戦場のセントライト。
彼女にとってのレースは戦場、大型戦車とも言われた強者は現在、トレセン学園の分校で汗を流していた。
鍛え抜かれた身体に、時代錯誤軍服。
綺麗な黒鹿毛のショートヘアの彼女は鋭い眼光を光らせながらバーベルを上げていた。
だが、誰もそれに何も言うことはない、それは彼女が強者だと知っているからだ。
「ふっ……ふっ……」
「おうおう、随分と追い込んでんね姉御」
そう言って、背後から現れたのは五冠のウマ娘。
神のウマ娘と呼ばれている彼女はお気に入りのナタをクルクルと回しながら、笑みを浮かべていた。
神と呼ばれているウマ娘、シンザン。
鹿毛の髪を結んでいる彼女は明らかに異様な存在感を放っていた。
「ふぅ……、まあな、シンザンのとこにも来たのか? ルドルフの奴から」
「まあねぇい。私から引き継いだ生徒会を上手く回してくれてるようで嬉しい限りだけど」
「先輩を巻き込むとは、なかなかどうしてあいつもだいぶ肝が据わっているな」
「満更でもないくせにぃ」
そう言いながら、セントライトの言葉に笑みを浮かべてそう告げるシンザン。
シンザン、彼女は同年に三冠はもちろん、天皇賞と有馬を取ってみせたことから彼女は神のウマ娘と呼ばれ、ルドルフが来るまでは『シンザンを越えろ』というのが日本ウマ娘にとっての宿命とさえ言われていた。
セントライト、彼女はそれこそ戦火の真っ只中で産まれた。
その中で三冠を走り切ってみせたウマ娘、それが、彼女セントライトである。彼女が未だに軍服を着ているのはそのことを忘れないためだ。
「さて、それじゃ久しぶりに行くかトレセン学園へ」
「久方ぶりの古巣かー、どんな風になってるかねぃ」
「さあな、でもまぁ……面白い後輩達がたくさん居るだろうよ」
タオルを首に巻きながら笑みを浮かべ、シンザンにそう答えるセントライト。
今のトレセン学園にいる彼女達には知らない物語がある。
歴史を遡れば無敗のウマ娘がいた時代、そして、今のように全てが揃っていないような過酷な時代が昔にはあった。
その時代を駆け抜けた猛者達、その猛者達が集うのがこのトレセン学園の分校だ。
世界に挑むべく、歴戦の強者がトレセン学園へ向かう。
はい、皆さんお元気ですか、アフトクラトラスです。
私はとても元気です。強いて言えば、今現在私がTシャツと下着姿でいることでしょうかね?
Tシャツにはにんじん侍参上と書いてあります、所謂クソダサTシャツです。こんなんいつ買ったか忘れてしまいました。
まあ、いつものスタイルですね、この格好にある程度慣れてしまいました。
「アフ! なんだもう起きてたのか?」
「そらそうですよ、今日からSWDTに向けて坂走るんですから、というか抱きつかないでください歯磨いてるのに」
寝癖がついたまま歯を磨いている私を背後から抱きしめてくるブライアン先輩にそう告げる私。
もうね、ブライアン先輩もそうなんですけど、ゴルシにドーベルさんとか姉弟子、ライスシャワー先輩に関してもやたら最近、スキンシップが激しいんですよね。
まあ、前の一件から仲のいい人達は皆そうなってしまってるんですが、やたらと抱きついてきます。
「アッフと走れるのが楽しみだなぁ」
「ん〜〜頬擦りしないで、歯が磨きにくいですぅ」
私は慣れてしまっているのか感覚がバグっているのか、そんなことは気にも留めなくなってしまっていました。
いや、本当はダメなのよ? でも、ほら、私は皆さんに心配かけちゃった立場ですからねぇ、何も言えねぇ。
すると、私とブライアン先輩の耳にある放送が入ってくる。
「ナリタブライアン、アフトクラトラス、ディープインパクト、オルフェーヴルは生徒会室に来るように」
そう、声の主はシンボリルドルフ会長だ。
大方、SWDTについての話なんだろう。ふむ、呼び出しと聞くと悪寒が走るのはきっと気のせいではない。
何度呼び出し食らって説教されてきたか、まあ、私はほとんど真面目に聞いてないんですけどね。
「だとさ、準備していくぞアフ」
「えー、私、坂登るのに忙しいから無理って適当に言ってくださいよぅ」
「別に言っても良いが、どうなるかはわかるな?」
「ですよねー、行きます」
そう言って、にっこり笑ってくるブライアン先輩に苦笑いで返す私。
はい、お説教か拳骨かわかりませんけどそんなところですかね。
頭が痛くなるのは勘弁願いたいものです。
腹いせに呑気に寝ているヒシアマ姉さんの胸を揉んで、とりあえず支度して私はブライアン先輩と生徒会室に向かうことにした。
トレセン学園の生徒会室。
呼ばれたナリタブライアン先輩と私は扉を開き中へと入る。
そこには、ディープインパクト、オルフェーヴル、そして、ミスターシービー先輩とルドルフ会長が待っていた。
ミスターシービー先輩、緑が特徴の勝負服に大人びた長いウェーブがかった黒鹿毛が美しいウマ娘である。
いやあ、色っぽいお姉さんって素敵やん。
あ、マルゼンスキーさんはちょっと古いギャル語使いすぎておばちゃん感出てますけども。
きっとこれ言ったら私締められるんだろうな。
さて、話を戻すが、皆、どうやらルドルフ会長から呼び出されたらしい。
まさかここまできて、私達に焼きそばパン買ってこいよとか言わないですよね、マックイーン先輩じゃないですし。
まあ、マックイーン先輩から焼きそばパンを買ってこいとか言われたことありませんけど(風評被害)。
すると、シービー先輩はため息を吐いて呼び出したルドルフ会長にこう問いかける。
「それで? ルドルフ、私達を呼んだ理由は?」
「あぁ、シービー先輩、その事なんだが……」
そう言って、ルドルフ会長が本題に入ろうとしたその時だった。
バンッと音を立てて生徒会室の扉を蹴破るようにして入ってくるとんでもないウマ娘が現れた。
その場にいる一同はその光景に目を丸くするが、シービー先輩は何やら納得したように、あぁ、なるほどね、と一言だけ言葉を溢す。
「シンザン先輩……、扉を蹴るのはやめてください……」
「おー、るっどるふー! 相変わらず堅物だねぃ! 元気にしとるか! 皆の衆!」
「……ここも変わってないな」
そう言って、入ってきたシンザンと呼んだウマ娘に頭を抱えるルドルフ会長。
あのルドルフ会長が破天荒ムーブを許すだと!? なんと羨まし……、いや、けしからんやつだ!
許さんぞ! 私がやったら絶対締められちゃいますもの! 師匠って呼びたいこの人!
まあ、名前聞いただけで誰かすぐにわかりましたがね。
気を取り直したようにこほんと咳払いするとルドルフ会長はゆっくりとこう告げる。
「皆に紹介しよう……。シンザン先輩とセントライト先輩だ」
「こんにちわー、元生徒会長のシンザンだぞぉ、悪い子はいねぇかーみたいなね」
「ナタを持ってれば誰でも怖いだろ、お前」
そう言って、シンザン先輩に突っ込みを入れるセントライト先輩。
綺麗な軍服がかっこよすぎて泣ける。これは敬礼ものですわ。なんというか義理母と同じ匂いを感じてしまうんですよねこの人。
月月火水木金金とか普通に言いそうですもの。
セントライト先輩とブルボン先輩が合わさり最強に見える。あかん、悪寒が走ってしまった。
シンザン先輩がナタ持って悪い子と聞いてきたのには戦慄しましたけどね、思わずやべーってなりました。
「シービーも久しぶりだねぃ! 相変わらず美人で可愛くてお姉さん嬉しいよぉ」
「分校ではお世話になりました、ご無沙汰です」
「あぁ、二人とも元気そうで何よりだ」
そう言って、ルドルフ会長やシービー先輩と再会を喜ぶ二人。
そりゃそうか、この二人がトレセン学園で既に活躍されてたお二人ですもんね。なんなら、1番上はセントライト先輩だし。
セントライト先輩は懐かしそうに昔を思い出しながら、こう呟く。
「懐かしいな……。この生徒会室が本土決戦作戦室という名前だった時が」
「ちょっと待ってください、どこのバトルフィールドですかねそれ」
とんでもないセントライト先輩の呟きにツッコミを入れる私。
セントライト先輩、まさかのFPSプレイヤーだった説が浮上。
なんであろうが敵兵は全て米兵であるとか、敵の潜水艦を発見とか、太平洋の嵐とかなんかそんな事を連呼するんですかね。
まあ、見た目が軍服なんでね、しかも似合っているという、なんか個人的には胸熱なんですけども。
「まあ、冗談はさておきだ。米欧との本土決戦があると聞いて馳せ参じた次第なんだが……」
「ルドルフ会長、アンタなんて伝えたんだ本当に」
「いや、言葉通りだったんだが……」
ナリタブライアン先輩から呆れた表情で問いかけられたルドルフ会長は困った顔を浮かべる。
嘘は言っていない、概ねその通りである。
セントライト先輩は頭の中が軍事なんで仕方ないという事にしておきましょう。ルドルフ会長、きっと貴女は悪くないです。
そんな中、シンザン先輩はジッとディープインパクトと私の方を見つめながら興味深そうな笑みを浮かべていました。
「聞いたよぉ、君達が欧州の連中に一泡吹かせたんだって?」
「あ……はい」
「まぁ、そうなんですかね」
「そっかそっかぁ、凄いねぇ! 心強い後輩だよぉ本当に」
そう言って、笑みを浮かべているシンザン先輩。
だけど、私もディープインパクトもわかっているこの人の強さを。
ナタの切れ味、神ウマ娘シンザン。
その強さはシンボリルドルフ会長が現れるまで語り継がれた伝説となっていた。
ルドルフ会長もその伝説を越えるために死に物狂いにトレーニングを重ね三冠を得たのだ。
その伝説を前にして、武者震いしないわけがない。
「まあ、私は誰が相手でもかまわないけどねぃ、なぁ、ルドルフ会長?」
「もう……。その、呼び方は……」
「呼び捨ての方が良かったかぃ?」
そう言って、ケラケラと笑うシンザン先輩にあのルドルフ会長がタジタジになっている。
まあ、ルドルフ会長の憧れだった人ならなんとなく理解はできますけどね。そのカリスマ性が私にも欲しいくらいだ。
あ、無理ですか、すいません、なんでもないです。
そこから、仕切り直しだと言わんばかりにルドルフ会長はこう話をし始めた。
「それでは、SWDTについての話なんだが……」
そこからは、ちゃんとした打ち合わせに入った。
対戦カードの決め方、ルールなどの周知に加えて当日の控室の場所やスケジュールなど、それをルドルフ会長は私達に伝えていく。
そんな中、ルドルフ会長はとんでもないことをぶち込んできた。
「それでは当日のオープニングセレモニーのウイニングライブはアフトクラトラスにお願いする事にする」
「……へ?」
ボケーっと適当に話を聞いていた私もこれには度肝を抜かされた。
いやいやいや、ちょっと待ていッ! この面子でオープニングのライブが私はおかしいでしょう! なんでじゃあ!
私は咄嗟に近くにいたオルフェちゃんを前にやり、ルドルフ会長にこう告げる。
「ほら! 会長! ここは最年少のオルフェちゃんに華を持たせましょうよッ! 私はおかしいですって!」
「……やだ」
「ちょっとオルフェちゃん!?」
後輩からの反逆、なんだよ、ルドルフ会長とかシービー先輩とかめっちゃシンザン先輩を尊敬してるのに何故、私の後輩は皆こうなのだ。
毎回、背後から私にナイフをぶっ刺してくるスタイルなんですかね、これが人徳か、解せぬ。
すると、ルドルフ会長は左右に首を振ると私にこう告げてきます。
「お前はウイニングライブ散々しなかったのだからそれはそうだろう」
「だな」
「異議なし」
「とりあえずセンターだねぃ」
「何か分からんが頼んだ」
「頼みましたよ先輩」
「……よろしく」
「待って!? 味方が誰もいないんだがッ!」
後輩先輩含めて、この私の扱い。
三冠ウマ娘に味方はいなかった、悲しいかな私がセンターでしかも一人で歌う事になりました。
ちなみにルドルフ会長から釘を刺されたんですがSWDTの開幕という事でふざけたら本当に絞め殺すと脅されております。
まあね、日本中も世界中も注目してますものね。
こうして、私は開幕のライブをオンリーで務める事に。
誰か諭吉寄越せ、時給貰う案件だぞこれ!
仕方ない……、やるしかないのかな。
私は深いため息を吐きながら、生徒会室を後にするのだった。