遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS
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アフトクラトラスの一日

 

 

 クラシック第一弾、皐月賞を終えて。

 

 OP戦を終えた私は現在、朝を迎えているわけだが、相変わらず、ナリタブライアン先輩の抱き枕ならぬ、抱きヌイグルミにされている。

 

 寝る際は薄着のナリタブライアン先輩。

 

 パジャマを着る派の私としてはちゃんと服着てほしいと毎回思うのだが、風呂場でも前を隠そうともしない彼女に言ったところで無駄だろうなともう諦めていた。

 

 抱きヌイグルミ扱いをされている私のメリットと言えば、頭に乗っかってるナリタブライアン先輩の柔らかい胸を揉み放題というところくらいだろうか。

 

 それなら、自分の揉んでた方が早いという話、自分の胸揉んでも何にも得はないので、それなら何にもしないのが1番である。

 

 

「んー…」

「…動けぬ」

 

 

 身動きができない私に、綺麗な足を絡めてくるナリタブライアン先輩。

 

 もう色々と悟った私はヌイグルミに徹している。

 

 まあ、私が散々言ったので優しくナリタブライアン先輩は抱擁して寝てくれているので特に問題はない。

 

 こうして、私の1日は始まる。

 

 

 

 さて、こんな風にいつものように朝を迎えた私は髪の手入れをし、午前中は同級生達のいるクラスに授業を受けに向かう。

 

 レース一週間前や、チームの事情次第ではこの授業というものも公欠ができ、トレーニングや特訓が行う事はできるのだが、OP戦を終えた今、私には特に公欠する理由も見当たらないのでこうして授業に出るのだ。

 

 トレセン学園って事をたまに忘れちゃいますよね、周りの環境を見てみれば、私にとってみればここは軍隊養成所みたいなものだし。

 

 私は授業を受けながらペンを指で遊ばせつつ、ノートに授業の内容を書く。

 

 

「えー、鎖国が終わり、日本で初めてウマ娘のレースが行われたのが1860年ごろになります、この当時、日本では…」

 

 

 そう言いながら、私達に授業をしてくれるトレセン学園の先生。

 

 いや、その知識は果たしてレースに必要なんだろうかと思いつつも、個人的には勉強になるのでノートを取りながら話を真剣に聞く。

 

 そして、一通り授業が終わり、休み時間。

 

 私の周りにはネオユニヴァースことネオちゃんとゼンノロブロイこと、ゼンちゃんが集まって来ていた。

 

 話す内容は、やはり最近のレースの事だろうか、OP戦も無事に終わった私は次は重賞戦に挑む事になるのだが、他の二人は果たしてどうなのかは純粋に気になるところである。

 

 まず、私の話を聞いて、驚いた声を上げたのは鹿毛の綺麗な長い髪を黄色と黒のシュシュで束ねているネオちゃんだった。

 

 

「えーっ! アフちゃんOP戦余裕だったのぉ!」

「いえーい、ピースピース」

「いいなぁ…私やネオちゃんはまだ早いって言われてて、もうちょっとかかりそうなんだよね…」

 

 

 そう言いながら、二人は私がOP戦をトントン拍子で勝っていた事に驚いている様子だった。

 

 何故だか、皆から化け物を見るような目を向けられたんだよねぇ、失敬な。私はこんなにコミュ力高いのに! もっとちやほやされて然るべきなんだよ!

 

 まあ、私が仁○なき戦いみたいにドス効いた脅しかけたもんだからああなったとは思うんだけれど。

 

 ちなみにネオちゃんはスタイルが良い、身長も170cmくらいあって、胸もそれなりにあり、まるでモデルさんみたいである。

 

 私とゼンちゃんは…、皆まで言うでない、自覚はあるのだ、自覚は。

 

 さて、そんな他愛の無い談笑をしながら私達は休み時間を過ごす。

 

 

 そうして、授業を終えて待ちに待ったお昼。

 

 たくさんのウマ娘達が食堂に溢れかえる中、私はトレーを持って、オグリ先輩を探すとその正面に腰を下ろす。

 

 やはり、トレセン学園の食堂名物であるオグリ先輩のパクパク食べる姿は可愛いので、昼間は彼女の前に座ると決めているのだ。

 

 オグリ先輩は正面に座る私に目をまん丸くしながら、ご飯を口に運んでいる。

 

 そして、正面に座る私にオグリ先輩はご飯を飲み込むとこう話をしはじめた。

 

 

「また君か、何故、私の前に座るんだ」

「まあまあまあまあ」

「いや…まあまあと言われてもだな……んっ?」

 

 

 私はそう言いながら、オグリ先輩の前にすっとある物を置く。

 

 そう、それは、バイキング食べ放題のチケットとニンジンの詰め合わせセットである。それを目前に置かれた瞬間、オグリ先輩の目つきが変わった。

 

 ふはははは、私が何の策もなしにオグリ先輩の前に来るとでも思ったのかね、貢ぎ物さえあれば何の問題もないのだよ。

 

 オグリ先輩は左右を確認しながら、私の顔を確認する。

 

 すると、私はニッコリと微笑みながら頷き、オグリ先輩にこう話をしはじめる。

 

 

「こげんな物しかありもはんが、懐に入れてたもうせ」

「いや…、私は…その…」

「なんばいいよっとかぁ、涎がでとるがね、気にせんでもよかよか!」

 

 

 そう言いながら、何故か薩摩語でオグリ先輩を言いくるめに入る私。

 

 オグリ先輩は地方の出と聞く、こんな風に薩摩の田舎っぺ感を私が醸し出しておくことで彼女に親近感を持ってもらおうという作戦だ。

 

 いやぁ、薩摩語検定一級持ってて良かった! こんなところで役に立つなんて! え? そんな検定無いって?

 

 とはいえ、こうして、オグリ先輩に賄賂も渡せた事だし、今後もお昼はオグリ先輩がパクパクご飯を食べるところを眺めるのを独り占めできるという訳だ。

 

 そんな、私が提示する賄賂に対して、オグリ先輩は涎を垂らしたまま、仕方ないと言った具合にこう話をしはじめた。

 

 

「よ、よし…、ならありがたく頂く…」

「それじゃ、今後ともお昼はご一緒させてくださいね♪」

「むぅ…致し方ない…。こんな風にされては私も駄目とは言えないだろう」

 

 

 そう言いながら、オグリ先輩はシュンっと耳を垂らして妥協するように私に告げてきた。

 

 これは交渉なのである。断じて賄賂を使っての買収なのではない、交渉なのだ。

 

 しかしながらオグリ先輩は相変わらず可愛い、マスコット的な可愛さがあるなぁと私はしみじみ思った。

 

 そんなオグリ先輩とほのぼのとしたやりとりをしつつ、私はオグリ先輩の食べる姿をニコニコと眺める。

 

 

 そんな中、食堂のテレビではCMが流れていた。

 

 それは、今週始まるであろう天皇賞(春)のCMだ。私は昼ご飯を食べながら、そのCMに目を向けていた。

 

 天皇賞(春)、それは、いわば、ステイヤーと呼ばれるウマ娘達がしのぎを削り合う頂上決戦。

 

 菊花賞の3000mよりも長い、3200mという距離をスタミナ自慢の猛者達が制する為に集結するレースだ。

 

 その中でも、注目を受けているのが…。

 

 

 天皇賞(春)。

 

 メジロマックイーン、親子三代制覇。

 

 絶対の強さは、時に人を退屈させる。 

 

 

 

 チームスピカ所属、ステイヤーの絶対王者メジロマックイーン先輩である。

 

 そう、メジロ家の家系で歴代の天皇賞を取ったウマ娘のメジロアサマ、そして、その娘であるメジロティターン。

 

 そのメジロティターンの娘であるこのマックイーン先輩は前回の天皇賞(春)を勝つことにより親子で三代に渡り、天皇賞(春)を制覇した偉業を打ち立てたのである。

 

 長年に渡り受け継がれたステイヤーの血筋、だが、私は知っている。メジロマックイーン先輩があんな風なお嬢様ではないことを。

 

 だいたい、サンデーサイレンスという気性がすこぶる荒い海外ウマ娘と仲良しな時点でもうお察しなのである。

 

 さて、そんな中、今回、メジロマックイーン先輩の天皇賞(春)の連覇がかかっているインタビューが行われているのであるが。

 

 

『マックイーンさん、今回のレースの意気込みは…?』

『いつも通り、由緒あるメジロ家の一人として華麗なレース運びを見せてさしあげますわ』

 

 

 そう言いながら、芦毛の綺麗な髪を片手で靡かせるメジロマックイーン先輩。

 

 私は思わず、メジロマックイーン先輩のそのセリフに吹き出しそうになり、ゴホゴホとむせてしまった。

 

 さて、何故、私がここでメジロマックイーン先輩のレース前のコメントにむせ返ったのかご説明しよう。

 

 トレセン学園でのメジロマックイーン先輩伝説。 

 

 

 其の一。

 

 坂路トレーニングの際、ブチ切れて、トレーニングトレーナーを血だるまにする。

 

 其の二。

 

 うっぷんバラしに宿舎の天井をぶち抜いた。

 

 其の三。

 

 真面目というより、だいたいレースはしょうがねぇから走ってやるよといった具合。

 

 其の四。

 

 表彰式でキレて、トレーナーさんをど突く。

 

 其の五。

 

 トラックで置いてきぼりにしたトレーナーにパロ・スペシャルを掛け悲鳴を上げさせる。

 

 

 などなど、あの人のまつわる逸話は割とあるという。

 

 真の姿を果たして知っているのはこのトレセン学園で何人いるのか、少なくとも私は把握していた。

 

 もしかしたら、似たところがあるゴルシちゃんも知っているかもしれない。

 

 あの人がお嬢様と言いながらハーレー乗ってサングラスを頭にかけて、木刀担いでヒャッハーしている姿を容易に想像出来てしまうから不思議だ。

 

 さて、そんなお嬢様という名の世紀末ヒャッハー家系の創造主の一人であるメジロマックイーン先輩だが、今回、連覇をかけて天皇賞(春)に出走予定だそうで、実に楽しみなレースになることは間違いないだろう。

 

 お前も似たようなものだろうですって? うーん、最近、自分の行動を振り返ると言い返せないから不思議ですねー(目逸らし。

 

 思わず、テレビのCMで笑いが出そうになって、むせ返る私の背中をオグリ先輩が優しく摩ってくれる。

 

 

「おい! だ、大丈夫か?」

「ゲホゲホ、はぁ…はぁ…、だ、大丈夫です」

 

 

 私は息を整えながら、オグリ先輩に笑顔を浮かべてそう告げる。

 

 よーし、どうせだし、天皇賞(春)でメジロマックイーン先輩の応援でも行こうかな。

 

 みんなでヤンキーファッション全開で応援団作るのも面白そうだ。

 

 皆に特攻服着せて、団旗持たせて応援するのも面白いかもしれない、多分、話したらゴルシちゃんあたりが面白がって賛同してくれるのは明白だ。

 

 こういう事をすぐに考えつくから、私はゴルシちゃんに気に入られるんだろうなぁ。

 

 メジロマックイーン先輩の応援団という名のヤバい愚連隊がすぐに出来そうだなと思ってしまった。

 

 うーん、由緒あるメジロ家とは一体、修羅の一族かな?

 

 さて、こうして、昼食をオグリ先輩と食べ終えた私は昼からはいつも通り、鬼トレーニングの無限ループに入る。

 

 

 坂路を登り、筋力を鍛え、さらに坂路を登り、坂路で併走追い込みをし、重石を手足に付けたまま地獄のウイニングライブ。

 

 これを、毎回繰り返し行うのである。

 

 最近では、どデカイタイヤを引きずりながら、手足に重石を付けて、そのまま坂を登りきるというキチガイじみたトレーニングもやり始めた。

 

 根性と気力と精神力でこれらを乗り切るのだ。

 

 身体の限界? 関係ないからとばかりに夜になるまで行われる義理母主導のトレーニングはまさにスパルタである。

 

 バクシンオー先輩やタキオン先輩も一度、私達のトレーニングに参加したことがあるのだが…。

 

 

『ごめん、無理。私、優等生だけど、これは無理』

『非効率であまりにもオーバーワークだ。ぶっちゃけるが死んでしまうぞこのトレーニング』

 

 

 という、辛口コメントを頂きました。

 

 うん、そうだよね、私もそう思うもの。

 

 けれど、このトレーニングは義理母の考案とオハナさんがアドバイスを入れた事により、ギリギリ、故障も発生せず死なないラインのトレーニング仕様となっている。

 

 それでもギリギリラインである。ライスシャワー先輩とミホノブルボン先輩なんかは喜んでこなしているが、あの人達が単に化け物なのだ。

 

 あの、バンブーメモリー先輩も今ではギリギリついていけてるが、このトレーニングについていけてる事自体が、本当にすごいと私は思う。

 

 こんなトレーニングをしているものだから、アンタレスはヤバいという事が学園内で広まるのも思わず納得してしまう。

 

 楽しい学園生活を送りたいウマ娘、学園で思い出を作りたいと思っているウマ娘にはアンタレスはおススメしない。

 

 ここは、学園というより、軍隊養成所なのだ。

 

 ですから、楽しく過ごしたいウマ娘はリギルやスピカを強くお勧めします。

 

 

 筋肉大好き! というウマ娘の貴方、結構。ではアンタレスがますます好きになりますよ。 

 

 さあさどうぞ。坂路のサイボーグモデルです。快適でしょう? 

 

 んん、ああ仰らないで、坂路トレーニングだけ? いえいえ、レパートリーは日に日に増えていきますので何の問題もありません。 

 

 芝の平地やダートなんていう楽なトレーニングがあるわけがない。 

 

 筋力トレーニングもたっぷりありますよ、どんな貧弱な方でも大丈夫。どうぞ義理母に指導してもらって下さい、いい音でしょう。 

 

 悲鳴の声だ、トレーニング量が違いますよ。 

 

 

 少なくとも、アンタレスでの私はだいたいこんな感じである。悲鳴なんてキツさのあまり身体から口からいくらでも出てきますとも。

 

 そうして、夜は風呂に入り、身体中に溜まった疲れを癒す。

 

 多分、お風呂なかったら私はもうこの世に居ないと思う。それくらい、この大浴場に救われてきた。

 

 お風呂というのは偉大な文化ですね! 考えた人は天才です。

 

 そして、風呂を終えた私は夜食を食堂でとると、夜はナリタブライアン先輩の寝室でヌイグルミになるわけだ。








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