速報です、アンタレスになんと三冠ウマ娘が来ました。
私もチームミルファクとの合同練習から帰って来てから知らされたんでびっくりしましたけどね。
ダラカニちゃんも日本を観光するって言ってどっかいっちゃいましたし、なんだか、凄い周りが慌ただしい感じがして落ち着きません。
「今日からどうぞよろしくお願いします」
そう言いながら頭を下げてくるのはあのミスターシービー先輩です。
わざわざうちのチームに来るというのはよほどの理由がありそうですけども。
アンタレスは今でもスパルタトレーニングでトレセン学園では有名ですからね。
「ようこそ、地獄へ」
「マトさん、トレーニングを見るのは私ですか?」
「あぁ、いつも通りのメニューをこなして後は俺が見る。頼めるかライス」
腕を組みそうライスシャワー先輩に告げるマトさん。
姉弟子もライスシャワー先輩も今年はアメリカに渡り、G1レースを走る予定ですからね、この人達の地獄のトレーニングに皆は今付き合わされてる感じです。
私ですか? 2人から禁止令が出ています。まあ、あの有馬の一件から物凄く過保護になってしまいましてね。
代わりにオカさんが私のトレーニングトレーナーを務めてくれていますからなんの問題もないんですけど。
構って貰えなくて寂しいなぁとか思ったりしてます、ぐすん。
「じゃあ、手始めにトレーニング行きましょう! シービーさん!」
「……えぇ」
拍子抜けみたいな感じで答えるシービーさんですが、彼女はまだ知らない。
アンタレスがどんなトレーニングを普段からしているのかという事を。
いつも通り、サイボーグ坂路についたライスシャワー先輩は満面の笑みを浮かべたまま、シービーさんにこう告げる。
「とりあえず軽く500本くらいかな? 走りますね、この坂」
「……は?」
シービーさんはライスシャワー先輩の言葉に唖然とする。
中山の坂よりも急勾配なサイボーグ坂路、それを手始めに500本。
まあ、軽い準備運動ですね!
え? 頭が相変わらずおかしいですって? あはは、またまたぁ、これくらい普通ですって!
さて、軽く坂路を500本走ったら、ようやくそこから本トレーニングです。
「はぁ……はぁ……。さ、流石はアンタレス……」
「さあ、次行くね」
「ちょ……!」
だが、ライスシャワー先輩は容赦ない。
間髪入れずミスターシービー先輩にそう告げると坂を難なく駆け上がっていく。
それは、ライスシャワー先輩が生粋の叩き上げのウマ娘だからだ。
誰よりも走り、誰よりも己に厳しい。
ミホノブルボンの姉弟子とライスシャワー先輩はそういう先輩達であるということはずっと前からわかっていたことですからね。
「さあさあ、あと何本持ちますかねぇ」
「何を他人事みたいに言ってるんですか? 貴女はこっちですよ」
「あるぇ?」
そう言って、私はミホノブルボンの姉弟子から首根っこを引っ掴まれてレース場に連れて行かれる。
私も病み上がりとはいえ、調子を上げていかないといけない時期に来てますからね。
そうなるのは致し方ありません。まあ、私はハードトレーニングには慣れてますからね。
慣れるものじゃないんですけども。
「ほらほらッ! 最近鈍ってたんじゃないですか?」
「まさか! むしろうずうずしてましたよッ!」
ドクターストップ食らってましたからね、トレーニングしすぎちゃダメだって。
ですが、解禁となれば私とて容赦なくトレーニングに打ち込めるというわけです。
モンハンでもあるでしょう、狩猟解禁って。
解禁されたらそりゃもうね、暴れ散らかしますよね! あ、今度、アフちゃんねるでモンハンしようかな?
まあ、それはそれとして、私は随分前から姉弟子に言いたいことがあった。
「ところで姉弟子」
「ん……? なんですか?」
「あのエチエチな勝負服はいつになったら変えるんですかね?」
「………………」
姉弟子はその私の言葉を聞いて静かに私に近づいてくる。
いや、だってあれは機能美とかそんなん無しにして、胸は強調されてるし下なんてもうね、水着やんみたいな格好じゃないですか。
そして、姉弟子は私の頭をガシッと掴むと顔を近づけてきた。
「あの勝負服がそんなにいやらしく見えているのは貴女に邪の心があるからです」
「え? 今更? 私、昔から邪な心しかないですよ? 姉弟子」
姉弟子に片手で頭を掴まれ足が地につかず、プラーンとなったままそう告げる私。
こんな風にされるのも久々かもしれません、懐かしいなこれ。
まあ、あれです、アグデジちゃんじゃないですけどやはり同性とて見てしまうものは見てしまうんですね。
「……新しい勝負服を考えないといけないですかね」
「そのスタイルであれはいかんですよ」
「妹弟子、その足腰立たないようにしてあげましょうか?」
「お、追い込みは勘弁してください」
キランと姉弟子の目が光ったのでそれ以上言うのはやめておきました。
多分、怒らせると一番怖いのはこの人かもしれませんね、まあ、私は散々隣で走ってきたわけなんですけども。
すると暫くして、私の後輩2人も私と姉弟子の背後から息を切らしながらやってきた。
「はぁ……はぁ……お二人とも速すぎですよぉ」
「……はぁ……はぁ……疲れた……」
2人とも息を切らしながらそう私に告げてきます。
ふむ、2人ともまだまだ鍛え方が足りないね。そんなんじゃ来年のG1戦線も戦っていけないぞ。
そんな中、ライスシャワー先輩とトレーニングを積むシービー先輩に視線を向ける。
「姉弟子から見てどうですか? シービー先輩は」
「ん?」
「いや、なぜウチのチームに来たのかなって」
そう、わざわざウチのチームに来る理由がわからない。
多分、シービー先輩のチームにはあのヨシナガトレーナーが居ますし、わざわざこちらに来なくてもきっと良いトレーニングを積めるはず。
三冠を取る実力を兼ね備えた強いウマ娘がここに来るというのはどういった意図があるのか単に気になった。
「そうですね、おそらくは執念……でしょうか」
「執念?」
「貴女、ルドルフ会長とシービー先輩との仲は知ってますか?」
「えっと……。少しだけなら」
ブルボンの姉弟子からそう言われて首を捻りながら私は答える。
ルドルフ会長とミスターシービー先輩。
互いに三冠ウマ娘でありながら、そこにはなんとも言い表すことができない関係性があるように思える。
言うならば……。
「一言で言えば、私とライスのような関係に近いでしょうか、いや、貴女とディープインパクトの方が当てはまりますね」
「ほう」
それは興味深い、まあ、シービー先輩の事は私もよく存じてはいましたけどね。
同じ化け物じみた後輩が一つ下にいると苦労するものです。
ならどうするか? 単純な話です、自分がより化け物になれば良い、そういう話なのだ。
血を滲む努力を積み重ね、限界を超え続け、修羅になった先に次元を超えた圧倒的な強さがある。
それは、才能という言葉だけじゃない。
ミホノブルボンの姉弟子もライスシャワー先輩もそうして強くなった。
だから、私も才能は積み重ねた努力でねじ伏せられると信じている。義理母もそう言っていましたからね。
「まあ、私も次の対戦相手がね」
「そうですね、貴女。次はオルフェーヴルと対戦でしょう?」
「そうなんですよねぇ」
いやはや、強い後輩に好かれるというのはなんともし難い。
オルフェーヴル、通称、金色の暴君。
モンハン好きな皆さんにわかりやすく言うと凶暴化したディアブロスみたいな?
そんなん怖すぎて笑えないんですが、まあ、次の対戦相手が彼女という事でね、私も顔を引き攣らせるしか無いというね。
「まあ、やんちゃな後輩にお灸を据えるのも先輩の役目ですかね」
「……よく言いますね」
「うぐ、い、いつも私はお灸を据えられてるんで」
そう、主にルドルフ先輩とか姉弟子とかからよくお灸を据えられていますからね。
別に挑んでくる後輩がいてくれるのはありがたいんですけどね。
私としてはブライアン先輩とルドルフ先輩を負かしてやりたいと思っていますから。
勝負となればガチです。情けも容赦も一切するつもりは微塵もありません。
「さて、それじゃ、そんな貴女を本調子に早くしないとですね」
「……そうですね」
「さらに詰めますよ、ついてきなさい」
「うへぇ……!? せ、先輩達まだ走るんですかっ!」
「……し、死んじゃう」
私達のハードトレーニングに涙目になる後輩2人。
いやはや、懐かしいですね、だが、2人とも諦めろこれがアンタレスだ。
まずは、三冠ウマ娘オルフェーヴルをねじ伏せる事。
私も明確な目標が決まり、ハードなそのトレーニングに身が入りました。
一方、その頃、私のトレーニングとは別のところでも、ある2人のウマ娘が相対していました。
1人は私とも親しく、私の事をいつも抱き枕にしてくる先輩。
そう、シャドーロールの怪物、ナリタブライアン先輩です。
もう片方は、あの有馬記念で私と同着し、凱旋門賞を制覇した日本の英雄。
生意気ながらも、最近、私の事が大好きムーヴをかますようになってきたディープインパクト。
とんでもない紹介をしてますが、事実その通りなんでご容赦ください。
「ナリタブライアン先輩、次戦、どうやら私は貴女と走る事になりそうです」
「へぇ、お前が私とか、それは面白いな」
「そうですね、退屈せずに済みそうです」
ナリタブライアン先輩の言葉に不敵に笑みを浮かべるディープインパクト。
互いにその実力はわかっている。
かつて、周りが弱すぎてトレセン学園すら辞めようかと考えていたナリタブライアン先輩。
だが、こうして、彼女の目の前には自分を脅かす存在が当然のように立ち塞がってくる。
アフトクラトラスもディープインパクトもオルフェーヴルもそうだ。
自分が強いと信じて疑わない、己より強者を常に求めて飢えているウマ娘達だ。
「アフ先輩を倒すのは私です、だから、私は貴女を負かしてもう一度あの人に挑みます」
「へぇ、だったらお前は私になら勝てると思っているのか?」
「えぇ、私は勝つつもりです」
ナリタブライアン先輩はそのディープインパクトの言葉を聞いて嬉しそうに笑っていた。
才能云々の話なんかじゃない、どれだけその才能に自惚れずに強さを求めるのか、きっとそれが、このSWDTの勝敗を決める。
ディープインパクトの姿を見て思ったのは、今にも履き潰れそうなシューズだ。
ボロボロになったそれを見たナリタブライアン先輩はすぐに彼女がそれを口だけで終わらせないようにしている事を悟る。
「必ず貴女を倒す」
「面白い、受けて立つ」
ディープインパクトの啖呵を切る言葉にナリタブライアン先輩は力強く頷いた。
自分も彼女に負けてはいられない、私が認めたディープインパクトというウマ娘の挑戦を受けたナリタブライアン先輩はより気が引き締まった気がした。
SWDTのレースを巡ってそれぞれの想いが交錯する。
誰しもが己が一番強いと証明すべく、血の滲むようなトレーニングに身を投じていった。