SWDTに向けての練習。
私はキズナちゃんとドゥラちゃんと共に坂路を駆け上がりながら、いつものように遠山式のトレーニングに励んでいた。
まあ、面倒なことに開幕式のウイニングライブを頼まれたんでその振り付けやら練習もしなきゃいけないんですがね。
こればかりは仕方ない、もう決まった事ですし。
「よし、二人ともペース上げますよ」
「は、はいっ!」
「ひぇ〜〜」
相変わらずキズナちゃんはまだこのスパルタ遠山式には慣れてない様子。
まあ、最初の頃は私もそうでしたからね、よかったですね、義理母いたらこれプラス罵声ですから。
オカさんは優しく見守ってくれるだけですからね、本当優しい限りですよ。
ちなみにキズナちゃんのトレーニングはタケさんが見てくれています。
「しかし、まあ、アフトクラトラスはいいウマ娘ですねオカさん」
「ん?」
「僕にも指導させて欲しいものですよ」
そう言いながら、私達のトレーニングを見ながら雑談する二人。
なんか、私の方見ながら話してるんで気になるんですがね。
だが、オカさんはその言葉に大声で笑いながら、タケさんに向かってこう告げ始める。
「あれは相当な癖があるぞ? ディープの方がかなり楽だと思うがな」
「あはは、そう言われると何にも言えないですね。そこも彼女の魅力では?」
「違いない」
おい、聞こえてんぞ、そこの二人。
いや、否定はできんのだが、もうちょい言い方ってもんがあるでしょうが。
癖しかないとは、最近は随分丸くなったと言われてるんですよ私。
それから、二人は何やら他の話をし始めた。
これに関してはトレーニングに集中して聞こえて来なかったので、私は首を傾げる。
とりあえず、私は一通りドゥラちゃんとキズナちゃんと共にトレーニングを終えるとオカさんのとこへと戻った。
「なんの話してるんですか?」
「ん? あぁ、お前をSWDT期間中しばらくまた他のチームでトレーニングさせようかって話だ」
「おい、勝手に話を進めとるやないかい」
話を聞いてみると、オカさんはタケさんと話し合った結果、しばらく違うチームでトレーニングさせる事で新たに刺激を与えるのはどうだという提案をしてきたらしい。
遠山式トレーニングを毎回こなしているばかりでは、確かに地力は上がるが、他の面でも他のチームでのトレーニングが私をより成長させれるのではないかと互いに感じたとの事。
まあ、確かにそう言われてみれば、それはそれで悪い提案ではない気はするが。
問題は私がどこのチームに行くかにもよるだろう。
「で? どこのチームに行くんです?」
「そうだな、まずは……ミルファクなんてどうだ?」
「ミルファクって言ったら……、確かディープちゃんの……」
そう答えた私にオカさんは静かに頷く。
チームミルファク、ディープインパクトちゃんをはじめとしたマイルの皇帝ニホンピロウイナーが率いる新鋭のエース級のウマ娘が多く所属するチームだ。
もちろん、ディープインパクトだけじゃない。そこには、シーザリオ、キングカメハメハ、クロフネ、雷帝トロットサンダー、ダンスインザダークなど名前を挙げればやばい面子がずらりと揃っている。
特に最近はジェンティルドンナという天才がチームに入ったという話は有名だ。
「まあ、向こうさんのトレーナーにはさっき話はつけておいたから心配するな」
「いや、あの人はほぼ全チームに話が通るでしょう」
「違いないな」
私の冷静な突っ込みに笑い声を上げるオカさん。
まあ、大抵のチームには顔が利きますからねオカさんとあの人は、本当すごい人達ですよ。
すると、話を聞いていたドゥラちゃんとキズナちゃんが側までやってきて抗議し始めます。
「えー! アフちゃん先輩! 私達はぁ!」
「置いてきぼりですかっ!?」
「こらこら、お前達は他のレースに向けての調整があるだろう」
ブーブー文句を言うドゥラちゃんとキズナちゃんに困ったように顔を引き攣らせるオカさん。
まあ、私はオカさんの言う通り、新しい環境に身を置いて色々と学ぶことも多いかもしれないですからね。
私の親愛なるブルボンの姉弟子とライスシャワー先輩もSWDTまでには帰ってくるとは言っていましたし、それまでは、色んなチームを渡り歩くのは面白いかもしれません。
「そうですね、ちょっと色んなチームを渡り歩いてみます」
「よし、わかった話はつけておこう」
こうして、私はしばらくの間、アンタレスではなく違うチームを渡り歩く事に決まりました。
とはいえ、義理母が居たらきっとこんな感じでチームを渡り歩くなんて考えてもいなかったでしょうからね。
これもある意味良い変化だと思います。
それから数日後、私はチームミルファクに訪れていました。
綺麗な部室には、わざわざ私を紹介しようとチームミーティングをニホンピロウイナーさんが開いてくれました。
マイル、スプリントでは敵なしとまで言われた別名『マイルの皇帝』。
綺麗な黒鹿毛の髪のショートヘアの彼女は嬉しそうに私を歓迎してくれた。
「いらっしゃい! アフトクラトラス!」
「あ、はい」
「皆、紹介するわね! 今日から期間限定だけどうちの所属になるアフトクラトラスちゃんよ」
そう言うと皆から拍手が巻き起こる。
うむ、どうやら歓迎されているようで何より、特にゼンちゃんとディープインパクトはなんだか嬉しそうにしていた。
ああ見えてわかりやすいんですよね、二人とも。
すると、胸が豊満で独特な髪型をしたウマ娘、キングカメハメハさんがゆったりとした声でこう問いかけてくる。
「この子が噂のアフちゃんかしらぁ? ふふっ、アマゾンちゃんが言ってた通りの娘ねぇ」
なんとなく眼がハートに見えるのは気のせいだろうか、気のせいだと思いたい、なんだか悪寒が。
ヒシアマ姉さんがやたらとスキンシップが多くてまとわりついてくると嘆いていたこの人があのキンカメさんです。
とはいえ、この人も化け物みたいに強いですからね、いやはや、恐ろしい。
「僕は歓迎するよ、ようこそミルファクへお嬢さん」
「あ、ありがとうございます」
そう言いながら、青毛の綺麗な髪を束ねて、私の手を握り男装した格好で手の甲にキスをしてくるキザなウマ娘。
彼女の名はシーザリオ。
ジャッパニィィィィィズ! スーパースタァァァァァ! セィッザァァァァリオォォォォォオ! とは彼女の事である。
現地人の人もお墨付きのその強さ、セーザリオではありませんシーザリオさんです。皆さん、お間違い無く。
あとは、ジェンティルドンナちゃんですが、彼女は気品が良さそうに紅茶を飲みながら鹿毛の髪を靡かせて堂々と座って居ます。
まあ、二つ名が貴婦人ですからね、そりゃそっか。
強すぎて別名、鬼貴婦人って名前なんですけどね。
「ご機嫌よう、アフトクラトラス先輩」
おう、先輩を前にしてもこの優雅さである。
凄いなミルファク、ここもなかなか個性的なウマ娘の集まりだと感じました。
うむ、私はここでしばらくやっていけるか不安ですね、皆、多分良い人達だとは思います、そう信じたい(願望。
こうして、私のチームをいろいろと渡り歩きながら、成長する日々が始まりを告げるのでした。
SWDT開幕式。
この日、私が開幕式をするという事もあってたくさんの人がステージを訪れていた。
まあ、私のウイニングライブなんて記者が新聞に載せるくらいのスクープになるみたいですからね。
これもうまぴょいから私が逃げていた弊害か、解せぬ。
「ていうか、胸が溢れそうなんですがこの衣装」
そう言って、用意された蒼が特徴の肩が見える着物に丈が短い袴型のようなスカートを摘みながら感想を述べる私。
作った人相当の変態さんですね、色々、フェチズムが垣間見えてる。
私は見るのは大好きなんですがまさか着させられる羽目になるとは思いませんでしたよ。
「似合ってる似合ってる」
「うん、これは凄い色っぽいわね! 素敵!」
「鼻血拭いてくださいドーベルさん」
棒読みで頷くナリタブライアン先輩と鼻血を垂らして親指を立ててくるメジロドーベルさんに顔を引きつらせる私。
はあ、全くもう、面倒ったらないですよ。
開幕式という事で、歌う歌は私が選んでいいという事でしたから、ちゃんとしたやつは選んできましたけどね。
間奏が終わり、爆音が鳴る。
私はすぐさまスタンバイに入った。
さてと、それじゃセンターとしてちゃんと仕事しますかね。
それから、ゆっくりとカーテンが開き着物衣装を着た私がゆっくり歌を歌いはじめる。
バックには今回レースの為に作られたPVが流れていた。
「十あまり二つ〜今日超えて〜♪ 果ては夢か幻か〜♪」
私の歌うイントロに会場は静まり返る。
綺麗な歌声がステージを中心に広がっていった。皆が私の姿を見て、唖然としている。
「さあさ、今宵お聞かせ給うのは〜♪ 修羅と〜♪ 散る物語〜♪」
その瞬間、テンポアップする曲に会場は盛り上がる。
私の後ろを踊るのは七人の三冠ウマ娘達。
何が凄いかって、この曲をチョイスして振り付けをすぐに覚える後ろの三冠ウマ娘達ですよ。
流石は三冠ウマ娘なだけあるわ、皆。
私も叩き込まれたんですけどね、センター用の振り付け。やろうと思えばやれるんです。
「浅き夢見し〜♪ うたた寝の中で〜♪ 人の定めはかくも♪ 果敢無きもの〜♪」
曲に合わせて綺麗な踊りを披露するバックの皆さん。
私もセンターとして、そんな皆に応えるように綺麗な歌声を出すように努めた。
会場にいるウマ娘達はその姿に息をのむ。
「己が刀〜八つ花〜♪ 相容れぬは赦すまじ〜♪」
私は真剣な表情で声を張り上げ歌を歌う。
ここまできたら普通に歌いますよ。なんて言っても偉大な先輩がバックダンサーをやってくださっているわけですからね、私オンリーなら話は別ですが。
今までウイニングライブを好き勝手歌ってきたわけですから、私だってセンターを今回任せてもらった責任がある訳ですし。
「この世はうたかた〜♪ 流るるままに〜♪」
サビに入る前に私の背後のPVが切り替わる。その映像に皆は釘付けになった。
三冠ウマ娘八番勝負。
いざ、開演!
そこには、大きな文字で力強くそう記されていた。
会場の観客達はそのPVが流れた瞬間にボルテージが最高潮に達する。
バン! という激しい音と共にステージに火花が上がると同時に私は喉に力を入れて声を張り上げる。
「十あまり二つ酔いもせず♪ 見るは夢か幻か♪ さあさ誰も彼もが手を叩く〜♪」
PVには、サビと共に各三冠ウマ娘の姿が映し出される。それぞれの名が映し出されると共に盛り上がる会場の観客達。
会場にいる皆はそれと共にそのウマ娘の名前を叫んだ。彼女達が名付けられた異名と二つ名は人々が尊敬と畏敬の念を込めて付けたものだ。
戦場のセントライト。
神馬シンザン。
天衣無縫ミスターシービー。
永遠なる皇帝シンボリルドルフ。
シャドーロールの怪物ナリタブライアン。
英雄ディープインパクト。
金色の暴君オルフェーヴル。
魔王アフトクラトラス。
最強の三冠ウマ娘を決める八番勝負、その開幕に胸が躍らないファンなどいない。
「あなうつくし仇桜〜♪」
まさしく、夢の対決。
それを見にきていたウマ娘達は全員、鳥肌が立つのがよくわかった。
これが、ウマ娘八番勝負の舞台、誰もが憧れるウマ娘達が集う夢の祭典。
「夜明けに散るとも〜知れず〜♪」
私が歌い切ると共に最後の締めの踊りに入る。
バックの三冠ウマ娘の皆さんも素晴らしいキレのある踊りを披露してくださいました。
歌は私がソロで全部歌い切ったんですがね、私は最後に背中を見せてポーズを決める。
会場からは割れんばかりの拍手喝采が私達に向けてやむことなく送られた。