義理母は苦笑いを浮かべるとゆっくりこう告げる。

 

 

『今はまだわからんでいい。いずれわかる』

『……わかるって?』

 

 

 すると、義理母は夢物語を言い聞かせてくれ流ようにゆっくりと口を開き語りはじめた。

 

 私はその義理母の話に黙って耳を傾ける。

 

 

『その舞台ではな、見渡す限り満員のお客さんがお前の事を見にきとるんだ。これが、日本で一番、いや、世界で一番強いウマ娘かっ! とな』

『おぉ!!』

 

 

 私は義理母の話に目をキラキラさせながら声を上げる。

 

 流石に世界一は言い過ぎだろとその時は思っていました。私なんて、まだまだ全然未熟なクソ雑魚ナメクジでしたからね。

 

 だけど、そこにはロマンがあった。夢物語かもしれないけど、嬉しそうに語る義理母の顔を私は鮮明に覚えている。

 

 

『そして、その時……お前のすぐ側には』

 

 

 私はその言葉を鮮明に覚えている。

 

 私の側にいる者、満員の会場と仲間達が見守る中、私に立ち塞がってきた唯一の存在。

 

 宝塚記念でぶつかり、私は力で彼女をねじ伏せて見せた。その挫折を経て海を越え更に強くなった彼女には尊敬すら感じる。

 

 約束通りに凱旋門を勝ち、私の前に立ち塞がった彼女は眼をギラつかせて、勝利に飢えていた。

 

 

「最大のライバルがいる……ね」

 

 

 私は己が呟いた言葉に思わず笑みを溢す。

 

 義理母がかつて話していた事が本当にそうなったのもなんだかおかしいが、実際に彼女は私のそばにいる。

 

 

「随分と余裕ですねッ……! 何がおかしいんですか?」

「いや、昔をちょっと思い出してね」

「はっ! そうですか!」

 

 

 互いに息を切らしながら、軽口を叩く私とディープインパクト。

 

 皆の前で中途半端な走りをするつもりは毛頭ない。この強敵を私は全力で迎え撃つつもりだ。

 

 義理母から教わったこの走りで、私は勝ってみせる。

 

 息を整える私は通過する1000mの標識に改めて気を引き締めた。

 

 

 

 それを遠目で見ているナリタブライアンはアフトクラトラスの走りを見て、悲しげな表情を浮かべていた。

 

 行ってこいと、勝ってこいと押した彼女の背中。

 

 覚悟を決めた彼女の姿は誰よりも誇り高く、気高かった。

 

 ナリタブライアンは隣にいる生徒会長であるルドルフにこう告げる。

 

 

「……会長、何かあったら……」

「あぁ、直ぐに動けるように配置はしておいた。安心しろブライアン」

「……すまない、助かる」

 

 

 ナリタブライアンは隣に立ちながら有馬記念のレースを静かに見守る生徒会長のルドルフにお礼を述べる。

 

 有馬記念、そして、立ち塞がるライバル。

 

 ルドルフにはそれに覚えがある。かつて、自分と張り合った一人のウマ娘、その人は自分より先に三冠を獲った凄いウマ娘だった。

 

 そのウマ娘との直接対決。天が与えた二人の三冠ウマ娘の戦いに会場は湧いた。

 

 それだけじゃない、そのウマ娘のライバルと言われていたウマ娘にルドルフは負けたことがある。

 

 あの時の悔しさは何とも言えないものがあった。

 

 挫折を知ったジャパンカップ。

 

 そして、火花を散らせた有馬記念、天皇賞・春、あの時のことは鮮明に覚えている。

 

 

「……あの二人を見てると懐かしく感じるよミスターシービー先輩、そして、カツラギエース先輩の事を思い出す」

「……ふっ、二人とも強かったからな」

「あぁ、本当にな。あの二人は強かった」

 

 

 ルドルフは昔の事を思い返しながらブライアンにそう告げる。

 

 ブライアンとて、そういうライバル達は居る。サクラローレルとマヤノトップガン、この二人がそれに当てはまるだろう。

 

 だが、ブライアンはその二人のおかげで更に自分が強くなったと感じた。

 

 

「アフには……。己を重ねすぎたのかもしれない」

「……心配するな私もだ」

 

 

 そう言いながら、申し訳なさそうに話すブライアンにルドルフはそう告げる。

 

 ミホノブルボンの義理の妹として期待され、その名前からスパルタの皇帝と呼ばれた。

 

 無敗の魔王、アフトクラトラス。

 

 気づかない内に自分が同じ立場ならこの有馬記念をどうしていただろうと二人は考えていた。

 

 答えは決まっている。自分達が彼女と同じ立場でも走る事をきっと選んでいた。

 

 

 雪の降るこの有馬できっと走る事を選んでいたに違いない。

 

 

 だから、アフトクラトラスが走るこのレースが二人には、より幻想的で言い表すことができないほど美しく見えた。

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