いやぁ、先日の買い物楽しかったですね。
あ、どうもアフトクラトラスです。
紛失した下着も補充しましたし、新しい服も買いましたし、シューズも買い替えましたから。
「ふぅ……。やっぱり坂路は脚にきますね……」
重しをつけたまま、サイボーグ坂路を走り終え汗を拭う私。
すると、私の背後からこちらに向かい駆けてくる足音が聞こえてきます。
ん? なんでしょう?
「アフちゃん先輩ーー!!」
「あっふっ!?」
ゴフッという言葉の代わりに自分の名前を吹き出す私。
突っ込んできたのは言わずもがな、ドゥラメンテことドゥラちゃんです。最近、私に対する愛情表現がバイオレンスになってきてませんかね?
弾丸の如きスピードで飛んできた彼女に思わず変な声がでちまいました。
「もうっ! 全くっ! なんで私を置いて他のチームなんか行っちゃってるんですかぁー!」
「だああああ!? 胸を揉むな胸を!?」
私に抱きついてきたドゥラちゃんはそう言いながら私の胸を揉んできます。
なんて後輩だ。最近スキンシップが激しすぎる! 容赦なく先輩の胸を揉んでくる後輩なんてこの娘くらいのものですよ。
そんな私の事などお構いなしに頬擦りしてくるドゥラちゃん。
ドゥラちゃんの背後から申し訳なさそうにキズナちゃんがやってきた。
「もうっ! ドゥラちゃん! ダメだって、アフちゃん先輩ごめんなさい!」
「あははは……、大丈夫慣れてますから」
そう言いながら苦笑いを浮かべてキズナちゃんに答える私。
キズナちゃんが良い娘すぎて生きるのが辛い、というか、まあ、今日は調整で走っていたわけなんですけどね。
午後からはシンボリクリスエスさんと並走する予定が入っています。
「私を連れて行ってください! お供ですっ!」
「顔が近い近い」
ふんすっ! と迫り来るドゥラちゃんに顔を引き攣らせながら苦笑いを浮かべる私。
そんな鬼退治に連れていってもらうみたいなノリで迫られましても困るんですけどね。
キズナちゃんはなんどもすいませんと私に謝り倒して来ます。
まともな娘が近くにいるとこんな感じなんですね、なるほど助かる。
「全く相変わらずですわね貴女は」
「この声は……」
ドゥラちゃんに押し倒されている中、ため息を吐いて現れたのはヤンキー系お嬢様。
そう、メジロマックイーンパイセンその人である。
腕を組みながら現れたメジロマックイーン先輩に私は真顔で一言。
「いつまでその無理あるお嬢様キャラでいくつもりですか」
「相変わらず失礼ね! 貴女は!」
そう言って、声を上げるメジロマックイーンパイセン。
いろいろと隠す事が難しくなって来たと思いますけどね、メッキが剥がれてきたぞ、うん。
マックイーン先輩の家って一応、豪邸みたいですけどね、メジロ家よりも華麗なる一族やスカーレット一族、薔薇一族とかの方がお嬢様感が凄いんですよね。
だから、あんな華麗なる乳をぶら下げてるんだよダスカちゃんは! 先祖譲りの我儘ボディをな!
あ、私ですか? ただの叩き上げです、はい。
「今日は後輩二人とトレーニングですの?」
「そうですの」
「…………」
私の返しに無言で拳を鳴らしはじめるマックイーンパイセン。
私は速攻で謝りました。お嬢様じゃないよ、この人、番長だよ。たまに垣間見せる怖い雰囲気がそれを物語っています。
私は知っている。前に私がウイニングライブ後に配布した特攻服を嬉々として買っていたマックイーン先輩の姿を。
お嬢様、貴女も充分こっち側ですよ。
ようこそ、癖ウマ娘の世界へ。
「コホン、まあ、今日はそんな事より貴女にお客が来てたから連れてきたの」
「お客?」
「私の事だろ? ヘイ、クレイジーガール元気にしてたか?」
そう言って現れたのはクレイジーなウマ娘だ。
いや、なんでこの人連れてきたんだってレベルです。マックイーンさん、この人は私に会わせたらいかんでしょう。
スカジャンと短パンのダメージジーンズという格好をした露出の高い格好に、髪の左側をドレッドで編み込んだ青鹿毛。
そう、癖ウマ娘といったらまずこの人が最初に挙がるほどの破天荒なウマ娘。
「さ、サンデーサイレンスさん!?」
「よう、まあ、私は付き添いだけどな客ってのは……」
そう言って、背後を振り返るサンデーサイレンスさん。
そこに居たのは、数年前に私が戦った1人のウマ娘だった。
プライドが高くて、私に海外の洗礼を浴びせたウマ娘。
長く束ねられた綺麗な黒と白が入り交じる芦毛の長髪は忘れる事なんてできるわけがない。
「ダラカニさん?」
「…………」
そう、あのダラカニである。
海外でやり合ったウマ娘であり、今のところ並走で唯一、私を負かしたウマ娘だ。
彼女はしばらく沈黙した後、ツカツカと私の元に足を進めてくる。
そして、私の顔にバシンと強烈なビンタをかますと涙を浮かべながらこう声を張り上げた。
「……この馬鹿ッ! 何考えてたの!!」
「はえ!?」
「はえ、じゃないわよッ! ……なんであんなになるまで走ったのッ!」
そう言って、声を張り上げるダラカニさん。
彼女が言っているのはおそらく、有馬記念のことだろう。
当然、私があの日、レース後に生死の境を彷徨ったことは世界に知れ渡っていた。
ダラカニさんは涙を浮かべたまま、私を力強く抱きしめてくる。
「生きてくれて良かったッ……。本当に……良かったッ!」
もし、居なくなってしまったらリベンジも共に走る事も出来なくなってしまう。
だからこそ、ダラカニさんは私のことを心配してくれていたのかもしれない。
ほら、ビンタされたのはアレだから、海外ドラマとか見てみてください、海外の人ってバイオレンスな感情表現が多いんですよ。
HAHAHA! マイケル! 面白いジョークだぜッ!
みたいな感じですしね、まあ、仕方ない。
ダラカニさんもデレ期みたいですね。これはギャップ萌えというやつでは?
「ダラカニがお前のことが心配だったらしくてな、ここにいるマックイーンにお願いしたんだよ」
「やるやん、マックイーンパイセン」
「貴女はどの目線で話してますの?」
最近になって思うんですが、マックイーンさんはギャグ路線に強いですよね。
お嬢様と言いつつヤンキーをたまに垣間見せていくスタイル、正直好きです。サンデーサイレンスとメジロマックイーンが並び最強に見える。まあ、この2人に関してはマブダチというかヒャッハー仲間ですからね。
この2人は世紀末マックスハートみたいな、怖すぎて死ねるわ。
マックイーンさんは下着も黒でしたからね、いやはや、お嬢様は変にそういうとこは上品なんですね。
「それよりも、アフちゃん先輩! SWDTへの調整でしょう! 早く走りましょう!」
「何? トレーニング中だったの貴女? ならせっかくだから私も交ぜなさいよ」
「お、面白そうだな! なら私らも付き合うぜ、なぁ、マックイーン」
「なんで私も巻き込まれてますの!?」
サンデーサイレンスから強制的にトレーニングに巻き込まれるマックイーン先輩は顔を引き攣らせながらそう告げる。
まあ、マックイーン先輩ですからね、それは仕方ないですね。
マックイーン先輩はほんといじり甲斐がある先輩ですよ、まあ、私も同じようなものですが。
癖ウマ娘の宿命という事でしょう、諦めてくださいとしか言いようがありませんね。
そんな他愛のない事も考えながら、私は久々にあった強敵との再会を喜びつつ、SWDTに向けてトレーニングに励むのでした。
トレセン学園のとあるトレーニング施設。
そこで、1人のウマ娘がひたすらトレーニングに励んでいた。
鬼気迫るようなその壮絶な姿に周りにいるウマ娘達は顔を引き攣らせている。
「シービー、それまでにしといた方が……」
「足りない」
ひたすらに汗を流すその姿にプロキオンのチームメンバーの1人であるドリームジャーニーが止めに入るが、彼女はそれを断る。
足りない、三冠ウマ娘達を倒すにはこんな努力じゃきっと足りない。
自分にできる精一杯以上で励まなければ、きっと次に走るセントライトを倒す事なんてできない。
戦場のセントライト。
彼女の強さはよく分校で目の当たりにしていた。
あの人を超えるにはもっとトレーニングをしないと。
「よう、まだやってるのか?」
「あ、ヨシナガトレーナー」
「はい、止めはしたんですが……」
過剰なオーバートレーニング、ひたすらにそれを積み重ねるシービーの姿は危うくもある。
こうなったのはおそらく、先日のルドルフとシンザンとのレースが原因だろう事はすぐにシービーのトレーニングトレーナーであるヨシナガは理解した。
とはいえ、このままにしておくのもきっと良くないだろう。
「おい、シービー」
「はぁ……はぁ……。なんです? トレーナー」
走り終えたシービーに近づくヨシナガトレーナー。
すると、彼はシービーの目を真っ直ぐに見つめながらゆっくりとこう告げ始める。
「明日から、アンタレスに行ってこい」
「!?」
「ト、トレーナー!? 正気ですか!?」
ヨシナガトレーナーの一言に驚愕するプロキオンのメンバー達。
チームアンタレス、そのトレーニング内容は凄まじいの一言に尽きる。
前トレーナーである遠山トレーナーの意思を引き継ぎ、そのトレーニングはスパルタである事は広くトレセン学園で知られている。
特に今、チーム全体のトレーニングを見ているマトさんはあのライスシャワーを鍛え抜いたトレーナーで有名だ。
「鍛えて強くする、お前に必要なのはきっとそれなんだろう」
「…………」
「シービー、三冠ウマ娘としての誇りを取り戻してこい」
そう告げるヨシナガトレーナーの言葉にシービーは静かに頷く。
それはトレーナーとして、彼女が何を求めているのか理解しているからだ。
勝利への飢え、渇望。
三冠ウマ娘としてのプライドを懸けて、ミスターシービーは全力で立ち向かおうとしている。
「望むところです」
ミスターシービーは力強い眼差しをヨシナガトレーナーに向けてそう答える。
三冠ウマ娘として、おそらくルドルフと戦える機会はこれが最後になるかもしれない。
自分はルドルフに劣る三冠ウマ娘なんかじゃない、それを証明してみせる。
ミスターシービーは来たる対決に向けて己の限界を越える事を心に決めて、茨の道を突き進む覚悟を決めた。