遥かな、夢の11Rを見るために   作:パトラッシュS

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燻る炎

 

 

 

 それは、少しだけ昔の話。

 

 私はレース場である光景を手汗を握りながら、見届けていた。

 

 それは、まだ私が幼い頃の話だ。

 

 菊花賞、幼い私はそのレースを見て感動した。

 

 それは、ずっと長い間現れなかった三冠ウマ娘が誕生した瞬間を目の当たりにしたからだ。

 

 

「シンザンだ! シンザンッ! 今! シンザンが一着でゴールインッ! 新たな三冠ウマ娘の誕生だァ!」

「わぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 それは、シンザン先輩だった。

 

 その姿はとてもかっこよくて、私はそのトロフィーを掲げるシンザン先輩の姿がとても眩しく見えた。

 

 いつか、私もあんな風になってみたい! 

 

 三冠ウマ娘になって、キラキラと輝きたいんだってその時に決めた。

 

 

「私ね! 絶対! 三冠ウマ娘になって! 日本一のウマ娘になるんだっ!」

 

 

 あのシンザン先輩みたいに、私も輝きたい。

 

 カッコいい先輩みたいになりたいとずっと心の中に秘めて、その為に血が滲むような努力だって惜しまなかった。

 

 強くなって、日本一のウマ娘になるんだ。

 

 いつか、シンザン先輩よりももっと凄いウマ娘になるんだと心に決めて、私はチームの誰よりも毎日トレーニングに励んだ。

 

 たくさんの挫折を越えて、歯を食いしばった。

 

 ずっと私は努力した。目指すはあのシンザン先輩を超えることだったからだ。

 

 あのレース場にいた憧れの先輩を超えてやると胸に野望を秘めて。

 

 そして、私はその努力の末に掴んだんだ。

 

 

「ミスターシービー! 三冠達成! シンザン以来の三冠ウマ娘の誕生ですッ!」

 

 

 シンザン先輩以来の三冠ウマ娘。

 

 皆は私を褒め称えてくれた。

 

 私を皆は見てくれていた。よく頑張ったなと、そこまでよくぞ鍛え抜いたなと。

 

 三冠を獲り、日本一のウマ娘へ。

 

 私はシンザン先輩を超える第一歩を掴んで、先に待つ栄光を掴み取り、皆が憧れるようなウマ娘になれるとずっと信じていた。

 

 だが、そうはならなかった。

 

 それは何故か? 神様は時に残酷な事をする。

 

 私が三冠を獲った翌年に彼女は現れた。

 

 同じく三冠を獲り、そのウマ娘は私の前に幾度も立ち塞がってきた。

 

 その名はシンボリルドルフ。

 

『永遠なる皇帝』と呼ばれた彼女は私が血の滲むような努力をしてまで得たいと足掻いたものをあっさりと全て奪い去ってしまった。

 

 人々は言う、ルドルフが現れてシンザンをようやく超えたのだと。

 

 

「いやー、やっぱりルドルフが強かったな!」

「ミスターシービーは三冠ウマ娘だが……ルドルフに比べるとなぁ……」

「まあ、残念だが、シービーではやはりシンザンを超えたとは言えないなぁ……」

 

 

 私はその言葉を聞いて、深く傷ついた。

 

 何故、これだけ努力してもあの背中に届かないのか。

 

 才能が違うから? 私の方が弱いから、ただそれだけの理由だけなのか? 

 

 私はその言葉を周りから言われたくなくて、ずっとルドルフを倒す事を目標にしてきた。

 

 

 あの日、憧れたシンザン先輩を超えたと思っていたのはただの幻想だと思われたくなかったからだ。

 

 だが、直接対決が叶った二度の対決は不甲斐ない結果に終わった。

 

 

「あの娘と私ッ! 何が違うって言うのよッ!」

 

 

 突きつけられた現実に私は歯を食いしばった。

 

 どれだけのトレーニングを積み重ねても才能という壁だけは埋まらない。

 

 それを、私は思い知らされたような気がした。だけど私は認めたくなかった。

 

 

「……うああああああぁぁぁ!!」

 

 

 雨の降る中、悔しさのあまりに私は涙を流した日さえある。

 

 だけど、きっといつの日かルドルフを倒すのだと私は誓った。

 

 そして、ありったけを注ぎ込んだ最後の天皇賞春。

 

 私はルドルフの背中すら、見ることさえできなかった。

 

 負荷をかけすぎて、骨膜炎を発症してしまったからだ。

 

 走る事さえもう無理だろうと医者からは言われた。

 

 努力を積み重ねた結果がこれだった。

 

 私が追い求めていた、憧れていたあのレース場で見たシンザン先輩の幻影すら、届く事さえ叶わなかった。

 

 だからといって、私は諦めなかった。

 

 怪我なんて治してやると、息巻いた。

 

 それからしばらくして私は怪我を治してトレセン学園の分校から本校に復帰したのである。

 

 だが、私は以前のように走れるか不安だった。

 

 長い期間のリハビリがあり、かなりのブランクがあったからだ。

 

 

 自分はルドルフよりも天才なんかじゃなかった。ただの凡才だったんだ。

 

 その事実を受け止めるのが怖くて、認めたくなかった。

 

 

 ライスシャワーがマックイーンを倒した天皇賞春で、私はルドルフに対してリベンジすると息巻いていたが正直言って怖かった。

 

 もう、彼女には私は敵わないんじゃないかと負けを認めつつあったからだ。

 

 だけど、その考えはあるレースを見て、私のその考えは一気に変わった。

 

 それは、あの有馬記念である。

 

 

「あ、アフトクラトラスッ! アフトクラトラスがディープインパクトに並んで来ますッ! なんという事だ! あの絶望的な距離から一気に並びかけてきたッ!」

 

 

 私はそれを見て、心が震えた。

 

 ディープインパクト、英雄と呼ばれている三冠ウマ娘。

 

 そのウマ娘はまさしく、あの時のルドルフのように大衆から望まれるような強いウマ娘だった。

 

 一方でアフトクラトラスは、魔王と呼ばれ、あまりの強さからヒールのような扱いをされていたウマ娘だ。

 

 まるで、あの時の私の姿が彼女に重なった。

 

 

「いけ……勝てっ! 勝て! アフトクラトラスッ!」

 

 

 私は自然と溢れてくる涙を流し、気づけばそう言葉に出していた。

 

 一個下に自分を凌駕する存在が居たとしても、彼女は一歩たりとも退かなかった。

 

 己の命すら投げ捨ててまで、挑戦者と真っ向から全力で戦っていた。

 

 それなら、私はなんなのだろう? 

 

 ただの負け犬か? ルドルフに負けたままで永遠にルドルフよりも劣った情けない三冠ウマ娘としてずっと生きていくのか。

 

 私が幼い日に見たあの夢を実現させる為にこれまで頑張って来たんじゃないのか。

 

 

「アフトクラトラスとディープインパクト! 今! ゴールイン!」

 

 

 最後まで諦めないその姿は私の背中を押してくれた。

 

 以前のように走れるかどうかわからない? 脚が動けば走れるのだからそんなものは関係ない。

 

 なら以前よりも速く走れるようになるだけだ。

 

 そんな大事な事を私は後輩から教えてもらった。

 

 

「はぁ……はぁ……あと三本ッ!」

 

 

 だからこそ、前以上にトレーニングに励んだ。いつかその時が来るとそう信じて。

 

 人が見てないところで、私は追い求める夢の為にただ、何も考えないままひたすら駆けた。

 

 憧れのウマ娘を追いかけていたあの頃のように。

 

 そして、三冠ウマ娘八番勝負の招待が私に来た時に私は好機だと思った。

 

 今度こそ、私を証明してみせるのだと。

 

 だと言うのに、私が倒すと決めていたシンボリルドルフはシンザン先輩に負けた。

 

 

「……何負けてんのよっ」

 

 

 私はそれがひたすら悔しかった。

 

 確かに紙一重だっただろう、だが、それでも私は許せなかった。

 

 私のプライドが傷つけられたとそう思ったからだ。

 

 そんな中、ルドルフはシンザン先輩と互いの健闘を称え合っている。

 

 ふざけるなと私は怒りが沸いてきた。

 

 私がずっと抱いていた気持ち、ルドルフを負かしてやるんだと思っていたのに私以外のウマ娘に負けるところなど見たくはなかった。

 

 私を負かしたウマ娘がそんな風に終わって言いわけがないだろう。

 

 

「…………帰るわ」

「し、シービーさん!? どうし……」

「トレーニングするの、私は認めない! あんなレースなんて、絶対に!」

 

 

 絶対に負けてなるものかと逆に闘志がついた。

 

 憧れの先輩を超えることを目標に私は走ってきた。だから、私は絶対に負けたりなんてしたくない。

 

 シンボリルドルフを超えてやる。そして、シンザン先輩だって超えてやるのだ。

 

 ずっと待ってた、またとない機会。

 

 足掻いて足掻いて、足掻き続けて、周りから何を言われても追いかけてきた背中を私は越えていく、絶対に。

 

 絶望のどん底にいた中から私は這い上がってきたんだ。

 

 前の私とは違うという事を証明して見せる。

 

 

 

 

 こんにちは、アフトクラトラスです。

 

 はい、先日レースを見た私ですが、今日はあるウマ娘と共に併走してる最中です。

 

 そう、そのウマ娘とはテイオーちゃんですね。

 

 

「はぁ……はぁ……アフちゃーん! 速いね! やっぱり!」

「そうですかね?」

 

 

 私もまだ万全じゃないという事で、身体の調整にテイオーちゃんが付き合ってくれると進んで言ってくれましてそれでこうして走っているわけなんですけども。

 

 テイオーちゃんも一時期三回も怪我したことがあるということで私の事を気にかけてくれたのかもしれませんね。

 

 あ、でも、ドクターストップかかったテイオーちゃんとは違って私はストップかかっても知るかとばかりに振り切ってしまったんですがね。

 

 

「でも……」

「ん?」

「やっぱり以前よりキレが……、まだ本調子じゃないんだねアフちゃん」

 

 

 そう言って、悲しげな表情を浮かべるテイオーちゃん。

 

 それは私も自覚がある。よくあの時の天皇賞秋を勝てたなと思いましたもの。

 

 万全とはいえない身体で、果たして三冠ウマ娘を相手に私がどれだけ戦えるだろうか。

 

 

「でもね! アフちゃん! 僕は信じてるから!」

「ふふ、ありがとう、テイオーちゃん」

 

 

 手を握って、私に告げるテイオーちゃんに私はお礼を述べる。

 

 前みたいに走れなくなるなんて言葉は私はどうだっていい。

 

 人はそう言うだろう。だけど、私はそれよりも速くなれると信じているから。

 

 だから、私は負けたくない、信じている皆に負ける姿なんて見せたくはない。

 

 それはプレッシャーに感じる時はある。

 

 だけど、私は好きだから走っている。だから、これからもずっと走り続けるつもりだ。誰が相手だろうと。

 

 

「ねぇアフちゃん、この後時間ある?」

「ん? なんでですか?」

「デートしようよっ! 最近ね、シューズもそろそろ替え時だって思ってたからさぁ!」

 

 

 まさかのテイオーちゃんからのデートのお誘いに目を丸くする私。

 

 気分転換にということでしたが、まあ、テイオーちゃんが気を遣ってくれているんでしょうね。

 

 テイオーちゃんに私が変なことを吹き込んだとか言われてルドルフ会長からしばかれないか心配ですけどね。

 

 ふむ、悪寒が気のせいと思いたいがなんでしょうね、このプレッシャー。

 

 その後、私は練習を切り上げてテイオーちゃんとお出かけすることにしました。

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